蒼side

「ガウ!」

「グル・・・」


俺様、今日は健児と二人でお散歩なのです。≪白葉密林≫という場所に来ているのです。そこで今は狩りの時間。狙っているのは白虎から落ちる≪白虎の白金爪≫なのです。中々落ちないレアアイテムなので少しイライラするのです。


白い葉に擬態しているので、見つけるのも結構苦労なのです。なにより一番厄介なのはこのジャングルに生えている白い葉っぱは魔力を奪うのです。俺様からしたら微々たるものですが、塵がつもればなんとやらなのです。


もう五時間近く潜りつづけているのですが、中々キツイのです。


「あぅ~、俺様少し疲れてきたのです・・・」


『蒼ちゃん頑張れ!』

『本当に擬態がうますぎて映像じゃ見つからん』

『蒼ちゃんの動きえぐすぎ』

『それな雷の軌跡しか追えん』

『可愛い・・・』

『困り顔の蒼ちゃん最高』


「ふっ、この程度で音を上げるとは・・・腕が落ちたんじゃないか?【獣王妃】」

「がう!?そ、そんなことはないのです!けん、じゃなくて【漆黒の堕天騎士】こそカメラを持つ手が下に降りてきているのです!俺様のパンツを撮ろうとしているのはバレバレなのです!」

「違うわ!疲れたのはマジだけどそういうことじゃねぇよ!」


『ド変態!』

『俺たちの蒼ちゃんになんてことを!?』

『さっきから画面がブレブレになっているのってそういうことか!』

『最悪(よくやった!)』

『全くだよ。見損なったわ(分かってるぜ同志!)』

『お前らも同類だよ』


なんで俺がパンツを撮ろうとしたってことで確定してんだよ。これが印象操作か。


「それにしても見つけるのが大変なのです。匂いも足音もないし、白い葉っぱに擬態されては大変なのです・・・」

「そうだな」

「魔力も吸い取るので厄介なのです・・・」


感覚器官に引っかからないのがとにかく厄介なのです。俺様でギリギリ感じられるレベル。しかも結構接近しないとキツイのです。しかも白虎は魔力を食べるので接近すると、吸い取られるのです。それが白虎の力なので仕方がないと言えば仕方がないのですが・・・


「ふむ、果報は寝て待て・・・か」

「?どういう意味なのですか?」

「このまま闇雲に動くのは迷宮を何の目印もなしに探索するのと同じ。しからば、白葉の暗殺者共を迎えに行くより来てもらうのが良い」

「あう?」


たまに健児は何を言っているのか分からなくなる時があるのです。


「つまり、釣りだ」


『白虎を釣るってこと?』

『来てもらうのが良いって言っているけど、何を餌にするんだ?』

『肉?』

『ダンジョンの魔獣って肉を喰うの?』

『知らん』


コメント欄が荒れているのです。釣りには餌が必要。すると、健児の口元が嗤いました。


「我だ」



「準備は良いか、【獣王妃】?」

「バッチリなのです」


俺は蒼に作戦を伝えた。綾と水銀スライムを探したときには百体という馬鹿みたいな数を同時に倒すことでアイテムをゲットできた。しかし、今回の≪白虎の白金爪≫を得るのに水銀スライムと同様の条件はいくらなんでもきつすぎると思う。


だから、今回に関してはしっかり数を倒すことはもちろん、運が絡んでくる。つまり、試行回数がある程度は重要になってくる。だから、釣りだ。そして、俺は蒼の技を使う。


「≪紫電霧:広範囲≫!」


雷の霧を発生させる。もちろん倒すためじゃない。そもそも魔力を喰う白虎に対して、密度の薄い≪紫電霧≫を使っても喰われるだけ。ならなぜ≪紫電雷≫を使っているかというと・・・


「!見つけたのです!」


俺の魔力が減った場所に白虎がいる。その前提で蒼が≪紫電纏≫を使って超速で向かい、そして、ぶっ倒す。さながら、俺がレーダーの役割を俺が担い、蒼がそれを感知してそこに向かうという魚群探知機の役割と実際に獲物を狩るという役割を担う。


蒼の後を超速で追いかけ、カメラを外さない。パンツを狙っているのなんていう不名誉はマジでいらない。蒼は白虎を視認して、右手に紫電を纏って頭をぶん殴って殺す。それを動画に収めるのはマジで大変。ただ、


「白金ではないのです・・・!次、右から感じるのです!」

「あっおい!」


蒼のスピードについていきながら蒼をフレームにおさなめなきゃいけないので滅茶苦茶体力を使う。


『はええ!』

『蒼ちゃんの動きが早すぎて見えない』

『再生速度を半分にすれば丁度ええで?』

『マジだ。サンキュー』

『可愛い。おじさんからのお小遣い』


結局その後の三十分で二十匹ほど倒したけど、本当に落ちない。マジで衣装係のやつらに苦情を言いたい。いくらなんでも難易度がえぐいって。すると、前を行く蒼が動きを止める。


