幼馴染&姫神side

アイドル活動をやると決めた帰り道。


「はぁ、面倒だなぁ」

「そうね。だけど、健児の頼みなら仕方がないわ」

「楽しみじゃない!ね?蒼」

「そうなのです!ワクワクするのです!」


健児センパイの家を出た後、私は今【女王四重奏】に連れられています。目的地は聞かされぬまま付いてこいとだけ言われています。まさかリンチでしょうか?


「リンチなんてするわけないでしょう?そんなことをしたら健児に嫌われちゃうもの。本当に憎たらしいわ・・・」

「す、すいません」


物凄い量の魔力を白南センパイから受けて思わず謝ってしまいます。私が後ずさると式宮センパイにぶつかってしまいます。こっちからもプレッシャーを受けると思いましたが、意外なことに頭を撫でるだけでした。


「個人的に許せないところもあるけど、ケジメは付けたでしょ。過去のことはこれでおしまい。これからよろしくね。麗美」

「は、はい!お願いします。式宮センパイ!」

「紅音でいいわよ」

「はい!紅音センパイ」


この人は普通にいい人そうです。怒っているオーラを常に纏っているから怖い人かと思いましたが、一番いい人そうです。おそらく健児センパイに対してだけ緊張してしまうんでしょうね。


「俺様も許すのです!ごめんなさいができる人間は良い人間なのです!これからよろしくなのです!麗美!」

「こ、こちらこそお願いします!前のことは本当にすいませんでした!京極センパイ」

「もういいのです!健児が気にしていないなら許すのです!後蒼でいいですよ?」

「はい!蒼センパイ」


蒼センパイは野性味あふれる人だから何か超常的なことを感じ取ったのでしょう。器が大きいなぁと思いました。


「全く・・・お前らは能天気でいいよなぁ」

「何よ?過去のことなんて気にしたって仕方がないでしょ?」

「そうなのです!器が小さいと健児に嫌われるですよ?」

「っ!それでもだ。ケジメは付けたけど、個人的に苦手なのは変わらない」

「うっ」


一番因縁があるのでそう思われても仕方がありません。正直、北司センパイのことは嫌いじゃないので、私としては仲良くやっていきたいのですが、自業自得ですね。


「私も綾と同感。馴れあいなら別の場所でやって頂戴」

「全く・・・綾も涼もお子様なのです!」

「次お子様っていったら凍らすわよ?馬鹿犬」


まぁ半分からの印象は悪いですが、紅音センパイと蒼センパイからは普通の対応をしてもらえそうなので安心です。全員敵だと思っていたので、ゼロよりはマシでしょう。


「これってどこに向かっているのですか?」

「行けばわかるわ」


さっきからそれしか言われていません。とりあえず付いていきますが、不安は募るばかりです。


【女王四重奏】・・・健児センパイを狂信的に好きな人の集まりであり、学校内で最強のSランクパーティ。それぞれが最強の力を有して才色兼備で頭脳明晰、容姿端麗、まさしく天才というのにふさわしい人たちの集まりです。


でも、プロフィール以外のことは何も知りません。一体どこのダンジョンに潜り、どのようにあの無敵な強さを手に入れたのか。知らないことが多すぎます。健児センパイに聞いても何も分からないでしょうね。


【女王四重奏】は全員、健児センパイに色々なことを秘密にしています。私も含めてですが、あの人たちの関係には謎が多すぎです。まぁぽっと出の私に教えてくれるわけがないでしょうけどね。でも聞いてみます。


「目的地はいいですから、せめて何をするのかだけ教えてもらってもいいですか?」


すると、全員が苦々しげな表情をする。え?変なことを聞きましたか?


「・・・負けに行くのよ」

「え?」


白南センパイが意味の分からないことを言いました。負けに行く?誰が?


