第6話
空腹と緊張で胃が引きつりそう。いつもなら気丈に振る舞うのかもしれないけれど、いかんせん今は空腹状態で思考回路は停止中。
テーブルの上には水とパン粥。何と空腹に優しいメニューなんでしょう。
しかし緊張の原因は食事ではなく、テーブルの先。
何故かルフィル国の国王様が座ってこちらを見ている。
何かの嫌がらせなの?それとも獣人のマナー?文化の違い?いやいやいや、でも姿形は人間と同じだよね。
あれからすぐにルフィル国の王城に到着し、ディル様は私の世話を頼むと侍女に伝えると、国王と 話があるとどこかへ行った……が、私が通された先はどう見ても食堂。
そしてテーブルの先にはディル様が会いに行った国王。
なんなんですかね、これ。
目の前で一人食事をしろと?むしろ食事を前に空腹を耐えろと?
どちらにしろ嫌がらせにしか思えないと思ってしまう私の性格が悪いの?
もうどうにでもなれ!
空腹に耐えかねて、思考を放棄した私がスプーンを持つと……。
「レイーーーーー!!!!!!!」
叫び声と共に、国王が燃えた。
まごうことなき燃えている、が、かまわずパン粥を口に運ぶ。
多分さっきの声はディル様のものだと思われるので、私がする事は食事だと思うことにする。
「あっつ!?何するんだディル!」
慌てる国王の放つ言葉で、やはり相手はディル様と知る。
「火なんて通す肌してないだろう!?おまえは一体なにをやってるんだ!」
「通さなくても熱さはあるぞ!?アリシアが来たというから様子を見にだな……」
「獣人とは違うんだぞ!?人間のマナーや恥じらいを考え……」
そう言ってこちらに視線を向けるディル様は、優雅に食事を続ける私を見て、怒っていた表情が一転し唖然とした表情に変わる。
「お腹が空いておりましたので。全てを気にしない事といたしました。」
心の声は出さず、極簡潔に答え食事を進める。
「……」
「……さすがレイドワーク一族と言うべきか……?」
「とりあえず紅茶の用意を頼む」
ディル様は近くにいた侍従へと声をかけ、自身も椅子に座った。
「私の家をご存知で?」
パン粥を食し終わり、水で喉を潤し問いかける。
「あぁ、いくらアズール国が魔獣から守られているとはいえ、侵略が完全になくなってるわけではないだろう?レイドワークの守りが鉄壁なのは有名な話だ……まぁ、たまに国境沿いで嬉々として魔獣を狩ってる姿も見るしな……」
「食料確保の狩りですね。魔獣を狩るだけでしたので、問題ないかと思うのですが……何か国境沿いで問題でも起こりましたか?」
「食料確保で魔獣狩り……ディル、人間はいつからこんなに逞しくなった?」
呆然と国王が呟くが、多分うちの一族だけな気がします。
アズール国の北をほぼ隣接するのは私が追放された『迷いの森』で、その迷いの森の北部とアズール国の東に隣接するのが、このルフィル国である。
そして、アズール国の北東、つまりルフィル国との国境付近から迷いの森の真ん中あたりまでの危険地帯を領土としているのは、レイドワーク辺境伯。
「おはようございます」
「おはよう、アリシア」
「おはよう」
あれから夜も深くなり、詳しい話は明日しようと、部屋の用意や侍女をつけてもらいゆっくり休ませてもらった。
そして今までのことやこれからの事を話そうという事になったのだ。
「そういえば、レイドワーク辺境伯の元へも伝言を入れていただいたのですか?」
朝食後の紅茶をいただいているところで、話を切り出す。
お腹を満たしたことで、思考回路に余裕が出て来た。
改めてお二方を見ると、整った顔立ちをしている。
ディル様はフェンリルの姿と同じで銀髪の少し長い髪に金の目が印象的で、竜王様は漆黒の艶がある髪に深い緑の目をしていた。
「あ、そうそう。アリシアは預かったから安心すると良いって使者を送っておいた」
「……え?」
竜王様がのほほんと言うけれど、どうもその言い方は……。
「まさか、そのまんま手紙に書いてないよな?」
「書いたぞ。何か問題があったか?」
「はぁあああああ!?」
ディル様の問いを簡単に肯定した竜王様は、どこが悪いのか全く理解していない模様。
「ちゃんと安心すると良いと書いてあるだろう」
「預かったってのが問題だ!言い方!」
「預かっているだろう?」
「誘拐犯みたいな文章になってるだろう!」
トーナメント形式での国王決定戦。
マナーの面でも大分違うのは理解できた……あとは使者の能力次第と思いたいところだけれど……
うん、期待はしないでおこう。なるようになる。
紅茶はアズール国のものより香りが良く、味もフルーティに仕上がっているのは、味覚や嗅覚の違いもあるのだろうか。
紅茶を少しずつ飲みながら、脳内を整理する。
誘拐の如く書かれた文章、お父様やお兄様の行動はどうするか。
今現在、ストーカー王子の問題や私の追放の件で、レイドワーク一族はきっと準備を起こしている最中であろう。
追放されたパーティからお父様が出て……王都から馬車で領地までは3日ほど、馬だと短縮されることを考えると、そろそろ領地に着く頃かしら?
あまりに濃い二日間に、時間感覚が狂いそうだな、なんて思ったりする。
「ディル様、お願いがあります」
「どうした」
竜王様を火あぶりにしたままの手は休めず、しかし私にしっかり目線を合わせてディル様は答えてくれた。
……気にしては負けな気がする。
視界にうつる赤い揺らめきは無視をして、私もディル様に視線を向ける。
「私をレイドワークの領土へ送ってくれませんか?」
きっとディル様の足ならば、お父様達と同じくらいか、もしくは使者の手紙を読み終わったとしても、すぐの時間にたどり着けるだろう。
「それは……」
「アリシア~~~~~!!!!!!!!」
ディル様の声は、私がよく知る、今この場に居るはずもないと思っていた人物の声により途切れた。
今いる部屋は3階だという認識がある。
しかし声は明らかにベランダから聞こえた。
そちらに目を向けると、私のよく知る親友とも言える人物が嬉しそうに窓にへばりついているのが見える。
「アリシア!追いついた!開けて!!」
うん。間違いなくマユだと思う。
私は慌ててベランダに駆け寄り、窓を開ける。
「マユ!?なんでここに?」
「アリシアを追いかけてきたの!」
開けた窓から部屋に入ると、再開を喜ぶように抱きしめられる。
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