2

生徒会室を後にした後、俺たちは一回家に帰って俺の家に集合ということになった。なんでも学校で打ち合わせをすると、注目されて集中できないらしい。有名人は大変だなぁ。それよりも、


「どうしたんですかぁ?」

「いや・・・距離おかしくね?」


俺は今、姫神と一緒に家に向かっている。それだけならまだいい。しかし、距離感がバグっている。もう肩と肩が触れあえそうだった。髪とか普通に当たってくすぐったい。


「Danpediaには友達の距離感はこれくらいが普通と書いてありましたよ?」

「そうなのか・・・」

「ええ、そうです」


俺も姫神も友達がいない歴が長すぎるので、文明の利器であるインターネットに頼るしかない。ただ、俺たちとすれ違う男たちからの羨望と嫉妬の視線がえぐすぎる。鍛冶たちみたいなテロリストが現れるのではないかと心配になるレベルだ。


ランドセルを背負った小学生、彼女持ちの大学生、窓際族のおっさん、売れないバンドマンっぽい人。どいつもこいつも姫神を見て、赤くなったと思えば俺を殺そうしている。姫神に魅了が垂れ流しになっているのではと聞こうとすると、


「いえ、これは素の私に見惚れて、普通に健児センパイに嫉妬しているだけですね。魅了は全く使っていません」

「そ、そうか」


単純に姫神に見惚れていただけか。なら安心だ・・・とはならないなぁ。普通に怖い。


「それにしても」

「ん?」


姫神が思いついたように、そして、手をいじいじしながらこっちを見てくる。


「男の人の家に行くなんて初体験です。ドキドキします」

「そういう言い方やめて」

「なんですかぁ?照れてますぅ?」

「照れてねぇよ。お前だって赤くなってるじゃねぇか」

「うっ、まぁ、そうですね」


赤くなりながら言われると困る。その後、俺たちの間で会話が消えた。気まずい・・・



「着いたぞ」

「ここが・・・」


結局家に着くまで一言も話さなかった。話題がなかったわけではなかったけれど、何を話しても変な雰囲気になりそうで口が開かなかった。そして、姫神は俺の家の玄関の前で魔王城に挑むかのような顔をしていた。俺はいつも通り家の鍵を開ける。


「ただいま~」

「おかえり~遅かった・・・あら?その子は?」

「後輩」

「ひ、姫神麗美といいます!健児センパイにはお世話になっております!」


なんという礼儀正しさ。営業社員もビックリな素早さだった。


「ご丁寧にどうも~私は健児の母の黒海です」

「よ、よろしくお願いします!お義母さま!」


文字が違ったような気がしたけど、まぁいいか。


「ふふ、あの子たちも来ているわよ?」

「お、マジか!」


ダンジョンで別れたっきりで心配だった。俺はさっさと階段を登っていき、扉をバンと開ける。


「お前ら!無事だったか!」

「にゃあ~」「ワン!」「ピィ!」「キュッ」


ドアを開けると同時に俺のベッドに寛いでいた召喚獣たちが俺の元に跳んできた。良かったぁ。すげぇ元気そうだ。


「悪かったなぁ。俺が弱かったばかりに・・・」

「ピィ!」

「キュッ!」

「気にするなって?アカもシロも優しいなぁ」


俺は丹念に撫でていく。くちばし、頭、喉、うさ耳・・・ああ~癒されるわぁ


「にゃぁ~」

「うっ、俺が美人局に騙されたことは忘れないって・・・クロの言う通りだったよ。もう美人には騙されない」

「ワン!」

「もっと身近の存在を大切にしろって・・・はい、全くその通りでございます」


四匹から様々なことを言われたが、その通りなので甘んじて受け入れた。そして、俺は正座になり、頭を下げた。


「お前らを蔑ろにして女に浮かれちまって本当にすまん。もう二度とこんなことがないようにするわ」

「キュッ」「ワン!」「にゃあ~」「ピィ」

「ありがとう・・・」


いい奴らで良かったよ。リンチにされる覚悟もしていたのだが、そういうことをしないで受け入れてくれたのだ。


「私からもいいですか?」

「あっ」


俺を騙して、召喚獣たちを監禁した張本人を忘れていた。空気が変わったのはわかる。召喚獣たちかからは俺の時とは違って叩き潰してやろうという気持ちが伝わってくる。動いたのは姫神だった。


