第13話

 報告ついでに食事も、という事で食堂にて一同が会し、今まであった出来事を報告しあう。

 密かに私と仲良くしていることを知っている両親はマユが脱走して来た事に、安堵の笑みを浮かべた。

 獣人に対して差別意識はなくとも怖い存在かもしれないと、その存在と触れたことがなかった為の恐ろしさはあったが、ディル様の人柄や私の保護をしてくれた観点からも良い印象しかなくなったようだ。

 ラルド様の事も含め驚きはしたものの、ラルド様を国王に押し上げる事に関しては、明日王妃様が到着してから王妃様の態度を見て話をしてからになると。あらかたこちらの説明が終わったところで、ふと思っていた疑問を述べる。


「ちなみに、お母様達はどうして返り血に塗れているのですか?」

「王都の羽虫が攻めてくる前に保存食を作ろうと肉を調達していたのよ。それでも足りなくなるわね。畑の数を今から増やしたところで収穫がすぐではないから、しばらく肉で食いつなぐしかないわね」


 まさかの食料問題が大きいことが浮上した。


 ここでも助けになるのは、やはりルフィル国だった。


「ならばうちから力の強い獣人を呼び家屋建設を手伝わせ、食料問題に関しては精霊の力を借りよう。土の精霊に耕してもらい、植物の精霊に成長を早めてもらえば多少はクリア出来るだろう」


 精霊に出来ない事ってないのではないかとさえ思えてしまう。

 そして今度は領地の話を聞く。

 アズール国の守備は完全放棄し、周囲を固め、王都から騎士団が来る前にと外の魔獣を狩りまくっていたそうだ。

 魔獣を狩りまくっていたら、ある意味でアズール国を魔獣から守っていることになるのでは?と思ったが、マユが国を離れたからか、魔獣の数が増えたそうだ。

 しかもマユが来る前より。

 それに関してはディル様が、憶測だけどと付け足し言ったのは、アズール国に多く居た精霊達がマユにくっついて移動したりしているためではないかと言う。

 精霊は住みやすい土地を離れてもマユの側が良いのではないかと。マユの存在が本当に規格外だなと思った。さすが聖女。


「ではマユに伝えてくれるか?…………何?」


 ディル様が精霊に獣人と食料の手配をマユに伝えてくれと伝えたところ、何が返ってきたのか、険しい顔をした。


「どうしましたか?」


 少し不安になってディル様の顔色を伺う。


「アリシアの命を屠ろうとした奴もこちらに向かっているらしい。」

「殺す」

「滅する」

「細切れにする」

「…………誰かしら?」


 母、父、兄の言葉も相変わらずだが、私を殺そうとしたものと言われても、馬鹿王子含め数人いると思う。


「マユ曰く、三馬鹿トリオの筋肉馬鹿、だそうだが」

「あぁ!騎士団長子息のロイド・カリルニアですね!両手を後ろでに縛り、迷いの森で馬車に火をつけ置き去りにした!」


 殺気が4人分あがる。

 ……4人?


「どういうことだ……?」


 血走った目で父が問う。


「生きているとマユに復讐するかもしれないから平和のためにとっとと死ねと」


 言われた言葉を隠すつもりもなく、サラッと伝えると、更に殺気が増幅したように感じる。


「つまり、アリシアは俺が魔獣から助ける前からすでにピンチだったと?縛られていたのはそういう理由だと?」

「そうですね。馬車から抜け出し、縄抜けをしようとしていたところに熊のような魔獣が襲ってきましたね」

「アリシアならば大抵生き抜けられると思っていたが!あいつ!」


 カイル兄様が机に拳を叩きつけ、その瞳には憎悪の炎が燃え上がる。

 しかしその傍、母の殺気が消えたと思ったら、瞳を輝かせ楽しそうに嬉しそうにディル様を見る。


「という事は!ディル様はアリシアの命を助けてくださった方!恩人ですわ!レイドワークの名に恥じぬもてなしをなさい!」

「酒だ!最高級の酒を保管庫から持ってこい!」


 母の一言に目を光らせた父も叫び、兄も楽しそうにする。

 明日には王妃様も着くのに……と隣のディル様を見ると、視界の隅に何かがうつるので、そちらに目を向けるとディル様から銀髪毛皮の尻尾が生えていて、嬉しそうに左右に揺れている。

 あぁ……ディル様、お酒好きなんですね。と思いつつ、獣人の人は自由に尻尾の出し入れが出来るのだろうかという疑問も同時に湧いたのだった。


「飲みすぎです」


 翌朝、ケロっとしているディル様とは違い、少し頭痛がすると言う兄。

 ちなみに両親も多少だるさがあるのか、水を飲んで素振りして汗を出すというのを繰り返している。それが酔い冷ましになるのだろうか、むしろ気分がもっと悪くなりそうだなと思いながら見ている。

 兄はそこに混ざる気はないらしく、水を大量に摂取している。


 昨夜はあれからディル様に飲めや食えやと、何故か料理人達もありがとうございます!という感謝の言葉と共に、お酒と一緒に食べる料理を沢山出してきたのだった。

 お酒がすすむにつれ話題は竜王様の手紙になり、受け取った時湧いた殺意の話から、どれだけ竜王様が抜けているのかという、竜王様ダメさ具合の話題に盛り上がりをみせていた。

 ディル様的には愚痴もあったのだろうが、両親や兄的には獣人も人間と変わらないなと親近感が湧いたようで、結果良かったのかもしれない。

 言うなれば影で散々な言われようをした竜王様だけが哀れだが、風評被害も竜王様だけになので、気にしない事にした。


 そろそろ王妃様が到着するとの事で、領地の門番には屋敷へ案内するよう伝えていることもあり、迎える準備をすることにした。




 ◇




「アリシア!無事で良かったわ!」

「王妃様も!無事に到着されたようで何よりです!」

「アリシア、王妃様と共に外に出ないように」


 王妃様との再会を屋敷にて喜びあっていると、厳しい顔をしたディル様が近づいて忠告を伝える。


「どうしましたか?」

「一行の後方に筋肉馬鹿が紛れていたようだ。アリシアが生きていると知ればめんどくさいことになるだろうし、そいつの行動を見張ったり民を守ったりするのに、アリシアの両親や兄達も出ている。アリシアが屋敷を守ってくれると助かると言っていた」

「………………筋肉馬鹿ってロイドのことですよね?」

「マユは常に筋肉馬鹿としか言わないが、多分そんな名だったと?」

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