綾side

「ふっ!」

「ぷぎゅ!」


僕と健児は【黒秘境】という公園のダンジョンで衣装に必要なレアアイテムを探している。そこに生息しているのは水銀スライム。スライム種の中でも最強クラスに面倒な相手だ。


『頑張れぇ!』

『水銀スライムってSランクなのか』

『数がバグってね?』

『それな。しかもちょくちょく見える気体って水銀だよな・・・?』

『ってことは空間に水銀が充満してるってこと?なんで平気なの?』

『綾様だから』

『納得』


水銀スライムは一匹ならそんなに大したことはない。ただ群れになった時は別だ。一匹一匹が水銀をまき散らしながらこっちに突っ込んくるのだから、普通に致命傷になりうる。液体っていうところがまた面倒な相手だ。


しかも、水銀スライムは核を直接狙わなければ斬れない。それが一気に千体くらい突っ込んでくるから普通に困る。僕は一匹一匹をしっかりと斬り裂いていく。


健児こと【漆黒の堕天騎士】も僕にしっかりついてくる。もちろん水銀スライムが【漆黒の堕天騎士】を襲っているが、器用に蒼の【紫電纏】を使って回避しながら僕を撮っている。


「僕と一緒に居る時に、蒼の技を使うなっての・・・」


蒼の技を使われるのが嫌なので、僕は空中に≪黒円≫を使って立つ。【漆黒の堕天騎士】も僕と同じように空中で≪黒円≫を使って立つ。空中に留まるには僕の技を使うのが一番効率が良いはずだ。


「見つかった?」

「いや、見つからん」

「だよね・・・」


僕たちがなぜわざわざこんな水銀スライムだらけの【黒秘境】に来ているかというと、水銀スライムから稀にドロップする【水銀の宝玉】を探している。【女王四重奏】、じゃなくて、【女王五重奏】になった僕たちにはたくさんの素材があるので、MVの衣装の素材はある程度は貯蓄で賄えた。


ただ、それでも足りない素材があった。それが今、探している【水銀の宝玉】だ。水銀スライムから稀にドロップするという代物なのだが、確率がいかんせん低い。五千体近くは倒しているが中々ドロップしない。


ドロップの確率は百分の一だとDanpediaに書いてあったから確率的に負けている計算だ。深層じゃないからといっても二時間も魔力を使いっぱなしだと少しは疲れてくる。魔力も残り四分の一と言ったところかな。憎たらしいことに水銀スライムはダンジョンの壁から無限に湧いてくる。


「全く・・・どんだけ落ちないんだよ」


空中から見下ろす水銀スライムの群れに僕も苛立ちが隠せない。


「【黒血姫】よ」

「何?」

「手法を変えるべきだ」

「どういうこと?」

「うむ」


【漆黒の堕天騎士】が大仰に頷く。腹立つから早く教えてくれ。


「ドロップしない理由は二つほど推測できる。一つは運命の女神に嫌悪されているということ」

「喧嘩売ってる?」

「違うわ!最後まで聞け!コホン、もう一つはドロップの条件だ」

「条件?」

「うむ、五千体も倒して一個も落ちないとするなら、考えるべきはそこだ。これ以上は魔力の無駄である」

「確かに・・・」


悔しいが健児の言う通りだ。正直、これ以上倒しても落ちる気がしない。それに魔力がなくなったら普通に死ぬ。無駄打ちは避けなければならない。地面でうねうねと動いている【水銀スライム】を見ながらそう思った。