「ほんっっっとうにすいませんでしたぁ!」


姫神が俺の部屋の床を貫通させる勢いで土下座をした。


「許されざることをしたのは分かっています。貴方たちも貴方たちのご主人も傷つけてしまったのも事実です。言い訳のしようがありません。どうぞ、煮るなり焼くなり好きにしてください!」


姫神は天にまで届く声で土下座をした。ここまでやったら流石に誠意は伝わるだろう。俺も一緒に許しを乞うてやろうと思って、弁護を考えていた。けれど、


「にゃ!」

「グフッ!」

「え?」


クロが姫神の頭に本気のかかと落としを喰らわせる。あまりの容赦のなさに俺は声が出なかった。


「ピィ!」

「痛い!」

「キュッ」

「グフッ!」

「ワン!」

「痛い痛い痛い!」


アカが姫神の尻に突っつきをして、シロが姫神の背中に氷のパンチを、そして、最後にアオが腕に噛みついた。俺の時とは違う圧倒的な暴力だった。姫神から離れると、


「にゃあ」

「ぴぃ」

「わん」

「きゅ」


穏やかな雰囲気になる。そして、姫神を痛めつけた箇所を軽く舐めて、召喚獣たちは俺の元に戻ってきた。


「許してくれた・・・そう・・・です」

「おう、大丈夫か?」

「は、はい、なんとか」


召喚獣たちはなんでもない風に装っているが、今のはケジメなのだろう。誠意を持った相手を許せないほどうちの召喚獣たちは心が狭くない。


「ありがとな」


俺は一匹一匹丁寧に愛撫を行った。


「にゃ」

「ん?もう帰るのか?」


四匹ともそれが終わると部屋の窓に向かった。帰るようだ。まだ再会してから十分も経っていない。


「わん!」「きゅっ」「ピィ」


それじゃあと言って帰ってしまった。まるで姫神に用があったかのような態度だった。あいつらにこいつらが来ると伝えたっけ?まぁいいや。


「とりあえず、これで過去の因縁はチャラだな」

「はい、そうですね・・・」


普通に痛がっているので、俺が≪輪炎転生≫で回復させてやろうと思ったが、ケジメだと言って傷を自然治癒で治すらしい。人は口よりも行動にすべて現れるというけど姫神はこの辺りちゃんとしている。ただの美人じゃないのは良く分かった。


「「・・・」」


けど、お互いに話すことがない。俺はコミュ障だから話題を振ってもらわないと何もできない。話題らしきものは思いつくんだけど、会話の続け方が分からん。基本的に俺は受け身だしなぁ。