「憂鬱だなぁ・・・」

「俺様もです・・・」

「あたしも何回殺されるんだろう・・・」


え?え?何をするんですか?ってか【女王四重奏】が全員ガチでビビっています。あのケルベロスを一瞬で倒せる人たちが何に怯えているんですかね?私はもう帰りたくなりました。


「帰ってもいいよ」

「え?」

「ただ、健児に二度と近づかないって誓えるならね」

「っそれは嫌です!」


健児センパイに関わることですか。今の私にとっては健児センパイが私の中のすべてです。だから、何があろうとも逃げるわけにはいきません。


「着いた・・・」

「ここは」


そうこうしているうちに目的地に着いたようです。そこは懐かしいあの公園でした。健児センパイと初めて出会った場所でした。あのベンチも何もかもが変わりません。私が感傷に浸っていると、


「すいません、遅くなりました」


北司センパイが敬語を使っています。よくよく見てみると、公園の中央には人影があります。そこには驚愕の人物がいました。


「健児センパイのお義母さま・・・?」

「ふふ、さっきぶりね」

「あっ、はい、どうもです」


健児センパイのお義母さまが公園の中央に佇んでいたのです。なんでこんなところにいるのでしょうと聞く前に北司センパイが手で制止します。


「黒海さん、姫神を連れてきました」

「ふふ、ご苦労様。それじゃあさっそくだけど一個だけ教えてくれるかしら、麗美ちゃん」

「は、はい」

「健児が好き?」

「っ、は、はい。大好きです!」


いきなりの直球に驚きましたが、しっかりと想いを伝えます。


「本当に?何があっても愛せる?」

「はい。絶対です」


今の私があるのは健児センパイのおかげです。酷いことをしてしまったという負い目はありますが、その意思は変わりません。逆転ホームランで勝てる可能性がある以上やらないわけには行きません。


「うん、合格ね」

「へ?」

「嘘はないわ。涼ちゃんも綾ちゃんも【女王四重奏】の一員として認めてあげなさい」

「はい・・・」

「はい」

「え?え?」


事態が呑み込めてないのは私だけです。なぜ好きな人のお母さんにこんなことをしているのでしょう。


「黒海さんが認めたなら私も認めるわ。ようこそ姫神さん。歓迎はしないけど」

「はぁ僕も同じだ。とりあえずは仲間として認めるよ、姫神」

「あ、ありがとうございます」


何がなんだから分からないけど、認められたのは良かったです。


「それじゃあ始めましょう。準備はいい?」

「「「「お願いします(なのです)!」」」」

「え?」


【女王四重奏】が臨戦態勢に入っています。


「どうしたの?麗美ちゃん?」

「え~と何をやるのですか?」

「あら、何も教えてないのね?修行よ。健児の隣にいる女が弱いなんて情けないもの。さぁかかってらっしゃい」

「え、え~と。黒海さんと戦うのですか?」

「そうよ。だから本気でいらっしゃい」


そうは言われても乗り気になれません。私はSランク冒険者。ただの主婦相手に本気を出すなど言語道断です。そう思っていると四人からとてつもない魔力の奔流を感じます。ケルベロス戦とは比べ物にならないほどの力を感じます。


ちょっとやりすぎなのではと思いましたが、黒海さんは笑っているだけです。


「ちなみに私を倒せないと健児と付き合うのは認めないわよ?」

「で、でも」

「じれったいわね。それじゃ私から行かせてもらうわよ?」

「え?」


そういうやいなや黒海さんが私の背後に現れます。私の首元に手とうが現れますが、なんとかしゃがんで躱します。


「あら?これくらいなら躱せるのね」

「っ!」


なんてスピードでしょう。これはダン配で観た蒼センパイの≪紫電纏≫と同等くらいのスピードです。躱せたのは運です。


「≪夜空絶:十字斬り≫」


北司センパイからケルベロスを殺した技名が聞こえます。しかし、それは二刀でした。あの技は居合じゃないんですね。しかし、


「ふふ、少し威力は上がったわね。綾ちゃん。ついでに斬れる空間の範囲も広がったようね。距離もあってないようなものだし厄介な技になったわ」

「っ!どうも!」


指先だけで北司センパイの攻撃を受け止めます。


「邪魔よ!」

「は、はい!」


一瞬呆けてしまいましたが、白南センパイの声で頭を切り替えます。今は戦闘中です。相手は未知。であるなら本気でやる以外に選択肢はありません。


「≪零号≫!」


一気に空気が冷やされます。気が付いたときにはすべてが凍っています。しかし、


「五秒も時間を停止できるようになったのね、涼ちゃん」

「っ!」


時間停止の技だったんですか。だけど、なぜそれを軽々と受け止めているんですか!?時間停止中に動けていたとでもいうんですか?