『【漆黒の堕天騎士】流石!』

『悔しいけど洞察力と冷静さは確かだよな』

『それな』


そんなのは僕が誰よりも知っている。ポッとでのコメントが僕の健児を分かった風に言うなっての。


「それで、【漆黒の堕天騎士】さんにはその条件とやらに思い当たることがあるの?」

「うむ」


へぇ。これから一緒に考えるものかと思ってたけど、そのあたりは流石だ。カメラマンをやってて洞察力に磨きがかかったのかもしれない。


「我が頭脳に思い当たるは双鎧騎士だ」

「双鎧騎士?」


二体一気に倒さなければならない魔獣だ。一秒のずれも許さない魔獣に初見は苦戦を強いられたのは苦い思い出だ。ってかまさか、


「そのまさかよ。百体同時に倒す必要・・・・・・・・・があるのではないか・・・・・・・・・?」

「マジかよ・・・」


『鬼畜すぎるやろ・・・』

『百体同時?』

『どう倒すんや・・・?』

『でも、それなら確かに百分の一・・・』

『その推理に納得させられた』


簡単に言ってくれるが、スライムは核を壊さなければ死なない。それを百体、しかも、最高位に位置する水銀スライムにやれって、中々鬼畜だ。まぁできるけどさ。


「流石よの。【黒血姫】。それでこそ我が伴侶」

「え!」

「あっ、違う!盟友、じゃなくて、仇敵と言おうとしたんだよ!」

「~っ!紛らわしいことを言うなって、馬鹿!」

「す、すまぬ」


『てめぇ!【神妃】だけに飽き足らず【黒血姫】にまで手を出す気か!?』

『あ、綾様が動揺してる?』

『赤くなった綾様可愛い。【漆黒の堕天騎士】の名演技ナイスぅ』

『動画映えのためにやっただけだろ』

『だ、だよな』


いや、絶対に素で間違えたよ、あの馬鹿は。人の気も知らないで能天気なことを言いやがって・・・


「はぁ、まぁいいや。とりあえず仮説を検証しよう。下手な撮り方をするなよ?」

「ふっ、誰にものを言っている」


僕も微笑む。そして、うじゃうじゃいるスライムを見下ろす。


「≪真・黒眼≫」


以前、【白滅の迷宮】でやった≪黒眼≫の強化番だ。効果は≪黒眼≫を受け継ぎながら、さらに目をよくするものだ。僕には今、水銀スライムたちの核が丸見えだ。ただ、これで≪黒血雨≫をやっても同時に殺せるかは微妙だ。だから、


「≪深闇≫!」

「ぶぎゅ!?」


水銀スライムを≪深闇≫の中にぶち込む。丁度百体になるようにだ。もしかしたら百一体だとドロップしない可能性があるからだ。


「99,100・・・よし」


ピッタリだ。そして、≪深闇≫にいる水銀スライムの核をすべて捕捉した。≪深闇≫の中は僕の魔力で充満している。それが水銀スライムの体内にまで届いたのを視て、僕はトドメのフィンガースナップを行う。


「≪黒薔薇≫」


≪深闇≫の中にいた水銀スライムはすべて同時に死んだ。


「ふぅ・・・」

「どうだ【黒血姫】」


おそるおそる健児が聞いてきた。


「ああ、正解だったようだよ」


僕は自分の手に≪水銀の宝玉≫を取り出して健児に見せる。


『すげぇこれが・・・』

『いくらで売れるんだろ』

『綺麗!彼氏に買ってもらいたいなぁ』

『財布が死ぬからやめてやれ』

『宝玉なんてゲームだけの世界かと思ってた』

『それな。貴重な動画や』

『俺たち、歴史の証明人になっているのかもな』


「目当てのものは手に入れたし出るか」

「うむ、三十六計逃げるに如かず」


僕と健児は公園のダンジョンの入口へと猛ダッシュで退散した。


「さて、今日の配信はここまでだ。明日は蒼が配信に出ると思うから楽しみにしててくれ」


『お疲れ様です!これでいいものを食べてください』

『綾様お疲れ』

『蒼ちゃんキタ!』

『我が家のアイドル!』

『骨をあげたくなる』

『めっちゃわかる』


健児と目が合う。そして、


「それじゃあまたね」


僕は軽く手を振ってダン配を終わらせた。そして、ダンジョンの入り口から顔を出す。そして、太陽の光を浴びる。


「昼後に僕の家で」

「はいはい、分かったよ」


一回健児と別れる。ここから先は女の戦いだ。



僕は今日、久しぶりに健児とデート。小学生以来かな。朝から気が気でない。もうドッキドキだ。もちろん獣化状態で二人っきりなんてことはあったけど、それはそれだ。僕は今、家の鏡の前で自分の恰好をチェックしている。前髪は整っているか、服装は大丈夫か、皺はないか、身だしなみを何度も何度もチェックする。


PRなんて面倒なこととしか思っていなかったけど、健児と一対一でいれる機会を作ってくれたのだから、悪くない提案だったのかもしれない。今度、友子に会ったらジュースくらいは奢ってやろう。


さて、今日の僕の課題は一つ。素直になることだ。健児の中で僕はただの宿敵であり、倒すべき敵だということだ。まぁそんな視線を屈辱で歪ませるのも好きなんだけど・・・じゃなくて、健児に素直に甘えることが重要だ。


健児の前に出るといっつもいっつも強気なことを言ってしまう。ここは紅音も同じだろう。ただ、そのせいで女として全く見られていない。いや、もちろん胸はまさぐるように見られるから、性的な目では見られているのはわかるけど恋愛感情とは全く別物だ。


だから、僕は今日、素直になるって決めた。そして、健児との距離を縮めないといけない。黒海さんに手傷を負わせるのは喫緊の問題だけど、こんなご褒美展開を逃したら末代までの恥。なんとかしてここで距離を縮めたい。


ピンポーン


来た!



「相変わらずデカすぎ・・・」


綾の家は武家屋敷だ。とにかくデカい。インターホンを鳴らすと門の向こう側で足音が聞こえる。


「今開ける」


インターホン越しに返事がくる。門がゴゴゴと開いてくる。そして、門が開ききると向こう側に綾がいた。


「お待たせ」

「お、おう」


綾の家は由緒正しい武家の家庭だ。だから、家の中では着物でいる。小学生の時に何度か勝負を挑みに来た時は大体着物だった。俺が今圧倒されているのは、綾の外見に磨きがかかりまくっていることだ。


凛とした長い黒髪と赤い瞳、桜模様の着物、そして、薄く化粧をしているのだろう。クソガキだった小学生時代とは打って変わって大人の女性になっていた。


「おい、じろじろ見すぎだ・・・」

「わ、悪い」

「ふん、行くぞ」


俺は綾の後ろを付いていく。中庭には池に錦鯉、そして鹿威しがある。俺はそれを長い渡り廊下を通りながら眺める。ここまで綾との会話はない。謎に緊張してしまって俺から話しかける勇気が出ないのだ。