「名前・・・」

「ん?」


姫神が何かを呟いた。


「私のことも名前で呼んでほしいです」


耳を赤くしながら言ってきた。なんでかと聞く前に姫神の方から言ってきた。


「【女王四重奏】に合流するのに私だけ苗字は悲しいです。それに、せっかくの、同類なのに距離を感じてしまうのはちょっと・・・」

「なるほどな・・・」


意外と疎外感を感じていたわけか。姫神は俺のことを名前で呼んでいるしな。それに友達なのに苗字呼びはおかしいか。


「麗美・・・これでいいか?」

「!はっ、はい!ありがとうございます!」


めっちゃ可愛い。姫神は素の方がいいな。生意気なのも含めてその方が魅力的だ。


「私が素を見せるのは健児センパイだけですよぉ?」

「それって「ちょっと目を離した隙に何をやってんの?」うお!」


突然、俺のベッドに現れた四人。すげぇ恥ずかしい。


「貴方たちって暇さえあればイチャイチャするのね・・・」

「ヒぃ!ごめんなさい!」


涼の声に姫神・・・じゃなくて、麗美がビビる。


「麗美をイジメるなっての。お前らにとっても後輩になるんだぞ?」

「麗美・・・?」

「名前呼び、なのです・・・」

「おう。友達だからな」

「健児センパイ・・・」


ドヤ顔をする。ようやくできた友人だ。自慢したくなるものだ。


「ってか突然俺の部屋に入るのをやめろ。心臓に悪い」

「はいはい」


軽く流される。【女王四重奏】の恰好は制服ではなく私服だ。一回家に帰った時に、着替えたんだろう。


「友子の言っていたPRの方法だけど、何か考えある?」


シーンと沈黙が支配する。綾が司会を務めるらしい。相変わらずのしきりたがりだ。


「学外へのPR。つまり、来年の高校受験生に向けたものってことよね?」

「なんのためにそんなのするのですか??」

「金。後は優秀な人材を確保、もっと言うとSランクにたくさん入学してもらうためでしょうね」


いまいちSランク冒険者の価値が分からん。身近にSランクしかいないから、価値としてはインフレしてる感はある。


「ここで理解できていない馬鹿健児のために説明すると、Sランクっていうのは人口の中で百万人に一人しか発現しない力なんだよ。しかも、一人いれば一騎当千。もちろん災害を引き起こすっていうデメリットもあるけど、それを加味してもメリットの方が大きいんだよ」

「なるほどなぁ・・・」

「そんな百万分の一の美少女と一緒の部屋に入れるって凄いことだと思わない?」

「宝くじが当たるよりも確率が低いのはよくわかったよ」


五人もいたら百万分の一の五乗だ。そもそもこいつらの顔面偏差値は高すぎる。それを加味したらもっと確率が低くなるだろう。まず隣の後輩が偏差値のトップでこいつらも次点にくるレベルだ。なるほど、性格が良ければ恵まれていると思えるすばらしい環境だな。


「ふん!」

「あぶね!」

「ちっ、外した」


紅音が頭突きを背後からしてきたが、気配を感じてなんとか躱した。俺がにらみつけるが、口笛を吹いてどこ吹く風といった表情だ。


「まぁ、Sランクが入るかどうかは運だ。そこは正直どうしようもない。余計なことを考えずに受験者を増やす方向で考えよう」

「だな。去年は何をやったんだろうな」

「去年は普通に学校説明会だけでしたよ?」

「え?そうなの?」

「はい。なので、【女王四重奏】にこのような話があることに驚いています」

「なるほどな」


友子ちゃんが発端でこんな案を考えたんだろう。なんとなくだけど、俺の留年で脅せば【女王四重奏】を動かせると考えたんだろうなぁ。それだけでもたくさん受験生が来てくれそうだし。


「とりあえずアイデアを出そう。じゃないと始まらん」

「なら劇とかどうかしら?」

「歌は?あたしは得意よ?」

「身体を動かしたいのです!」

「RPG系のゲーム」

「ちょっと待て。いっぺんに言うな」


俺は机にかじりついて今言われたことをノートに書いていく。


「でも、これじゃあPRにならなくない?」


紅音が後ろから言ってくるがそんなことは百も承知だよ。


「そんな実利的なことは一旦おいておけ。まずはそんな枠組みを破壊して、思いついたことをバンバン上げることが重要だ。アイデアっていうのはそういう無為で無価値なものを繋げて価値にすることで生まれるんだよ」

「な、なるほど」

「へぇ」

「流石ね」

「凄いのです!」

「そういう考え方もあるんですねぇ。勉強になります」

「だろ?」

「ドヤ顔がなければ完璧でした」


意外と賞賛の嵐。俺も調子に乗ってしまう。


「それじゃあガンガン上げてこい」

「「「「「おー」」」」」



三十分後


『劇』、『歌』、『運動』、『ゲーム』『配信』、『映画』、『ダン配』、『五位』、『漆黒』『スライム』、『恋愛』、『イジメ』、『饗宴』、『ドラゴン』、『幼馴染』、『吸血鬼』、『浮気』、『犬』、『憧れ』、『不死鳥』、『ヒーロー』、『先輩』、『超絶美人』、『I LOVE YOU』、『嫁』、『厨二』、『カッコいい』、『BL』、『腐』


「結構アイデアが出たな」


最初の方はPRという縛りがあったが後半はある種の緊張がほぐれたようだ。ただ、順番にしてみるとなぜか恐ろしい。


「これでどうすんの?」

「このワードを使って文を作っていく。例えば、『劇』と『歌』をくっつけるとオペラとか宝塚になるだろ?」

「なるほどねぇ。面白そうだわ」

「ここでも一回PRのことは置いておけ。本能の赴くままに書いてみろ」

「了解なのです!」


俺の中では決まっている。とりあえず書いてみた。刮目せよ!


