6
「疲れたぁ」
【
「ダンジョンの素材を俺に渡してさっさと帰りやがって・・・」
途中まで綾が黒い穴に拾った素材を入れてくれていたので楽だった。けれど、ダンジョンから戻るとすぐに素材を穴から出して、俺に換金を任せてきた。雑用の仕事と言われたらそれまでだが、あの量を捌くのは結構手間取った。
雑用だから、文句は言えない。だけど、なにかもやもやしたような気分になる。
ガラ
「ん?」
俺が部屋でくつろいでいると部屋の窓が開いた。なんだと思ってそこを見ると、あいつらが来ていた。
「今日は遅かったな」
「ワン!」「ピャー」「にゃ~」「キュウ」
俺の召喚獣たちが部屋に来た。いつもなら学校が終わったくらいに俺の部屋に来るのだが、今日は夕飯後に来た。珍しいこともあるもんだ。俺に挨拶をすると、四匹は俺のすぐ近くに来た。そして、俺の身体に身体をこすりつけてくる。
「よしよし、今日はいつになく甘えん坊だな」
肩の上に鷹のアカ、黒猫のクロが首元に、犬のアオが俺の胡坐に寝そべり、ウサギのシロが俺の胸に引っ付いている。モフモフたちが懐いてくれていると、凄く嬉しい。今日の幼馴染達の横暴に対しても怒ることがなくなる。
「はぁ~癒されるなぁ」
頭を撫でたり、首元をこしょこしょしたりと好き放題いじらせてもらう。あんまり構いすぎると、俺の下から離れてしまうクロやアカも今日は機嫌がいいのか俺に身を預けている。
「健児、ちょっといいかしら?」
「ん、何?」
「入るわね」
俺がモフモフと戯れていると母さんが部屋の扉をノックしてそのまま入ってきた。
「あら、あなたたちも来てたのね」
母さんは召喚獣たちを見て頷く。こいつらも母さんに挨拶をして、そして、母さんの下に移動していった。
「今日はいつになく元気じゃない。何かいいことでもあったの?」
「ワン!」
「そう、それは良かったわね~」
「ピャー」
「お礼なんていいわよ。私は楽しませてもらっているだけだから」
「にゃ~」
「ふふ、素直じゃないわね~」
「キュゥ・・・」
「やっぱり、そうなのね。貴方たちも大変ね~」
普通に母さんと召喚獣たちが会話している。たまに思うけどうちの母さんって変なところがある。今のように召喚獣たちと話したり、ダンジョンの魔獣図鑑を持っていたり、素材を売りさばいたりと普通に生きてきた主婦じゃできないようなことを普通にやっている。
まぁいいか。それよりも召喚獣たちが俺のことなど忘れて、母さんに撫でられたりしている。そっちの方が気持ちよさそうだったので、若干苛立ってしまう。
「もういいだろ母さん。それで何の用?」
「嫉妬?」
「・・・違う」
「ふふ、まぁいいわ。今日の素材を売りさばいておいたから」
そう言って母さんは俺に通帳を渡してきた。額を見ると千円くらい増えていた。もうちょっと欲しい。
「キマイラ程度じゃこのくらいよ。もっと頑張りなさい」
「にゃ!」「ワン!」「キュ!」「ピャー!」
「なぜお前らが反応する・・・」
四匹がやる気になっているが、お前らじゃキマイラを倒すのは無理だって。同系統の力を持つシロじゃ涼みたいに時間を凍らせるなんてできないだろうからな。そういえば、
「あっ、母さん。今日パーティを組んだやつがいて」
「知っているわよ。綾ちゃんたちでしょ?」
「お、おう。なんで知ってるんだよ」
「主婦ネットワークを舐めないことね。その程度の情報はすぐに耳に入ってくるのよ」
綾たちとパーティを無理やり組まされたのは丁度半日くらい前だぞ。主婦ネットワークって恐ろしい。
「健児も楽しそうで良かったわ」