「着いたよ」

「懐かしいな・・・」


何畳あるんだっていうくらいに大きい部屋。将軍が評定を行うかのような部屋だ。長方形の畳が部屋中に敷き詰められ、襖で仕切られている。俺たちはその部屋の中央にある座布団に座る。俺と綾の間にある遊び道具を使って勝負をする。


「それじゃあ始めよう」

「お、おう」


座布団に座って脇息にもたれながら、扇子を持つ綾の姿がめちゃくちゃ似合っていた。いちいちその仕草に見惚れてしまう。


「どうせ何をやっても健児の負けだから好きなゲームを選んでいいよ」

「っ!そうかよ!お前のその顔を屈辱に染めるのが楽しみだぜ」

「はいはい」


外見は超絶美人でも中身は綾なので良かった。おかげで冷静さを取り戻せた。俺の目の前には綾が用意したゲームが置いてある。将棋、オセロ、トランプ、囲碁・・・昔からボードゲームが好きだったから、セレクトされたゲームも納得だ。なら、まずは、


「オセロだな」

「いいよ。やろうか」


綾との最初のゲームはオセロになった。そして、


「罰ゲームは一番表面積のデカい物から脱いでいく僕と健児の特殊ルールでいいよな?」

「おう・・・」


やっぱり小学生時代のルールを適用してきたか。まぁ想定の範囲内。やってやろうじゃねぇか。



十五分後


「なんでだ・・・」

「はい、僕の勝ち」


途中までは完璧だった。しかし、それでも負けた。どこが悪手だったのかは分からない。結果は完敗だった。


「それじゃあ上を脱いでもらおうかなぁ」

「クソ・・・」


今は梅雨明けでもう夏だ。俺はシャツと半ズボンで綾の家に来ていた。とりあえず二敗した瞬間に俺はパンツ一丁に靴下とかいう恥ずかしい恰好にさせられる。


「早く脱げよぉ?」

「分かってるわ!」


俺は勢いでシャツを脱いだ。



健児が目の前でシャツを脱ぐ。僕はその様子をしっかりと観察する。腹筋はしっかり割れ、ムダ毛のないすばらしく清潔な身体。所々に滴る汗に僕はごくりと唾を飲んでしまった。


「ふふ、中々エロい、じゃなくて、良い身体をしてるじゃないか」

「くそったれ・・・」


絶景だ。これだけで僕は一週間は夜のオカズに困らない。でも、記憶だけに留めておくのは勿体ない。僕はスマホを取り出す。


「何してんだよ・・・?」

「決まってるだろ?そのエロい、じゃなくて、恥ずかしい姿を残してやろうと思ってな」

「それは罰ゲームに入ってないだろうが!?」

「敗者には人権なんてないに決まってるだろぉ?勝てばこの画像も消してやるよ」

「覚えてろよ!?」


嘘。もうバックアップは十個くらいとっておいてある。万が一、いや、億が一負けることがあったとしても、宝物健児の写真は取られない。


「さてさて、次は僕がゲームを選ぶ番だね」

「絶対に倒す」


僕はゲームを選ぶ。ここは確実に健児を倒して、ズボンを脱がせたい。そこから選ぶべきゲームは、


「将棋で勝負だ」

「だよな・・・」

「心配すんな。平手じゃいくらなんでも僕に有利すぎる。ハンデで飛車と角、後は端の香車を落としてやるよ」


自慢じゃないが僕の腕前は五段だ。素人相手にリンチにして脱がしても面白くない。ギリギリの勝負でお宝映像を脳内に残した方が達成感がある。


「さて、始めるか」

「今度こそ勝つ!」



一時間後


「はあはあ、ちくしょう!」

「危なかった・・・」


まさか健児がここまで強くなっているとは・・・凄い泥試合になったが、僕の執念が健児の王様を詰ませた。脳は大量の糖分を欲しているが、それよりも見たいものがここにはあるのだ。


「そ、それじゃあ、下を脱いでもらおうかな、別に興味はないけど、ね」

「な、なぁ流石に不味くないか?」

「不味くない。それとも負けたのに約束は反故するっていうのか?」

「っ、分かったよ!」


すると健児が立つ。ベルトを外し、ズボンを脱ぎはじめ、ついにパンツ一丁というお宝映像を見れた。健康的で長い脚に、屈強なハムストリングス、それに相まって恥ずかしそうにしている。


「み、見るなぁ」

「エロ過ぎ・・・」


大事な部分を隠そうとしている健児に僕の煩悩が言葉になって表れた。そして、鼻血がどぼどぼと溢れ出て、僕の着物に血が付きそうになるが、こんなこともあろうかと後ろにおいてあったティッシュで血を拭く。そして、