「止まるのです」

「ふむ?」


言われてカメラを向けてみる。そこには擬態も何もしていない白虎が寝転がっていた。


『うっすらとしか見えていなかったけど、マジで白い虎なんだな』

『神々しい・・・』

『もふもふだぁ』

『何をしてんだ?』

『怪しい。でもこっちに気が付いている感じがしないな』


コメントの言う通りだ。こっちに気が付いていないというか別の何かに集中して・・・・・・・・・いるかのようだった・・・・・・・・・


その異変はすぐに分かった。


「「あっ」」


俺と蒼の言葉が揃った。目の前の白虎は出産中だったのだ。赤ちゃん白虎の頭が出てきて俺たちはその光景に見入ってしまった。


『お母さんだったのか』

『そりゃあ仕方ないわな』

『魔獣って子供産むんだなぁ』

『これも歴史的瞬間じゃね?』

『研究したいです。サンプルをいただけませんか?』

『空気読めや』


出産の瞬間というのは神々しさすらある。これは全生物共通のことだろう。両親あって俺たちがある。それが連綿と受け継がれてきた。今ある命に俺は感謝すらしている節がある。俺は蒼に別の白虎を獲りに行こうと言おうとした。


「チャンスなのです!」

「は?」

『は?』


蒼の言葉に俺とコメントの言葉が完全に重なった瞬間だった。何を言っているのと聞く前に蒼は、


「≪紫電槍≫!」


紫電を槍の形にして、蒼は生まれたばかりの赤ちゃん白虎にぶん投げた。そして、鮮血がほとばしり、白虎の母親と俺とファンの方々は一斉に黙った。そして、怒ろうとした母親白虎は急襲してきた蒼のスピードについていけず首元を噛まれて絶命した。


生命の誕生を祝福していた母子は空気の読めない阿呆狼によって絶命した。そして、笑顔でこっちを振り返り、


「Vなのです!」

「じゃねぇよ!お前馬鹿か!?」

「な、何をするのです!」

「俺のはたきツッコミを簡単に受け止めて腕を握るんじゃねぇ!折れるわ!」

「あっ、ごめんなのです」


『あああああ蒼ちゃん!?』

『な、なんてことを・・・』

『えぐすぎる・・・』

『脳震盪が・・・』

『鬼畜すぎるよぉ』


今回ばかりは蒼に対しても当然の疑問が起こる。俺はみんなを代表して疑問をぶつける。


「やりすぎだ【獣王妃】。搾取が過ぎれば後々不幸な目に遭うぞ?」

「何を言ってるですか?」

「だから、お前には義理とか人情とかないのかって言っているんだよ」

「?」


蒼は心底分からないという顔をしていた。これは倫理の勉強をしないと不味いかもしれない。


「だからな」

「≪白虎の白金爪≫はゲットしたですよ?」

「はい?」


そう言われて手渡されたのは確かに今回狙っていたものだった。え?なんで?


「俺様、あの白虎の親子、特に子供の方が成獣よりも体に魔力が充満しているのを感じたのです」

「お、おう」

「それでここにきて観察していたのです。そしたら、母親の魔力すらも吸っていたのです。これは何かあると思い爪を見たら、白金だったのです」

「・・・え?」

「だから、≪白虎の白金爪≫の入手条件は生まれたばかりの赤ん坊白虎の爪のことを指すのです。どうです【漆黒の堕天騎士】!俺様よくやったでしょう?」

「お、おう」

「わーい!なのです!」


キャンキャンいって【白葉密林】を駆け回る蒼を見て俺は茫然とした。ファンもこんな冷酷な姿をみたら引いてしまうのではないかとコメントを恐る恐る見てみることにした。


『これは・・・』

『蒼ちゃんは何も悪くない・・・』

『目的のために動いたわけだしな』

『鬼畜蒼ちゃん最高っす!』

『俺も無邪気に踏まれたいと思いました!』

『蒼ちゃんに踏まれ隊を作ろう』


良かった。変な方向に性癖が開発されているやつらがいること以外はおおむね大丈夫だ。


「キャン!」

「うお!」


蒼が俺の背中に飛びついてきた。ヤバイ。柔らかい何かが凄い当たってくる。ええい!動くな!俺のSONが起きてしまうだろうが!俺は悪手だと思っても自分と蒼が映るようにカメラを構えてしまった。もちろん俺はマスクをしているのでバレるわけがない。


『てめぇ今度は【獣王妃】に手を出すってか!?』

『殺すぞ!?』

『処す』

『蒼ちゃんファンの俺としては許せん』

『蒼ちゃんの感触はどうなんだ!丹念に説明しろや!』


蒼はそんなコメントを無視して、笑顔でカメラに手を振るのみだ。


「今回はここまでなのです!明日は【蒼炎妃】紅音が活躍するので楽しみにしてるです!」


『やったぁ!今度は紅音ちゃん!』

『赤い髪の子だぁ!』

『ぅひょお!ツンデレツンデレぇ!』

『死に芸を期待してまぁす!』


「バイバイなのでぇす」

「達者でな。愚民共」


『蒼ちゃんとの関係を言えや!』

『さっさと離れろ!』

『ツーショットとか許さんぞ!』

『掲示板で拡散だぁ!』


俺はこれ以上イジメられたくなかったので、電源を落とした。


俺と蒼はダンジョンを戻り、いつもの公園の穴を上がる。周りに誰もいないのを確認する。


「それじゃあ健児!また後でなのです!」

「おう・・・ってか暇ならダンスの練習をしろよ」

「それはそれこれはこれなのです。綾とは遊んで俺とは遊んでくれないですか・・・?」


うるうると瞳を濡らしそうになる。ぐうと俺は唸り観念した。


「わ、分かったよ」

「わーいなのです!後で俺様の家に集合なのです!」

「はいはい」


俺たちは一度別れた。



蒼の家は少し遠い。というよりも少し特殊な場所にある。神成高校の反対側には大きな山がある。そこの麓に蒼の家がある。もちろんその山は京極山といわれる蒼の家が所有している山だ。家は古風でインターホンのようなものはない。


