4

俺たちは骸骨騎士たちと戦った闘技場のような場所を後にして、次のフロアに行くために階段の扉を開けた。しかし、開けた瞬間に俺たちは息を呑むことになった。


「なんですか、ここは・・・?」


カメラ越しだが、俺も姫神と同じ感想だった。宇宙のような空間の中で、コンクリート色のタイルが敷き詰められていた。そして、奥には再び階段があるのだが、一個一個浮いていた。しかし、明らかにここは異常だ。


フィールドの外には宇宙空間のような虚無だけだ。ただ、落ちたら崖とは比べ物にならないほどひどい目に遭うことだけは直感で分かった。


『なんじゃここ・・・?』

『明らかに地球じゃなくね?』

『宇宙?』

『麗美嬢の幻術では?』

『解説求む』


「え、ええと」


姫神も明らかに動揺していた。ダン配のコメントを読む余裕すらないというのは相当緊張している。仕方がない。俺が助け船を出すかと思っていると、


ビシ


「え?」


空間にひびが入った。


ビキ、ビキ、


亀裂が大きくなっていく。そして、


バリン!


「キャッ!」


姫神が硝子音に反応して耳を抑える。俺はじっとそれを見ていた。空間に大きな裂け目ができて、真っ黒で虚無の空間の中にナニカがいた。それは俺たちの恐怖心を呼び起こした。


「グルルル・・・」


虚無の空間から獣の唸り声が聞こえる。そして、六つの赤い光が見えた。そして、のそのそと現れたその魔獣の正体は、


「ケルベロス・・・」


俺も姫神も固まってしまった。姫神の方は分からないが、俺はケルベロスと遭遇したことは何度もある。公園のダンジョンでは召喚獣たちと一緒に討伐経験もある。しかし、今、俺たちの目の前に現れたケルベロスは俺たちが屠ってきたケルベロスとは次元が違った。


「「「グルルルル・・・」」」


大きさは五メートルほど。三つの頭はどれも獰猛で、俺たちを餌としか見ていないようだった。恐怖で一歩後ずさる。


『ケルベロス・・・?』

『画面越しなのに滅茶苦茶怖い』

『鳥肌が止まらん』

『え?麗美ちゃんと【漆黒の堕天騎士】は大丈夫なのか?』

『ヤバくなったら逃げてくれ!』


俺から見てもヤバイ。汗が滴り落ちるのを気づけないほどだった。目の前で動画に映っている姫神も映えを意識している場合じゃないというのは分かった。俺は声をかけた。


「・・・行けるか【神妃】?」

「っ!当たり前です!遅れないように付いてきてください!

「うむ」


はっと気が付いて、姫神は強気な態度を見せる。いざとなったら俺が助けに入ることも俺は作戦の視野に入れた。そう心に決めると、姫神が動いた。



本来のケルベロスはA+ランク。しかし、目の前にいるケルベロスをA+と考えるのは危険です。私はまずは距離をとって攻撃することにします。


「ふっ!」


通常の弓に≪偽りの慰藉≫を混ぜます。健児センパイはいつ≪偽りの慰藉≫を放ったか気にしているようでしたが、種はなんてことはありません。矢を複数、いっぺんに放っているだけです。まるで一本のように見せているだけであって実は複数放つという簡単な技術です。


これでグリフォンのように持久戦で倒せれば楽なのですが・・・


「グオオオ!」

「なっ!」


一番右の頭が咆哮を上げると、≪偽りの慰藉≫で放った弓がすべて丸裸にされました。これでは≪偽りの慰藉≫の意味が全くありません。矢に付加した効果がすべてかき消されています。そして、軽く弓を払われてしまいます。


それならと私は空を飛び、上空から攻撃を目指します。八つの愛の一つ、愛欲のエロスを込めた矢を連射しますが、右の首が咆哮を上げると私の付加した効果が剥されてしまいます。


「これは・・・だるいですね」


遠距離攻撃が主体の人間にとって魔力をかき消すというのは攻撃手段を奪われるのと同義です。普通なら・・・・


「本気でいかないとダメなようですね」


私は矢を生成します。そして、


「≪自己嘘愛≫」


矢を首に刺します。痛いですが、これはドーピングのようなものです。八つの愛の一つ、自己愛のフィラウティア。効果は数分間身体能力をあげるというものです。切れた後のことなど、考えても仕方がないです。それほどの敵だと私の中のアラートが鳴っています。


