ダンジョンアイドル編
1
お待たせしました。三章です。ここまで読んでくれてありがとうございます。
期待してくれる方はブックマークと☆☆☆を押していただけると幸いです。
応援もとても嬉しいです。感想をくれるとこそばゆさで悶絶します。
━━━━━━━
「ふぁああ」
俺は朝の登校に勤しんでいた。陽気な太陽、そこら辺の犬、通勤中のサラリーマン、散歩中のおじいちゃん、そして、俺を怖がる女たち。うん、日常だ。命がけの冒険をした後なので、遠い昔のように感じてしまった。
俺はスマホを開く。
『今日のダン配はなし。理由は雑用が鈍感変態クズ野郎だから』
『賛成』
『俺に分かるように説明して』
・・・既読無視。
まぁいいか。今日は授業を受けよう。一週間で二日も俺が授業を一緒に受けたら、隣の女子が怖がってしまうだろうが、自然災害だと思って我慢してほしい。言ってて悲しくなる・・・
●
「うそでしょ・・・」
「なんでよぉ・・・」
「ちっ、なんで今日もいるんだよ」
黒板から見て一番右端の窓側で外を眺める。時折、クラスメイト達が先生に隠れて手紙を渡し合っている。俺の視力なら何を書いてあるかわかるし、対角線の向こう側にいる君たちが俺のことをしゃべってるのも聞こえるんだよ?ごめんね?
まぁ大方予想通りの反応で逆に安心した。突然女の子にモテ始めたりしたら怖すぎる。女の先生は視界の右半分に映る俺を入れないことによって、自分の安全を図っているようだ。あからさまに身体が真横になっていたら誰でも気が付く。
ちなみに今の授業は現代文だ。苦手とか点数が安定しないとか地頭で決まるとか色々賛否両論ある科目だが、俺は好きだ。綺麗な論説文や小説には一本の筋が見える。それは法則とか論理とか言われるけど、俺はそういう筆者のちりばめた意図を読むのが得意だ。
打算的なことを言うと鈍感であると人の好意に気が付かない可能性が高い。モテるためには女の好意のサインを見逃してしまわないように気を付けないといけない。そういう意味では国語、特に現代文は最高の科目だと思っている。
キーンコーンカーンコーン
変なことを考えていたら一限目が終わってしまった。『陰翳礼讃』は好きな話の一つだ。名前もカッコいいし。先生の考察をしっかり聞いておきたかったのだが、授業が終わるとすぐに教室から出て行ってしまった。質問くらいは受け付けてくれる人がいると嬉しいんだけどなぁ。
「まぁこんなもんだよなぁ・・・」
結局この後も同じだった。音楽の授業では俺はソロでバスパートを歌わされ、日本史の授業では知識自慢のズラ教師が態度が悪い(いちゃもん)俺にパワハラ問題を出しまくってきたりといつも通りの日常だ。隣の席の子には申し訳がなかったが、六時間しっかり授業を受けてしまった。
ダン配で【漆黒の堕天騎士】として有名になったらいくらか周りが変わらないかと期待したが、日常にはまったくもって無意味だったそうだ。それならいっそ顔バレしてもいいのではないかと思った。今度綾たちに聞いてみるか。
「あっ」
「ん?」
深紅の髪が廊下からちょこちょこと出てきたり、隠れたりしている。いや、もうモロバレだからな?目が合うと観念して教室の前で一回コホンと空咳をする。そして、満を持して俺の教室に入ってきた。
「【女王四重奏】の紅音さんだ」
「ヤバ、綺麗すぎる・・・」
「なんでうちのクラスに?」
我がクラスメイト達はダン配のコメント欄に成り下がっていた。用があるのは俺だろう。真っすぐに向かって来られたら、流石に分かる。クラスメイト達の注目が俺たちに集まる。
「どうしたん?」
「別にあんたに用事があってきたわけじゃないわよ!」
俺の方に真っすぐに向かってきて何を言ってんだこいつ・・・?すると、クラスメイトの一人が立ち上がる。
「俺だろ?式宮さん」
確か、彼は綾にこっぴどくフラれた男だったはずだ。俺の方を見下したような表情で見てくるこいつの名前は千堂だった気がする。後はこのクラスの中心だったか?まぁどうでもいい。綾から紅音に乗り換えたのかな?
