第22話
「マ……マユがそんな事を言うはずがない……聞き間違いだな……」
「現実逃避してないで現実直視しましょう。間違いなく貴方は馬鹿です」
ハッキリと言葉を言う瞬間に、ロイドとアスタも図書館へやってきて、私の言葉を聞くと目を見開いて驚いた。
「何を言っているんだ?俺は次期国王だぞ?」
「時期国王だから知能指数が高いという確たる理論なんてないでしょう。ワガママだし、人の気持ちわからないし、てか視点が狭いし。状況把握出来てないし。」
呆然とする三人にため息をつく。
無駄な地位と名誉と固定観念は、ここまで愚かな人間を作り出すのかと。
「ど……どうしたんだ?マユ」
「そんな言葉遣い、聖女様らしくないですよ」
ロイドとアスタが焦って言うが、アスタの言葉がむしろ逆鱗に触れた感じがした。
「聖女様らしいって何?私は私らしくしちゃダメなわけ?」
「何言ってるんだ!?マユはマユのままで良いに決まっているだろう!」
私の言葉に焦ったように馬鹿王子は言う。
「リスタ。一体何を見せたんだ?何か変な知識でも入れたんではないのか」
更に検討違いな言葉をリスタに放つ。
どこまでも自分勝手で、思い通りにならないものは何かに責任を被せないと気が済まないのだろうか。
「私、人に寄り添えない人って大嫌いなんですよね。てか、私の世界で言うと、殿下は犯罪者のレベルですよ。」
ストーカー王子の目を真っ直ぐ見て、ハッキリ言った。
ストーカーは犯罪です。
「は……犯罪?」
「何を言っているんだ!?」
「マユを気にかけていただけじゃないか!」
狼狽える三人に呆れるしかない。
視界の隅に映るリスタも、小さくため息を吐いている。
「私は異世界から来ました。価値観も何もかも違う世界です。お分かりですか?」
「それは別世界なのだから当たり前だろう」
何を言っているんだという態度でストーカー王子は言う。
「……本当に?」
「当たり前だろう?」
「想像した事はありますか?」
「は?」
「精霊も居ない。教育水準も違う。マナーも違う。貴族の序列もない。それを想像した事はありますか?」
「体験していないものを想像できるわけがないだろう。」
視野が狭すぎるし、理解力もないのかと本当に呆れる。
「それが寄り添うという事ですよ」
「なんだと!?」
リスタが声を挟む。
あまり批判めいた事を言わないリスタに対して、怒りの表情を見せる殿下に、心底呆れかえる。
「想像した事はありますか?他人の気持ちを。置き換えた事はありますか?相手と自分の立場や状況を。自分が放つ言葉が、行動が、後にどんな影響を及ぼすのか。立場的に考えるのは当たり前なのに、出来ないのですか?体験していないからと」
「それ……は……」
三人は狼狽える。きっとそんな考えは必要ない立場にでも居たのだろう。
元々私の居た世界だって、出来ない人も居たけれど、ただのクラスメートというだけなのであれば距離を保てば良いだけの話だ。
自分の言動に責任を持たず、それがトラブルに発展したところで、知らぬ存ぜぬ私は関係ないとヒステリックに叫ぶ奴は居る。
口が達者な奴であれば、責任転嫁するな!とでも良い喚きだすほどで、言葉の意味を理解していない奴も居た。
ただ、問題は立場だ。
私に至っては逃げる事もできず押し付けられるだけの状態になってしまっていた。
幸い、精霊達のお陰でアリシアの元に行けたけれど、それは結果論でしかない。
自分が努力し、精霊と交流できなければ、あの地獄は延々と続いていたのだ。
ただの善意としても、悪意がないとしても、話し合う事も出来ず、ただこちらにストレスを押し付けるだけの存在でしかなく。
悪く思う私が悪いとでも言いたいのか。
否、そんな事はない。
話を聞かず、寄り添う事もせず、逃げ出す事も出来ない環境を作らない相手が悪いと思う。
「愛してる?それは貴方の感情であり、私は否定するつもりもありません。私を幸せにする?私の幸せは私が決めるものです。」
「マユ!?女は愛されてこと幸せなんだよ!?」
「そもそもの価値観が違う!私は政略結婚なんてする必要がない世界からきてるの!」
そもそもの根底を忘れて、その時その時の言葉だけで返すのは止めて欲しい。
数分の記憶くらい保て。マジで。
ぐるぐるする。
思考回路も、視界も。
クラクラと、身体の平衡感覚もなくなっていく。
自分が自分を保てなくなるようで。
―逃げるという行為は大事なのかもしれない―
―言いたいことを言い合える関係―
―言葉のキャッチボール―
過ごしやすい人と過ごすのは人間の性だろう。
ここまで価値観も視野も狭い人と話すのは疲れる――いくらこちらが合わせるしかないとしても。
成長しない上にストレスにしかならなくて、権力のおかげで清々しい程の脅迫と化していた過去を思い出す。
「私は人形じゃない!私にも意思はある!」
決壊したダムのように溢れ出す怒りと感情。
――そして悲しさ。
私は元の世界には戻れない。
「私の意思を無視しないで!存在しているだけでいい?そこに自由はないのか!私に自由はなかった!言葉だけで中身が伴わないものに価値があるのか!?聖女なんて私は望んでいなかった!普通の生活が欲しかっただけ!」
涙が溢れてくる。
「愛してくれなんて頼んでない!押し付けの愛情なんていらない!そこに私の意思はない!ただの職権乱用でしかない!」
私を見て。
私を見て。
私を見て。
聖女じゃない。
私を見て。
泣きながら、思い出すのは優しい瞳。
異世界の事を否定するわけでもなく、積極的に言葉を交わしてくれたアリシア。
自分の生まれを、生きてきた経緯を、懐かしさと共に忘れないように楽しんでくれた。
自分が自分のままで行動しても、発言しても、受け入れてくれた竜王様達。
私が望んだ事すらも否定する事なく、悲しそうな不安そうな瞳と共に、心配しつつも送り出してくれる心の広さ。
「何を言ってるんだ!?マユを守るためにも権力は必要な事じゃないか!愛し愛される事の何がいけない!?」
「私の存在を否定しないで!」
「マユは聖女だ!否定なんてするわけないだろう!」
――聖女――
「殿下!聖女ではなく、マユ自身の――」
「うわぁああああああああ!!!!!!!」
会話の通じなさに、リスタが答えを教えようとしたが、きっと無意味だ。
見えないものに教えたところで理解しない。できない。
見ようとしないのだから。
感情が爆発する。
周囲が光り輝くのが分かる。
私自身を中心として、上へ爆風が吹き上げる。
分かっていても、理解はできない。
スローモーションのように周囲が見えるだけ。ただそれだけ。
壁に叩きつけられる王子とロイドやアスタも、見えているだけで。
スクリーンを通して見ているような、ここに存在していないかのような。
「――マユ!!!!」
「!」
竜王様の声により、自分が存在している自身の感覚が戻った。
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