第3話
「すとーかー、だっけ?」
「そう!ストーカー!異常な執着心!付きまとい!相手の迷惑を考えない押し付け!あやつはストーカー!」
そのまま言ったら不敬だと騒がれそうだが、この世界の人達はストーカーという言葉の意味を知らない。
マユの世界での言葉だから。
だからマユ曰く、殿下はストーカーという呼び名が定着している。
◇
「アリシア!ちょっと聞いて!ヤバイのよ!」
今日は、この世界の料理がイマイチ……と悲しそうな顔をしているマユのために、マユの話を聞いて料理人と試行錯誤して作ってみたハンバーガーなるものを持って、学校が終わった後に町外れの湖で会う約束をしていた。
マユは殿下をまいて、学院の壁を飛び越えてでも来る!と言っていたが、何かとても焦っている様子だ。
「どうしたの?マユ」
急ぎ足で歩み寄ってきたマユが、私に何かを握らせる。
「どうやら殿下が私と結婚したいみたいで、影で何か動いてる。アリシアが邪魔だとか、追放するとか」
「うわぁ、嬉しい!悪役令嬢、婚約破棄で追放!」
「嬉しくないわ!私はアリシアと離れたくない!」
必死な様子でマユは叫ぶ。
「というか、民意もあるから私との結婚だったはずだけど……まぁ相手が聖女だったら民意も大丈夫だしねー」
「私は嫌よ。ストーカーと結婚なんて。私が逆断罪?極刑レベルじゃない」
「それにしても行動がアホすぎて私には読めないわ。何を起こすのか」
「ストーカーの行動が読めたら、アリシアもストーカーの素質あるわよ」
やれやれと言ったマユを横目に、草原の上にひいてあるシートの上にハンバーガーと紅茶を用意した。
調味料から色々調べてみたり、肉を細かくしたり、色々試行錯誤をしたものだ。
やったぁ!とマユが目を輝かせる。
「とりあえず気をつけててよね。アリシアに何かあったら、私が嫌よ。職権乱用って出来ないかしら」
後半、何か恐ろしい事を呟いていたマユだが、ハンバーガーを食べようとした瞬間……。
「マユ!危ない!!!」
叫び声と共に駆けてくる足音。
声の主を視界に入れた時には、マユの手からハンバーガーが叩き落とされていた。
「私のハンバーガー!!!!!!!」
マユの絶叫が聞こえる。
あぁ……頑張って作ったのに……。
そして叩き落とした本人は、マユの絶叫が聞こえていないかのようにこちらを睨みつけてきた。
「貴様!マユになに得体の知れないものを渡している!どうせ毒でも盛っているんだろう!」
「どうして私がそんなことをする必要がありますか」
「私がマユにばかり構っているから嫉妬でもしているんだろう!」
思考回路斜め上、ストーカー王子の登場だ。
私も嫌々婚約したという事を頭の片隅にも置いていないのだろう、どうしてそこまで自分が好かれていると思えるのか。
「行こう、マユ」
「ちょっと!離してよ!」
「照れてるのか?大丈夫だ、私はマユが好きだし、ちゃんと守るから」
ストーカーからまず守られたいわ。
とマユの心が言っていそうだな、と思う。
男の力には叶わず、そのままマユは連行されていった……。
ふと、マユに握らされた物に目を向ける。
紙切れが小さく折りたたまれていて、それを開くと、たどたどしい文字でこう書いてあった。
アリシア 問題 逃げる
私 行く
待つ 信じる
心が温かくなった。
問題が起こった時に、逃げろという事だろう。
そしてマユは追いかけてくるつもりなのかな?
待っていて、信じて、と言いたいのか。
聖女がマユで……ううん、マユと出会えたことに感謝した。
◇
ガタガタと揺れる馬車のおかげで、お尻は痛いし、両手は後ろ手にロープで縛られている。
気分も機嫌も体調も最悪。
追放宣言をされた後、顔を真っ青にした国王様と、冷ややかな目をした王妃様が会場に乱入してきた。
国王様が殿下を連れ出せと兵士に命令したり、殿下は殿下で私を拘束しろと命令したりで、会場は大いに混乱の場となった。
王族の権威を考えるなら、こんな公の場で宣言したものを覆すことは出来ないので私の国外追放は決定事項なんだけどと思いつつ、あまりの混乱具合に話が進まなさそうなので、とりあえず会場から出ようとした所で騎士団長の息子であるロイド・カリルニアに捕まった。
「逃げようとしても無駄だ」
あらかじめ殿下に命令されていたようで、混乱の中、数人の騎士と共に私を拘束し馬車へ押し込んで今に至る。
しかし痛い。
質素な馬車な上に、これでもかという程、速度を上げているお陰で、馬車の床に転がされているだけの私はあっちこっちに転げ回っている状態だ。
夜に始まったパーティ。
馬車の窓から朝の光が見え、そしてまた周囲が暗くなっていっている……。
床に転がっているおかげで、窓から空以外の景色を見る事もできないから今どこに居るのか分からない……というかお腹すいた。
休憩もなければ食事もないのだが……。
パーティの為、朝から水を少ししか飲んでいない。ほぼ丸二日何も口にしていないのだ。
「あんの三馬鹿トリオ金魚のフンめ……」
この言葉もマユが言っていた言葉だ。
殿下に付き従い、どこへ行くにも一緒で、同じくマユにまとわりついていた三人。
騎士団長の息子、宰相の息子、神官の息子の事を指して言っていた。
マユはどうしてるかな……。
王妃様はどうするのかな……。
お父様やお母様は計画通りにしているのだろうか。
そんなことを考えていると、馬車がいきなり止まり、私は頭部を思いっきりぶつけた。
……許すまじ汚物め。
「カリルニア様!これ以上先は危険です!」
「そうだな、ここら辺にするか。」
何やら物騒な会話な気がすると思いつつ、痛みと涙に耐える。
窓から光が見えることもなく、すでに夜なのだろう。
「アリシア・レイドワーク」
そう言いながらロイド・カリルニアが馬車のドアを開け、蔑んだ瞳で私を見る。
「ここは魔獣が闊歩する『迷いの森』だ。生きていてマユに復讐する可能性もあり危険だからと、殿下の命令だ。平和のためにとっとと死ね」
そう言い放って、ドアを閉めるロイド。
え。
えー!?
そこでドア閉める!?
後ろ手で縛ったまま、馬車ごと放置!?
しかも……なんか焦げ臭い……。
パチパチという音と少しの煙が見える。
馬車に火を放っていったな……。
馬が駆けていく音が遠くなっていく。
いや、さすがにこれは予測してなかった事態すぎて、ため息すら出ない。
パーティ会場からそのまま連れ出された為、武器と言えるのは太ももに隠し持っている小さいナイフのみ。
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