第16話
「とりあえず軽く穴掘ってる場所がいくつかあるから、それで人数は減ると思う」
「広がられても面倒だから、道になるとこ以外は火を噴き出す仕掛けにしてあるよ」
マユとセイン兄が和やかに言う。
マユは火を噴き出させ、セイン兄は竜王様に乗って上空から戦況を見極めるらしい。
ラルド様は戦わない獣人達に被害が及ばないよう、王城で周囲の状況を把握するために動き、お母様は周囲の警護に当たり走り回るにあたり、早い足となるものをねだっていた。
お父様とカイル兄は勿論のこと、迎撃するため炎の道を抜けた先で待機する。
そして私も……。
「よっしゃ!いくかー!」
「木刀だったら思いっきり戦えるよな!」
そんなお父様とカイン兄の楽しそうな声と共に騎乗する。
さすがに手加減云々もあり、乗り慣れた馬を選んだようだ。
「では行こうか、アリシア」
そう言ってディル様がフェンリルの姿に変わる。
ディル様に乗るのは……と躊躇っていたのだが、何かあった時に助けやすい逃げやすいと、周囲がディル様に乗る事をこれでもかと言う程に進めてきたのだ。
マユはニヤニヤして、セイン兄は少し顔をしかめていたような気はしたけれど、皆の心配を思えばと了承したのだ。
私的にこのフワフワした毛に触れられ埋もれられるのは大歓迎なので、男性であると気にするのは止めて満喫しながら戦おうと心に決めた。
◇
「どうしても戦うと言うのなら、その道を駆けてくるが良い!ただし容赦はしない!」
問答無用で真っ直ぐに突進してきた兵士達は見事半数が落とし穴に落ち、マユが火を吹き上げさせ、炎に囲まれた道を作る。
最後の情けかのように、竜王様に乗ったセイン兄は叫ぶが、マユを返せ!俺を舐めるな!マユを返せ!続けー!聖女の加護を!などと叫びまず殿下とロイドが突進してくる。
知能指数はきっと野生動物の方が高いでしょう。
あの生存本能による判断などは素晴らしいと思える。
「殿下の前に出ろー!!」
誰かが叫んだ声により、他の騎士兵士達が殿下を守るように我先にと駆けてくる。
その先に待ち受ける人影がたったの三人だからだろうか、馬鹿じゃねーのか!やれー!などという叫び声も混じっている。
えぇ、たった三人です。
レイドワークの……ね。
潰した刃で戦うお父様は、相手の剣を受け止め、振り払い、それだけで相手は腕を折り馬から落ちる。
木刀で戦うカインお兄様は相手の剣を避け、致命傷を避けるように腕や足を狙い折り、肩などを潰し、決して頭や腹は狙わない。
私は潰した刃で相手の腹部を狙い落馬させていき、父や兄が落馬させてもこちらに向かってくるような敵に対し、腹部や頭を狙い意識を失わせていく。
正直、刃を潰しているとはいえ内臓破裂や頭蓋骨損傷にならない程度の力加減が難しいのだけれど、マユが「最悪、死にさえしなければ何とかなるわ!」と言っていたので、失敗を恐れず叩いていこう。うん。
「この性悪女!お前がマユを誘拐したのか!」
「生きて居たのか!死霊のように図々しいな!」
ズゥウウウウウウン!!!!!!!!
ストーカー王子と脳筋がそう叫んだ瞬間、物凄い地響きが起き、全ての馬が操縦不可のように混乱し暴れ、人間を投げ出し駆けて行く。
もちろん王子の馬もだ。
何があったのかと視線を動かすと、竜王様が降り立っているのが見え、そしてディル様が吠えた。
「くっ!ひけ!全軍撤退!!!!」
怯え始める意識がある兵士たち。
去り際に関しては懸命な判断を下したかと思うが、まぁそもそも攻め込んでくること自体が間違いでもある。
再度攻め込もうと思っても、半数以上は骨折等の怪我で使い物にならないだろう。
「縄をかけて、それを竜王様が持ってブラブラ揺られる空中散歩させてやりたかったなぁ……」
「ぐるぐるに縄で巻いて、ディル様のボール代わりとか」
「いや、俺は犬ではない。しかし案が通るならばやろう」
お父様とカイン兄様が、おそらくストーカー王子と脳筋に対しての罰を言っているのだろう……ディル様が少し反論するものの、乗るそうだ。
……少し見て見たかった気もする。ディル様のボール遊び……。
◇
予想通り呆気なく終わり、周囲に何の被害もなかったが、とりあえず建前は出来たので祝賀パーティを開こう!という事になった。
血気盛んで興奮状態にあったレイドワーク的には肉だ!肉!!となり、目の前には肉タワーが用意されている。
飾り付け等に配慮がない辺り、時間の問題もあったのだろうが、むしろ礼儀やマナーを気にしなくて済むのでありがたい。
貴族としてどうかとさえ思うけれど、お父様やカイン兄様は肉を頬張り酒で流し込んでいる。
……魔獣退治後のお決まりだ。
戦いを見て居たという獣人の方達とお話をしたりして時間が経って、落ち着きを取り戻してから気がついた。
いつも隣にいるマユがいない事に。
「ディル様?マユはどこに?」
「そういえば……最近はレイと一緒に居るから気にしてなかったな」
視線を彷徨わせると、竜王様は会場の隅でラルド様に繋がれながら書類と酒の山に埋もれている……。
「飲みながら仕事ですか……」
「騒ぎたいが、仕事が終わらないという事だろう」
ため息をつきながら、ディル様がそう答えた。
竜王様はお酒を水のように飲み、酔わないから仕事が出来るという判断で良いのだろうか……。
「マユ?マユ!!」
翌朝、やはりマユの姿は見えず、昨晩から部屋にすら戻っていないようだ。
周囲の者達も、昨夜からマユの姿を見て居ないという。
「精霊達に聞いても答えない……それに数も減って居る……何が……」
ディル様も一緒に探してくれているが、精霊達がマユの事に関して教えてくれないのも不思議だったし、何より精霊の数が減って居るのだ。
多くはマユについてきていた精霊だ。
というと、マユは今ルフィル国に……いや、少なくともこの王城に居ないという事になるのでは?と、焦る。
マユが誰かに何かをされるという事もないだろうし、むしろ獣人たちであれば手を出そうと思わないだろう。精霊を恐れて。
じゃあマユが自ら?でも理由は?全く心当たりがない。
「落ち着け~!」
焦っていると、呑気な竜王様の声が聞こえた。
「何でそんなに落ち着いていられるんですか?竜王様、何か知ってます?」
「あぁ……とりあえず皆を集めろ。説明する」
「俺は何も聞いてないぞ?」
「あっっつぅうううう!!!!????」
ディル様も知らされていなかった事なのだろう。
少し拗ねたディル様が問答無用で竜王様に火柱をあげた。
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