3
「アイドル?」
「ああ、理由は今説明する」
俺は一回コホンと咳をする。そして、
「まずちゅ、厨二ってところで男子中学生の釣り方は分かっただろ?」
「厨二ってしっかりいいなさいよ。自分の過去なんだから」
紅音に鋭いツッコミを入れられる。
「うるさい。ちょっと黙ってもらおうか。話を戻すと、お前らレベルの美人な高校生なんて男子学生からしたら、憧れだし、女子高生に夢を持つ女子学生にもしっかり届くはずだ。だからお前らをアイドルにしたい」
「なるほど、流石健児なのです!」
「私たちを客寄せパンダに使う考え方は好ましくはないけど、確かに集まりそうね」
「だろ?」
俺のアイデアには死角はない。麗美が手を挙げる。
「でも、それじゃあ【女王四重奏】のPRになっても、学校のPRにはならないんじゃないですか?ダンジョン攻略者を育てる学校っていうところが全く宣伝されていないっていうか・・・」
流石麗美だ。これじゃあただのアイドルで冒険者ではないという指摘は確かに的を得ている。
「ああ、その点はもちろん考えている。MVを作ろうと思っている。
「「「「「!」」」」」
Sランクダンジョンでの動きを編集してMVにする。そして、ダンジョン内で採取できる素材を使って衣装を作る。これをドヤ顔で説明した。
「よく思いついたわね・・・」
「だろ?」
ダンジョン学校であることをアピールしつつ、この学校のトップである【女王四重奏】をより際立たせるためには丁度良いだろう。すると、綾が手を挙げる。
「案は面白いし、これでPRになることはわかるけど、僕はアイドルなんてやりたくないね。普通に面倒だし、目立ちたくない」
「ええ~面白そうじゃん!」
「俺様もやりたいのです!」
「私は遠慮したいわ。人前はちょっと・・・」
「そうか・・・」
【女王四重奏】は半々に意見が分かれている。まぁこうなることはなんとなく予想できていた。だから蒼と紅音とそれから新メンバーの麗美はというと、
「私も目立ちたくはありませんが、これが確実な仕事なのは確かなのでやりますよ?」
「サンキューな。お前がいると百人力だわ」
「いえいえ~健児センパイのためなら火の中水の中ですよぉ」
「「・・・」」
姫神がいれば綾と涼がいなくても「やるよ」え?
「僕もやればいいんだろ?」
「たまにはこういう趣向もありかもしれないわね」
「お、おう。助かる」
何が何だかわからんが二人がやる気を出してくれたのは良かった。クール系が足りてなかったからな。
「とりあえず後は友子ちゃんに同意を得れるかどうかだ。次のことは明日決めよう」
そこで一旦解散となった。
●
次の日
「なぁ・・・」
「どうかしました?」
「なんでそんなに疲れてるの?」
「ただの修行です。昨日は張り切っちゃいまして」
「ほどほどにしろよ?壊れたら意味がないんだからな」
「はい(心配してくれるセンパイ大好き!)」
生徒会室に行く途中、姫神がボロボロだったので聞いてみたのだが、返答はなんてこともなかった。【女王四重奏】に入るということで気合が入っているのだろう。
俺と麗美、そして【女王四重奏】の四人で今、生徒会室に向かっている。とりあえず許可をもらわなければならないからな。
「大丈夫?」
「い、いえ。まだまだ全然いけます!」
「中々根性があるのです」
「蒼センパイ~大好きですぅ!」
おや?蒼と紅音が麗美と仲良くなってる。
「お前らって仲良かったっけ?」
「まぁ、せっかく同じパーティになるならギクシャクするよりもいいじゃない?色々思うところはあったけど、謝ってもらったし、一番被害にあった健児も許しているならあたしも言うことはないわ」
「そうなのです!反省してごめんなさいがしっかり言えたのです!それなら俺様もちゃんと歓迎するのです!」
「そういうことです」
「なるほどな。大人になったな」
身体も。
「セクハラで訴えますよ?」
「すいません」
心が読まれるのを忘れていた。まぁ仲が良いのはいいこっちゃ。麗美が【女王四重奏】になじめるか不安だったが、蒼と紅音が仲良くしてくれるなら一先ずは大丈夫だろう。
「・・・何よ?」
「何?」
「別に」