「な、なんて絶景、じゃなくて、楽園、じゃなくて、情けない姿をしてんだよ」

「う、うるせぇ!お前が脱がせたんだろうが・・・」

「ふっ、そうだったね。もっと恥ずかしい姿を僕に見せてみろよぉ?」

「流れるように撮影をしてんじゃねぇ!」

「おっとうっかり」


今のはマジでうっかりだ。僕の欲望が肉体の統帥権を奪った瞬間だった。それにしてもパンツ一丁でここまでなってしまうんだ。健児の全裸なんてみたら僕はどうなってしまうんだろうか。出血多量で死んでしまうかもしれないけど、好奇心がそれを凌駕する。


僕はこの姿で初めて健児の前で素直になっているかもしれない。


「行き過ぎた好奇心は身を滅ぼすというが身をもって体験しているよ」

「何言ってんだか分からねぇけど、絶対に負かす!」

「ふん、次で全裸になって健児の終わりだよ」

「どうでもいいけど、鼻血が溢れてんぞ?」

「おっと失敬」


次で僕の勝ち。楽しみだ。



クソぉ。パンイチとかいう屈辱的な恰好をさせられているが、ここで勝たないと綾に全裸を写真に残されてしまう。次は俺がゲームを選ぶ権利がある。ただ、どうする?悔しいことに綾はゲームの天才だ。ラッキーパンチは通用しない。


囲碁やチェスは何回やっても勝てる気がしない。手番ゲームは綾の土俵だろう。ただ、そんなことよりも、


「何で人生ゲームが選択肢にあるんだ?」

「・・・さぁ」


結婚があるから二人でプレイはできない。これも心理戦か?強制的に引き分けになる人生ゲームなどやったところでなんの意味もない。だからこそ俺が選ぶゲームは・・・


「ババ抜きだ・・・」

「へぇ・・・一番勝率が高いゲームを選んできたね」

「まぁな」


ある意味ではゼロサムゲームだ。しかし、ジャイアントキリングを狙うなら話は別だ。それ以外の運が介在しにくいゲームに比べたらほとんど必ず二分の一にまで勝負を持ってこれる。


「これで勝つ!」

「受けて立つ」



お互いに手札を切っていく。まぁ結局一対一だから、どちらかがババを持っている。お互いに一枚と二枚になるまで心理戦など必要ない。ただ淡々とカードを切っていくのみ。そして、健児の方にババが、僕はAが手元に残った。


「ちっ」

「僕が攻める番だね」


健児はゼロサムゲームだと思っているが、実際には僕の方が圧倒的に有利だ。僕はゲーム関連ではほぼ負けたことがない。そんな中でもババ抜きは特に得意だ・・・。相手の表情を見れば、どっちがババかなど簡単に見抜ける。ババ抜きに運など必要ない。


悪いが健児のパンツを脱がして僕の勝ちだ。おそらく出血多量で死ぬかもしれないが、そんなことはどうでもいい。好きな異性の裸を見たくない人間がいたらそいつは頭に病気を抱えているね。おっと話が逸れた。トドメと行こうかな。


そして、僕は健児の顔を見る。が、


「っ!」


直視できない!健児と正面切って向きあったのは久しぶりだ。カッコ良すぎてヤバイ。直視できずに、下を見ると、健児のパン一の身体が見えてしまい、鼻血が溢れ出てくる。僕はさっと鼻にティッシュを詰め込む。


「おい?どうした?」

「っ、なんでもない!」


僕は再び健児の顔を見るがすぐに赤くなって逸らしてしまう。ヤバイこのままじゃ血が足りなくなる。とりあえずババ抜きは二分の一だ!五〇パーセントで僕の勝ち!こい!


「ちっ!」

「よし!」


僕はババを引いてしまった。こういう時に運がないなぁ僕は。過ぎたことを気にしてもしょうがない。まずはここを乗り切るしかない。



危なかった。綾に一瞬心を読まれたかと思ったが、顔を赤くして変な行動をしたかと思うと、顔をしたに向けたままカードを取りに来た。とりあえずAを取りに来ていたので、直前でカードを入れ替えた。顔をあげられたままだったらできないテクニックだが、この感じだとバレてはいない。


さて、綾の顔を見る。いつもの悪戯顔で俺を見ているのかと思ったが、そうではなさそうだった。なんか全体的に赤いのだ。耳まで赤い。体調が悪いのかもしれない。しかし、ここは戦場。勝負の場に現れた時点で甘さなど捨てた。ただ、


「じろじろ見るな・・・恥ずかしいだろ。馬鹿」

「お、おう」


綾が女らしいのだ。カードで鼻から下を隠し、目だけウルウルさせながらこっちを見ている。ヤバイ。綾なのに滅茶苦茶可愛い。じゃない!負けたら俺は全裸の画像を残されるのだ。勝つほかない。


とりあえず右のカードを触る。ぱあ


左のカード。どよーん


右。ぱあ。左。どよーん。


え?分かりやす過ぎない?この感じだと右を取ったらババで左がAだ。ということは左を取ったら勝ちだ。だけど、綾がそんな阿呆なミスをするか?これは誘導だろう。あからさまに左を取るようにフェイクをしている。


ふっ、その程度の読み合いに俺が勝てないとでもいうのか?


つまり、フェイクのフェイクだ!俺は左を取る!