小学生の頃は良く来ていた。山というフィールドは心も体も生き返らせてくれる。田舎で将来は嫁さんを作って田舎でスローライフもいいかもしれない。


「蒼~来たぞぉ!」

「あっ、ちょっと待つのです!」


家の中から蒼の声が聞こえてて来た。スマホをいじりながら待っているとガラッと扉が鳴る音と蒼が走ってくる音が聞こえた。もっとも音よりもはるかに速いスピードで移動してくるので、残像ならぬ残音だけどな。


「遅いぞ」

「えへへ。ごめんなさいなのです」

「お、おう」

「どうかしたですか?」

「い、いや、なんでも」


蒼は白のタンクトップとデニムのショートパンツで出てきた。そして、トレードマークのカチューシャをしながら、ホワイトベージュの長い髪をポニーテールでまとめていた。脇とか下着とか色々丸見えなので目のやり場に困ってしまった。


このままだと変な空気になりそうなので、俺は話を進めることにした。


「そ、それで今日はどんな勝負をするんだ?」


蒼との約束。それは勝負だ。綾についに一発入れた俺はこのまま全員に復讐したい。特に蒼には死ぬほどボコボコにされてきた。綾たちの比じゃない。なんなら蒼に一番リベンジしたいという欲求が強いかもしれない。なぜかというと、


「え?俺様に勝つつもりでいるですか?頭おかしいんじゃないですか?」


これを天然で言ってくるんだよ。もちろん蒼の純粋さ故だというのは分かっている。こいつは幼馴染の中で一番純粋なのでいいやつではある。だからこそ心の底から出た言葉が俺との力の差を表しているようで怒りたくなる。


「ふん、小学生の頃とは違うんだよ。今日こそはボコボコにしてやるよ」

「無理なのです。健児じゃ百万年経っても俺様には勝てないのです」

「やってみなきゃ分からねえぞ?」

「はぁ、やれやれなのです。身の程を分からせてあげなきゃいけないみたいなのです。健児は俺様のつが、じゃなくて、犬なのです。ポチなのです。ワンワン言って尻尾を振っているだけで可愛いのです」

「それはお前だろうが!」

「お、俺様、可愛いですか・・・?」

「そうじゃねぇ!」


犬とかそういうのだけは言われたくねぇ!ただ蒼は勝負に乗り気じゃない。それが隙だな。傲慢な捕食者は喰われるんだぜ?


「まぁいいです。罰ゲームは昔の通りでいいですよね?」

「ああ、勝った方が負けた方の言うことを絶対に聞くってやつだよな?」

「はい。それじゃあ勝負は健児が選んでいいですよ?」

「それじゃあ、PK対決だ!」


蒼の家にある手作りのサッカーゴール。それを使ってPK勝負だ。



昨日の夜。綾が物凄くうるさかったのです。


『健児とゲームをした』

『ボコボコにしてお宝映像をたくさんゲットした(笑)』

『健児の裸最高。アレも見たかったけど、出血多量で無理だった』

『負けたぁ!』

『僕の身体で興奮しまくってた。お前らじゃ無理だろうけど(笑)』

『一歩お先に失礼しまぁす』


殺意しか湧かなかったのです。後は健児がこうだったとか愚痴っぽい惚気をたくさん聞かされたのです。俺様何度スマホを破壊しようとしたかなのです。まぁいいです。今日は俺様の番なんですから。黒海さんを倒さないといけないのですが、一回それは置いておくのです。


綾にだけは負けるわけには行かないのです。俺様達は友達じゃなくてライバルなのですから。


「ルールは子供の頃と同じでいいよな?」

「はいなのです。五本打って決めた数が多い方の勝ちなのです。決着しなかったら延長戦なのです」

「おけ。なら俺から打たせてもらう」

「了解なのです」

「行くぞ!」


健児が俺様の前にボールを置いたのです。そして、助走をつけ、ボールが右隅の上に吸い込まれていきます。驚きました。確かにサッカーの腕が上がっているようです。だけど、


「≪紫電纏≫」


俺様は自分の技を使って、高速移動で健児のシュートを止めます。ゴールの幅的に0.0001秒あれば両サイドに間に合います。


「ちっ、やっぱりか」

「がう?」

「お前が昔からPKに強すぎた理由だよ。≪紫電纏≫を使ってたんか」

「そうです。だけど当時は無我夢中でした。早く動きたいと思ってたらできちゃってたみたいな感じなのです」

「なるほどな」


健児はそういってゴールキーパーの位置に移動します。意外に冷静です。昔だったら地団太を踏んでたと思うのですが。まぁいいです。俺様が決めて一歩リードです。


「それじゃあ行くのです!」

「来い!」


俺様は紫電を右足に纏います。そして、


「≪蹴雷≫!」


超スピードのシュート。スピードは千キロを超えるのです。今更ですが権能の使用はありなのです。勝つためにはあらゆる手段を使っていいというのが健児の考えなのです。まあそれを許可していたの俺様の器故なのですが。とりあえず一点です。このまま入ると思ったのです。しかし、