母さんが変なことを言ってきた。
「は?いやいや、どこをどう見ればそう思うんだよ」
「顔に」
我が母ながら節穴すぎる。【深闇の蟲毒】に向かう時はまだよかったが、帰りが大変だった。涼をおんぶした後、残りの綾、紅音、蒼の順でおぶることになった。その順番を決めるたびに喧嘩が起きて俺はダメージを受け続けた。
痛いし、冷たいし、熱いし、痺れるし、たまったもんじゃなかったっていうのが俺の所感だ。雑用の仕事をあいつらの下でするくらいなら、一人で潜った方が効率がいい。
「くぅん?」
「あ?今日のダンジョン探索はつまらなかったのだって?いや、つまらなくはなかったけどよ・・・」
アオの申し訳なさそうな顔を見て、こっちも罪悪感を募らせられる。まぁ正直なところ嫌ではなかった。めんどいと思いながらも楽しいと思えるところも多々あった。他人と言い合いなんてしばらくできなかったし、パーティを組む楽しさも伝わってきた。
「お前らと散歩している時みたいで楽しかったよ・・・」
「!」
俺は頬をポリポリと掻きながら呟く。
「ちょっ!おい!」
四匹がみんな俺の胸に突っ込んできて俺はベッドに押し倒された。その後さまざまな方法で俺に愛情表現をしてきてくれた。何が嬉しかったのか知らないがこいつらが喜んでくれてるなら俺も嬉しい。
「ふふ、後は若い人でごゆっくり~」
母さんは微笑ましいものをみたかのように静かに部屋から出ていった。
「ああ!もう!離れろって!!」
こいつらが喜んでくれるなら明日からも幼馴染連中とくんでもいいかもな。俺はそう思いながらされるがままにしていた。
●
「早く来いなのです!」
「遅いわよ!」
「うるせぇ!お前らが速すぎるんだよ!」
訂正もういいや。
次の日、俺は再び幼馴染連中とダンジョン探索に行く。場所はもちろん公園の穴だ。≪深闇の蟲毒≫以外にもレベルが高いボスはたくさんいる。そいつらを根こそぎ狩りたいと言われた。雑用だからその決定を覆す気なんてないし、できるわけがない。
今日の目的地は≪誘惑の氷巣≫といわれる場所だ。≪誘惑の氷巣≫は普通に寒い。氷点下五十度くらいまで下がるが、散歩してたら
それよりも、
「のどが渇いた。健児、飲み物取って」
「自分の能力で穴から取り出せばいいだろうが」
「アレは結構エネルギーを消費するんだよ。さっさと渡せっての」
「っ」
事あるごとに不平不満を言われる。俺は綾に走りながら自分のバックの中にある飲み物を渡す。市販のものじゃ嫌だからと俺が作った特製ドリンクだ。それをゴクゴクと走りながら飲む。唇から滴り落ちる水滴が色気を増していた。
「うん、うm、じゃなくて、味は中の下くらいかな」
キレたい。そして、若干エロいと思ってしまった自分を呪いたい。すると、耳元に氷の刃が付きつけられた。
「浮気かしら?」
「違うわ」
「涼、離してやれって」
後ろで氷の刃を出している涼に俺の身体から汗が流れ出てくる。ただ、笑顔の涼の前では俺の汗は凍ってしまう。すると、上機嫌な綾が俺を庇ってきた。
「ようやく健児に僕の奴隷としての自覚が出てきたんだ。怒ることなんて何もないぜ?」
「私以外の奴隷になろうとしている時点で失格よ。大体エロいと思われただけで奴隷とか早漏すぎるんじゃなくて?」
「はっ、そんな早漏吸血鬼に嫉妬している時点で負けを認めたも同然だろ?」
リバイアサンと真祖の吸血鬼の間に不穏な空気が流れる。力が徐々に高まっていくのを感じる。これは喧嘩が起こるパターンだ。うちの召喚獣たちが争う時と同じオーラを感じさせる。そして、
「おい、お前らこんなところで「「くたばれ」」
