第30話 番外

「ラルド~……」


 執務室の扉からヒョコと、兎耳が除く。

 顔を見なくても分かる愛しい人。


「どうしました?リタ」

「なんか……良いのかな私で……この生活、慣れないし……」


 サイズの大きな服を来て、たどたどしく近づいてくる。

 リタは元々平民で花売りをしていたのだ。

 いきなりの王宮生活は堅苦しいだろうし緊張もしているだろう……が。


「っあぁああああああ可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」

「ぴぎゃぁあああああ!!!???」


 そんなリタも可愛くて仕方ない。

 つい思いっきり頬ずりした私は悪くない筈だ。


 国を飛び出して、がむしゃらに生き抜いてる所に、花を売っていたリタに出会った。

 リタの笑顔は癒しだった。

 自分と年齢が変わらないのかな?と思っていたが、年月がどれだけ過ぎても、リタはリタのままだった。

 身分差に怯える平民だったが、私が竜王様の側近になったとしても、会うことを遠慮されてはいたが、怯えることなく私をそのまま受け止めてくれていた。

 ただ……付き合ってくれと言った時は、恐れ多いと気絶し、一週間は兎の姿のまま元に戻れない程に震えていたのを考えると、今は兎耳が出ているくらいだから頑張って気を保ってくれているのだろう。


「あ~……愛しい……」

「ラルド様が……デレてる……」

「ぴっ!」


 リタを抱きしめて感慨深く耽っていると、マユ様の声が聞こえ驚いたリタは兎姿に変わってしまった。

 白い毛に覆われている筈だが、毛が短いところなどから見える肌は少し赤っぽくなっている気がする……。

 入口に立っていたのは呆気に取られているマユ様とアリシア様だが、リタが兎姿なのを確認すると目を輝かせ始めた。


「か……可愛い!触っても宜しいかしら?」

「!」

「駄目です。凶暴が伝染します」

「私も!」

「凶悪が伝染します」

「「どういう意味?」」


 一応、貴族令嬢であるアリシア様と聖女であるマユ様に対し、緊張で震えて未だ喋ることさえ出来ないリタが、触られるなんてことになったら気絶するのは間違いない。

 そう思い断ったのだが、何か怒っている様子だ。


「?どうかしましたが?」

「その悪気のなさ……」

「こっちが毒気抜かれるわ……」


 今度は呆れ返られました。リタはその隙にと言わんばかりに、机の下に出来ている隙間に潜り込んでしまった。

 マユ様とアリシア様は目を合わせ、マユ様が床に見たこともない花を咲かせている鉢を置いた。


「リタさんは花が好きだと聞いて、花の精霊に珍しい花を貰ったんです。お友達になりたい下心からプレゼントします」


 マユ様、それ真正面から率直に言い過ぎではないですか?まぁリタと仲良くしたいのは理解します。


「生活に慣れたら一緒にお茶でも飲みましょう!マユの世界風にアレンジした飲み物や食べ物を用意します!」


 それ他の獣人だけでなく人間にも聞かれたら、こぞって参加したくなる案件だと思うので、あまり大声で言わない方が良いと思いますよ、と心の中でだけ思っておく。

 リタに被害がないのであれば別に構わない。


「あ……あぁ……ありがと……う……ございます……」


 震える声でお礼の言葉を紡いだリタに、嬉しそうに微笑んだ二人は、きゃ~声可愛い~と言いながら部屋から出て行った。


「リタ、頑張りましたね」


 机の下を覗くと、涙に濡れた目をしたリタが居た。


「嬉しい……仲良く……なりたい……」

「大丈夫ですよ」




 ◇




 後日、挨拶だけでも頑張ろうと声をかけたリタに対し、理性のタガが外れた二人が可愛いコールをお見舞いし、リタが気絶した事によって、一ヶ月アズール国入国禁止になったほどラルドの怒りをかったのだった――……。


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【完結】聖女と共に暴れます かずき りり @kuruhari

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