カードを捲ると、


「よっしゃぁ!Aだ!」

「なっ!?」


綾に勝った!何十何百と負けて幾星霜。ついに幼馴染達の牙城を崩した。俺は思わずガッツポーズをしてしまった。そして、目には自然と汗が。



「な、僕が・・・負けた・・・?」

「うぇーい、見てるぅ、綾ちゃぁん?Aが揃っちゃったわぁ。ねぇねぇどんな気持ちぃ?いつも馬鹿にしている恐山健児君に負けた気持ちはぁ?(笑)」

「コロス・・・」

「凄んだって無駄だよぉん。敗者は綾ちゃんだよ。あ・や・ちゃ・ん。よく見てAが二つだよぉ?僕の勝ちぃ!」


すんげぇムカつく。ここまで煽られたのは初かもしれない。好きとかいう感情は抜きにして、≪神斬り≫しようかな。後で紅音に生き返らせてもらえばいいし。まぁ冗談だけど。


「Fuuuuuuu!」


やっぱ殺そうかな。パンツ一丁で踊り転げる姿は動画に残しつつもイライラする気持ちは収まらない。正直、負けるなんてことはほとんど考えてなかったけど、ゼロではない。健児が天才なのは認める。なんでもできるからこそ僕たち四人と渡り合うことができていたのだ。


自分の得意分野で戦えていたからこそ無敗を守れていたけど、ついに負けてしまった。流石僕の惚れた男とでもいうべきかな。悔しいが仕方がない。


だからこそ、ここからは女の戦いだ。


「健児・・・」

「なんだぁ綾・・・ちゃ・・・ん?」


面積が一番デカい服を脱ぐ。これは小学生の頃からのルールだ。健児はズル賢かったので、靴下を五重くらいに履いて勝負を仕掛けてきた。テーブルゲームなんて一回のゲームで一時間ほどだ。短くても三十分。だから五回もやったら帰る時間になる。


だから僕は脱ぐ順番を面積が大きい順にした。絶景を早く見るため、じゃなくて、屈辱的な目に遭わせるために。もちろん僕も脱がせられるリスクはあるがそれはそれだ。


好きな人になら、まぁ、見られてもいいじゃん・・・?


閑話休題。


ということで僕は面積が一番大きい着物を脱いだ・・・・・・。僕は黒いエロ下着を健児に見せる。健児の視線が僕の胸に超が付くほど突き刺さっている。


「なっ!綾!何してんだよ!?」

「何って罰ゲームだろ?大きい面積の服を脱ぐっていうルールなんだから僕はそのルールに則っただけだけど?」

「くっ」


健児が理性を取り戻して顔を逸らすが、お前の視線は僕の身体に向いていることは丸分かりだ。正直、慌てている健児が滅茶苦茶可愛い。もっとイジメたくなる。


「あれれぇ?僕のことはクソガキとしか思っていなかったんじゃないのぉ?顔を赤くしてるけどどうかしたのぉ?こっち向いて教えてくれよぉ?」

「や、やめろっての!」


超楽しい~健児が僕を意識してる。今までは仇敵とかクソガキとか言っていたけど、女として見ているのかぁ。そうかそうか。それなら、このままゲームの再開だぁ。


「それじゃあゲームの再開なぁ?」

「なっ、その格好でかよ!?」

「当たり前だろ?次、僕が負けたら上を脱いでやるよ」

「なっ!?」

「ん?なんか凄い食いついた気がしたんだけど?」

「いやいやいや。なんでもないよ?」

「そうかそうか。それなら次のゲームは神経衰弱だ」

「っ!臨むところだ!」


僕は一歩前進した気分でゲームに臨んだ。



初勝利に酔いしれて罰ゲームを完全に忘れていた。綾が脱ぐとあんなに迫力があるとは。いや、知ってたよ?だって制服の上からでも盛り上がってたんだもん。知らない男なんていないでしょ?


「それじゃあ先攻を決めるよ?」

「お、おう」


ジャンケンをする。男の俺がパンツ一丁で女の綾が下着姿って、これ客観的に見たらどうなんだ?気にしたら負けな気がするので、俺は冷静にいようとする。


「ちぇっ、健児の先攻だ」

「よし」


俺はトランプをバラまく。先攻なので、何が当たりなのかは分からない。どれを選んでも同じだ。俺はテキトーに捲り、3とJだった。このゲームはとにかくコンボが重要だ。つまり記憶力だ。あらゆるカードの位置を把握し、一ターンでどれだけ捲れるか。


それが重要になってくる。序盤はとにかく記憶。そこに関しては俺は日本最強(俺調べ)だと自負している。だが、俺にとってどれほどヤバイゲームなのかを理解していなかった。


「それじゃあ僕だな。うん、しょ」

「っ!」

「ん?どうした?」

「なんでもパイン!じゃなくて、なんでもない!」


綾が猫のように体を伸ばしながら、俺側にあるカードを捲ってくる。綾の真っ白なうなじが見えて、理性をなくしかける。


「ふっ」

「っ」


こいつわざとか!?ま、まぁいい。これは記憶のゲーム。落ち着いてやれば・・・あれ?さっき俺が引いたカードって何と何だったっけ?