「≪無窮愛≫」


魔力を込めて矢を創り出し、一発放ちます


「グオオ!」


再び右の首が雄たけびを上げますが、


無駄ですよ・・・・・?」

「グオ!?」


右首の眉間にに矢がぶっ刺さります。咄嗟に首をひねって目に当たるのだけは防いだようです。八つの愛の一つ、永遠の愛であるプラグマ。効果は魔力の永続化と石化です。これで厄介な右の首を消すことができます。


プラグマは私の弓の中でとっておきですが、大幅に魔力を消費するので、今の私では一矢を生成するのも一苦労です。


何より、無駄打ちができないので、≪自己虚愛≫を使って身体強化を使った状態で確実に当てていきます。


「ざまぁ見ろです!」


未だに行動しないで様子を見ている真ん中と左の首を見ます。すると、左の首が右の首のように咆哮を上げました。すると、信じられないことが起こりました。


「え?再生・・・・・?」


右の首の石化が解けていきました。そして、≪無窮愛≫が食らったことをなかったことにされました。ぶるぶると顔の動きを確認している右の首としてやったりといった顔の左の首に若干苛立ちが増します。でもそんなことよりも、


「そんなのありですかぁ」


困惑の方が大きいです。流石の私も引きつった笑いと弱音が漏れてしまいます。これは頭一つ一つに能力があると思った方が良さそうですね。真ん中はさっきから私を観察するだけで何もしてきません。舐められているんですかね。屈辱です。


「≪無窮愛≫!」


とりあえず何をしてくるのか分からないと何も対策できません。私は真ん中の首に弓を放ちます。すると、口をパカっと開きました。凄く嫌な予感がします。


「グオオオ!」

「ブレスかよ!」


黒紫のブレスが私の≪無窮愛≫を巻き込んで放たれました。≪自己嘘愛≫を使っていなかったら回避もできなかった可能性があります。右の首は魔力をかき消し、左の首は再生、真ん中は圧倒的な火力のブレス。先ほどに遭遇した黒龍と同じかそれ以上です。


「全く本当に面倒な相手です!」


≪自己嘘愛≫を使った時点で持久戦は不可能です。どうしましょうか。



姫神からは技の説明はさっき受けた。だから、俺がダン配の配信者たちにその解説をしていた。姫神も気が付いているはずだが、首ごとにやっかいな能力を使ってくる。俺の≪黒円≫がさっきから乱されまくって、撮影がうまくいかない。


『麗美嬢、大丈夫か・・・?』

『本気の本気だ。勝てるのか?』

『頑張れぇ!スパチャです!』

『俺からもだ!負けるなぁ!』


コメントも姫神頑張れというもので溢れている。俺も撮影しながら、姫神を応援しているが、これは不味いかもしれない。確信は持てなかったが、これは確定だ。こいつは公園のダンジョンでいう深層・・クラスの魔獣だ。


深層はまだ一度も踏破できていない。召喚獣たちがいてもだ。俺たちにできたことはせいぜいみっともなく逃げることだけだ。【女王四重奏】だったら攻略できるかもしれない。今の俺なら分からないが、当時の俺たちでは全く歯が立たなかった。


姫神はどうなのだろうか。まぁ一回それは置いておこう。俺の観察だと姫神の動きは格段によくなっていることから自己嘘愛≫を使ったということが推察できる。だから時間はかけられない。本当にヤバイ時は俺が・・・と思っていると、


「なんだこれ・・・?」


俺は微かな違和感を空気の中に感じた。



「≪無窮愛≫!」


私は渾身の一撃を放ちますが、


「グオオ!」


真ん中の首がブレスを放って私の≪無窮愛≫を破壊します。たまに、右の首に≪無窮愛≫が当たるのですが、左の首がそれを再生してしまいます。


「なんて厄介なんですかね!」


左の再生担当の首を封じればこのイタチごっこを終わりにできるのですが、真ん中の首が全力で守っています。打開策がないと思っていると、


「グフっ」


口から血が出ます。え?なんで?


「姫神!」

「っ!」


健児センパイの声でブレスが放たれてきたのに気が付きます。考えるのは後にしましょう。私はギリギリで地面に躱しました、そして、


「≪慈愛の光≫」


八つの愛の一つ、無償の愛のアガペー、効果は回復です。健児センパイの肩を治したのはこの力です。ソロで潜る冒険者には回復は必須です。しかし、


「身体が重いです・・・」


おかしい。まだ≪自己嘘愛≫の効果が切れるわけがありません。それでもこの感じはステータスが落ちて・・・・・・・・・います・・・


「【神妃】!周りをよく見ろ!」

「周り・・・?」


健児センパイに言われて、周りを見ます。すると、黒い靄みたいなものがこのフロア全体に充満しています。これはブレスの残滓・・・?まさかこれを吸ったから動きが重くなったとかそういうことですか?


