第24話

 国王に冷ややかな目線を向けるラルド様。

 ラルド様の後ろ左右を父と兄が固める。


「ラルド……だと?」


 気がついたらしい殿下の声までも聞こえる。


「……なんでレイドワークが……」


 ロイドも気がついたようだ。

 私とディル様は竜王様とマユの側に行くと、殿下と目があい、私達に気がつき叫ぶ。


「アリシア!マユから離れろ!」


 お決まりの言葉に成長がないとさえ思える。


「低脳すぎて吐き気がする。この国はルフィル国が貰いうけるよ」


 早くご褒美が欲しいからね、とラルド様が呟きながら、サラリと言う。


「何を言っているんだラルド……なぜ獣人の国なんかに」

「低脳が統治するより良くなりますよ」

「王太子は私だぞ!」

「血筋だけで政治も分からない馬鹿が」


 陛下や殿下に悪態をつくラルド様だが、周囲に居る兵達は特に動くわけでもない。

 ロイドやアスタは殿下とマユの両方を視線で追いながら、どう動くべきか時を見極めているようにも思える。

 何か収集がつかなくなりそうな感じがする。

 このまま言い合っていたところで何も進まない。

 隣ではディル様が本当くだらなくて面白いなんて呟いて笑いをこらえてる気がする。


「レイドワーク領土は独立した後、現在はルフィル国と協力体制をとっている!兵達よ!どうする!?」


 兵達は私達に敵意を向けているわけでもなさそうだから、あえて問いかけてみた。


「ラルド竜王御子息に忠誠を」

「レイドワークはラルド竜王御子息にお仕えする」


 父と兄がラルド様に忠誠を誓う。

 ただでさえ青ざめた顔をしていた国王が、血の気が失せたように白くなっていく反面、殿下は怒りだろうか顔を真っ赤にしている。


「まだ息子じゃ……」

「ガルル!!!我ら獣人もラルドならば支持をしよう!」


 ディル様がフェンリル姿になり、周囲を威圧する。

 竜王様の言葉を遮って。


 第二王子、レイドワーク当主と次期当主、そして人から狼のような獣に変わった獣人が国をとると言う。

 それだけでも、兵達は若干喜びにも見える表情をするが、すぐに顔を引き締める。あとひと押しなのだろうか。

 皆の視線が竜に寄り添ったままのマユに集まる。


「マユ!こっちに来い!獣人は野蛮だぞ!」

「マユさえ居れば……!」


 ラルドとアスタが焦ったようにマユに声をかける。

 その声に反応したように、マユの肩が揺れたのを見逃さなかったのだろう。殿下が更に声をかけた。


「マユ!私の手をとれ!」

「っっっっざけんじゃねぇえええ!!!!!!」


 意味はわかりませんが、マユの逆鱗に触れたのだけは確実。きっと汚い言葉でよろしくない意味を言っている気がする。


「野蛮!?どこが!あんたらの人見下した態度で傲慢なところの方がよっぽど野蛮でしょう!静かに寄り添ってくれてる竜王様のどこが野蛮なんだっつーの!」


 竜王様!?と兵士達がざわめく。

 殿下やロイドとアスタ、あと国王も焦ったような顔をするが、リスタはどこか楽しそうに見ている気がする。

 そもそも立ち位置が殿下側ではないのが気にはなるけれど。


「どうして分かってくれないんだ!?こんなに愛しているのに!」

「こっちのセリフだクソ野郎が!押し付けんなキモイんじゃボケ!何度も言わせんじゃねぇぞこのボケが!」


 ラルド様が満面の笑みで頷いて、父と兄が二人笑いをこらえている辺り、さすが義母上とか言ってそうだなーと、現実逃避を少しする。

 言葉は理解できないのに、何となく言っている意味がわかるのが不思議だ。


「私は竜王様であるレイにつく!ルフィル国にいる!」


 マユがそう宣言した事により、場に居た兵達は国王達の周りを囲む。


「嫌だ!マユ!」

「お前ら!邪魔をするな!」


 アスタとロイドが叫び、マユの元へ駆け付けようとするも、兵達により阻まれる。


「お前ら……マユを返せぇえええ!!!!」


 そう言って竜王様ではなく私を狙ってくる辺り、本当殿下は弱いものいじめが好きだなぁと思いつつも負ける気はしない……が、ディル様が私の前に立ちふさがる。


「いや、その血肉は絶対不味い……!」


 魔獣ではないのに、つい味の話をしてしまったのは、不本意だが、わざとではない。

 あんな奴の血一滴すら牙にも爪にもつけて欲しくなかったのは本当だけど。

 ディル様を押しのけようとした時、背後から物凄い殺気が放たれたのに気がついた。


「お前なんて大っっっっ嫌い!!!!!」


 殺気と共に放たれた言葉に、殿下の動きが止まる。


「顔も見たくない!私の名前を呼ばないで!気持ち悪い!視界に入るな!寄るな!大っ嫌い!!!」


 周囲の哀れんだ視線が殿下ではなくマユに集まった……。


「マユ、落ち着け」


 竜王様が人型になり、マユを抱きしめる。


「聖女、聖女、聖女。そればっかり!この国に立つ者は肩書きしか見ない!アリシアの時だってそう!」


 マユの心からの叫びに、国王は目線を逸らす。

 確かに、私の時もそう。レイドワーク辺境伯令嬢という立場でしか見られていなかった。

 しかしそれは、当たり前の事でもあったから、私としては受け入れるという道しか選ばなかったのだけど……。


「兵よ。心のままに拘束しろ。仕えたくない者を捕えよ」


 リスタが兵達に言葉を投げかけた。

 戦うわけでもなく、選ばせている。自分達の上に立つ者を。

 兵達は迷う事なく国王や殿下達を捕えようとする。

 認められないのか、認めたくないのか。最後の悪あがきのように暴れる殿下。

 反面、観念したかのように静かな国王と、呆然自失状態のロイドとアスタ。


「……ねぇ、仕返しってさ……犯罪になるの?」

「死ななければ良いのでは?」


 マユが呟いた言葉に、ラルドがにこやかに答える。


「馬鹿に話し合いは無意味。時間の無駄。理解する脳を持ち合わせていないなら尚更。かと言ってやられっぱなしも悔しいでしょう?義母上」

「義母!?どういう事だ!?」

「……勝手に決めるな……」


 ラルドの言葉に殿下が反応するが、聞こえなかったかのように竜王様が答える。


「いやむしろマユしか居ないでしょう。マユならば認められるし大歓迎です。見ていて面白いですし。」

「え……こんな大きな息子……?」

「竜王様との結婚は嫌ではないと捉えました」


 ラルド様の言葉に慌てたのは竜王様で、マユは何やら考えている様子だ。


「婚姻の準備か……マユはどういうのが良いのだろうか」

「獣人か人間か、それともマユの世界に合わせるか……」

「お前らまで!」

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