「じゃあ俺から行くぞ」


『漆黒の饗宴』


「「「「「却下」」」」」

「なんでだよ!」

「次、紅音ね」

「無視すんな!?」

「はいはぁい」


すげぇカッコいいだろ!?一瞬で却下されるとはどういうこっちゃ・・・


「私は『不死鳥』、『恋愛』、『厨二』、『歌』で『劇』をやりたいわ。で、タ、タイトルはこれ」


『不死鳥は厨二の彼に愛を歌う』


「「「「「・・・」」」」」

「へぇ、厨二ってところはあれだけど、面白そうじゃん」

「だ、だよね!?」

「後はこれを学校のPRにどう使うかだな」

「あっ、うん」


紅音はさっきから俺に視線を送ってくる。妙に色っぽいが気にしたら負けだ。


「次、涼」

「分かったわ。私は『恋愛』、『ドラゴン』、『浮気』、『厨二』で、私も『劇』ね」

「なんでそんなに『厨二』を使いたがるの?」

「さぁなんででしょうね。


『厨二に浮気された可哀そうなドラゴンは今生では逃がさない』


でどうかしら?」


涼の挙げたタイトルに俺は、


「怖い怖い怖い」

「どうしたのかしら?」

「これじゃあ流石に生徒も来なくなるわ」

「むしろそれでいいわよ」

「仕事をしろ」


涼はそういって麗美の方を見て、


「入学する生徒がいなくなればライバルも減るのだけれど・・・」

「・・・」


私は聞かなかったことにしました。本当ですよ?


「流石にダークな方に行くと不味い。蒼、頼んだ」

「はいなのです!俺様が使うのは、『運動』、『配信』、『厨二』、『犬』なのです!』

「ねえねえ?『厨二』は必須ワードなの・・・?」


あからさまに俺を見ながら言われるから過去の封印がどんどん解けていくんだが。


「それじゃぁ発表するのです!