「姫神!」

「あっ」


自分の状態を分析していたら反応が遅れました。思考すらも許してくれません。ケルベロスは尻尾を使って私を吹き飛ばしました。


「痛ったい・・・」


油断しました。ゴロゴロとふっとばされます。痛いところを見ると、右腕が変な方向に曲がっていました。利き腕なのにこれじゃあ弓が放てません。憎たらしいことにケルベロスは私に向かって突進してきます。私は弓を左手で杖にしてなんとか立ち上がります。


「痛っ~~~」

「おい!姫神!」


うるせぇですよぉ、健児センパイ。そんな心配しなくても、


「グオ!?」


やっと罠にハマってく・・・・・・・・・・たんですから・・・・・・



俺はカメラワークとか無視して、姫神を助けに行こうとした。明らかに利き腕をやられて、もう終わりだと思った。


「悪い!助けに行く!」


視聴者に向かって俺はお詫びの言葉と共に姫神を助けに行こうとする。


『行ってくれ!』

『俺たちの姫を助けてくれ!』

『冗談だよな・・・?』

『腕が折れてるし、血だらけじゃねぇか・・・?』

『頼んだ【漆黒の堕天騎士】!』


コメントは読んでいる暇はない。俺は姫神を助けようと魔力を使おうとするが、姫神の方からとてつもないプレッシャーを感じた。そして、邪悪な笑みを浮かべた。


それと同時にケルベロスが歩みを止めた。黒ピンク色の線がケルベロスを中心に引かれていった。


「まさか・・・?」


この感じは覚えがある。俺はその違和感を確認しようと≪黒円≫を使って空中に移動する。すると、ケルベロスを中心に魔法陣が敷かれていた。


『え?魔法陣?』

『まさか・・・?』

『でも、右の首に≪偽りの慰藉≫は破られていたよな?』

『じゃあ、いつ?』

『どうでもいいけど、これ胸熱展開じゃん!』

『頑張れ【神妃】!』



種は簡単です。私のプラグマは永続化と石化です。≪無窮愛≫は多大な魔力を引き換えに、右の首を攻略することができました。けれど、左の首に再生されてしまう。これが表での戦い方です。


私が確認したのは左の首も魔力を打ち消すことができるのではないかということです。もし右と同じようなことをされたら私の作戦はすべて無駄に終わるところでしたが、一つの首に一つの能力でした。


なので、私は魔力をごっそり持っていかれますが、認識阻害のフィリア、永続化と石化のプラグマの力を組み合わせて魔法陣を敷きました。やっていることはグリフォンと同じですが、魔力の消費量がおかしいです。一本生成するのでもキツイ。そこは根性!


まっ、ここまで言ったらわかるかもしれませんが、魔法陣に敷いた矢の効果はプラグマ。魔法陣の中にいるすべてを石化します。もちろん右の首ではプラグマが打ち消せないことは確認済みです。これでトドメです!


「≪無窮の愛獄≫!」


私は自分の血を媒介にして魔法陣を発動させます。サインはグットを下にしました。腕を折られたのですからこれぐらいのことは許してほしいです。笑顔は根性!


「グオオ!!」


足から徐々に徐々に石化します。右の首の雄たけびも効果なしです。このままいけば勝ちです。


「ふっ、麗美ちゃんともあろうものが苦戦しちゃいましたね、・・・はっ!」


【漆黒の堕天騎士】の口癖が移ってしまいました。恥ずかしいです。とりあえず≪慈愛の光≫を自分の

右に当てます。魔力も残り少ないですが痛いのは嫌です。


「グオオ!」

「無駄ですよぉ」


左右両方の首がそれぞれの力を使おうとしていますが、両方同時に石化されたら全く意味がなくなります。


「これで終わりですね」


私は勝ったと思って健児センパイの方に行こうと思いましたが、


「ガア!」

「え?」


突如私の魔法陣が大爆発を起こしました。私は爆風に巻き込まれて吹き飛ばされ、虚無の空間に身体が投げ出されそうになりますが、なんとかタイルに爪を立てて耐えきります。人差し指の爪が剥がれてネイルもぐちゃぐちゃです。煙がもくもくと立ち込めていてケルベロスの姿が視認できません。