「どきなさい涼!≪赤灯≫!」

「ひっ!」


爆発しては生き返るを繰り返す炎。まるで生死を繰り返しているようです。炎と共に生き返り、何度も何度も連鎖爆発を起こします。しかし、


「いい技ね。魔力の限り永遠に生死を彷徨い続ける炎。紅音ちゃんにピッタリじゃない」

「それなら倒れてくれると嬉しいです。なんでフィンガースナップであたしの炎が消されるんですか・・・」

「ふふ」


何も答えない黒海さん。ただ笑っているだけなのに恐ろしいです。


「≪死滅線≫!」

「あら?」


蒼センパイが現れ、黒海さんは若干驚きます。しかし、指一本で蒼センパイの攻撃を止めているという事実は変わりません。しかし、不思議なことに時間差で地面に大きな亀裂が入ります。


「ふふ、未来に干渉するなんてやるじゃない、蒼ちゃん」

「がう・・・」


しかし、それでも効きません。


「な、なんなんですか、貴方は?」


普通に恐怖です。なんでこんな異次元の攻撃を指一本で受け止めていられるんしょう。私の中で特大の警戒アラートがなされます。


「健児の母親よ」

「それは知っています。そうじゃなくて!」

「もし、それ以上を知りたいんだったら、私に傷を負わせなさい。そうすれば答えてあげるわ」

「っ!そういうことですか」


私も臨戦態勢を取ります。目の前にいる女性は本気を出さないと絶対に勝てない。だから、私は、


「≪自己嘘愛≫+≪無窮愛≫!」


最初からフルスロットルです。時間をかけて倒すなんてことができる相手ではありません。私は弓を構えて、攻撃を繰り出します。


「あらあら、これは危険ね」


そういって私の放った矢の矢じりに人差し指を当てます。すると、空間に波紋が起こります。そして、矢がそのまま空中で停止して落ちてしまいます。


「永久停止の矢。一本目は布石で、他に放った矢は・・・・・・・認識阻害を加えてる・・・・・・・・・のね・・。この感じは別の異能も加えているわね?痛覚変換かしら?」

「なっ!?」


私の矢の性能がすべてバレています。認識阻害のフィリアの効果を解いてみると、すべての矢が黒海さんに当たるギリギリのところで停止しています。


「麗美ちゃんは想定よりも強いじゃない。綾ちゃんたちもいくらか強くなっているみたいね。修行はサボってはいないみたいで安心したわ」

「・・・ありがとうございます」


そのお礼には一片の奢りもないように聞こえます。むしろこれから起こることに恐ろしさを感じているようです。


「それじゃあ今度はこっちから行くわね。それ」

「「「「「っ!」」」」」


デコピンが繰り出されます。しかし、公園の地面を抉りながら放たれました。私は完全に出遅れましたが、


「バカ!」

「きゃっ!」


北司センパイが私の襟を引っ張って、助けてくれました。


「ありがとうございます・・・」

「ふん、お礼はいいからさっさと臨戦態勢を整えろ!来る「呼んだかしら?」グフ!?」

「北司センパイ!?」


主婦とは思えないほどの威力のデコピンが北司センパイの頭に当てられ、公園の端っこまで吹き飛ばされます。そして、その柔和な笑顔とは思えないほどの恐ろしいデコピンが私めがけて繰り出されますが、見えていれば避けることは可能です。私は繰り出される前に横に飛び、何とか避けます。


それでも抉られた地面を見るとぞっと寒気がします。デコピン一発がほとんど即死攻撃なのですから。


「ふふ、未来視、いえ、これは経験から来る読みね。Sランクってことに溺れることなく努力を続けたのね。偉いわ」

「あ、ありがとうございます」


って喜んでいる場合じゃありません。すると、黒海さんの背後から蒼センパイが紫電を纏って背後をとります。


「≪紫雷落とし≫!」


落雷のようなスピードで振り落とされるかかと落とし。私に注意が向いている今、チャンスです。私も蒼センパイも盗った!と思いましたが、


「その程度のスピードじゃあ私に傷を負わせるなんて無理よ?」

「あう!?」


かかと落としを指一本で受けきり、そのままくるっと人差し指を回すと蒼センパイごと渦潮のようにグルンと回ります。そして、人差し指でかるく小突くと地面にめりこんでしまいました。