「何が?」
「気持ち悪」
「あはは、恐山君は黙っていようか。ね?」
「あっ、はい」
猫の皮をかぶって千堂君の応対をする紅音に吐き気を覚えた俺は心の声が発露してしまった。笑顔の圧力で黙らせられる。すると、紅音に拍手喝采歌合が起こる。
「す、すごい!『名前をいっていはいけないあの人』を黙らせてる・・・!?」
「カッコいい!」
「そのままやっちゃえ!」
「女の敵が!そろそろお縄に付きなさい!」
紅音という強者が来て再びタガが外れた。まるで獣だな。ってか俺ってそんな風に陰で言われてたのか。確か、過去の名作で『ハリーポッター』という本があったはずだ。それの敵が同じように言われていたはずだ。
「用事があるんだろ?ここじゃないところに移動した方がいいか?」
「?あなたに用はないわよ?」
「え?」
なんでそんなにショックを受けてるんだよ千堂君は・・・
「あたしが用があるのはこいつ。ほら、さっさと帰り支度しなさいよ」
「さっきは俺に用事がないって言ってたじゃねぇか」
「うるさい!早くいくわよ!」
紅音が俺の鞄と俺の腕をとってずんずんと歩いていく。そんなに腕を取らないで。素晴らしい感触が右腕に集中する。すると、紅音は何を思ったか廊下に出かけたところで一回俺の方に振り返る。そして、
「ああ!もう!」
紅音は一瞬怒ったかと思うと、俺の服を綺麗にし始める。ワイシャツが若干ズボンから出ていて、ズボンの裾も左右非対称になっているのでそれらを正す。最後に俺のネクタイを思いっきり引っ張る。俺は一瞬喉が締まって、カエルみたいな声が出そうになるが根性で耐える。
紅音はすべての作業が終わると、俺の方を少し離れたところから、手を顎に当ててじろじろと観察する。そして、すべての作業が終わると、
「うん!これならいいわね!」
太陽のような表情で笑う。一瞬見惚れてしまった。デフォルトが怒り顔だから、笑顔になるとギャップが凄い。ただ自分が衆人観衆に囲まれていることに気が付くとみるみるうちに顔を赤く染めていった。
「ただ気になっただけだから!それ以外に理由なんてないんだから!変な深読みはやめてよね!」
「お、おう」
声がデカい。他のクラスのやつらもぞろぞろと来てしまう。しかし、紅音は周りに気が付かない。そして、
「で、でもちゃんとしてるあんたは、ほ~~~~んのちょっとだけカッコいいわよ・・・」
小声で言ったつもりだろうが、俺の耳には届いてしまった。とりあえず、
「ありがとう・・・ございます?」
「っ!?聞こえたの!?」
「バッチリと」
「~~~っもう!さっさと行くわよ!」
「あっおい!」
紅音は恥ずかしさを誤魔化すように俺の腕を引いたが、これじゃあ逆効果だぞ?これを言うと紅音は恥ずかしがってしまうのは目に見えているので俺は紅音の行く先を任せた。
「今の私たちってどう見られてるんだろう・・・」
「普通の同級生」
「っ!なんで聞こえてんのよ!」
「お前の声は綺麗に響くんだよ。小声でも普通に聞こえるっての・・・どうした?」
「綺麗って・・・」
「?お前の声は綺麗だろ。じゃなかったらあんなに小学生の頃からボコボコにされねぇよ」
どれだけ屈辱的な目に遭わされたか・・・
すると、紅音は一瞬だけあっち側を向く。そして、俺の方に向き直ってきて、
「そ、それじゃあこれからカラオケに行きましょう!またボコボコにしてASMRにしてあげるんだから!」
「えーえすえむあーる?よくわからんが小学生の頃からの雪辱は果たさせてもらうか!」
「それじゃあカラオケデー「何を勝手なことをしているのかしら?」」
紅音の頭の上に巨大な氷塊が落ちてくる。後ろを見ると、涼と綾がいた。廊下が一瞬だけ血だらけになるが、紅音はすぐに生き返る。
「何すんのよ!?」
「目的を忘れてデートにしゃれこもうとしてる馬鹿鳥に鉄槌を喰らわせただけよ」