「な、何が?」


最後に確認できたのは、真ん中の首がブレスを溜め、それを真下に撃った・・・・・・こと・・。確かにそれで≪無窮の愛獄≫は脱出できるかもしれませんが、それは自滅行為です。普通ならありえないです。煙が徐々に晴れていき、ケルベロスがどうなったかが見えてきました。


そこには身体の所々が欠損し、痛々しい姿をしたケルベロスがいました。しかし、それでもまだ生きています。


ただ、悪夢が始まりました。


「グオオオ!」


目や耳が吹き飛んだ左の首が咆哮を上げました。すると、欠損した右の首、口元が完全に消え去った真ん中の首が再生してきたのです。


「嘘でしょ・・・?」


左の首さえ生き残っていたら、再生できたのです。それゆえにあの無茶な自爆ブレス。完全にしてやられました。私は再び行動をしようと思いましたが、


ズシっ


「うっ」


≪自己嘘愛≫が切れました。ドーピングのツケがここにきてまわってきたようです。弓を杖にしてなんとか立っていますが、押されればすぐにでも倒れる自信があります。そうこうしているうちにケルベロスが完全復活しました。


そして、涎を垂らしながら私の下に歩み寄ってきます。私は治癒中の右手を使ってなんとか弓をひきますが、力が入らな過ぎて、矢が飛びませんでした。


「詰みですかね・・・」


それでも諦めることはしません。なんとか生き残る術を探しますが、


「グフっ」


尻尾で吹き飛ばされました。床を何回転もしながらギリギリで落ちませんでした。口の中が血だらけで、足も感覚がありません。あばらの所々は焼けるように痛いですが、感覚がない箇所もあります。


「グルル・・・」


死神ならぬ死の犬が近づいてきます。醜い嫉妬をして、群れてリンチにした罰なんでしょう。クソ女には相応しい末路ですか。


「グルル・・・」


口を開けます。どの口で私を殺すんでしょうか。右ですかね?散々吹き飛ばしたから、怒っていそうです。見上げてみると、やっぱり右の口でした。


「あ~あ、王子様と再会したかったんですけどねぇ」


口が目の前です。このまま私はこの臭い口の中で咀嚼されるのでしょう。眼を瞑ります。ではでは、クソみたいな人生でしたが、まぁいいや、グッパイ。


「グッパイじゃねぇよ!お前には土下座っていう最後の仕事が残ってるだろうが!」

「・・・え?」

「グル!?」


おそるおそる目を開けてみると、そこにはダサいマスクとダサいマントをした【漆黒の堕天騎士】がいました。突如乱入してきた【漆黒の堕天騎士】にケルベロスも驚きを隠せないようです。


「あっ、キャラがブレブレだな」


コホン


「貴様の踊り狂う姿が滑稽で夜想曲の準備が遅れた」

「ちょっと、何言っているか分からないです・・・」

「ふっ、ここから先は我も混ざらせてもらうぞ」


『【漆黒の堕天騎士】ぃ!』

『麗美嬢を助けてくれぇ!』

『うおお激熱!』

『麗美ちゃん大丈夫か!?』

『119番したいけど場所が分からん!』

『【漆黒の堕天騎士】!お前だけが頼みだぁ!』

『俺たちの姫を助けてくれ』


最後にコメントを見る。そして、


「ふっ、任せろ。暗闇にて我の勝利を待っていろ」


俺はダン配を一度落とした。姫神の機材は動画のコメントも音声とバイブ音で知らせてくる。俺はマナーモードにして、胸ポケットに入れたつもりだった。


『ん?落ちてないぞ!?』

『いや、でも画面が真っ暗だ!』

『またかよ!』

『何回同じミスをやらかすねん!』


健児はダン配を消したつもりだったが、実は落ちてなかった。



とはいっても勝てるわけがない。格好つけておいてなんだが、何度シミュレーションをしても勝てるビジョンが見えないのだ。大体右の首にボコられる。だから、俺が取れる選択肢は一つ。一時撤退だ。


「姫神、キツイだろうがおんぶに体勢を変えせてもらうぞ」

「は、はい・・・」


ドクドクと血が流れていて俺の背中に姫神の血でべっとりしている。だけど、今、紅音の力で回復できるほどの余裕がない。目の前のケルベロスは俺が動いたらすぐに魔力を打ち消そうとしてくるだろう。それに、俺の予想では元の場所に戻る扉は・・・