「甘いな≪氷盾≫!」

「なっ!?」


ゴール全てに氷の壁ができたのです。俺様の蹴ったボールは氷にめり込んでゴールとはならなかったのです。


「よっしゃあああ止めたぞ!」

「ゆ、油断したのです・・・」


健児はスライムで涼の技を使えたのを忘れていたのです。別にそれはいいのです。ただ、


「なんだよその顔?反則とかいう気じゃないよな・・・?」

「違うのです!それより今から使っていいのは俺様の異能だけなのです!」

「なっ!?ずるいぞ!?」

「つーんなのです!」


ここにいない涼の技を使ったのです。二人っきりで遊んでいたのに涼に邪魔された気分なのです。これ以上は屈辱なので、ルールの追加なのです。


「まぁお前の技だけでも十分か・・・」

「!えへへ・・・」


褒められたのです!


「それに蒼以外の技を使ったらあいつら頼っているようなもんだしな。こっからが本番だ」

「はいなのです!健児の負けで俺様の勝ちなのです!」

「ほざけ!」


俺様と健児はPKを続けていったのです。



「くそぅ・・・」

「ふふん!なのです!」


結局最初の一本以外は一発も止められなかった。反対に蒼にはすべてのシュートを止められた。本気を出されたらここまで差があるのかと思い知らされた。


「それじゃあお楽しみの罰ゲームなのです!」

「く、殺せ!」


昨今の姫騎士になってしまった。それほどに負けを受け入れられなかった。何をさせられるんだろうと思っていると、リードと首を持ってこられた。


「・・・これは?」

「健児がするのです。そしてパンツ一丁になりながら犬のポーズを取るのです!」

「はぁ!?いくらなんでも酷すぎるだろ!?」

「うるさいのです。敗者は身ぐるみ全部剥されるのです。パンツを残しただけ喜ぶべきなのです!」

「くっ、覚えてろよぉ!?」


おれは服を脱ぐ。昨日の綾といい、なぜこうも俺を脱がせたがるのか・・・俺を辱めるという目的なのは分かっている。


「おお~・・・」

「なんだよ?」

「な、なんでもないのです!」


蒼は反対側を向いてしまった。



これが健児の成体・・・小学校以来なのです。端的にエロい。綾が腹筋腹筋てずっとうるさかった理由がわかったのです。これはエロいのです。触りたいのですが、今回のルールは首輪とリードを付けて半裸になるというルールのみです。


「くっ、やっちまったのです」

「おい、どうでもいいからこっちを見ろ・・・」

「あう?」


するとそこには首輪にリードをしている健児がいました。最高です。なんかこうイジメたくなるのです。と、とりあえず写真とそれから


「な、なんだ?」

「俺様の雷なのです。身体の自由を奪いました。四つん這いになるのです!」

「身体が勝手に!」


健児は無駄な努力をしているのです。俺様は神経系の自由を奪ったのです。だから、どれだけ抵抗しても健児の四つん這いは止まらないのです。


「クソぉ!」

「はい、チーズなのです!」


セルカ棒を使って健児の上に座りながらピースするのです。最高です!俺様の好きな男が屈辱に顔を歪めているのです。


「はぁ最高だったのです」

「ちくしょう!次だ次!」

「はいはいなのです」


ふふん、こっからもご褒美タイムなのです!



野球では、


「それ!なのです!」

「クソっ!」


三者凡退全弾本塁打で負け、


陸上では、


「遅いのです!俺様二往復目ですよ?」

「畜生!」


百メートル走ではかつてないほどボッコボコにされ、


バスケでは、


「俺様のシュートレンジは全コートなのです!」

「伝説の漫画を軽く超えるんじゃねぇ!」


コートのどこからでもダンクを放たれるとかいうチート。


全ての勝負で俺はボロボロだった。いっそ哀れだ。何をやっても勝てる気がしない。というか性能が違いすぎる。フェンリルは獣の王だ。言い換えればすべての動物の王とも捉えることができる。そんな化け物に勝てるのか・・・


いや!ここで折れたら負けだ。まだほかにも競技が残っている。


「次はどうするですかぁ?」


蒼はバットをペン回しの要領でくるくると両手で回している。少しカッコいいと思ってしまった。


「・・・柔道だ」

「は~いなのです!」


くそぅ・・・余裕しゃくしゃくだ。あの阿呆みたいな身体能力を抑えられるとは思わないけど、やるっきゃない。俺は中学の時に誰とも組むことなく綺麗なままの柔道着を持ってきていた。俺の相手はいつも学校の大木だったなぁ。


「お待たせなのです!」

「お、おう」


そういえば蒼って女の子だった。というかこのまま組み合うと色々変なことになるんじゃないのか?いやそんな考えはナッシング。そもそも蒼を捕まえることが前提になっているのがよくない。相手は神獣だ。甘えはやめろ。


「ふぅ」

「それじゃあはじめ!あっ・・・なのです!」


お前のアイデンティティの『なのです』はそこまで重要なのかと一瞬気が抜けてしまった。しかし、それが俺の終わりを告げていた。蒼は雷速で俺の懐に潜り込んでいた。


「しまっ!」

「もらったのです!」


そのまま背負い投げ。おれは≪紫電≫を使ってなんとか身体を捻り、なんとか背中が付くのを防いだ。


「ちっ、決まらなかったのです!だけど、倒したのです!抑え込めば俺様の勝ちです!」

「くっ!」


蒼は俺を脇で抑え込んできた。不味い!この体勢は!