「だからって、殺すことはないでしょうが!?私の命をなんだと思っているのよ!」
「お邪魔虫。もっともそれは隣のお子様蜥蜴にも言えるけどね」
「発情吸血鬼に言われたくないわね」
三人がエンカウントして一触即発のピンチ。俺は巻き込まれたくないから、話を軌道修正する
「で、なんの用だよ?」
「あら。身体は大丈夫かしら?」
ピキッと怒りマークが俺の頭に刻まれる。
「どの口が言ってるんだよ」
「ふふ、ごめんなさいね」
結局、ケルベロスなんて比じゃないくらいの一撃を四発も食らって俺は気絶した。裏ダンジョンに助けてに来てくれたのはいいが、最後のことはしっかり文句は言わせてもらいたい。
「今度お詫びをさせてもらうわ。何がいいかしら?」
「そういうことなら、しっかり詫びてもらうぞ?」
「ええ。私にできることならなんでもいいわよ?」
「なんでも・・・」
すると、俺の背中に黒い血の剣と炎の槍が刺さった。
「呆れた」
「そうね!斬り落としてあげるわよ!」
「変なことを考えてごめんなさい!」
「ふふ」
涼はずっと笑っている。大人の余裕だ。綾も紅音も涼を見習った方がいいと思う。
「コホン、まぁ僕も悪いことをしたと思っている。僕も詫びさせてもらうよ」
「あたしも」
「まぁもらえるものならもらっておくわ」
謝る気持ちがあるだけこいつらも成長したのだろう。
「私だけでいいのに・・・」
白い誰かさんがぷくっと頬を膨らませていた。
●
「それで、どこに向かってんだよ?」
綾たちは目的地も告げずに俺を連れまわしていた。ぶっちゃけ帰れるものなら帰りたい。
「生徒会室よ!」
「え?なんで?」
「招集。めんどいけど【女王四重奏】全員に対する命令だってさ」
「なら、蒼がいないのはどういうこっちゃ?」
「相性よ」
「?」
意味は分からないが蒼はお留守番らしい。そうこうしているうちに生徒会室の前に着く。一度も入ったことがないということ以上に、生徒会長自体が誰だか知らない。生徒会選挙はやっていないみたいだし、この高校独自のルールでもあるのかね。
「失礼します」
扉をガラッと開ける。俺は【女王四重奏】の後に続いて一応挨拶もしながら扉を閉める。すると、
「よく来たな。我が根城へ」
若干寒気のする言い回しだった。というかカサカサする。奥の方から声がするので振り返る。そこには、
「ふっ、歓迎するぞ女王共。そして、深淵を覗くものよ」
金髪ロリ漆黒ドレス眼帯にあの口調に不朽の名作『エヴァンゲリオン』のゲンドウポーズ。完全に
「用はなんですか?忙しいんですけど」
「ふっ、【白銀姫】は相変わらずだな」
ふっ、ってやるのをやめてくれ。死ぬ。俺の願いは叶わぬうちに会話が始まった。
「まずは深層の探索、ご苦労であったな」
「なぁ友子。そのテンションウザいからやめてくんない?」
「友子って言うなぁ!」
机をバンと叩いて、綾に抗議する。あっ、なんかこの人のキャラが分かっちゃったかもしれない。
「わしのことは宵闇か役職名で呼べと言ったじゃろうが!ってかお主ら年下じゃろうが!敬語を使え!」
うわぁ!まさかの合法ロリババア属性。素になってもまだ厨二属性持ちとかどれだけ層が厚いんだ。俺が恐れおののいていると、両隣に控えていたメイドのような人たちがどーどーと落ち着かせる。
「全く。こんなのと
「!?」
なぜ正体が!?少なくとも俺はカメラ上ではしっかりマスクをしている。声も少しだけイケボにしているから分かるはずがないのだが・・・
「ふっ、ようやく欲しい反応がきたわい」
優雅に紅茶を飲む。そして、
「わしは宵闇、と、友子。この学校の生徒会長兼理事長じゃ。よろしくじゃ」
「お、おう」
名前を言う時だけ恥ずかしそうにしていた。可愛い。俺は差し出された手に応えようとするが、自分の体質をふと思い出した。しかし、
