第12話

「別にアズールの国が欲しいわけじゃないなら、簒奪すれば良いのでは?」

「誰が次の王になるんだよ」

「ラルド殿下」

「嫌です。人間に囲まれるより獣人に囲まれたいです」


 兄二人の話題に、即答で断りを入れるラルド様の理由も気になるが、簒奪という結論に至ったセイン兄の考えも気になる。

 セイン兄曰く、第一王子から王太子の座を第二王子に変えるのは現状十分出来ることだが、どうしても国王が邪魔になるだろうとの事で、国王もろとも退いてもらうという事らしい。

 ルフィル国の配下に置いたとしても、誰が統治するのかに問題が残るし、アズール国は獣人を認めて居ない為、国が乱れるだけで統治など出来ないだろうという。

 レイドワークに人々が流れてくる事は予測しているが、どれだけの人数が来るのかもわからず、受け入れ可能な人数もそんなに多いわけではない。

 このまま国が廃れていくが、獣人の配下になったとしてもレイドワーク領土に人間全てが集ってしまって結局受け入れる事も出来ず魔獣に襲われるという最悪な未来予測もあるのだ。


「狙ったかのように、ちょうど良くラルド殿下がいらっしゃるのなら、存分に活用すれば良いと思います」

「一応、私に殿下という敬称を使って目上だと理解しているのに、扱いが雑すぎますね」


 セインのサラっと言ってのける不敬に対し、肩を震わせ笑いをかみ殺しながらラルドが答える。


「脳筋長男、腹黒次男、破天荒妹か~」

「マユ?喧嘩売ってる?」

「いや、何かうまい具合な兄妹だから、どうにかなるかな~って」


 マユが視線を彷徨わせながら、少し言いにくそうにしているのを、とっとと先を述べろと言わんばかりにジッと見つめる。


「うん。すでに王都の3割ほどが移動開始してるみたいね。レイドワーク領土に。…………王妃様も含めて」


 最後の一文にとんでもない爆弾発言を付けて、マユが覚悟を決めたように答えた。








 すぐさま領土へ戻ろうとするカイルだったが、馬らしき生き物の休憩が足りないのか、生まれたてのように足をプルプル震わせて立つことすらままならない。

 そのため、私とカイル兄がディル様に乗ってレイドワークの現状把握と救援の為に戻る事にした。

 マユも着いてきたがったが、精霊の情報網を聞いたセイン兄が黒い笑顔でマユに何かを呟いた後、残りメンバーはルフィル国へ戻ることになったのだ。

 セイン兄も何か考えがあってルフィル国へ行くのだと思うけれど……。

 幸いな事にマユとは精霊を通じてディル様がやり取り出来るので、ありがたく領土へ向かう事にした。


「アリシア、これ」


 そう言ってセイン兄は自分が使っていた剣を私に差し出した。


「存分に暴れて良いからね。こちらには聖女様がいらっしゃるので大丈夫だよ」


 うん。魔獣相手じゃ確実に戦力過多ですね、と思いながら有り難く剣を受け取る。

 一応私も腰にナイフをいくつか付けてはいるが、武器は多い方が良い。


「いくぞ」


 そう言って駆け抜けるディル様。

 一瞬にしてマユ達の姿が見えなくなる。


「さて。セイン様?早くお城へ戻ってしっかりお話を聞きたいですね」

「えぇ、アリシアを傷つけた罪、しっかりお支払いして頂かないといけませんからね」


 楽しそうに微笑むマユと暗い笑みを浮かべるセインを横目に、竜王はため息をつく。


「お前の兄は死んだ方がマシという状態になるのではないか?」

「人間の馬鹿兄なんてもの、私は認めていません」

「…………」


 ある意味でマトモだったアリシアとディルが向こうへ行ってしまった事を今更ながら激しい後悔に襲われる竜王は、その背にラルドとセインを乗せ、マユは横を飛んでもらい、ディルが早く帰ってくることを切望しながら城まで飛んでいくのだった。





 ◇





「アリシアは右を!」

「ディル様、伏せて!」


 前方に魔獣の群を確認し、そのまま最短ルートを取るという事で、その中を突き抜ける格好になるが、邪魔な物は片付ける。

 風の精霊による加護で、アリシアとカイルがディルから落ちるということは余程体制を崩さない限りないし、前方を突っ切る際には風の防御により魔獣の方が吹き飛ぶ。

 その為、邪魔になるのは脇になり、恐怖に正気を失った魔獣が突っ込んできても迷惑なので、アリシアとカイルが左右に別れて魔獣を叩き斬っていく。


「これならばディル様は走ることにだけ専念できますね」

「アリシア!領地に着くまでにどちらが魔獣を多く切ったか勝負だ!よし!今度は俺が右な!」

「カイル兄様!右の方が魔獣が多いです!狡い!」


 背に乗る二人の会話を聞きながら、ディルは心の中で戦闘狂……とため息をつくのだった。






「アリシア!無事だったのね!」


 ディル様のおかげで、半日かからず領地に付いた。

 カイル兄様は103、私は96と魔獣討伐数に関して買った負けたの話をしている所へ、母が父を押しのけてアリシアの元へ駆けつけ抱きしめた。

 その格好は返り血が染み付いていたが、アリシアやカイルも同じような格好になっている。

 ただ一人、いや一匹?ディル様は相変わらず綺麗な銀髪の毛皮が風になびいている。

 多分、精霊により綺麗にしてもらっているのだろう。


「お父様!報告がございます」


 押しのけられて悲しそうに私と母を見ている父に、兄が話しかけた。


「いや、うん……私も家族再会の抱擁を……」

「王妃様を含めて王都の三割程の人口がこちらに移動しています」

「は?」

「え?」



 兄の報告に目と口をこれ以上ない程開き驚く両親。

 それもそうだろう。

 独立するまでは計画にあったし、多少人口が出入りすることも念頭にあったが、王妃様が移動してくるうえに三割とは予想外である。


「馬車のようですが、明日には到着する予定ですね」

「そなたは……いやいい!まずは準備だ!バルタ!」


 ディル様が人型になり言葉を紡いだが、誰だと言う前に準備を優先する父は執事のバルタに王妃様とディル様の客間を準備することと、移動してくる民のためにまずは簡易的な家の準備をし、それでも家の数が足りないようであれば屋敷の解放そして食料確保を指示した。


「カイル、アリシア、戻ってきたところ悪いが、その方の紹介含め報告をしてくれないか」


 父が辺境伯ならではの厳しい顔つきで言うが、私と母は眉をひそめた。


「旦那様。皆様返り血に塗れており、絨毯だけでなくソファまで汚すおつもりですか?」


 私達が苦言を呈する前に執事のバルタが言ってくれた為、身を清めてからの報告となった。

 そのため、一旦ディル様は応接室にて待っていただく事になり、その間に急いで身支度を整える。

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