「袈裟固めなのです!」


柔道の抑え込みであり、基本技。袈裟固めをされた。普通に優秀でかつ基本の技になるが、問題はそこではない。蒼のOPPAIに顔面が当たっていることだ。しかし、そんなことに気が付かない蒼は俺を胸死させようとしてくる。


「後9秒、8秒、7秒・・・」


ヤバイ!なんでもいい!とにかく暴れてなんとか身体を起こさないと!しかし蒼のガードが超が付くほど堅い。全く外れる気がしない。本気の≪紫電纏≫を使っているが、全く意に介していない。


「5秒、4秒」


あかん。マジでヤパイ。じゃなくてヤバイ。本当に負けちまう。だけど、どう頑張ってもこの拘束から抜け出せない。俺は再び罰ゲームを覚悟した。しかし、


「3秒、2秒・・・くぅん。もう我慢できないのです・・・」

「え?」


突然、拘束を解いて、俺は自由の身になった。何が何だか分からない。だが、蒼はぺたんと女の子座りをしてポーっとしている。熱を帯びた表情をしていた。余裕とかそういうのじゃないのは確かだ。いや、そんなことよりも。


「チャンスだ!」

「あぅ・・・あ!?」


俺は蒼を押し倒し、今度はこっちから袈裟固めをしてやった。



ふふん。遅すぎるのです。健児は俺様の動きを追えていないのです。いくら俺様の力を使えるとはいっても所詮はコピーなのです。オリジナルである俺様に勝つにはいろいろ足りてないのです。ほら、懐が空いてるのです。


俺様の背負い投げにギリギリで≪紫電纏≫を使って背中から地面に着くのを防いだようですが、無駄なのです。このまま抑えこんで俺様の勝ちなのです!今度はどんな罰ゲームをやらせようかなぁなのです。


犬みたいに甘えてもらうのもいいかもしれないのです!健児が甘えてくるのは凄く良いことなのです!さぁ俺様が抑え込んで勝ちなのです!


「9秒、8秒、7秒」


健児が抑え込まれた中で暴れまわっているのです。胸のところに触れている部分がちょっとくすぐったいですが、それは我慢です!というか健児はこの脂肪が好きなのです!だったらご褒美になっているのでWINWINなのです!


ん?なんですか。この匂いは?いい匂いなのです。あれ?頭がくらくらしてくるのです。匂いの元を探ってみると健児の首元です。それが汗と混じって凄いくらくらするのです!


「3秒、2秒・・・くうん、もう我慢できないのです・・・」

「え?」


頭がポーっとするのです。でも嫌な感じがしないのです。というかもっと欲しいのです。でも、あれをもう一回やったら、凄いことになってしまうのです・・・で、でももう一回!


「チャンスだ!」

「あぅ・・・あ!?」


油断したのです!健児ごときに抑え込まれるなんて最悪なのです!俺様はすぐに抜け出そうとしますが、


「くうん・・・」


あの匂いで力が入らないのです。それと健児が凄い近くにいるのです。俺様の生殺与奪をすべて握られ、健児独特の匂い・・・身体に力を入れようにも征服されているこの状況に凄く満足してしまっているのです。


「5秒、4秒、3秒、2秒」


じゃないのです!俺様は【獣王妃】!負けることは許されないのです!残った魔力を使って全力で≪紫電纏≫をします。しかし、


「≪紫電纏≫!」

「なっ!?」


健児もここ一番の魔力を使って俺様の≪紫電纏≫を相殺します。それは俺様のよりも出力は弱いのです。だけど、二秒を稼ぐのには十分な出力でした。俺様は力を入れるのを止めます。


「はあはあ」

「はあはあ」


健児と俺様は肩で息をします。そして、


「俺の勝ちぃぃぃ!」


健児が高らかと宣言します。


「よっしゃあああああああ!蒼に勝ったぞぉ!あの天然侮りマウントガールからついに一本取ったぞぉ!」


散々な言われようなのです!俺様は一言返そうとしますが、


「俺の勝ちなのですぅ!負けたら生殺与奪に人権はすべて勝者のものになるんですぅぅ!」

「がう・・・」

「あれれれれええええ?どうしちゃったのかなぁ?いつもみたいに俺様モードでマウントを取りにきてもいいでちゅよぉ?」


≪雷轟≫したいのです。未来の健児をぶっ倒したいのです。でも健児の言う通りなのです。負けたら絶対服従。でもなんでなのですか?健児に支配されると思ったらなぜか興奮してきたのです。


「それじゃあ罰ゲームな」

「あう・・・」



「それじゃあ罰ゲームな」

「あう・・・」


俺は念願かなってついに蒼に勝つことができた。蒼は顔が熱くなっているようだが、そんなことは知らん。俺が今まで受けてきた屈辱の何千分の一を受けろ!とりあえず、蒼は人の下に付くのが苦手だ。だったら、


「それなら首輪とリードを付けて、四つん這いになって『ご主人様。今までごめんなさいなのです』って言え」

「そ、そんなことは!」

「え~言えないのぉ?勝負に負けたのにぃ?」

「あぅ・・・」


すると蒼は覚悟を決めたのか、俺の方を一瞬だけ、キッと見て首輪をつけた。気分がいいなぁ。まさか蒼にこんなことができるなんてなぁ。夢みたいだぁ。今日は母さんに頼んでステーキにしてもらおう。


「あう、ご主人様」

「おう」


まさか蒼から言ってくるとは。すげぇ気持ちいい!