暴れるなと言おうとしたが、時既に遅し。強力な力が衝突する。俺は防御態勢を取るが、巻き込まれるのは確定だろう。
「ほら、あんたはこっちに来なさい」
「お前が女神か」
「だ、誰が美神よりも超絶美しい最強の女よ。褒めたって助けてあげることしかできないんだから・・・」
ツンデレになりきれていない紅音に俺は拝み倒すことしかできない。昔は勝負でボコボコにされて、煽られまくったが、あの頃に比べたらだいぶ丸くなった。
「あの二人はこの先のことなんて頭から消えてるから、ふ、二人で行くわよ!」
「お、おう」
「じゃ、じゃあ手を「そうはさせねぇのです!」いった!」
赤くなっている紅音にリズムを崩されかけたが、紅音の腕が吹っ飛ばされる。普通ならショッキングすぎる映像だが紅音は不死鳥だからあまり気にする必要はない。問題は俺だ。
「健児は俺様と散歩するのです!お前らにはあげないのです!」
「ぐもも!」
俺は蒼の胸に抱かれる形で窒息させられかけている。幸せな感触だが、力が強すぎて俺は全く動くことができない。
「蒼!健児を返しなさい!」
「嫌なのです!このまま俺様と二人で散歩するです!」
「なら、あんたを燃やす!」
「返り討ちにしてやるのです!」
今度は蒼と紅音が争いを始めた。凸字の前方では紅音と蒼、後方では涼と綾が争っている。俺は巻き込まれないように間の道に回避しようと試みるがが、そこに今回の目的である魔獣が出てきた。
「アラクネが来たぞ!」
上半身が人の形をしていて下半身が蜘蛛になっている。今回のダンジョンの討伐目標だ。普段は自分の住処から出てこないのだが、四人が争っているのを感じ取って巣穴から出てきたのだろう。
ただ、【
「いつもいつも色目を使いやがって!このド淫乱ドラゴンが!」
「それは貴方のほうでしょう?厨二吸血鬼が!」
涼と綾は剣で高速の戦闘を繰り広げていた。
「そんな遅い攻撃じゃ俺様には届かないのです!」
「私だってあんた程度の雷なら何回だって再生してやるっての!」
後ろでは炎と雷がぶつかり合っていた。
四者四様、目の前の仲間にしか興味がないらしい。そうこうしているうちにアラクネが俺の下に徐々に近づいてきた。俺は一応持ってきておいた護身用のナイフを構える。勝つことはできないが、何もないよりはましだ。それにしても、
「エロいな・・・」
アラクネは上半身裸で結構な美人だった。そしてその胸を髪ブラで隠していた。もう少し、揺れてくれないかな。
「「「「・・・」」」」
「お?お前らようやく仲直りしたか。あいつが「ねぇ健児」・・・なんだよ」
紅音が俯きかけている。声のトーンが低いが気にしている場合じゃない。
「アラクネに欲情とか・・・わが幼馴染ながら呆れるね・・・」
「はっ、ち、ち、ちげぇし!」
綾にバレているだと!?ただそんなことよりも両サイドから来ている幼馴染達の瞳にハイライトが全くない。再会して二日しか経ってないが、不味いオーラが漂っているのはわかる。
「そ、それよりもアラクネが来てるんだって!あいつを倒さないと・・・!」
「燃やすわ」
「は?」
紅音は炎の翼を纏い、天井の蜘蛛の糸にぶら下がっているアラクネに超スピードで接近する。アラクネは紅音のスピードに対応していて、糸を吐いて絡めとろうとするが、紅音の炎はすべてを溶かした。そして、そのまま紅音はアラクネに突っ込んで燃やした。
紅音が触れると赤い炎は青色に変化する。アラクネは地面に落ちてきて、ゴロゴロと転がるが、紅音の青い炎は全く消える様子がない。そして、アラクネを燃やし尽すまで炎は消えなかった。