『厨二と愛犬の運動配信』


なんてどうですか?」

「普通の犬との散歩になっちまうんじゃねぇか?」

「大丈夫なのです!健児が召喚獣を連れていけば、召喚士としての面目も保てて、学校のPRにもなるのです!」

「なるほど!流石蒼だ!」


これは素直に賞賛だ。神成高校はダンジョンを攻略者を育てる学校だ。それならダンジョンを攻略するためのパートナーである召喚獣との日課はありかもしれん。


「アオに聞いたら、付き合ってくれそうだな」

「俺様はいつでもOKですよ?」

「え?」

「え?」


すると、ハリセンが涼から蒼に繰り出された。


「召喚獣の方のアオよ。じゃないわ」

「うっかりしていたのです・・・」


びっくりした名前が同じでお互いに犬だから、違和感が持てなかった。ってか蒼と散歩って、首輪とかをかけてか・・・?完全にそういうプレイになっちまうじゃねぇか。


「気色悪いです。京極センパイで何を考えているんですか・・・?」


ハイライトを失った姫神が俺を睨んでいた。綾たちも同様だった。


「き、切り替えていこう!」

「あう?」


当の蒼が気が付いていないことが救いだ。次


「綾」

「はいはい。面倒だけどしっかりやるよ。僕が使うのは『ゲーム』、『吸血鬼』、『幼馴染』、『厨二』かな」

「お約束のように『厨二』は入るのね・・・」


まぁいいけどさ。


「タイトルは『厨二の幼馴染は漆黒の吸血鬼を手に入れたい』ってとこかな」

「ほ~」

「・・・なんだよ」

「いや、吸血鬼って入ってるから綾自身のことを言っているのかと思ってな」

「っ!だったらなんだよ?」

「その幼馴染と仲良くやれよ?」

「マジで死ね!」

「≪神斬り≫はやめろ!」


部屋の中で≪神斬り≫をやられそうになるが、俺は落ち着かせる。


「ラスト、麗美」

「はいはぁい。私も皆さんと同じで『厨二』は入ってます」

「ここまで来て入ってなかったらどうしようかと思ってたわ」

「使うワードは『超絶美人』、『嫁』、『イジメ』です。タイトルは


『厨二が告った超絶美人は昔イジメから救った超絶地味子でした。最高の嫁を手に入れて人生ウハウハ』


ですかね?」

「へぇ~、超絶美人って麗美だろ?王子様が見つかるといいな」

「はい・・・」

「なんで元気をなくすの?」

「いえ、彼って絶対に鈍感だろうなぁって思いまして」

「そうか。見つけたら絶対に逃がすなよ?」

「はい!」


気合があるのはいいこっちゃ。さて、一回こいつらのタイトルをまとめてみよう。アイデア出しのためにやったのにラノベのタイトルみたいになっちまってる。


『漆黒の饗宴』

『不死鳥は厨二の彼に愛を歌う』

『厨二と愛犬の運動配信』

『厨二に浮気された可哀そうなドラゴンは今生では逃がさない』

『厨二の幼馴染は漆黒の吸血鬼を手に入れたい』

『厨二が告った超絶美人はイジメから救った超絶不細工でした。最高の嫁を手に入れて人生ウハウハ』


「どう?」

「健児的にはどれがいいのです?」

「私のよね?」

「涼のはアウトよ・・・それよりもあたしのよね?」

「私のが一番良いと思います!」


俺が机でノートをまとめていると、ぎゅうぎゅうと大きいそれを十個も押し付けられる。一人も小さいのがいないのは楽園ヴァルハラではないか・・・ってヤバイ!麗美に心を読まれる!?


「なるほど・・・大きいのが好きと・・・」

「へぇそれはいいことを聞いたよ」

「よくやったのです!」

「褒めてあげるわ」

「あたしも!」

「ありがとうございま~す」


俺を出汁にして仲良くなりやがった!?じゃなくて、


「集中できないから早くどけ!」


離れた時の切なさもヤバイがこれ以上乱されると何もできなくなる。俺は改めて上がったタイトルを見てみる。俺の奴はカッコイイけど論外という悲しい結果に陥った。だけどなぁ


「一対一の恋愛ものじゃあな・・・」

「なにか問題があるの?」

「いやな。勿体ないと思ってよ」

「勿体ない、ですか?」

「ああ、だってお前ら全員(性格は置いておいて)超絶美人だろ?それが一対一の恋愛ものだと他の四人を持て余すことになるじゃん。それは勿体ねぇなぁと思ってな」


PRするのに他四人を使わないのは勿体ない。おそらく、友子ちゃんも同じように考えているはずだ。だから【女王四重奏】に依頼したわけなんだからな。


「僕たちが健児にとって超絶美人なのは分かったけど、実際問題どうやって僕たちを使うの?」

「俺じゃなくて世間一般な?お前らの中で共通なのは『厨二』『恋愛』ってとこだ。そこは使いたいと思う」

「ほう」

「で、その、俺の当時の、ノートに」

「ああ分かった。≪黒穴≫」

「心の準備をさせろ!」


綾が黒い穴から漆黒のノートを取り出す。そこにはダンジョンの情報と同時に当時の俺の女性のタイプが書いてある。見返したくないが厨二の病を一番に患っていた我が歴史が一番良いだろう。ただ、こんなにたくさんの美少女に見られるとは思わなかったけど・・・


『姦の御髪は呪術のマティエール』


「これってどういう意味なのかしら?」

「マティエール・・・ってなんですか?」

「さぁ、それに呪術にカタカナ?」

「健児カッコいいのです!」


やめてくれぇ!すると綾がドヤ顔で解説を始めた。


「簡単だよ。女の髪は呪術的なものによく使われてきた。だから、あまり髪を切らない方が良いとされていたんだよ。だから、この文を意訳すると、『俺はロングヘア―の方が好き』っていう意味だね」

