第25話
ディル様とこれからの事を考える。
竜王様はマユの事を嫌ってはいないだろう、顔が赤くなっているから。
そもそも、嫌いならば側にすら居ないと思う。
獣人達は揃って楽しい事が好きで、面倒くさい事からは逃げる傾向にある気がするのは、一緒に居た日々で思った事だ。
「うるさいから、仕返しに眠ってもらいます」
周囲が無視をしているけど、喚き続けている殿下含め、ロイドやアスタも眠らせたマユ。
貴族牢にでも眠らせておけとリスタが兵に伝えた。
貴族牢は、牢とは名ばかりで、ただの豪華な部屋で、脱出不可なだけだった。
「仕返しで眠らせるの?」
「悪夢を見せます!私やアリシアの立場になってもらい、どういう追い詰められ方をしたのか延々と繰り返してもらうの!考え方はこちらに合わせてる状態で!」
死なないし良いよね!向こうだと仕返しする事も難しいから我慢するしかなかったけど……いやでもこっちの方が酷い……。
なんてマユは呟いていたが、仕返しの内容にリスタや兵達の頬は引きつっていた。
ラルド様を筆頭に私達は思いっきり笑ってしまった。
なんて面白い仕返しなんだろう。マユだから出来る事だろうけれど。
「一生目覚めないと思うわ。馬鹿だし。」
「反省するなら王妃様が怒ってる間に直ってるでしょうし……」
「いや、案外10年とかかも?」
「30年後、髪の毛がなくなってから目覚めれば面白いですね」
「それは年齢を重ねた者への嫌味か、セイン」
悪夢は本人が反省するまで繰り返し見続けるとマユが言ったら、何年後に目覚めるかと王妃様や両親、カイン兄やセイン兄が賭けでもしそうな勢いで年数予測を立て始めた。
輝く空気とは正反対な会話だと思う。
◇
おぉおおおおお……。
感嘆の声が響く。
それは人間も獣人も関係がなかった。
竜王様に乗って、マユが精霊を輝かせ、人間の目にも分かるようにして大地を潤していく。
食物が育ち、民がすぐに暮らしやすくなるように。
綺麗な水が飲めるように。
その光景に人種など関係なく見惚れている。
「獣人との関係制に至っては今更な気がしますけどね。はい次いきますか」
わざわざ仲の良さを見せつける必要もないけど一応、と付け足して言ったリスタにより仕切られて工程が進められる。
マユからリスタは大丈夫というお墨付きを貰っている為、特に何がどうと言う事もなく、宰相子息として働いてもらう感じだ。
傍目から見て、何か今の方が生き生きとしている気がする。
本心は自身にしか分からないという事か。
「詐欺だー!」
「力ある者が上に立つのです。当たり前でしょう」
「残念だったな!」
叫びながらラルド様の元へ行くカイル兄に両親が声をかける。
どうやら兵を気絶させていく人数を競っていたようで、それは当主の座をかけて行っていたようだ。
カイル兄は単純に、多く人数を気絶させたら俺の勝ち!くらいに考えていたようで、母から父を超えたのならば当主で良いでしょうと言われて愕然としていた。
父は引退し、言わずもがな、ルフィル国で獣人達と戦い遊び尽くす気らしく、カイル兄が羨ましがったのも当然だろう。
レイドワークの当主として、ラルド様の隣に立ち、民の前に出る。
盛大な歓声が響く。
獣人達が我先にと手を叩き、焦ったように人間達も拍手をする。
「「「「「ラルド様万歳!竜王、聖女御夫妻万歳!」」」」」
「なに!?」
「聖女様がご結婚!?」
「ラルド~!いつの間に~!」
「獣人離れどころか親子になったのか~!」
城に居て見ていた兵達だろうか、何人かの声が重なって聞こえた後、人間達は驚き、獣人達は笑い合ってる。
「ちがっ!……ぐっ!」
頭上で竜王様らしき声が聞こえたかと思うと、その口を植物のような蔦で巻きつけられ喋れなくなった竜王様と、笑顔で手を振るマユが見えた。
おめでたい事だと私達も笑顔を作り、マユが否定しないなら自分が言うべきことでもないというような感じで、誰も否定をしない。
竜王と聖女は夫婦となり、ラルド様は養子となる事は決定事項として、精霊を通じて各地へ瞬時に広がった。
お披露目のようなものも終わり、獣人達も含めて王都の復興という住みやすい街づくりをしようと民達は動き、そこへ父達も趣いて行った。
城に残っていた人物が最小限だった為か、城の内部は掃除が行き届いておらず、戻ってきたメイド達は掃除に励んでいるし、そこへも獣人達が一緒になって片付けてくれている。
王妃様は出ていってから今まで、王妃様の分だけでなく国王の分まで書類が片付けられていない事に気がつき、狂ったように書類の整理をしている。
私達はとりあえずマユと竜王様の話をしようと城の一室で紅茶を飲んでいたのだが……。
「嫌なら断って下さい」
「嫌ではありません。大歓迎です」
「俺もマユが良いと思う」
「マユが決めたのなら、それに賛成です!」
「んんんんんーーー!!!!!」
夫婦と扱われる事に対して、マユは毅然とした態度で竜王様に詰め寄るが、それに賛成の声をあげたのはラルド様とディル様だ。
もちろん私も。
人型に戻っても、蔦が口元に絡みついて話す事が出来ない竜王様に、誰も意見を聞いていない。
「……嫌なんですか?」
蔦を取ろうともがく竜王様に対して、悲しそうに俯いてマユが問う。
「あっつぅううう!!!!????」
とっとと外せ、と言わんばかりにディル様が竜王様の顔面に火を付けた為、蔦は燃え消えたものの、のたうち回る竜王様。
もう……相変わらずというか何というか……。
ディル様が盛大なため息を吐いている横で、私も小さくため息を吐いた。
――竜王様は鈍臭い――
その一言を飲み込み、マユに目を向けると、その瞳に薄い涙の膜が張っていた。
竜王様をからかって遊んでいるのかとも思っていたが、完全に外堀を埋めている辺り、何か思いがあったのか。それとも好意を持っているのか。
マユが単独アズール国へ戻った事から、異世界から来たというその気持ちは私が想像する事が難しいのだと心底学んだ。
だからこそ、この涙は何なのだろう……?
「マユ……?」
「退避!!!!!!!」
思わずマユに声をかけた瞬間、ディル様が叫んで私を抱え、ラルド様と共に部屋から飛び出し扉をしめた。
――瞬間、爆音が立ち上り、石が崩れ落ちる音がした。あれ壁崩れてる音ですよね。
「ななななな……何事!?マユ!?」
「養子の手続きは終わってましたか……?」
慌て混乱する私とは対照的に、ラルド様は寂しそうな表情をしつつ至って冷静に養子の心配をする。
……竜王様の心配ではなく、あくまで養子の心配である。
よほど養子という立場が欲しいようです。
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