第23話

「――なに!?」

「アリシア!」


 王城からの爆風と光の渦。

 すぐにディル様は私を背後に隠し、王城を鋭く見つめる。

 竜王様は瞬時に竜となり光の方へ向かっていった。


 ◇


 のんびり気ままな旅と言っても過言ではないものも、王都へ辿りついて終わった。

 王都に残された人が気になる、残してきた店が気になる等、民達は各場所へ散らばり、王都の現状を探ってくれるらしい。

 治安の問題も多少はあるかもしれないと、猫や鳥など小回りがきく獣人達も見回りをしてくれるらしい。

 いくら小型の獣人と言えど人間以上に力はあるし、諜報的活動が適正じゃないのかと昔ラルド様が言って、そのように人材を配置していた為に、今回の配置も素早かった。

 そして豹やライオンといった肉食系の獣人を従え、先頭にライド様が立ち、王城の前で兵士達と睨めっこをしていた。

 マユが自分の存在を確かめ、自分で邪魔になるものを排除するというのならば、マユから声がかかるまで、見守ろうと。

 それが竜王様の意思でもあり、ライド様もそれに従っていたから。

 王城の前を囲むようにライド様筆頭にレイドワークと獣人が並ぶが、ただ並んでいるだけという状況に門番は慌てふためいていたが、通ろうとしないしから放置していいのかと、一応こちらを伺いつつ時間が経過していた。


 その時、王城から爆風と光の渦が現れ、竜王様が飛んで行ったのだ。


「精霊達は何と言ってますか!?」

「マユの感情が暴発したと!」


 ディル様に現状を聞き、心配しながらも王城を見る事しか出来ない。


「――あの馬鹿は自分の視点でしか物事を見ることしか出来ないからね」

「会話するだけでも疲れそうね」

「いっそ他人であればと顔を合わせる度に願った事もあるわ」

「ここまで爆発しなかったのは素晴らしい事なんじゃないかしら」


 後ろから王妃様と母の声が聞こえる。

 ……現状からもそんな意見が出る辺り、親子としてどういった生活だったのだろうかと疑問にも思うけれど、同意する事しか出来ないと思う気持ちもあった。


「――――どけ!」


 剣を鞘から抜く事もなく、問答無用で門番をなぎ倒したのはラルド様だった。

 そのまま王城へ駆けていくラルド様の左右に父とカイル兄がついて駆ける。

 その後ろをついていくのに、ディル様は人型の状態で私をかかえて走る。


「……ディル様!?」


 フェンリル姿ではないディル様の抱えられ、動機が早くなる。


「ラルドもレイが心配なんだろう。さすがに此処であの姿は良くない。ラルドに付いて上手く立ち回り見届けるぞ」


 いや、それよりも抱えられている方が問題で!

 と思うも、男と女の体力や身体構造の差は理解できる……。

 思わず立ち向かってこようとする兵を、両手が塞がっているディル様に代わり、鞘に入れたままの剣で気絶させる。

 ……障害物の事だけに意識を向けようと決めた。







「――!レイドワーク辺境伯!?」

「真ん中の男は誰だ!?」


 兵士が少ないとはいえ、家族を養う為、自分の生活を守る為。

 仕事を簡単に放棄出来ない人もそれなりに居て、その者達は必死に不法侵入者を捉えようとしてくる。

 とは言っても、レイドワークの現在当主と次期当主がいる。

 そして――。


「下がれ!私はラルド・ラスフィード!アズールの第二王子だ!」


 ラルド様が、叫ぶ。

 事実なのに、どこか違和感を感じる言葉。


「……利用出来るものは忌まわしい身分でも利用する辺り、清々しいな……」


 ポツリと、ディル様が呟く。

 そうだ。人間である事はともかく、この国の王子という立場を認めてなかったような気がする。

 不本意ながら血が繋がっただけの存在とか……。


「第二王子!?」

「え!?あの!?」

「ど……どうする!?」

「本当に存在したのか!?」


 驚き慌てる声が聞こえる。

 多分、この国を出て行った経緯を考えても、通常思考ではないから御伽噺のように思っていた人もいるのかもしれないな、と最後の声を聞きながら思った。

 王子と名乗るラルド様の左右には父と兄が居る為、その言葉は真実のものとして兵達に周知されていく。

 目指すは光の渦が立ち込めた場所。

 場所的には城を突っ切って、奥の方にある図書室あたりだと思う。

 ラルド様が駆け抜けている道筋も、そちらの方だった。

「ラルド様って記憶力良いんですね」

「レイへの愛だけでたどり着きそうだが」


 城の道は結構入り組んでいるが、年月がたっていても迷う様子もなくラルド様が走り抜けているという事は、それまでの生活でしっかり覚えていて、今も忘れていないという事に他ならないと思ったが……。

 ディル様の言葉に、そちらの方が真実味があると思えてしまった……。







「竜王様!!」


 図書室の扉はすでに破壊されており、そのままラルド様は中に突進する。

 壁際で気を失っている馬鹿と三馬鹿のうち二人。

 残りの一人は壊れた天井を見上げて、何かを視界に入れないようにしている。

 そして視界に入れないようにしているだろうものは…………。


 竜にしがみついて泣いているマユだった。


「マっ……!!んっ!」


 泣いているマユが心配になり、マユ!と叫ぼうとした私の口をディル様が手で塞ぐ。

 父と兄はニヤニヤした顔をして……。


「おぉ!二人はそういう……?」

「ふむ……人型じゃないのが残念だ……」


 と言っていて、しばらく時間が止まったかのように眺めていたラルド様が、凄い爆弾発言を落として、この空気は一変した。


「あぁ……マユが義母様になるのですね」


 と。


「何を言ってるんだラルド!!???」


 竜王様は動揺して声をあげるが、マユは竜王様から離れる様子はない。


「義父様。そこは人型になって抱きしめるとこでしょう」

「獣人の王なのであれば、そこは獣らしく!」

「そこ、男らしくの方が良いと思うぞ、カイル」

「女性的にはそういう方が良いのか?アリシア」

「私に聞かないでください!ディル様!」

「て言うかまだ褒美は渡せないぞ!?」


 男性は色々思うところがあるのでしょう。


 竜王様に至っては呼び方の否定に必死みたいですが、それも時間の問題かと思う。

 そして私に意見を聞かないで欲しい。剣で死ぬより恥ずかしさで死にそうになる。

 口々にそういった事を言っている間に、兵達は様子を見に次々と集まってくる。

 そこには、足取りが覚束無い様子な国王も居た。兵に支えられながら来たのだろう。


「お久しぶりですね。遺伝子上、父という存在な人」

「ま……さか……ラルドか……?」

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