涼と綾は麗美とダメらしい。まぁなんとなく苦手そうなのはわかる。特に麗美と綾は喧嘩してたしなぁ。涼はガチガチのクール系だ。甘えん坊系の麗美とは対極に位置するし、仕方がない。そんなことを考えていたら生徒会室に着いた。
ノックもせずに綾はガチャリと扉を開ける。無礼すぎる所業に一言文句を言いたくなった。すると、既にコーヒーがすべて置かれていた。奥の中央の席で友子ちゃん、両サイドにムニンさん、フギンさんが佇んでいる。
「よっ、友子」
「友子じゃないわい!我のことは宵闇か役職名で呼べと言ったじゃろうが!」
さっそく綾が話しかける。この気難しい綾が親しそうに話すんだから仲は悪くないんだろう。そして、俺たちに座れと合図を出されたので、テキトーに座る。
「やることは決まったんじゃろ?許可するぞ?」
流石だ。右目が疼いているので、知ってはいたのだろう。俺の身体はゾワゾワした。
「それならわざわざここに来させないでください」
「【白銀姫】はせっかちじゃのう・・・まぁ許可するにあたって一つだけ条件を加えようと思っての」
「?」
「在校生のやる気を出させて欲しいのじゃ。だから、アイドルをやるなら次の全校集会で前に立って欲しい。今いる生徒の質とやる気を増させるにはお主らのPRは丁度良いのじゃ」
なるほどなぁ。でも、面倒なことを嫌いそうだからなぁ。
「もしやってくれるなら、我の管理する海岸沿いのリゾートホテルを一週間ほど「やります!」
即決だった。全員やる気に満ちていた。
「ふっ、女王共が我が手の内よ!」
自分の想い通りになって気持ちいいのはわかるがその言い方はやめてくれ。俺にダメージが来るんだよ。後は衣装づくりと作詞作曲、振付だ。まぁ俺がやればいいか。大変だろうけど言い出しっぺだしな。
「恐山健児」
「はい?」
「お主の懸念点はもう解消しておる」
「え?」
「ほれ」
俺だけではない。麗美を含めた【女王四重奏】にも何かが届いた。俺はそのフォルダを開いた。
「これは・・・?」
「こっちで制作したMVの振り付けと楽曲じゃ。音楽関係の権能を有する生徒たちが【女王四重奏】のためならと徹夜で作ってくれたわい」
「す、すげぇ」
「流石【女王四重奏】です・・・」
俺と麗美は驚きでいっぱいだった。
「後はデザインじゃのう。それも今、フォルダで送ったぞ?」
「おお・・・」
「これは・・・」
完璧だ・・・一人一人の個性に合わせているのが良く分かる。これを着ているこいつらを想像したら、確かにいいと思った。というか反対していた綾と涼まで見入っている。友子ちゃんに目でお礼を言っておく。
「こっちからお願いした身じゃ。後の素材集めとMVの撮影はお主らにしかできんから任せたぞ?」
俺たちは友子ちゃんの激励を受けて教室を出た。
●
「行ったな・・・?」
我は【女王四重奏】がこの教室から離れたのを確認する。
「ムニン、フギン、少し休め。許可を出すのじゃ」
「すいません、マスター」
「お言葉に甘えます・・・」
恐山健児から発せられるプレッシャーで二人はぺたんと足をつく。Sランクじゃなきゃあの化け物には対抗できまい。よく耐えていたほうじゃ。
「マスター、あの人はなんなんですか・・・?」
「怖いです。あれ以上近づいたら正気を保てなくなります・・・」
我のメイドたちが震えておる。基本的に感情を表に出さないこやつらがここまで怯えているのだから相当なものであろう。だが、
「【女王四重奏】が関係しておるのは確かじゃ。ただそれ以上は
「「え?」」
当然の反応じゃ。我の力はすべてを見通す目。恐山健児の周囲のことはわかる。ただそれ以上のことを検索しようとすると、黒いインクで塗りつぶされてしまうのじゃ。
ただ我のすべてを見通す目でも見えないとなると、相当大きな力が働いているとしか考えられん。少なくとも我と同等以上の力が働いていることは確かだろう。
「あやつの存在が吉と出るか凶と出るか・・・」
異端の存在に対する興味関心は尽きそうにない。
●
友子ちゃんに許可をもらった後、再び俺の家に集まっていた。昨日の打ち合わせの続きをするためだ。
「思った以上に友子ちゃんが働いてくれたから、俺たちのやるべきことは素材を集めて、ダンスを覚えることだけだな」
俺はもちろん映らない。だからプロデューサーの立場だろう。後はカメラマンを併用か?
