第27話

「人間と獣人の関係もあるが、実際同種族同士の婚姻が多い。それは妊娠出産に至り命を落とす獣人が多かった為だが、確かにそれは見た目が小さい獣人に多かったように思う……」

「今後の事も考えて、少しマユの意見を貰いたい」


 唖然としたのはマユである。


「私……自分の世界の……押し付け……あ……」

「自由に発言すると、思わぬ情報が入ることもあるのね」


 自分の元居た世界での決まりごとを声高に言っただけであり、きっと押し付けにしか思えなかったんだろう。

 しかしながら、この世界で実際合った問題に当てはまる事が出来るという情報として、知識として提供する事が出来たのだ。

 嬉しそうに涙を浮かべながらマユが微笑む。


「マユと竜王様もどうなるか分からないし」

「それならアリシアとディル様だって同じでしょう」

「……え?」


 マユの言葉に驚く。

 どうして私とディル様が?

 そんな私の表情に何かを読み取ったのか、呆れたような表情をするマユが口を開く。


「あれだけ一緒にいて……むしろもうアリシアの隣は自分の場所のように居座ってるディル様と、それを受け入れているアリシアにしか思えない。アリシアの命を守ったって意味で家族も受け入れてるし……アリシアも外堀埋められてたんだよ?」

「……え?」

「私、実は精霊に頼んでたんだよね。アリシアに似合う人がアリシアを助けにいってほしいって!」

「ええええええ!!!!???」


 今になって、マユからまさかの爆弾発言が落とされる。

 ディル様は気にしない風に頭を私にこすりつけてきて、思わずそれを撫で……。

 これ!?これなの!?





 ◇





 あれから、マユの気持ちに対し嬉しさを感じていたと言う竜王様との婚姻も決まり、ならばとラルド様も恋人と婚姻する事になり、より一層忙しい日々となった。

 2つの挙式準備と共に、ルフィル国は竜王様とマユが。アズール国はルフィル国の属国としてラルド様が住む事になったわけだが、マユから教わる情報の中には有意義なものも多かった。

 その為、挙式準備はどこへやら。竜王様に乗ってマユは頻繁にラルド様の元へ行き、そこで宰相として収まったリスタ様と共に色々な規則や細やかな決め事を決めていっていた為、周囲の負担が倍増していた。


 ちなみに足の速度を考え、挙式は2つ一気にアズール国で行われる事になったのだが、場所は何故かレイドワーク領土なのだ。

 おかげで私はレイドワーク領土での準備に奔走している。


 しかも何と!料理はマユの世界にあるものを元として新しく作るという事になり、料理人だけでなく人間獣人関係なく料理が出来る人達が集まり、試行錯誤を繰り返している。

 隣には変わらずディル様が居て。両親も兄も嬉しそうな複雑そうな表情で微笑んでいたりすると、見事外堀を埋められている気がしないではないが、正直一緒にいるのが当たり前というか落ち着くというか、これが自然体な気がしている。

 きっと空気のように存在するのが当たり前で、でも居なくなると困るのだろう。まぁ空気の場合だと生きる事ができなくなるが……それもあながち間違いではないのかもしれない。


「アリシア~!」


 この声はマユだ、竜の影が大地を覆っているのが分かる。

 近くの広場に降り立ち、マユがこちらへ駆けてくる。

 手に大きな箱を持って。


「見て見て見て~!これ婚姻式でアリシアが着るドレス!」


 そう言って見せたのは、純白のドレスだ。

 私は思わずマユの顔を二度見する。


「……マユ?竜王様夫妻とラルド様夫妻の婚姻式は、どちらもマユの世界流にするという話で、花嫁が純白のドレスを来るのよね?花嫁花婿以外、白は駄目なのよね?」


 なのに何故、私のドレスが純白なのだろう?


「だってアリシア花嫁だし」

「待って、話が理解できない」

「どういう事だ?」


 マユの言葉に私だけでなくディル様も理解できていないようだ。良かった私だけじゃなくて。


「なんと!三組の結婚式をするのです!」

「ディルとアリシアな」

「~~~~!!!!!???」


 マユと竜王様の意見に、思わず声の出ない叫び声を上げてしまった。

 聞いてない!聞いてない!!

 そもそも当人の意思はどうなった!?

 私とディル様の関係って、そもそも恋人でも婚約者でもないし、そういうの全部飛ばして結婚!?

 マユの思考回路が理解できない……と私が呟けば、隣でディル様が今の準備じゃ足りない……と呟いていた。


 え?そっちですか?


「そういう問題ではありません!」

「じゃあどういう問題なの?」

「そもそも私とディル様はそういう関係ではありません!」

「嘘だろ」


 マユも竜王様も私の意見に突っ込んできます。


「完全に外堀埋められてるし、アリシアの家族だって認めてる感満載じゃない。むしろ私達としても応援してます!って感じだし、ディル様以上に良さそうな男っている?もう貴族云々あまり関係ないだろうし、そもそもアリシアのお転婆隠すのがもう今更じゃない?」

「うっ」

「それにディル様相手なら頻繁に会えるよ?」

「ううっ」


 確かに今まで学院や社交で隠し通していた所があるのは認めます……。

 王太子妃教育の賜物というか、練習場というか……実践場所だったのもある。

 そして今になり獣人達との生活で、お貴族様のおしとやかな生活をするより、一緒に駆け回ってる方が楽しいのも認める。

 マユに頻繁に会えるメリットも喜ばしいし、色々認めざるおえない気がする。


「いや。もうどう見てもそういう仲だとしか思ってなかったが……ディル?」


 睨みつけるような目線で竜王様はディル様を見る。


「まぁ……正直、人間にように理屈の恋愛とかよく分からないが、アリシアと一緒にいるのが楽なのは認める」


 促されたのか、ディル様が真剣な眼差しを私に向け、言葉を紡ぐ。


「外堀を埋めた……というのは分からないが、一緒にいても不自然ではないようにしたつもりはある」


 いや、何かそこを認められるのは若干怖い気もします……。

 が、一緒にいると楽で、私も自然とディル様の隣に居た気はする……自発的に。


「アリシア、結婚しよう」

「……はい……」

「居心地が一番!愛だの恋だのドキドキだの言ってたって、一緒に居るのが苦痛になるのが最も最悪だもん!」


 何か流されている気もしたけれど。

 言葉ももらったし、拒否する理由もない。

 居心地がよくて、自分を曝け出せて、自由に動けて、自然体でいられる。

 確かにマユが叫んでいるように、居心地の良さで考えると最良の相手だと思えた。

 以前が以前なだけに、余計かもしれない。

 あれは苦行だ地獄だ精神修行だ。

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