「アラクネが一瞬か・・・」
あらためて幼馴染のヤバさを再確認する。
「紅音、やりすぎよ。素材がなくなったじゃない」
「あ、ごめん。健児への怒りでわれを忘れてたわ」
「なんで俺・・・」
「それなら仕方がないわね」
涼が紅音を叱るがレア素材を燃やし尽したのは俺のせいらしい。涼も納得しているのが余計に解せない。
「それでアラクネに欲情とかいう気持ち悪いものを見させられた僕たちに何か弁解はないのか?」
「い、意味が分からない」
「俺様、健児を喰い殺したくなってしまったのです!責任を取れなのです!」
「理不尽がすぎる・・・」
●
家に帰るまであいつらの言うことを聞かされ続けた俺は疲弊しきっていた。結局一人一人の要求をどんなものであったとしても叶えるというものだった。アラクネをエロいと思っただけでとんでもない目に遭った。
普通、男子高校生だったらこんなもんなはずだ。ソースは二次創作物。友達はいないから比較しようものがない。
俺は探索で得た素材を分けて母さんに渡した。そして、鞄や装備品を洗い流した。自分のだけだったらまだよかったのだが、【
俺は今日の片付けが終わると、部屋に戻った。今日はあいつらも来ないらしい。唯一の癒しである召喚獣たちが家に来てくれないことにがっくりしてしまう。
「もふもふが足りん・・・」
俺はベッドに突っ伏しながら弱音を吐く。【
「姫神の写真も消されたし、脅されたし、俺って可哀そうなんじゃねぇか?」
そう考えたら、怒りがふつふつと湧き上がってきた。女に怖がられるのもあいつらのせいなんじゃないかと思えてきた。
「・・・やり返すか」
ただどうするか。俺には直接的な攻撃手段はない。仮に召喚獣たちがいたとしても、あいつらの圧倒的な力の前には敗北するしかないだろう。
「ってかあいつらに復讐ってどうやるんだ・・・?」
アイツらを倒して謝らせるって物理的に不可能な気がする。だって、真祖の吸血鬼に、リバイアサンに、不死鳥に、フェンリル・・・
「無理やろ・・・」
圧倒的な力の前に復讐してやろうという気持ちが薄れてきてしまう。
「いや!ここで折れたら恐山健児の名がなくぞ!」
俺は頬を二回パンパンと叩き、根性を注入する。
「ん?」
俺の目にダン配を配信するためのドローン型の機材が机の上に映った。俺はベッドから机に移動した。
「これにあいつらの弱点が映っていればいいんだが・・・」
俺は録画を再生した。そこには圧倒的な力で敵を屠る【
「あっ、ここ映像が切れてるじゃねぇか!ここも!これじゃあなんで撮ってるのか分からないぞ・・・」
あいつらのスピードにドローンが付いていけてない。これじゃあ弱点を探すどころじゃない。それだけ恐ろしい力を持っているといった聞こえはいいが俺にとっては不都合がすぎる。そういえば綾が無駄とか言っていたけどそういうことだったのか。
これなら俺が撮った方が・・・
「ん?」
ドローンに【女王四重奏】を追うことができないんだったら、俺が撮ればいい。最初は呆気にとられたが今の俺なら追いつける。
「これか!」
俺の頭に天啓が降りてきた。慎重に頭の中で吟味するが問題はなさそうだ。
「これなら完璧な復讐になる!しかもあいつらに力で勝つ必要がちっともない!」
完璧だ。どこからどう考えてもこの計画に穴がない。俺は負け続きでずっと勝てなかった幼馴染達を恥辱にまみれた顔にする方法を思いついてしまった。
「小学生から募りに募った恨みを晴らしてやる!」
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