「ふっ、お主の体質もわしには効かんよ」
「っ!どこまで」
「どこまで知っておるかって?お主のことなら
「っ」
本当に何から何まで知られている気分だった。もしかしたら俺の知らないことも。綾たちとはベクトルが違うがそれでも同種の匂いを感じた。
「健児の考えてる通りよ」
「紅音?」
「権能は北欧神話の主神オーディン。その右目は古今東西未来過去のすべてを知ると言われているわ。当然Sランクよ」
俺は再び生徒会長を見る。すると、くつくつと悪女の笑いを浮かべながら、俺の方を見ていた。そして、その眼帯に手をかける。
「ふっ、式宮紅音の言った通りよ。我の右目はありとあらゆる事象を観測する。くっくっくっ。どうだ【漆黒の堕天騎士】よ。驚きすぎて声もでんか?」
すべての事象を知る。それはつまりこの生徒会長が宝くじや投資をしたら百パーセント当たることを意味する。もし生徒会長がその力をいたずらに使えば、世界のすべてが手に入るだろう。それは人間にとって一種の災害ともいえるだろう。
確かに能力は凄いし、驚いているのも確かだ。だけど、俺の心にはそれよりももっと大きいものが支配している。
眼帯を取ると、オッドアイ・・・赤と青の瞳がコントラストになってより厨二になっていた。コンタクトじゃなくて地なのが救いようがない。
「むっ、すまぬな。眼帯を取ると、力が抑えられなくなっての」
「なっ」
右目が疼くすらやりやがった・・・右手で右目を押さえる格好もカッコいい。完璧すぎて尊敬するまである。すると、そのやりとりをなぜか知らないけどイライラしながら見ている綾が声をかけた。
「マジでなんの用なの?健児に唾を付けようとかだったら、その目を抉るけど?」
「怖いわ!もちろんちゃんと用はあるわい!」
コホン。ん?聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あのぉ、私は無視ですかぁ?」
「ん?」
客席の方を見ると、姫神がいた。全く気が付かなかった。
「僕はあえて無視してた」
「私も」
「あたしも」
「貴方たちはそうでしょうね!」
姫神はうがーっと唸る。昨日、あんなに脅されてよく噛みつけるな。俺は感心していた。すると、姫神は俺の方を見てきた。期待を感じるが、
「ごめん、俺は純粋に気が付かなかった」
「もっと酷いですぅ。辱められた責任を取ってくださぁい!」
「お、おう」
俺のところに来て、ポカポカと胸を叩く姿は流石にあざとい。というか可愛い。とりあえず頭を撫でておく。すると、
「離れろ、雌猫!」
「ひぃ!ごめんなさい!」
それでも姫神は俺から離れない。背後で俺のシャツを掴みながら、ひょこっと顔を出していた。ぶるぶるしている姿に庇護欲を掻き立てられる。
「コロス」
涼の瞳がサファイア一色。他の色が全く入っていない。
「ええ加減にせぇや!」
「っ!」
神々しい槍が宵闇会長から飛んできて、涼の行く手を阻む。あの合法ロリのどこにそんな膂力があるんだよというくらいの大きさだった。
「これじゃあいつまで経っても話が進まんわ!」
宵闇会長の声で修羅場の様相はかき消えた。そして、はぁと溜息をつく。俺たちはテキトーな席に座った。中央で宵闇会長と綾が向かい合い。俺、紅音、涼が右側に座り、左側で俺の正面に姫神がちょこんと座っていた。
「ふぅ、ようやく話が始められるわい。姫神麗美を連れてきたのは今回、お主らにする話に関係があるからじゃ」
「姫神が?」
「ああ、そうじゃ」
宵闇会長はメイドが出した紅茶を一杯飲む。そして、
「今回、学校のダンジョン内で【戦場の業火】と姫神麗美は恐山健児を罠にハメた。そこまではええの?」
「っ、はい・・・」
【女王四重奏】は姫神を一瞬睨む。姫神はというと苦々しい顔をしている。相当反省しているようだ。俺としては許したつもりだからもうどうでもいいんだけどなぁ。