綾の白いうなじにさっき引いたカードをなくされた。しかも、綾の引いたカードじゃなくてうなじを見たせいで一ターン無駄にした。


「ふぅ・・・」


仕方ない。うなじってしまった・・・じゃなくて、やってしまったことは仕方がない。ここから挽回しよう。俺はカードを捲りにいく。Jだった。


「おいおい健児ぃ?それはさっき捲ったものじゃん?」

「なっ!」


やっちまった!言われてみればそうだった。悪夢はそこからだった。綾の煽りに反応して顔を上げてしまうと綾の下着姿が目の前にあった。


「あ、あれ?」


綾の下着のせいでまたJの位置を忘れてしまった。俺は仕方なく、明らかに違う場所を引くのだが、Jだった。やっちまった!


「いただき」

「くっ」


綾に揃えられてしまった。しかし、俺の頭は完全に綾の下着姿に支配されていた。


「んぅ、しょ」


綾が四つん這いでカードを取りに行く。その時に縦に垂れるROCKET OPPAI。ダメだぁ。カードが全部綾の双子山にしか見えねぇよぉ!


「3かぁ」


3の形に吸い込まれるぅ!ってか三ってさっき俺の近くにあった気が・・・


「さっき健児の近くにあったよなぁ」


また綾が俺に近付いてくる。や、やめてくれぇ~お前のうなじが俺の記憶に上書きされちまう~


「あっ、あれ?」

「えっ?」


綾が外した!?それを見て俺は思い出した。3を取りイーブンに戻した。何がなんだか分からないけど、綾がやらかしたおかげでカードが数字に見えてきた。


「よっしゃぁ!」


こっから逆転する・・・あれ?待てよ。俺が勝つと綾が上を脱ぐ・・・


ふぁあああ!?


ヤバイ!ピンクの妄想でまた記憶がおかしくなった。


再びのピンチ。



ちょっと前の綾


くく、最高だ。健児が僕の身体を見て大興奮中だ。もうあいつの頭には僕のことしかない!その証拠に健児は数字の位置を忘れて、僕のことしか目に入っていない。ここまで効果があるなら毎日この格好でもいいかもしれない。なんつって。


「3かぁ」


健児が3を見て、つばを飲んだ。絶対に僕の胸と3を連想したな。僕はこのまま健児の近くにある3を取りに行く。位置は完璧。そこに手を伸ばせば一歩リードを取れる。が、


アレ・・・?パンツが三角形になってない・・・?


僕はソレを想像して、真っ赤になった。全裸にしたら、ソレを見させられるんだった!?ってかここまで三角形になっているってことは僕で興奮して・・・じゃない!で、でも、ソレをソレして・・・


あっヤバい。全部忘れた。と、とりあえず捲らないと・・・!確かこれだ!


「あ、あれ?」

「え?」


やらかした!完全にうっかりしていた!健児はその後すぐに僕の捲った3を取る。


「よっしゃあ!」


健児にカードを取られる。このままじゃ負けてしまう。待てよ?


健児に負ける

上を脱がされる

健児は僕の上裸が見たい


ボン!


や、ヤバイ!勝っても負けても色々不味い・・・というか僕らってもうそういうのをしていい年齢じゃないか。だ、だけど、まだ心の準備が・・・


「う~」



お互いに羞恥心でいっぱいになった健児と綾はその後、記憶したものをすべて忘れてギャンブルでただただ引くだけの情けないゲームと化した。


「よし!」

「くっ」


俺はなんとか命を繋ぐ。記憶をしようと思うが、ご褒美罰ゲームを思い出して、カードの位置を忘れてしまう。しかし、奇跡が起こった。


「よし!Aのペア!Jのペア!4のペア!8もだ!」

「なっ!」


健児は土壇場で覚醒した。


「よし!」

「なっ、何が『よし』なんだよ!この馬鹿・・・」

「うっ」


健児はよしっていうのを綾が勘違いした理由を理解して記憶が吹っ飛ぶ。そして、綾の手番。運が悪いことに一度も開けたことのないペアだらけだった。


ヤバイ、ここに来て運ゲーかよ!どうする?とりあえずどれかを開かないと話にならない。だけど、間違えたら脱ぐことになる・・・でも、もうやるしかない・・・


「い、行くぞ」

「お、おう」


カードを捲ろうとしたその時、


「Dmazonで~す!お届け物に参りました」

「「!」」


そういえば通販で頼んだものがあった。とりあえず取りに行かないといけないけど、僕には着物しかない。学生服もない。


「お、俺が行ってくる」

「あっ、健児!」


健児の方が服を着るのに、時間はかからないから最善とはいえ、わざわざ悪いことをしてしまった。戻ってきたらお礼を言おう。僕はカードを見る。


さて、どうする。どれを捲ろうにも運だ。汗がしたたり落ちるが仕方ない。そもそも今、何対何だ?なんとなくだけど、これを全部捲ったとしても勝てるわけがない。僕は健児の取ったトランプを数える。