「欲しい素材もリスト化してくれましたけど・・・」
「炎龍の逆鱗、竜骨の珠玉、大いなる貝殻、アラクネの糸、白龍の肴、白虎の牙、釈迦の糸・・・どれも一筋縄ではいかない素材ね・・・」
「本当にデザイナーが使いたい素材を一気に書いたようなリストね。私たちじゃなければ絶対に集められないわ。運がいいことにほとんどの素材は足りてるわね。いえ、把握されていたと言った方が正しいかしら」
麗美と涼、綾がリストを見て唸る。ザ・Sランクらしくていいじゃねぇか。
「踊りも楽しそうなのです!」
「まぁ退屈しのぎにはなりそうだね」
蒼はめっちゃ乗り気なのに綾はいまいち。だけど、綾が滅茶苦茶楽しみそうなのはわかる。じゃなきゃあれだけ食いつかない。全く、素直になれない吸血鬼は面倒だな。
まぁ全員友子ちゃんのおかげでやる気は十分だ。後は俺が完璧に素材を活かしきれば終わりだ。ここからは俺の仕事だ。
「楽しみにしてるところ悪いが、一個だけやっちまいたいことがある」
「?」
「麗美加入の動画だよ」
「「「「「ああ~」」」」」
事前の勉強で新メンバーの加入は結構ギャンブルだ。受け入れられるかどうかはマジで運。麗美が受け入れられないとは思わないけど、ちょっと不安だ。ちなみに姫神の【女王四重奏】加入届は既に出してきた。俺の時みたいにそれを交渉の材料として使われたらだるすぎる。
「とりあえず庭にGO」
●
俺は【女王四重奏】のカメラを借りて機材の準備をする。俺は再びカンペを使って指示する。麗美はとりあえずカメラからアウトしてもらう。いきなりいたらサプライズ感がないからな。
「準備はいいか?」
コクリと頷く。そして、俺は配信モードをオンにした。
『おっ【女王四重奏】だ!』
『こんばんは~』
『配信無くて虚無ってた』
『相変わらず美少女揃い』
『綾ちゃん踏んで~』
『涼様もっとその冷たい視線をくださぁい!』
『蒼ちゃんに首輪を繋がれたい』
『紅音お姉ちゃんって呼びたい』
同接がどんどん増えていく。ただ変態が増えた気がする。あいつらには見せないようにしないと。っとその前にカンペだ。
『まずは挨拶』
「「「「こんばんは~【女王四重奏】で~す!」」」」
わああっとコメント欄が盛り上がる。笑顔でカメラに手を振ってる。変な違和感は感じなくなったが、それでもその笑顔ができるなら俺にも向けて欲しい。その優しさ分けて。
『可愛いぃぃ』
『これで一日の疲れが取れる』
『ダン配がない日が辛いでやんす』
『もうこれがないとやっていけない』
『漆黒の堕天騎士は?』
『【神妃】に浮気したんじゃないの?』
コメント欄もまずまずだ。同接が十万を超えた。
一応俺も挨拶しておくか。いつカメラに映ってもいいように【漆黒の堕天騎士】の恰好はしている。
「我はここに在る」
『出た!』
『我とかいうんじゃねぇ!』
『【神妃】との関係を言え!』
『あのキスの詳細はよ』
『【神妃】のチャンネルが消えたんだよぉ!理由を教えてくれ!』
そういえばと思い出してしまう。あの時の感触を・・・
「も、もう!何考えてるんですかぁ」
「す、すまぬ」
声が動画に入らない程度に言われる。ただ少し喜色の色が入っている気がするがなぜ。とりあえず目の前の四人の笑顔が深くなってきたので、続きのカンペを出す。
『新メンバーの紹介』
未だに恨みがましく見られているが、とりあえずおいておこう。
「今日はお知らせがあるのです!」
「みんなにとって悪い話じゃないわよ?」
『ほぉ』
『なんだなんだぁ?』
『新ダンジョンとか!?』
『もしくは新技?』
『楽しみぃ』
コメント欄はわくわくしている。
「新メンバーの加入よ」
「もちろんランクはSランクさ」
『マジか!』
『すげぇ!』
『層が厚くなるなぁ』
『一体誰なんだろう?』
『男とか・・・?』
『【漆黒の堕天騎士】以外は許さんぞ?』
『俺はそいつすら許してねぇけどな』
「それじゃあ発表するわね」
「この方なのです!どうぞ!」
俺は麗美に行けと言う。