「そののちに【戦場の業火】が全員亡くなったと・・・」
「確かに健児センパイを罠にハメたのは私です!【漆黒の堕天騎士】の情報と【女王四重奏】の弱点を吐かせようとしました!だけど、戦火先輩と鍛冶の行動は私の意思じゃないんです!そこだけは!」
「分かっておるわ!我の右目がすべてを教えてくれておる」
姫神の言葉にさらに強い言葉をぶつけて黙らせる。
「あのような行動をあやつらが取った理由、端的に言えば魅了の暴走じゃな」
「は?いやいやいや。私は修行をして魅了をコントロールできるようになったんですよぉ?そんなわけがないじゃないですかぁ」
姫神は生徒会長の言うことを否定していた。魅了は姫神にとっては忌々しい力であった。制御できていないと言われるのは心外だったのだろう。
「ふっ、それなら今回の事件の動機を思い返してみるがいい」
「動機・・・」
「【女王四重奏】に対する嫉妬じゃろう?その間に魅了が垂れ流しになっていたことに気が付いておったか?」
「え?」
「その様子じゃあ無意識じゃろう。お主の魅了を一身に受け続けた【戦場の業火】は既に理性を失いっていた。今回は鍛冶雄二が事件を起こしたが、
「そ、そんな」
「マジか・・・」
他の奴らまで鍛冶と同じようなことをしようと画策していたことに驚きが隠せない。つまり、どう転んでも危機的な状況は変わらなかったというわけだ。姫神としてはショックが大きいだろう。自分の感情のコントロールの弱さがこの事件を招いたのだ。すると、退屈そうに聞いていた綾が口を出す。
「そんな話はどうでもいい。結局何がしたいの?要件を早く言えっての」
「お主はもう少し他人に興味を持て・・・まぁいい。ここからが【女王四重奏】にも関係のある話じゃ」
ようやくかと【女王四重奏】も興味を持つ。
「端的に言うと、姫神麗美を【女王四重奏】のメンバーにいれて監視と魅了のコントロールの仕方を教えてやってほしいのじゃ」
「「「断る」」」
いくらなんでも早すぎるだろ・・・姫神が可哀そう。
「ほ~それならええがのう」
え?何?宵闇会長が俺の方を見ているんだが・・・
「それじゃ【漆黒の堕天騎士】と姫神麗美を組ませるかのぉ」
「「え?」」
「「「は?」」」
この場の大半は変な声が出た。
「友子・・・それはどういう意味だ?」
「簡単なことじゃよ。お主らは恐山健児を雑用扱いしているが、パーティとして組んでいるわけではなかろう?」
「それが何か関係あるの?」
「なぁに、それなら姫神麗美を恐山健児と組ませた方がいいに決まっているじゃろ?そもそもお主らが今、災害をコントロールできるようになったのはそやつのおかげじゃろ?」
「「「っ」」」
「?」
俺は意味が分からんと首を掲げるだけだった。詳細を聞こうと思ったが、宵闇会長が姫神の方に向き直っていた。
「どうじゃ姫神麗美?」
聞くまでもない。姫神が男と組むなんてことはないのだ。そもそも俺と組むメリットすらないんだからな。
「やります(キリッ!」
「え?」
「私は今回多大な迷惑をおかけしました。だから、心を入れ替えるためにダン配も消しました」
「なっ!お前、あれだけ拘っていたのにいいのかよ!?」
「そうでもしなきゃ反省の色を見せることができません」
「姫神・・・」
なんてやつだ。あれだけ一位に拘って事件まで起こしたやつが心を入れ替えて、自分のステータスを消すなんて・・・俺は姫神の覚悟に心を打たれてしまった。そして、姫神は言葉を続ける。
「魅了も効かないから、安心して一緒にいれます。それに初めての同類で、お友達ですし・・・」
「姫神・・・」
正直、騙された身からすると、裏があるんじゃないかと疑ってしまう。だけど、その覚悟は示してもらったしなぁ。さっきから俺に向けられる視線はマジとしか思えない。それに友達かぁ・・・なんとも甘美な響きだ。