「こ、これは」



「ありあっしたぁ!」

「お疲れぇ~す」


俺は配達の兄ちゃんから配達物を受け取って部屋に戻る。すると、場からカードが消えていた。そのカードはすべて綾のところに置かれていた。


「悪い、健児がいない間にすべて捲った」

「おま、何やってんだよ!」

「反則はしていない。そこは信じてくれ」


綾がまっすぐこっちを見てくる。その視線はもうこれ以上何も聞かないでくれというものだった。


「はぁ、分かったよ・・・」

「悪いな健児」

「いいよ。お前は勝負事で嘘をつくような女じゃねぇからな」

「恩に着る・・・」

「?どういう意味だ?」

「これで引き分けだ」

「え?」


俺はカードを数える。すると、13ペア。ジョーカーを抜いて神経衰弱は52枚のカードを使うから、


「僕も13ペアだ。この勝負は無効だね」

「お、おう」


安心したような悲しいようなそんな感覚に陥った。


「・・・どうする?もうワンゲームやる?」

「いや、いい」


もう疲れた。精神的にも肉体的にも。今は家に帰って寝たい気分だった。


「今日は帰るわ」

「了解、またね」

「おう」


健児は部屋を出た。



僕は小学生の低学年の頃に真祖の吸血鬼の権能に覚醒した。血や十字架、にんにくなどおおよそ吸血鬼の弱点とされるものは効かない。もちろん日中でも普通に行動ができる。僕の闇系統の異能や吸血鬼特有の血を使った異能は誰もが羨んだ。


だけど、神様ってやつは人間を不完全に作った。僕の真祖の吸血鬼の力はエナジードレインを無差別に発動してしまう。家族にはその効果を発動しないが、友人を含めたあらゆる人間に発動してしまう。


エナジードレインは生命力を奪う力だ。当時の僕にはそれを抑える術なんてなかったし、垂れ流しだった。友人たちを何人も何人も病院送りにし、僕の事情を知らない大人たちしかりつけようと近づいた瞬間は全員、顔を真っ青にした。


友人だったやつらは僕のエナジードレインが届かないところから、石や消しゴムを投げつけてきた。小学生の頃なんてみんな同じだ。僕を病原菌扱いして触るゲームとかを普通にやるくらいだしね。最初は僕も怖かったし泣いた。


どいつもこいつもどうして手のひらを返すんだってね。でも、僕には恐ろしいくらいの権能があった。いじめをしてきたやつらには力を使って叩き潰し、見て見ぬふりをしていた先生には近づくだけでごうもんになりえた。


そんなことをしていたら、未知の生物への恐れで僕は孤立を深めていき、結局一人になった。学校でも特別学級のクラスにぶち込まれて、一人。僕たちにものを教えられる先生など誰一人いなかったし、近づきたくなかったんだろう。後は、他にも三人ほど同じクラスの人間がいたけど、不登校で一度もあったことがなかった。


一人で僕はやることがなくてゲームをずっとしていた。誰も僕を叱ることがなかったから、なんでもやり放題だった。今の自由なスタイルはこの頃に作られたのかもしれない。


健児との出会いはその頃だった。僕は誰にも会いたくなかったがために、誰も来ないような公園に来ていた。学校をサボってたけど、成績はしっかり納めていたし、文句は言わせないつもりだった。しかし、


「おいお前!」

「何・・・?」

「しょう・・・」


僕は五百代目のポケモ●をやっていたときに、声をかけられた。しかし、僕の力の餌食になってその男の子はバタンと地面に倒れた。いつものことだし、めんどいのでその場から逃げた。ってか学校があるのにこんなところに来ているってどういうことなんだよ。


僕は自分を棚に上げて、その馬鹿なやつを置いていった。



次の日。なぜか知らないけど昨日、ぶっ倒した男の子が気になった。ベンチのところで僕は五百代目のポケモ●をやる。過去作からすべてやる気だったけど、銀とか金をやるハードがない。どうにかして手に入らないかなぁと考えていると、