「俺様しっかり脱ぐのです」

「おう!・・・え?」


なんか聞き捨てならないことを言われた気がする。すると、蒼は柔道着の帯を外し、下着姿になる。


「なっ!?お前何してんの!?」

「ご主人様が脱いでいたのに俺様が脱がないなんておかしいのです」

「だからって女のお前が脱ぐ必要はないだろうが!命令違反だぞ!?」

「ダメなのです!脱ぐのです!」

「そこだけ頑ななのはなぜだ!?」


どうも様子がおかしい。蒼は頬を紅潮させている。これは尋常じゃない様子だ。俺は蒼を制止しようとするが、もう下も既に脱ぎ終わっていた。というかよくよく考えてみたら、蒼に首輪をつけている時点で色々不味い。


冷静になって考えてみると同級生の女に首輪をつけて服を脱がせているって完全にそういうプレイにしか見えない。俺は命令を止めようと思ったが、


「健児、これを持つのです」

「お、おう」


おうじゃねぇのよ!なんで言われるがままにリードを掴んでるんだよ俺は!?


「ご主人様、今までごめんなさいなのです」


うるうると瞳を震わせ、俺を見上げている半裸の同級生。色々な部分が育ちすぎているせいで俺の理性はもう限界だった。だからとりあえず


「こちらこそごめんなさい」


俺も土下座した。



「とりあえず、帰るわ・・・」

「あう・・・また今度なのです」


健児は俺様の家から帰っていきました。それを見送って俺様は冷静になります。健児に犬扱いされて、服従を誓わせられたあの時は俺様おかしかったのです。でも、あれには凄く興奮してしまっていたのも事実なのです。


今度からわざと負けて・・・って違うのです!今度はボッコボッコにするのです!健児はこれから先も俺様の番、ペットとして一緒に居てもらうのです。


「あっ!カチューシャ」


俺様はボロボロになったカチューシャを見ます。俺様にとっては大切な思い出の品なのです。


俺様の権能が発現したのは小学生の低学年の頃なのです。元々、友達は友達もいないし、運動も大嫌いなどんくさい女。それが私だったのです。教室で騒いでいる同級生がいる中で一人読書を嗜んでいたのです。


前髪は滅茶苦茶伸びていて、誰にも目を見られないようにしたのです。基本は猫背で腕も足もひょろひょろ。身体もそんなに強くなかったので、夏でも長袖長ズボンでいたのです。


けれど、フェンリルの権能が発現するとおかしくなりました。周りの人間たちはSランクの権能ということで俺様の意思とは関係なく脚光を浴びてしまいました。最初はそれでもよかったのです。心のどこかで人気になりたい、友達が欲しいと思っていたのでしょうから。


だけど、それが良くなかった。フェンリルは狼の王。すべての動物に威圧感を与えてしまう。それは存在するだけで周りの人間を寄せ付けないほどの力だったのです。なんとなく怖い、近づきたくないという恐怖を植え付けるだけでしたが、それは人間を近づけない俺様だけの檻となってしまったのです。


しかも成長期の俺様に比例して、与える恐怖量、範囲がどんどん広がっていき、俺様が教室にいるだけで、クラスメイト達が失神してしまうほどになってしまいました。そこからは酷かったのです。同級生ではなく、そいつらの親たちから俺様はイジメられることになったのです。


俺様はいるだけで子供を恐怖に陥れる女。そんな恐怖の存在を大人は狡猾な手段を使ってイジメるのです。大人からのイジメは酷いものなのです。俺様のお父さんの会社の取引を止めてクビにしたり、お母さんをママ友仲間からハブったりと周りの人間を巻き込むのです。


俺様にはかなわない。そう思った大人たちは卑怯なのです。一匹の猛獣は、資金、金、時間、人脈を持つ大人たちの包囲網にはかなわなかったのです。そのせいで俺様の家族は酷い目に遭いました。世界最強の権能を持ってても、精神は未熟だったのです。


俺様は学校に行くことを止めました。あそこにいては両親が苦しむ。だったら、俺様はまた一人で本を読んで静かに暮らすだけなのです。両親は山を買って静かに暮らそうと言って、今の場所に引っ越したのです。


風の噂で聞いたのですが、そのクラスの親たちは今でも仲が良いらしいです。みんなで頑張って俺様を排除したから仲間意識が生まれたらしいのです。こうやって群れができていくのです。俺様は学びました。