「センパイ・・・扉はおそらく」

「分かってる。だけど、やらねぇと死ぬ。ちょっと黙ってろ」

「はい・・・」


俺はケルベロスと向き合う。すげぇプレッシャーだ。こんなのとよくソロで戦えたもんだ。


「グルル・・・」

「ふっ、貴様の次の舞踏の相手は【漆黒の堕天騎士】たる我だ。少々の時間だが付き合ってもらうぞ。冥府の番犬よ」


『かっけええ!』

『不謹慎だけど戦闘見たいよぉ!』

『ってか【漆黒の堕天騎士】って戦えたの?』

『逆に戦えないの?』

『分からん。ただ、【女王四重奏】といるときはカメラマンしかやってなかった』

『映せぇ!目の前にご馳走をぶら下げられた気分だわ!』


動画史上でもまれに見ない、画面が見えない配信が始まった。同接者数百万人・・・


「グラア!」


いきなりブレスかよ!これを食らうとジエンド。俺は≪紫電纏≫を使って高速回避をする。しかし、右のケルベロスはしっかり俺の動きを追っていた。やはりだが、右の首は魔力に反応している。


「グオオ!」

「ちっ」


俺の≪紫電纏≫が打ち消された。高速移動してそのまま扉に突っ込もうと思っていたが無理だったな。やっぱりケルベロスの動きを止める必要がある。蒼炎という確殺技もあいつの咆哮の前ではおそらく無駄だろう。


「≪深闇≫!」


綾のブラックホールをケルベロスの頭上に発生させる。イフリートですら吸い込んだブラックホールだ。ケルベロス程度の大きさならすぐにでも放り込むことができるだろう。しかし、


「グオオ!」


咆哮で≪深闇≫が消される。ここまでは読み通りだ。≪深闇≫の背後に隠してあった≪氷槍≫と≪炎槍≫を右の首に向かって発射する。完全にオリジナルなのでうまくいって良かった。


「グギャア!」

「よし!」


『え?【漆黒の堕天騎士】って強いの!?ケルベロスの悲鳴が聞こえてくるんだが』

『分からん!気になるけど画面が真っ黒や』

『ってか≪深闇≫って【女王四重奏】の【黒血姫】の技やん』

『え?嘘やろ?頼む!戦闘見して!』


見えないのに同接がどんどん増えていく。


これで右の首が使えなくなる。しかし、左の首が再生させるだろう。しかし、


「「「グオオ!?」」」


炎と氷の槍が同時にぶつかったのだ。氷と炎が互いにぶつかり合いこのフィールドに霧が発生する。これは魔力を帯びていない。だから、右の首が復活しようが、消えるものではない。俺はケルベロスが動揺している間に入口の扉に向かう。視界を奪われても俺の記憶力なら見失うものではない。


しかし、扉はやはり予想通りだった。開いて入ろうとすると、見えない障壁があった。


「や、やっぱり、あの見えない壁が邪魔を・・・ぐっ」

「しゃべんな。それに策はある」

「え?」

「ちょっと降ろすぞ」


姫神を一回下ろして両手を自由にする。これが成功するかどうかは完全に賭けだ。


綾、借りるぞ。


俺は前傾姿勢になり、≪黒血剣≫を生成する。そして、居合のポーズを取る。やり方は間違えていないはずだ。


『あれ?画面がうっすら見える。白くね?』

『扉やん』

『これ最初に入ってきたときの扉じゃん』

『でも、波紋があるってことは出れないんじゃ・・・』


前傾姿勢になったことによって微妙に視聴者が見ることができた。


「≪神斬り≫」


俺は扉にある見えない障壁を斬った・・・。原理は闇を自分の≪黒血剣≫に纏い、チェーンソーのように回転させることだ。記憶を頼りに再現したものだったが手ごたえは十分。手をかざすとあっち側に行けた。


『え?何今の?』

『≪神斬り≫って言ったか今!?』

『これも【黒血姫】の技・・・』

『まさかこいつって【女王四重奏】の技が使えるのか・・・?』

『なにそれ無敵やん!』


コメント欄が湧いていることを未だに気が付けない。


「よし、うまくいった!行くぞ姫神!」

「は、はい」


俺は姫神を拾ってお姫様抱っこで抱える。後ろからプレッシャーを感じた。すると、ケルベロスがブレスを闇雲に放っていた。一発当たったら死亡だ。しかし、徐々に霧が晴れてきて俺たちの位置がバレた。


「嘘だろ!?」


完全に俺たちに照準を合わされていた。もう扉を超えるかブレスを食らうかのどっちかだ。


「間に合え!」


ブレスが放たれる。漆黒が俺に迫ってくるが、


「あぶねえ!」


ギリギリで滑り込んだ。そして、そのまま扉を閉め、俺と姫神は命をギリギリで繋げた。

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