第19話
「マユ!?マユはどこだ!」
ストーカー以上の執念を感じる。
一度逃げているからかもしれないけれど、常に引っ付こうとしてきてキモい。
王都についたのが夜だったけど、お風呂やトイレで離れようとする時の苦労といったら、もう言い表せられない程だ。
あまつさえ寝る時まで一緒にとか言い出したので、昏睡させて逃げ出した。
そして朝食が終わっての自由時間と私が思ったから、周りから存在を認識されないようにして逃げているのだけど……。
(……うざい)
この一言に尽きると思った。
とりあえず騒がしいのだ。周囲に命令したり家探しかと言う程に駆け回ったり。
いくら認識を阻害していても、ぶつかったりしたら気がつかれそうだなと、精霊ネットワークを使用しながら内部を探っていく。
王都の民は、ほぼ残っておらず、現状残っているのは王太子殿下の元についていた貴族の恩恵を受けていたような商人やその関係者という感じだ。
王太子殿下についていたというのは、ほんのわずかで、ほとんどはレイドワーク辺境伯についていたようだ。
それこそ民意がレイドワークにあったように、その評判に嫉妬したようなものだろう。
そしてレイドワークが失墜すると信じた貴族達と金魚のフンが残ってる。
(だっさぁ~)
向こうの世界で普段使っているが綺麗な言葉ではないものを、心の中で呟いていく。
アリシアと話している時は、伝わらないのが悲しいし、汚い言葉をわざわざ説明するのもなって思って、真新しい言葉だけを選んで教えてはいたけれど。
スタスタスタ……。
迷わず進んで行く先にあった、大きな扉。
扉の両脇には騎士がいるが、少し態度がだらけているのは、長年努めあげているような近衛騎士ではないのだろう。
ここに残る騎士も、金魚のフン騎士しか居ないのだから、腕の長けたものは残っていないだろう。
騎士を眠らせ、ノックをする事もなく気がつかれませんようにと祈りつつ、そっと扉を開けて中に進む――。
さすがに通り抜ける等という行動は出来ないらしいので仕方ない。
祈りが届いたのか、中に居る人物は私に気がつかなかったようで、こちらを見る事も、声をかけてくる事もない。
ただただベッドの中で震えているようだ――。
「他力本願のクソじじぃが」
「なっ!?だ……誰だ!」
つい口に出してしまったらしい。
国王がベッドから顔を出して辺りを見渡すが、それでも私を認識出来ないらしく、忙しく視線を彷徨わせている。
「底辺の蛆虫」
「そ……その声は聖女か!?戻ってきてくれたのか!?」
「私は聖女なんてしませーん。マユという一人の人間でーす」
自分で言っておいて、人間……なのかな?なんて思ったりもした。
元々いた世界に精霊なんて居ないし、こんな不思議な現象を作り出す事も出来ない。
まぁそれはこの世界の人間も同じだから、人間の部類では私だけが異常になってしまう。
まぁいいや。こんなの驚異でも何でもない。
放っておいても問題はないと判断し、そのまま部屋を出る。
「ま……待ってください!聖女様ぁあああ!!!」
という絶叫を聞き流しながら。
王城の中を回ってみても、特にこれといった収穫はなかった。
私が居た頃よりは荒れ果てている。
そんな感想しかない。
妖精によって騒音を極力小さくしてもらっているが、目の端にチョコマカ映るモノは、現状を理解しているのだろうかと思う。
相変わらず私の名前を叫んで探しているが、こんな状態ではいくら聖女という役職を持つ者が居たとしても安寧などとは程遠い。
「安寧……あくまで作物の実りなどの安定を指すのであって、政とは別物と考えるよね」
「その通りですね」
ポツリと言った言葉に対し、返事があった事に驚き、声の主を見る。
リスタ・ガールド。三馬鹿の内一人。
つい声を出した事により、存在を知られてしまったのか……。
跳ね上がる心臓の音に生きているという実感を感じ、それを楽しく思う自分に少し苦笑して落ち着きを取り戻す。
「人が集まり主君をたて、国となる。統率の為の決まりごとをつくり、それが政治となる。」
独り言のように、小さな声で呟いていくリスタ。
「人による政治がどうしようもない土壌や自然に関する事は聖女の加護により守られるが、あくまで人の手による統率に関しては人の手で行うもの」
真っ直ぐマユを見つめてくる。
「聖女様、貴方は何もしなくて良いのですよ?」
皮肉げに笑って言う。
憎悪とも嫉妬とも悲しみとも何とも言えぬ色味を瞳に隠して。
「政が崩れ、崩壊する国に置いて、聖女の意味を成す事がないから?」
「国の成り立ちのように、住みやすい土地へ人は移り住む。しかし此処は今逆を辿っている」
人がいなければ、住みやすい土地作りなんて必要もない。
過疎となっている国ならば尚更の事。
土壌が良く作物が育ったとしても、自給自足だけで成り立つ問題でもないのならば、税や売買の問題も出てくるのだ。
国と聖女……向こうの世界ではゲームや漫画等の娯楽では簡単に描かれていたものでも、実際こう立ってみると違った視点も見えてくる。
リスタの考えをもう少し知りたいな……なんて思っていたら、向こうから馬鹿王子が歩いてくるのが見えた。
「リスタ!マユを見なかったか?」
「隣におりますよ?殿下には見えていないのですか?」
「!」
そうやって教えられてしまっては、私の認識阻害は効力をなくしてしまう。
「マユ!ここにいたのか!心配したぞ!」
……許されるならば燃やしたい――。
ふと、ディルが竜王であるレイを問答無用で燃やしている場面を思い出し、強烈に懐かしく思った。
……なんで私ここにいるんだろう。
馬鹿に抱き抱えられて応接室に連れられている状態の中。自分で決めた事とは言え、嫌いな相手にこう引っ付かれるのは苦痛でしかないと、後悔すら抱き始めていた。
人間、忘れる生き物で、心地いいところから苦痛な状態にも戻ると、苦痛の度合いが倍増するんだなとも学んだマユだった。
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