でも、そんな俺様の生活も健児との出会いで変わったのです。



「うんしょっと」

「悪いな。蒼」

「いいよ。元々は私のせい・・・・・・・なんだし・・・・


小学生の膂力じゃ持てないほどの量の荷物を軽々と持つ。のせいで両親に負担をかけてるんだから、これぐらいはやらないといけない。


「それじゃあ私は散歩してくるね」

「おう、気を付けてな」


お父さんは部屋でゆっくりするらしい。下手に外に出れなくなった私たちは基本的にすべてを通販で済ますようになった。食材から日用品、はたまたベッドなどの家具もだ。お父さんもお母さんも顔バレしたくないので、深夜の仕事をしている。だから、昼間は私一人で暇だ。


今日は久しぶりにお父さんと一緒にいれると思ったけど、疲れがたまっていたのだろう。だから、寝てしまった。仕方なしに山の散歩をする。フェンリルの権能を手に入れてよかったと思える点が、運動能力の向上だ。


これだけは本当に良かった。どんくさいけど全速力で走れば、動物程度には負けない。ケガとかもしないし、これだけは心の底から良かったと思う。いつも通り木から木に渡り歩く。何もないけど、これくらいしかやることがないのだ。だけど、今日は違った。


「なっ、ターザン!?」

「え?」


私は突然の人の声に地面に落ちてしまったのです。


「痛たたた」

「大丈夫か・・・?」

「うん、大丈・・・夫」

「・・・」


あっやらかした。最近人との接触がなさ過ぎて目の前の男の子が恐怖で失神して、漏らしてしまっている。でも、これは私は悪くない。見たところこの男の子はカブトムシでも求めて山の中に入ってきたのだろう。