「あら?」

「これは・・・?」


黒海さんが地面を踏みしめると、白い霧が発生します。地面に線が引かれていきます。これは魔法陣でしょう。


「≪白氷≫!」


白南センパイが技名を叫ぶと、黒海さんだけが直方体上の氷に閉ざされてしまいます。明らかに即死の凍死です。しかし、


「熱いから氷に閉ざされるというのもいいわね」

「くっ!」

「ダメよ涼ちゃん。後ろの警戒を怠っちゃ」

「え?」


白南センパイが倒れます。後ろにはいつの間にか移動したのか黒海さんが微笑んでいました。


「≪蒼炎柱≫!」

「キャッ!」


地面が揺れています。すると、地面の下から蒼い炎の柱が噴出します。それが黒海さんを中心に起こります。


「噴火なんて久しぶりね」


そういうやいな蒼炎の柱に人差し指を突っ込みます。すると、蒼炎がどんどん消えていきました。蒼炎というのは焼き尽くすまで消えない炎と解説していたはずです。一体何がどうなっているんでしょう。そして、


「死なないからって警戒が薄すぎよ」

「え?」


黒海さんが人差し指を横にスライドさせると紅音センパイの身体が上下で真っ二つになります。


「≪血龍≫!」

「あらあら」


北司センパイの身体から黒い闇が溢れ出ます。この感覚は自分の攻撃の威力をあげるものだというのは容易に予想ができます。私の≪自己嘘愛≫に似たものなのでしょう。眼が血走っています。


「死ね!≪境界断≫」

「くっ」


私はすんでのところでぺたんと地面にしりもちを着きます。周りを見てみると一見何も起きていないように見えます。私の杞憂だったんでしょうか。


「え?」


空間ごと北司センパイの剣線上のものがすべて両断されていました。黒海さん以外は・・・・・・・


「年上に対して死ねなんて言っちゃダメよ?」

「くっ、離せ!」

「ええ、はい」

「え?」


そして、そのまま人差し指を北司センパイの頭に落とします。すると、そのまま地面に円状に亀裂の入った中の中心でぶっ倒れてしまいました。


「あう・・・」

「う、う」

「ふ・・・」

「く・・・そ」


私は夢でもみているのでしょうか?【女王四重奏】が完膚なきまでに主婦一人にボコボコにされているのです。みなさん、立とうとしていますが、苦悶の声をあげるだけで中々立つことができません。そんな光景を見て、黒海さんは溜息をつきます。


「全く・・・貴方たちは本当に小学生の頃から変わらないわね。いえ、むしろ心は弱くなったわね」


黒海さんから落胆の声がかけられる。


「自分勝手、独善、欺瞞、虚栄心、邪魔なプライド、見下し・・・そんなことをやっているから健児を麗美ちゃんに盗られるんじゃなくて?」

「「「「っ!」」」」

「何よりも健児が傷ついたときに、なんであなた達は獣化を解いて助けに行かなかったの?」

「そ、それは・・・」

「答えは簡単。貴方たちが誰よりも怖がりだからよ。健児のことよりも今の獣化で可愛がってもらっている現状に甘んじているからでしょう?」

「は・・・い」


なんでそんなに詳細を知っているのか。普通ならそういう疑問が湧いてくるのでしょうが、さっきまでの尋常じゃない力を見せられてそれも普通だと思ってしまいます。ということは私も恨まれているのでは?


「当たり前でしょう?殺したいほど憎んだわよ」

「すいません・・・」


心を読まれました。


「だけど、貴方はケジメを付けたし、これから先、健児のことを支えてあげようという覚悟があるでしょ?マイナススタートだけど、貴方の決意は伝わってくるわ。だから、頑張って」