「おいお前!」

「何・・・?」


昨日の馬鹿でした。全く同じことを言われたので、僕も同じように対応する。昨日と同じでここで倒れるだろうと思った。けれど、


「勝負しろ!俺もポケモ●やってるんだけど、周りに相手になるやつがいない!」

「え?」

「ん?なんだよ?変か?」

「い、いや、なんでもない」

「?おかしなやつだな。はじめようぜ!」

「あ、うん」


結果は僕の圧倒的な勝ち。五百年前の図鑑からすべて僕は手持ちにしているんだぜ?負ける要素が全くない。


「ピカチュ●ってなんだよ!?初めて見たぞ」


地面に手を突いて悔しがる男の子。なんでか分からないけど、征服感があった。その後十回くらい勝負したが、僕の全勝だった。


「クソぅ・・・」


となりで悔しがる男の子に気になることを話しかける。


「それよりも、僕と一緒にいて平気なの?」

「ん?どういうことだ?」

「その、気分が悪くなったりとかしないのかなって・・・」

「ん~昨日は一気に吸い込まれる感覚があったけど、今は蛇口をひねって何も出ないようにしてるから平気かなぁ」

「なんだよそれ・・・馬鹿なやつ」

「なっ!馬鹿って言ったやつが馬鹿なんだぞ!?」

「それじゃあお前の方が馬鹿じゃん」


僕は久しぶりに会話らしい会話をした。最後の方は言い合いになったけど、それはそれで楽しかった。


「ってかママに学校をサボったのがバレる。また今度な」

「あっ、おい!」

「ん?何?」

「名前・・・僕は北司綾」

「ああ~俺は恐山健児。またな!」

「うん・・・!また!」



「なんでだよぉ!」

「健児が僕に勝つなんて千年早いよ」


一か月間健児と遊びまくった。学校に行く途中にここに寄り道に来ているらしいが、いいのだろうか?まぁ色々な疑問があったけど、健児に一番聞いてみたいことを聞いてみた。


「なぁ」

「俺のレックウ●がぁ!エメラルドなんていう超昔のゲームから持ってきたポケモンなのにぃ!」

「話を聞けっての」

「なんだよ・・・?」

「なんで僕に話しかけたの?」


ずっと聞きたかった。僕みたいな根暗陰キャで口の悪い女なんて権能がなくたって付き合いたくない。当時の僕は猫を被っていたから、友達らしきものがいたけど、真の友達なんていなかったのかもしれないなぁ。


「背中が泣いてたから」

「は?」


何を言ってるんだこいつはと思った。


「いつだったか忘れたけど、綾を一回見たことがあるんだわ」

「え?」

「あの日も確か遅刻だった気がする」

「おい」

「でな、その時、寂しそうに綾が一人でゲームをやってたから、友達を作ればいいのにって思ってたんだよ」

「うるさい・・・」

「まぁでもいつかは自然に友達ができるだろうと思ってその時はどうでもいいやと思ったんだよ。だけど、また綾がいないかと思って公園に来たら、全く寂しそうな背中が変わらねぇんだもん」


からから笑いながら言う健児に僕はボカボカと殴りまくる。


「痛いっての!」

「健児が馬鹿なことを言うからだろうが!」


僕は顔を赤くして、健児と攻める。一通り攻めが終わると話が戻る。


「はぁ・・・話を戻すと、綾が一人でいるのが気に喰わなくて俺が友達になりに来たんだよ」

「余計なお世話だっての・・・」


僕は顔を逸らした。嬉しさと嬉しさと嬉しさで顔が真っ赤だ。健児のクセに生意気だ。


「まぁ結果的にお前に声をかけてよかったわ」

「え?」

「お前といると、安心感、というか、本当の自分でいれるというか、うう~ん、違うなぁ。あっ、まぁ結局楽しいってことだ!」


突然の本音に僕は健児を見ていられない。毛先をいじいじ、指を絡めながら、僕は言葉を紡いだ。


「言葉が貧困だよ」

「ひんこん?大根のことか?」

「違うよバーカ」


健児を馬鹿にした。そして、


「帰る」

「急すぎるわ!」

「じゃあね」

「あ、おい」


五十メートルくらい先の角を曲がる。そして、心臓を抑える。


「なんだよこれ・・・」


胸がどきどきして苦しい。頭の中が健児でいっぱいになった。赤くなった顔は誰にも見られたくない。目の前を通り過ぎた黒猫がこっちを振り返る。


「見るなっての馬鹿・・・」


僕が健児を好きになった瞬間だった。


なおこの後、健児をゲームでボコボコにし過ぎたせいで友達からランクダウンしたのは僕の失態だった。



「はぁ、素晴らしい戦いだった」


僕は着物を再び着る。一人だから凄い時間はかかるがそこは慣れたものだ。健児のエロフォルダを見ながら僕は愉悦に浸っていた。


「それにしても素直になるっていうことはできなかったなぁ・・・」


ある意味では一番欲望に忠実ではあったけど、こういうことがしたかったわけではない。せめて友達に戻れるように頑張ろうと思ったがこれではなんの更新もない。ただ、お宝画像が増えただけだ。


僕は鏡の前にたつ。そして、帯を結んでいく。その時に、僕は神経衰弱を思い出した。僕がイカサマをしたあの最終ゲーム。なんてことはない。健児がいない間に全部捲っただけだ。


それでも健児がもういいと言ったのはお互いに精神的に疲れたからだ。アレがなかったら僕が上裸になればいい。その覚悟はできていたし、追及されればそのつもりだった。だけど、そうはならなかったということは僕の思惑通りだったのだろう。


僕は鏡を見ながら、自分の胸を両手を使って持ち上げる。


「健児おかえりぃ、お風呂にする、ご飯にする?それとも僕のおっぱいが良いのかなぁ?なんつって」


姫神みたいにこびこびでいう。


「お、おう」

「!?」


振り向くといるはずのない健児がいた。


「な、なんでここに!?」

「スマホを忘れて・・・」


よりにもよって最悪な瞬間を見られた。やるしかない。


「~~っ!≪神斬り:記憶消し≫」

「え?」


僕は健児の脳天に魔力をぶつける。それで気絶した。


「この馬鹿健児!」


僕はその後健児を公園のベンチに寝かせて、知らぬ存ぜぬを貫くと決め

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