「完璧に訳すんじゃねぇよ!?」


読まれているというのは知っていた。しかし、理解まではできているとは思わなかった。ちなみマティエールは材料のことだ。


「じゃあこれは?」


『禁を破らず姻を結ぶ功はNOT DISLIKE』


「英語・・・ですか?」

「また意味が分からないものを・・・」

「これがカッコいいと思っているんだからやっぱり病気よね」

「健児どういう意味ですか?」

「ふっ、自分で考えろ」


こういうのは教えたらつまらない。だから、言わない。


「じゃあ僕が言うわ」

「え?」

「姻は婚姻の一部。そして、禁っていうのは十八禁のことだろ?つまり、結婚できる十六歳と十八歳未満であるって考えると女子高性が好きってことだろ?厨二の時の健児は年上好きだったわけだ」

「なんで分かるの!?」

「じゃあ最後の『NOT DISLIKE』は?」

「大方英語の授業でDISLIKEの意味を知って使ってみたかっただけだろ。NOTを付けてパズルっぽくするためにさ。意味は『嫌いじゃない』、つまり、ツンデレってことだな」

「やめてくれ!お前俺のことを好きすぎだろ!?」

「はああ!?ち、違うし!お前が簡単すぎる暗号を作るからだろが!?別に、健児のことは・・・その「はいは~い茶番はいいわ。次行きましょう」

「紅音?」

「ピュ~」


口笛うますぎ。


「流石北司センパイですね」

「まぁね。ただ次のページは当時の僕だと分からなかったんだけど、さっきの姫神の言葉で理解できたわ」

「どういう意味ですか?」

「見ればわかる」

「早く見せるのです」

「早く見せなさいよ!」

「わ、分かりました」


麗美がそのページを開く。綾は瞑目し、麗美がそのページを見て固まっている。俺はなんて書いてあったか普通に忘れていた。というか封印していた。麗美たちの反応を見て俺の封印は解かれた。


「あっそこは「皆さん見てください」


『ビックツインマウンテンガールI LOVE』


「これだけ分からなかったけど、関係代名詞で訳せば一瞬だったのか」

「なるほど。直訳すると、『私が好きなのは大きい双子山の女』。つまり、巨乳好きということですね」

「もう殺してください」

「つまり健児は『ロングヘアの巨乳JK』が好きなのね?こ、この変態!?」

「やめて紅音」


紅音が隠す仕草をするが、それもまた良いのだ。


「この脂肪の塊のどこがいいのですか?」

「そうねぇ肩が凝って仕方がないからない方がマシだわ」


そういって胸を揉む涼と蒼の胸に引き寄せられる。涼がにやりと笑う


「ふふ、これはいい気分だわ。健児が私に夢中になっているわ」

「普通の男子高校生だから!当たり前のように引き寄せられるわ!」

「健児になら見せてもいいですよ?」

「え?」

「釣りですよ。クソド変態」

「全く、情けない奴隷だ」


そういって綾も麗美も胸の下に腕を組んでる。クソぉ、男子高校生である自分が恨めしい。


「ってかこんなことをやっている場合じゃねぇ!さっさとアイデアを固めるぞ」


このいじりの状態から抜け出したい一心で本気で逸らしにいった。



「とりあえず、厨二の生態は分かったわ。そして好みもね」

「おう、それを口に出さないで心にしまっておいてくれ」


まぁそんなわけで中学生の男なんてこんなもんだと分かってくれたと思う。巨乳は俺の好みだから置いておいて、美人な高校生が看板になっていれば会いたくもなるものだ。このぐらいの中学生は素直じゃないから偶然を装ってとか受験失敗したとか言って入学してくるんだよ。


女の子は案外心配ないと思う。カッコ良くて美人なお姉さんがいたら憧れる。そういう習性を利用すれば憧れという面で釣れるはずだ。ってなると俺の中で答えが固まった。


「どうしたですか?」

「ああ、決まったぞ」

「え?なになに?」


紅音が興味深そうに聞いてくる。


五人を使って、かつ、人を集める簡単な方法。後は疑似恋愛もできる。それは


「お前ら、アイドルになれ」


俺はドヤ顔で宣言した。

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