「は、はい!」


良かったです。


「なんでそこの女狐を優遇するんですか!?」


白南センパイが叫びます。こんな声が出せるんですか。


「さっきも言ったでしょう?あなた達よりも強いからよ。ああ、メンタル的な部分よ?強さはこれからいくらでも鍛え上げられるもの」

「で、でも・・・!」

「でも、じゃないの。昔から少しも成長しないわね、涼ちゃん。少なくとも今の貴方を娘として認める日は一生来ないと思いなさい」

「っ」


白南センパイが歯ぎしりをしています。その綺麗な白い肌から血が流れています。


「あら、そうこうしているうちに時間ね。はい、どうぞ」


私たちに人差し指が向けられると、怪我がみるみるうちに治っていきます。そして、壊れた遊具や地面、そのほかもすべて修復されていきます。そして、最後にこっちを見てきます。


「そうそう、今、学校のPRを健児を含めてみんなでやっているんでしょう?」

「は、はい」

「ふむ」


そして、考える仕草をした後、黒海さんが声を出します。


「それならMVを完成させるまでに私に手傷を負わせなさい。それができなければ、健児にかけた呪い・・・・・・・・を解くわ・・・・。そして、金輪際健児に近付くことを禁止します」


呪い・・・やっぱりですか。推測でしかありませんでしたが、当たっていたようです。


「む、無理です!」

「いまだに人差し指以外使わせられないのに・・・」

「あうぅ・・・」

「それ以外じゃダメなんですか・・・?」


すると、大仰なため息を黒海さんがつく。


「貴方たちの覚悟ってその程度なのかしら?」

「え?」

「健児のスライムは本来Dランクの権能。それがあなたたちに勝つためだけに今やSランクといっても差支えがないほどに強くなったわ。そんな才能が何もなかった健児が不可能を成し遂げているのに、貴方たちは才能も何もかもを持っているのに、不可能を可能にできないの?」

「そ、それは」

「まぁいいわ。この期間以内にクリアできなかったら、近付くのを禁止するだけよ」

「~っ」

「それじゃあね。私はこの時間に毎日来てあげるわ。後は貴方たちに任せるわ」


そう言って黒海さんは闇の中に消えていきました。


「・・・僕も帰る」

「そうね・・・」

「がう・・・」

「今日はすぐにでも寝たいわ・・・」


【女王四重奏】の皆さんは力無く立ち上がりました。そして、そのまま公園を後にしました。私はと言うと、公園のベンチに腰を掛けます。懐かしい公園です。過去のことが思い出されます。


「ふふ」


温かい思い出です。ここから私の人生が逆転したんです。


「いい思い出ね」

「え?」


さっき帰ったばかりの黒海さんが私の隣に座っていたのです。


「さっきはごめんなさいね。怖がらせちゃって」

「い、いえ!むしろ許してもらえるとは思っていなかったです。本当にすいませんでした!」

「ふふ、本当にもう気にしてはいないわよ」

「そ、そうですか・・・」


そこで会話が途切れます。


「はぁ、あの子たちったら、本当に変わらないんだから・・・」

「そうなんですか?」

「ええ。小さい頃から知っている身としては心配でならないわよ」

「へぇ~」


面白いです。黒海さんはさっきまで突き放した言い方をしていたのに、まるで母親のように心配しているのです。


「麗美ちゃんは私に勝てると思う?」

「え、え~と、はい。今は無理でも期間内に絶対に勝ちます。どんな手を使ってでもです。もちろん時分の力でズルいことはする気はありません!」


突然のことに驚きましたが、本心をぶつけます。健児センパイをものにするためには絶対に必要なことなのです。だったら逃げるわけにはいきません。すると、柔和な笑顔になります。


「流石ね。麗美ちゃんがあの子たちのパーティに入ってくれてよかったわ」

「え?」


意味が分かりません。すると、


「今のあの子たちじゃ海がひっくり返っても勝つことはできないわ。だからお願い。あの子たちを助けてあげて」


意外過ぎるお願いに私は固まってしまいます。


「【女王四重奏】の皆さんが大切なんですね・・・」

「当たり前よ。小学生の頃からあの子たちを知っているのよ?娘みたいなものだもの」

「そうですか・・・」


でも、私にできることってなんでしょう?現状はどう考えても足を引っ張っています。


「ふふ、存分に悩んで頂戴。でも、今のままだとどれだけ鍛練をしても勝てないからそのつもりでね」

「は、はい」


そういうや否や隣から黒海さんが消えてしまいました。


私も帰ります。今日はどうしても寝たい気分です。

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