「それなら「分かったよ」え?」
綾が俺の会話に入ってくる
「そこの女狐を入れればいいんだろ?」
「おい。どういう風の吹き回しだ?」
こいつらは姫神のことを嫌っているはず。
「健児がいなかったら、カメラマンがいなくなるだろ?そのメリット、デメリットを天秤にかけたら、面倒だけど姫神をいれることに賛成だってこと」
「癪だけどねぇ」
「まぁ仕方ないわ。三人が四人に増えてもやることは変わらないし」
「?そうか」
まぁいいや。友達ができたことは嬉しいしな。すると、綾たちがこっちを見てきた。
「なぁ健児、お前にとって僕ってどんな存在・・・?」
「は?」
頬を赤く染めて俺に聞いてきた。
「あたしも気になるかも・・・」
「そうね、わたしも」
熱を持った視線でこっちを見られている。なんだこの空気・・・とりあえず思ったことを伝えておこう。
「クソガキ、宿敵、仇敵、ライバル、女王、腐れ縁、幼馴染ってところじゃねぇのか?」
「「「・・・」」」
頭に思い浮かんだことをそのまま言う。
「女としては見ておらんのか?」
「「「!」」」
「?」
「その顔で分かったわい・・・」
え?なんでそんな憎々し気に見られてるんだ俺は。姫神は反対側を見て、ぶつぶつ言っているようだし、なんなんだろうなこれ。
「コホン、それじゃあ姫神麗美を頼むぞ?」
「ああ。ただついてこれなくなったら、捨ててもいいだろ?僕たちのパーティはそういうもんだし」
「そこはなるべく努力せい・・・と言いたいところだが、まぁ仕方がないわな」
「よ、よろしくお願いします!」
姫神が三人に挨拶するが、普通に無視。お前ら・・・
「まぁ頑張ろうぜ」
「はい!
「?おう」
「「「・・・」」」
メンタル強いなぁ。
「で、それが要件?ならもう帰ってもいいかしら?」
「後一個だけある・・・その前に言っておかねばならぬ」
「え?俺?」
「うむ、ムニン、フギン」
「「かしこまりました」」
メイドたちが何か資料を持ってくる。なんだ?何か悪いことでもしたか?
「お主、授業は全然出席しておらんじゃろ?」
「まぁそうですね。体質的にも教室で邪魔扱いされるし」
「難儀じゃのぉ・・・」
そう言って綾たちの方を見るが、あいつらは瞑目しているだけだ。
「それがなんなんですか?ダン配もやってるし、問題ないでしょう?」
「問題大ありじゃ。主のダン配が全く提出されておらんのじゃよ」
「え?」
俺は綾たちを見る。すると、目を見開いて顔をぶんぶん振っている。ちゃんと出席はとっているようだ。
「お主・・・一度もダン配で顔を出しておらんことを忘れておらんか・・・?」
「あっ」
「それと主はパーティ申請を出しておらんじゃろうが」
「あっ」
「それに【漆黒の堕天騎士】なんていう冒険者は存在しておらん。正式名は【ヘルシー】じゃろ?訂正したとしても万年Dランクの恐山健児があんな動きをするとは思われんじゃろうし・・・」
「あっ」
「お、お前らぁ!?」
手続き云々の話がすっかり抜け落ちていた俺も悪いが、綾たちが普通にやっておいてくれてるものだと思っていた。しかし、綾たちは今思い出したみたいな顔をしていた。
「まぁ端的に言うと留年じゃのう」
「ふざけんな!ってか二週間程度の無断欠席でなんで留年になるんだよ!?」
「それだけ生徒と教師に嫌われているからじゃ。お主を受け持ちたくない教師と生徒たちが一丸となって主とのかかわりをなくそうと躍起になっておるわい」
「民主主義なんてクソ喰らえ!」
でも、ルール的に間違いではない。二週間以上休んだり、赤点を取り続けると留年するとは規則に書いてある。それでも留年する生徒がいないのは補習を行ったり、先生からの温情の部分が大きい。今回、そのような温情は全くない。
「まぁ恐山健児が留年しても、【女王四重奏】にはなんの支障はないじゃろう。むしろ上下関係が明確になって良いのではないか?」