だけど、ここはうちの敷地だ。だから、失神したのはこの子のせい。だから私は悪くない。とりあえずそこら辺の道に捨てておく。後は誰かが拾ってやって欲しい。



次の日、私は散歩をする。すると、


「あっ!見つけた!」

「え?」


昨日の男の子だ。虫かごをもって私に近付いてくるが、私はそれと同時に下がる。


「なんで逃げるの!?」

「私に近付くと気絶しちゃうから!昨日倒れたでしょ?」

「おう!だけど、今日は大丈夫だ!」

「馬鹿なの!?」


そういって一気に距離を詰めて、私の手を掴んできた。気絶しちゃうと思ってみていると、そんな様子が一向にない。


「な?」

「す、すごい」


本当に驚きだ。やせ我慢をしている感じもしない。本当に私を克服している。それより、さっきから私の手を握っている。


「恥ずかしいから離して」

「あっ、ごめん」


そういって男の子は手をはなしてくれた。


「俺、恐山健児!遊ぼうぜ」

「え?あっ、うん」

「よし、それじゃあ鬼ごっこな?俺が鬼!」

「え、ちょっと!」


謎の男の子は勝手に私と遊ぶ約束をして勝手に鬼ごっこを始めた。そして、全速力で逃げ続けること三十分、


「ぜぇぜぇ・・・なんだよそのスピード・・・」


疲労困憊で倒れてしまいました。


「さぁ・・・」

「やめだやめ!明日もまた来るから遊ぼうぜ!」

「あ、うん」

「それじゃあ、え~と、名前は?」

「え、と京極蒼、です」


たどたどしく私は名前を言った。そして、それに健児が満足すると、手を振って帰ってしまいました。


「またな蒼」

「う、うん、健児君」


それから夏休みの間は数日に一度は遊んでいた。私の家の山で鬼ごっこやサッカー、バスケ、健児が思いついた身体を動かす遊びをした。


「なんでだよ!?お前天才か!?」

「知らないよ・・・」


そのたびに健児をボコボコした。球技とかは自信がなかったけど、私の運動神経は球技ができないとかそんなのはどうでもよしに身体能力でぶっ倒した。


「ねぇ健児」

「次はセパタクローで、いや、カバディか」

「聞いてよ」

「あん?」

「何で私と一緒に居るの?私って根暗でつまらなくない?」


ずっと思っていた疑問をぶつけてみた。すると、


「全然。なんなら一番楽しい」

「え?」

「俺の周りのやつらじゃ相手にならないからつまらない。だけど、蒼は最強。挑むのが滅茶苦茶楽しい」

「なにそれ」


良く分からない回答に笑ってしまった。


「それより蒼こそ、なんでこんな山の中に引きこもってるんだよ。たまには外にいかね?」

「・・・私はダメだよ。最強の力を持ってるから、周りが被害を受けるんだ」

「?どういうこと?」

「みんな私には勝てないから私の周りをイジメるんだ。だから、最強の私はここに引きこもるの」


正直言えば外に出たい。久しぶりに街を散策したい気持ちもある。だけど、それをやると両親が苦しむ。あんな思いはもうしたくない。


「?それは最強じゃなくね?」

「え?」

「だって最強っていうのはいるだけで全部を守れるやつだぞ?」


その考えは盲点だった。確かに最強だったらまわりの人間も守れる。だけど、


「でも、怖いよ・・・」

「う~ん蒼の場合は勇気の方が重要だな」


健児が唸る。だけどすぐに閃いたのか、それをそのまま伝えてきた。


「俺が最近見たアニメだと、自分のことを言う時に俺様っていうやつがいるけど、そいつは超最強」

「俺様・・・」

「おお!蒼が言うと、それだけで強そうに聞こえる。そうやって自分をセンノ―するといいんじじゃね」

「なるほど・・・」


なぜだか分からないけどしっくりきた。俺様・・・確かに強そうだ。


「俺様・・・俺様、うん、少し勇気が湧いてきた」

「じゃあ外に行こうぜ」

「う、うん」


健児に連れられて久しぶりに外に出た。



偶然かもしれないけど、健児が連れてきたのは私、じゃなくて俺様の学校の方面だった。健児とは小学校は違うというのは聞いていた。


「河原で水泳勝負しようぜ」

「水着持ってないんだけど」

「全裸でよくね?」

「私、じゃなくて俺様、女なんだけど・・・」

「まぁまぁ」


そう言われて健児に河原に連れてかれた。そこに着くと、バーベキューをしている人間たちがいた。楽しそうだと思ったのはその瞬間だけだった。


「あれ?獣じゃん」


大人に話しかけられました。よく見るとそこにいた子供は私の同級生たちでした。獣・・・それが私のあだ名で忌み名でした。


「なんだよ。お前、どっかに引っ越したんじゃねぇのかよ?」

「うちの子を散々怖がらせたんだから当然だよな?」

「私なんて親の仕事を潰してやりましたよ」

「さっすがぁ社長様」

「そういえば近所のコンビニで両親が働いているって聞きましたよ?」

「私たちの子供をイジメたんだから当然の報いよねぇ」


ガハハと笑う人間たちに私は怒りよりも恐怖が勝りました。このままここにいると、私の親がまたイジメられる。


「ふん!」

「え?」


隣の健児がそこら辺に落ちていた油を大人たちにぶっかけた。


「何すんだ!?」

「べっとべとぉ」

「最悪・・・」

「誰のお子さんですか?」

「知らないですよ」


健児は仁王立ちで大人を見下す姿勢をとっています。


「君ね、今何をやったか分かっているの?」

「うん。ゴミは燃やすといいって聞いたから油をかけただけだよ」

「この!」


健児が大人に睨まれた。私のことなど完全に忘れ去られていた。


「け、健児。謝ろうよ」

「い~や謝らないね。俺の友達をイジメた時点でゴミクズ確定。こいつらは許さない」

「健児・・・」


健児は私のことを友達と言ってくれた。そして庇ってくれた。それなのに私ときたら・・・


「はぁ類は友を呼ぶってやつですね・・・」

「警察に通報しましょう」

「大人をコケにして!覚えてなさいよ?」


健児が警察?逮捕されちゃう!


「ダメ!」


私は条件反射で声をあげました。すると、


「え・・・」

「な・・・なに、これ・・・」

「ふふるえが、とまらない・・・」


私の権能に怯えているようだった。健児はその様子を見ているだけだったが、こっちを見てニヤリと笑う。


「なぁ蒼。お前から見てあのゴミクズ共は強者なのか?」

「え?」

「よく見ろよあの顔」


そう言われて大人たちの顔を見ると全員真っ青になっていた。


あれ?私はこんなのにビビっていたの?

なんだ。私は顔を見ていなかっただけで実はたいしたことがなかったんだぁ。そうかぁ


俺様・・の大切な人間に手を出したら、次はないと思え?」

「「「「・・・」」」」


全員子供を残して気絶した。一瞥したら泣き出したので、これ以上は可哀そうだと思った。


「健児、ありがとう」


その日を境に俺様は自分を最強だと考えることができた。



「ねぇ健児」

「クソぉまた負けたぁ!」

「俺様の話を聞け!」

「痛いわ!なんだよ?」

「健児は、その、どんな女の子が好きなの?」


俺様は何の気なしに聞いてみました。


「礼儀正しい子」


自分の行いを反省した。健児は何度ぶっ倒しても挑んでくるので倒すのが楽しくなってしまっていた。その後の悔しがる姿を見て無駄な努力をしているなぁと思っていた。でも、そんな姿を好きになってしまったのも事実。


「そんなことよりも蒼。これ」

「え?」


健児から立派に包装されたものをもらった。なんだろうと中身を見てみると、カチューシャだった。俺様は身体が固まってしまった。


「髪が長いのが気になってな。最初は美容室にでもと思ったんだけどお金がなくて・・・とりあえずそれがあれば前髪はかからないと思う」


それは千円もしない。安物のカチューシャだった。しかも健児は俺様が髪を切りたくても切れない貧乏人だと思っていたようだ。そんなことはないって怒ろうと思ったけど、初めてのプレゼントに胸がぽわぽわしていた。


そして、カチューシャをしてみると今まで髪が邪魔して見えなかったものが見えた。凄い視界が広がったという感覚だ。


「ありがとう・・・なのです」

「なんだその喋り方(笑)」

「う、うるさいのです!俺様は今日から立派なレディーなのです!」

「はいはいワロスワロス」

「信じろなのです!」



再会した時、健児は忘れていたけど俺様にとっては大事な思い出なのです。弱っちい犬から一匹の最強の狼に慣れた瞬間。


だから、黒海さんなんかに負けるわけにはいかないのです!この課題を乗り越えて、いつか本当に健児を俺様のモノにするのです!


「待ってるですよ!」

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【二章完結】S級幼馴染専用嫌われぼっちは気付かない 復讐録画はバレていた上にうっかり配信がバズっちゃいました addict @addict110217

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