第11話

「あれ?馬はどちらですか?」

「俺」


 あれから私とマユは騎士団の方が着るような服を用意してもらった。

 戦場で使用するものなのか、動きやすさ重視で装飾がないため、着心地が良いのだが、ディル様の返事に首をかしげた。


「え……?私、馬の用意をお願いしましたよ……ね?」

「移動手段という意味なら同じでは?」


 ディル様も首をかしげながら返事をするその横で、マユは肩を震わせ笑っているのを堪えている。


「良いじゃない、アリシア。移動速度が上がるわけだし」

「いやいや、そうは言っても、何かこう抵抗が……」

「アズール国での固定観念は捨てて下さい。移動手段で使用する馬なんてすぐ用意できません。今は急ぐか急がないかですよ」


 ラルド様はそう言うも、生きるか死ぬかのあの時と違って、人型ディル様に慣れてるのに、いくらフェンリル姿とは言え馬のように乗るというのは……。


「じゃあ俺に乗るか?竜に乗るというのも……」

「ディル様、お願いします」


 竜王様の申し出をキッパリ断り、ディル様にお願いする。

 そちらの方が恐れ多いので、二択しかないならディル様を選ぶ!

 私の返事を聞いて、ディル様が以前とは1回り程大きいが、相変わらず美しい毛並みを纏うフェンリルの姿に変化する。

 本当に美しい――。

 思わず見とれていると、恋する乙女ちゃん?なんてマユが耳元で囁いた為、我に帰る。


「マユも乗れ」


 そう言ってディル様が精霊に頼んだのだろう、私とマユの身体が持ち上がり、ディル様の背に乗せられた。


「え!?私も!?」

「俺は走るのに集中するから、マユは風の精霊に頼んで風圧を調整してくれ」

「了解でーす」


 マユを乗せる為に少し大きいサイズになったのか……と思い、竜王様に声をかけようと視線を向けると、何故か竜王様も竜に変身するところだった。


「え?」

「は?」


 黒く艶やかな鱗を持ち、黙って存在するその姿は威圧感があるほどで――。


「中身が残念じゃなければなぁ」

「同意するわ」


 思わず呟いたのだろうマユの言葉に頷いた。

 何故、竜王様まで変身を?と思ったが、ラルド様が私達の戸惑った様子に勘付いてくれたらしく、答えてくれた。


「向かっているのが子息二名という事で、愚王自らが誤解を解き、それと共に隣国となるレイドワーク領主への挨拶やアズール国の植民地化計画のお話をさせていただこうと思いまして。安心して下さい。私も行きますから!!!!」


 最もな理由を述べてはいるが、明らかに最後の力説一文に関しては、兄達を珍獣扱いしている気がしてならない……。

 その目で見てみたいという意思が強く出ている……。


「それじゃあ精霊達に、この王都の守りと、竜王様とディル様の守護を頼みますね」

「助かる」

「感謝する」


 そして、侵攻してくる兄二人の元へ五人?で向かった――――。





 ◇




 砂埃をあげて馬が二頭、とても馬と思えない速度で駆け抜けて行く。

 実際この馬は見た目こそ馬だが、レイドワーク領土にて隠れて行った、馬と魔獣を組み合わせた生き物なため馬以上の速度と持久力を持つが、それでもその生き物はそれ以上のスピードを出そうと必死になっていた。

 走らなければ、殺される――。

 なぜならば、乗っている人物が何よりも危険人物だとしか思えないからだ。


「殺す殺す殺す殺す殺す」

「ふふ………ふふふふ…………」


 壮絶な殺気を放ちブツブツと呟く二人の目は座っており、目の前に逃げ遅れた魔獣が居たかと思うと一瞬にして真っ二つに切り裂かれている。

 この殺気を感じてまで立ちはだかろうとする魔獣は馬鹿か殺気を感じることすら出来ない弱い魔獣しか居ない。

 自分達も気を失いそうな殺気に当てられつつ、目の前で飛び散る鮮血を見ては無我夢中に駆け抜けるのだ。


「凄い殺気ですね」

「人間だ」


 そんな声が聞こえたかと思うと、上から金青髪の青年が降り立った瞬間、問答無用で切り捨てようとする男を、もう片方の男が止める。


「誰だ」

「私はルフィル国竜王の側近……」


 ガキィイイイイイイン!!!

 ラルドが言い終わらないうちに、青年二人は容赦なく剣で切り捨てようとし、それをラルドが受け止める。


「これが噂のレイドワーク子息の剣ですか……重いですね」

「ちっ受け止めたか」

「僕らのことをご存知のようですねぇ?」


 剣を受け止められた為、体制を整えようとラルドから離れ馬から飛び降りる。


「何をやっている!」


 ラルドの後ろに黒龍が降り立ち、言葉を放ったところを見ると、竜王であると想像がつく。

 俺こっちな、と一人が呟いて竜王に剣を向けると、もう一人はそのままラルドに剣を向けて睨みつける。


「噂のレイドワーク令息と手合わせですか!楽しみですね」

「止めろー!」


 竜王が止めるが、ラルドはものすごく楽しそうに目を光らせ剣をかまえる。

 どうしようか竜王が思案していると、ディルの気配が近くなる。

 魔力の違いか種族の違いか、空を飛ぶ竜であるレイの方が早かったのだ。


「何やってるんですか!?」


 兄二人とラルドが剣を構えてるのを見て、アリシアが声をあげ、ディルから降りる。


「アリシア!!!!」

「無事か!!!」


 二人はアリシアを見ると、こちらに目を向けることもなく瞬時に走り向かう……が、何かが落ちたのを把握すると、すぐに竜王はラルドを羽でくるみ覆った。


 ドォオオオオオーーーーン!!!!!!


 爆発音と、それに飲まれる竜王とラルド様。


「お兄様!?」

「アリシア~!良かった~!会えたな!」

「無事なようで何よりだ」


 驚くアリシアをよそに、何事もなかったように笑顔を振りまく兄二人は、心から妹との再会を喜んでいるようだ。

 その横で呆然としているディルとマユは、その存在すら目に入っていないようだ。


「やはりレイドワークは面白いですね」

「……俺が竜の姿じゃなかったら、お前木っ端微塵だからな」


 こちらも楽しそうに笑うラルドに、珍しく竜王がため息をついた。






「悪かったな。俺はカイル・レイドワーク。レイドワークの第一子だ。」

「僕はセイン・レイドワークです。」


 アリシアと再会し、アリシアから説明を受けた兄二人は、とりあえず周囲の声を聞くという事が出来るようになったようだ。

 ちなみにアリシアは両サイドを兄二人によってキッチリと守られている。

 兄達が乗ってきた馬は、既に満身創痍で寝転んでいる。


「植民地ねぇ」


 興味なさそうにカイルが答える傍ら、セインは少し考え込んだ様子で、アリシアは少し不安そうな顔でセインを見る。

 レイドワーク領は守りの要であるが故、長男であるカイルはひたすら武術・剣術・体術を学び領民の為に腕を奮っていたが、次男であるセインはカイルがほぼ魔獣を倒しきってしまう為、兄を支える為にと参謀として色んな知識を学んできていたのだ。


「……簒奪」


 ポツリとセインが呟いた。


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