「恐ろしいことを言うな!」
カカカと他人事みたいにいう宵闇会長に俺はもう敬意を抱かない。
「まぁおふざけはこれくらいにしての」
「俺の進退をおふざけで済ますな」
「主の進級を助けてやってもいい」
『やってもいい』か。これは何か条件があると考えるのが良いだろう。
「どうせそれが本題なんだろ?」
「まぁそうじゃの。正確には【女王四重奏】がこれをクリアしたら、特別に恐山健児を助けてやっても良い。我なら権力を使いたい放題じゃからの」
「健児を人質に私たちを動かそうってことね・・・」
「気に食わなかったら受けなければいいんだし、一応聞いてあげるわ!」
「絶対に受けろよ!?じゃないと俺が留年する!」
俺の魂の訴えは無視される。そして、
「【女王四重奏】に我が神成高校のPRをやってもらいたい」
「「「断る」」」
「一応理由は聞いておこうかの?」
「「「めんどい」」」
「ふざけんな!?」
あまりの理由に俺は咆哮を上げる。
「そもそも論、健児が留年しても僕たちに影響はないしなぁ」
「私たちがこれから健児を手放すなんてことはありえないわね」
「留年しようがしまいがあたしたちのモノという事実に変わりないわ!」
「酷い・・・」
いつまでも奴隷宣言をされてしまった・・・俺は机に手を叩く。すると、姫神が俺の肩を叩く。
「どうした・・・?」
「留年してくれたら、健児センパイが同期になるですよね?そうなったら、一緒に机を並べて授業を受けられるんだなぁと思いまして・・・」
「姫神・・・」
「健児君、なんちゃって、えへへ」
「可愛すぎかよ」
はっ!一瞬マジで留年してもいいんじゃねぇかと錯覚しちまったぞ。危ない危ない。
「「「・・・」」」
「ほれ?これでも影響ないと言えるのかの?」
「ん?」
綾たちがこっちを睨んでいた。
「はぁ、やるよ・・・」
「え?」
「留年は絶対にさせないわ」
「お、おう、ありがとう」
さっきまでの態度とは大違い。俺を助けるために全力を尽くしてくれるようだ。俺はちらっと宵闇会長をみるが、悪い顔をしていた。というかここまで宵闇会長の思い通りなのだろう。流石はオーディンの権能を持つだけある。
すべての要求を通してきたのだ。厨二の極致に至った人間として少しだけ敬意を取り戻してやろう。最後に宵闇会長が話を締めようとする。
「PRの方法は任せよう。変なものを出したら留年じゃからな?」
「分かってるよ」
「ふっ、ではここまで「見つけたのです!」ふえ?」
「あっ、蒼」
扉がバンと開かれた。
「健児!どこに行ってたですか!一緒に帰ろうと思って学校中を駆けずり回ったのです!」
「お、おう。今帰りだ」
「ん?あっ、友子なのです!」
友子っていったらキレるぞ?厨二の極致にいるような人間に可愛い名前は地獄だ。蒼は高速で宵闇会長に抱き着く。
「友子は抱き心地が良いのです!」
「ふざけんなぁ!てかなんでお主がくるのじゃ!ムニン、フギン!サボったのかぁ!?」
「いえ、完璧に匂いは消しました」
「私もです」
「じゃあ、なぜ京極蒼がここにいるのじゃあ!」
「勘なのです!」
「ふざけんなぁ!」
蒼が来てから宵闇会長があたふたしている。さっきまでの闇キャラは霧散して。犬を怖がる少女の図だった。
「どうしたんだ?あの二人?」
蒼は宵闇会長を気に入っているようだが、あっちは苦手っぽい。
「蒼はフェンリルでしょう?北欧神話においてオーディンはフェンリルに喰われて死んだから」
「なるほど・・・」
権能故の恐怖か。道理で蒼が呼ばれないと思った。最後まで強キャラでいて欲しかったが、宵闇会長は俺の中でいじれる友子ちゃんへと格落ちした。
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