第7話

「噂の聖女様か……」

「マユ・ミヤノです。聖女様は語弊では?」

「あぁ、そうですね。愛し子様。私はフェンリルのディルです」


 ディルとマユのやり取りで、気になった事があるので、口を挟む。


「語弊?愛し子って?」

「あー!そうだね、アリシアには、そこから説明しないと!それからレイドワーク一族の計画を相談だね!」


 マユが満面の笑みで言うが、その言い方だとレイドワーク一族の計画を知ってそうなのだけど……。

 あえて突っ込む必要もないかと思う。

 だってマユだし。


「そしてこちらとも相談ですね……ん?レイ?」


 今まで黙ったままの竜王様に気がつき、ディル様が声をかける。

 そこには口を開け、惚けた状態でマユを見つめる竜王様が……。


「……レイ?」

「……すごい……」


 ディルの声に、呆然と呟くような声を出す竜王様。


「こんなに精霊が!美しい!愛し子とはここまでなのか!……あつ!」


 と思ったら、急に興奮状態に陥る竜王様へ問答無用で炎を浴びせたディル様。

 放っておいたら、そのままマユの近くに行って踊り出しそうな感じもしたからだと思うけれど……。

 相変わらず容赦がないな。


「落ち着きましょうか?ね?」

「漫才か」


 いつもの微笑みに黒いオーラが見えそうな気がするけど、本当この二人のやり取りは気にしたら終わりだと思うし、また新たなマユ語が飛び出した。


「漫才って?」

「ん~と……人を笑わせる職業についた人たちのやり取り……みたいな感じかな?」

「笑わせる……」


 むしろ私としては引きつってる感があるんだけど、マユとしては笑える状態なのか、そうなのか。

 そして決して笑わせる為にやってるわけではないだろう二人も、マユの声が聞こえたのか、表情を引きつらせている。

 国王ともあろう人と、その側にいる人が、あろうことか人を笑わせる職業と例えられたのだ。

 ……まぁ多少、国王というものに自覚を持って欲しいところはあるけれど、いかんせんここは獣人の国だから、人間の定義からは外れるだろうけれど……。


 大人しくなった二人を尻目に、マユのお茶を用意する準備を始めた。


「ありがとー!制御がうまくいかなくて、ここに来るのに1日かかっちゃったよ!」

「というか、どうしてここにマユが?馬車だと時間もかかるだろうし」

「聖女の……というか精霊の力だね!」

「人間が聖女と呼ぶのは精霊の愛し子のことだ」

「あの地には精霊が多くいるから、こちらとしても攻め入る気にはならない土地だからな」


 アズール国が平和なのは精霊のおかげって事?

 それから精霊について教えてもらった。


 精霊というのは、自然界の力を宿していて、その気になれば嵐を起こすことさえ簡単な存在だけれど、人間には見えない。

 獣人にはその精霊を見ることができて、精霊の力を借りることもできると。

 アズールの国はその成り立ちから、大地に神の力が染み付いているため、多くの精霊が住んでいて、精霊を傷つけないために周囲の国が攻め込んでこない土地となっている。

 そして聖女は精霊に愛されている存在で、獣人達には精霊の愛し子と呼ばれている。

 愛し子の為ならばと精霊は惜しみなく自分の力を使うために土地は豊かになり、大規模な自然災害が起こることもなくなるし、愛し子に言われれば精霊達は獣人に力を貸す事すらしなくなるだろうと。

 マユも始めはふんわりとしか見えなかったが、書物などから知識を得て、今ではしっかり見えるし、力も使えるし意思疎通も出来るようになったそうだ。

 精霊同士、意識の共通は出来ているらしく、精霊を使い各地に伝言を頼んだり情報を貰ったりできるそうで、私の追放に先駆けて獣人の国の精霊に保護を頼んだそうで、ついでにレイドワーク一族の動きも知ることとなったそうだ。


 精霊の情報網怖い。

 獣人の人たちにとって当たり前でも、見えてない人間からしたら、どれだけ隠密に行動しても、見えない精霊がそこに居たら全部筒抜けなわけだ。怖い。


「凄いね、マユ。書物だけでそこまで自分のものにするなんて」

「もうこっちで生涯暮らす覚悟を決めたら決めたで……ね。あのバカ王子がことごとく邪魔しまくってきて鬱陶しかったけど」

「あれ?そういえばマユ、逃げてこられたってこと?」


 ふと気になった疑問を口にする。

 あのバカ王子がマユを手放す筈がない。


「国王もとろも結婚とか言ってきたから、風の精霊の力で飛んで逃げてきただけ!」


 この世の終わりかと思えるほど嫌そうな顔をして言うマユ。

 あぁ……なんか……理解した。

 民意が~とか言って、結局マユを取り込もうとする国王と、嬉々としてマユを結婚しようとするバカ王子。

 王家も地に落ちたよな~。

 なんて考えてると、低く冷たい声で竜王様の声が聞こえた。


「愛し子マユをルフィル国で保護するぞ」

「精霊の声が聞こえない人間達に、誘拐だと騒がれそうだな」


 そう言いながらもマユの部屋を手配するよう指示を出すディル様。

 さり気なく私の隣部屋を指定してくれるあたりが嬉しい。


「もういっそ、あの国を植民地にしてしまえば?」


 マユの爆弾発言に、その場に居た全員が絶句した。


 アズール国に、大きな災害が起こらないといえど、自然の中にある最低限なのだろうか小規模な災害は起こるし、多少の不作もあったりする。

 それに魔獣も存在しているわけで、大きな強い魔獣が頻繁に攻めてこないとはいえ、多少の侵略はあるのだ。

 それは生きとしいけるものの自然の摂理とも言えるのだと思う。

 戦争がないから、大きな災害がないから、強い魔獣が攻めてこないからと。税金を巻き上げ自衛しろと良い、平和ボケしている王家に対して民衆は不満を多少なりとも持ってはいる。

 特にレイドワーク一族に関しては、収穫量によっては税率を変えたり、働きやすいように道具を改良したりして、日々向上しようと試行錯誤しているのだ。

 現状に満足なんてしていない。

 平民から金を巻き上げ、足りなければ税金をあげて私腹を肥やしている王家とは雲泥の差だ。


 更に言えば武力に至っても違う。

 レイドワークの領土では食料確保で魔獣を狩っている程だが、騎士団なんて王城の守りをしている程度で、日がな一日立っているようなものだ。

 訓練は所詮訓練で、同じ騎士団相手に打ち合っているだけであり、そこに命をかけてもいないし、真剣さも少ないだろう。

 様々な領土に囲まれ、真ん中に位置する王都に魔獣が入ってくることはない。その前に、領地の人たちに倒されるからだ。


 そういった事情背景からだろうか。

 マユが言った「植民地」。

 確かに、ルフィル国の植民地になってしまえば、閉鎖して成長しない国から外の技術や知識を知り、国が成長し民の生活が潤う可能性の方が高い。

 明らかにメリットの方が高い気がするが、戦争となってしまえば、無用な血が流れてしまう……。

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