『お、おいおいまさか!?』
『姫神麗美!?』
『マジか!チャンネルが消えたのってそういうこと!?』
『なにこの子!めっちゃかわよ!?』
『やべぇもうファンになったわ!』
『【神妃】ファン必見!【女王四重奏】で復活だぁ!』
おお~すげぇ。同接が五百万超えた!?そりゃあそうか。麗美のファンと【女王四重奏】のファンが集まったんだ。そりゃあここまでいくわ。
「僕たちの新メンバー、姫神麗美だ。みんな拍手してやってくれ。それからパーティ名は【女王五重奏】に変更だね」
『うおおおお!』
ヤベぇよ・・・スパチャが百万近く集まってる・・・
「改めまして【神妃】こと姫神麗美です!知っている人はこんばんは!はじめましての方ははじめまして!これからは【女王五重奏】のメンバーとしてやっていくのでよろしくお願いしまぁす」
最後に決めポーズをとる。この辺りの魅せ方は流石だな。盛り上がり方、見られ方が良く分かっている。俺は【冥界の獄園】で教えてもらったカメラワークを駆使する。
『尊すぎる・・・』
『最強最高最カワのパーティがさらに凄くなった』
『これが楽園だぁ』
『俺の生きがい見っけたよぉ』
『お祝いスパチャでぇす』
『俺も出しまぁす』
『頑張ってねぇ』
『強いパーティに喰われたのね。がっかりだわ』
とりあえず新メンバーの加入は成功したようだ。悪いコメントは一部見られるがこれも配信の運命。まぁしゃあない。
『これからの方針』
「姫神の紹介が一つ目のお知らせ。で、これから二つ目のお知らせだ」
「学校の関係でMVを撮らなきゃいけなくなったのよ」
「だから、しばらくのダン配はソロの配信になるわ。姫神さんが入ってくれたのに申しわけがないけれど、五人での撮影は少し難しくなりそうなの・・・」
『そんなぁ・・・』
『ソロはソロで面白いものが見れそう』
『ってかMVってマジか!』
『みんな声が良いから最高じゃん』
『完成したら聞くわ』
『わくわく』
これは俺の提案だ。衣装の素材を集めるのはもちろんのこと、ダンスや歌の練習もしなければならない。だから全員でダンジョンに潜っていては効率が悪い。ただ、ダン配をやらないのもファンが離れてしまう。だから、苦肉の策でこういうことになった。
断れるかと思ったけど、全員乗り気だったのが救いだ。自分一人でやるというのにも興味があるのかもしれないな。しかし、ここで大団円で終わらないのが、俺たちのダン配だった。
『ん?そうなると【漆黒の堕天騎士】はどうなるんだ?』
俺の存在を覚えていてくれたファンが話題に出してくれた。
「【漆黒の堕天騎士】はあたしたちの撮影のためについてくるわよ!」
「僕らの動きは自動モードじゃ撮れないからね」
しかし、その言葉が発端で俺は可哀そうな目に遭う。
『【漆黒の堕天騎士】のハーレムじゃねぇか!』
『美少女をとっかえひっかえでいいご身分でございますねぇ?』
『お前ふざけんな!』
『あんな美少女たちと二人きりでダンジョンデートだと!?お前は一体なんなんだ』
『ってか【神妃】とのキスについてしっかり説明しろ!』
『さっきからキスって言っているけど、どういうこと?』
『元の動画は消されたけど、残しておいた』
『有能ナイス!』
『表出ろや!』
思わぬところで飛び火が。麗美とのキスはまぁ置いておいて、ハーレムだと!?ふざけんな!お前らはこいつらの裏の姿を知らないからそういうことが言えるんだよ。とりあえずここまで炎上しては俺がいくしかない。装備を整えた。
「ふっ、我は自由な風だ。誰にも縛ることはできない・・・」
どうだ?
『ふざけんな!』
『浮気男!』
『厨二を使えば逃げ切れると思うなよ?』
結局俺の炎上はあいつらに任せるしかなかった。なおキスについては麗美がしっかり延命措置だという話と技名を伝えてくれたおかげでなんとかなった。
理不尽すぎる・・・
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