7
今日も今日とて【
公園のダンジョンを降りたところで軽く準備体操をしながら、綾が今日の目的地を言う。
「今日は【深淵の火口】に行くよ」
「おう!そうと決まれば早く行こうぜ!」
俺はテンション高く綾の言葉に答えた。すると、【
「ん?どうかしたか?」
「それはこっちのセリフよ。何か悪い物でも食べた?」
「いや?別に?」
涼が心配そうに俺を見てくるが見当違いも甚だしい。
「まぁしいていうなら、お前たちと一緒に居れるからかな」
夜遅くまで復讐のことをずっと考えていたら、早く会いたいという気持ちが強くなった。
「そ、そうか」
「えへへなのです」
「う、嬉しくなんかないわけ・・・ないじゃない」
「ふふふ」
「どうしたん?」
「「「「別にぃ」」」」
こいつらの態度が変だ。甘酸っぱくて口の中がもやもやするようなそんな気分にさせられた。
「それじゃあ健児が奴隷としての自覚を強くしたところで攻略に行くか」
「「「「おー」」」」
俺たちは目的の【深淵の火口】に向かった。
●
【深淵の火口】の付近は少し暑い。ダンジョン初心者だった頃はその暑さにやられていたが今では全く問題ない。ただ火口と名付けたこともあって、付近はマグマだらけだ。【深淵の火口】付近は突然マグマが突然噴き出してくるのでそこだけ注意だ。
「健児?何してるです?」
蒼が俺に尋ねてくる。俺は走りながら復讐の準備をする。
「録画の準備だよ。ドローンだとお前らの動きを全く追えてなかったから直接お前らの動きを撮ってやろうと思ってな」
「それ必要あるの?」
「ああ、お前らの動きを捉えておくのは雑用としてサポートするのに必要だしな」
「ふふ、奴隷としての自覚が芽生えたようで何よりだわ」
「奴隷じゃないけどな」
俺の真の狙いはもちろんそんな殊勝なことではない。俺はカメラを使ってこいつらのスカートの中を録画してやろうと思っているだけだ。それをあいつらに見せてやれば羞恥心で真っ赤になるはずだ。
そうなった時のこいつらの顔を想像すると笑いがこみあげてくる。
「ま、好きにやってみな。何を企んでいるんだか知らないけど、健児程度じゃ何をやっても無駄だと思うから」
「おう」
綾から嫌な笑顔で言われた。すべて見透かされていそうな表情をされるが俺の計画がバレているわけがない。その笑顔を恥辱の表情にするのが今から楽しみだ。ドローン型のカメラの全自動モードを解除して、手動で俺が撮影できるようにした。
「さぁ始めるぞ」
健児は気が付いていなかった。これが録画モードではなく、配信モードになっていたことに。
●
『なんだこの配信?』
『【
『どこのダンジョンだこれ?』
『前を走る女の子たちって高校生だよね?しかもこの制服って神成高校のじゃん』
『ってか後ろ姿しか見えないけどすげぇ美人っぽい』
『顔見たい。こっち向け』
『おい!このパーティってSランクパーティらしいぞ!?』
『ファ?』
『マジ?』
『Danpediaを調べたら出てきた!四人組で活動しているらしい』
『ってことはこのダンジョンってSランクダンジョンってことか?』
『やべぇじゃん!これは掲示板で広めないと!』
●
俺たちが≪深淵の火口≫に近付くにつれ、熱波が襲い掛かり、マグマが所々に溢れてくる。目的地に近付いている証拠だ。
「そろそろ敵が出てくる頃合いかな」
「そうだな。マグマの中を動きまわる魔獣がたくさん出てくるから気を付けろよ?」
「分かってるわよ!」
『マグマがちらほら見えてる・・・』
『環境ヤバくね?なんでこの人たちって何も装備しないで平気なの?』
『最低でも100℃はありそうだよな』
『いまさら気が付いたんだけど、移動速度バグってね?風景が一瞬で変わるんだが』
『マジだ。S級ってヤバイ』
『後、男の声がたまに混じってるな。撮影しているのってドローンじゃないの?』
『マジだ。少し萎えた』
『視聴者増えてきたな。五十人くらいいるじゃん』
「スマホがうるせぇ」
さっきから【
「お、出てきたのです!」
蒼の視線を追ってみると、全長五メートルくらいありそうなトカゲがマグマの中から出てきた。マグマトカゲだ。しかも複数いる。俺は蒼の後ろに付いてカメラを構える。
「くたばれなのです!」
紫雷を纏って超速で一匹目のマグマトカゲの内臓をえぐり取る。俺は蒼のスピードになんとか追いつく。三日目ともなれば流石に慣れる。カメラの中に蒼がぴったり映るように気を付ける。そして、俺本来の目的であるこいつらのパンツを撮影しようと頑張る。
幸いなことに四人は制服を着ている。だから、スカートだ。後はパンチラのチャンスを撮影するだけだ。
「もう一匹!」
チャンスだ!蒼は足を振り上げてかかと落としでマグマトカゲの脳天を勝ち割ろうとしている。俺は前に回り込んで蒼のパンツを撮ってやろうと思った。しかし、奇跡的にマグマトカゲの頭が邪魔して、パンツが見えなかった。
「ん?」
蒼が周囲を見ると、マグマトカゲが口にエネルギーを溜めていた。これはブレスだ。マグマ級の熱を四方から蒼めがけて放たれる。俺は蒼の巻き添えを食らえばケガをするのが読めているので、若干距離を取った。
普通だったら囲まれると結構キツイのだが、蒼なら大丈夫だろう。
「もう終わりなのですか?なら俺様の番なのです!」
マグマトカゲのブレスを受けても全くダメージを受けていない。紫雷を全身に纏うことでブレスを防いだらしい。そして、蒼は帯電している雷を自分の胸の前で球体上に圧縮していく。
「くたばれなのです!」
空中に跳ぶ。そして、マグマの中に圧縮した雷球を中空から投げつける。すると、マグマの中で電気が弾け、マグマを伝ってマグマトカゲを感電死させた。俺は全力でズームして、蒼のスカートを覗こうと頑張ったのだが、角度が悪すぎた。反対方向に回避するべきだったと後悔した。
空中で犬の姿勢を取る蒼の前側に回っただけに撮れたのは蒼の顔だけだった。ファインダー越しに見た蒼の獣のような美しさに見惚れてしまったのが一生の不覚。
『なんじゃこりゃあ!?』
『いなくなったと思ったら一瞬でトカゲ?らしきものが死んでんだが・・・』
『あの魔獣、マグマトカゲっていうらしいぞ?討伐難易度はA+モンスター』
『犬耳の子、強すぎ・・・』
『可愛すぎ』
『というかカメラワークも完璧すぎる』
『それな。何者なんだこいつ?」
『Sランクダンジョンを配信した人っているんだっけ?』
『いるにはいるけど、撮影がうまくいっていなくて何がなんだか分からなかった。Sランク冒険者の動きにカメラが追い付いてない』
「うるせぇな。流石にここまで通知が来るとイラつくぞ」
いくら俺のスマホじゃないからといってブーブーとなりまくったらキレる。
『まさかとは思うけど、この人、コメント見てない・・・?』
『セリフから配信しているつもりはなさそうだな』
『気づけ~』
通知のうるささに嫌気が差す。とりあえずスマホはバックの中にしまう。ポケットの中にいれておくとうるさくてたまったもんじゃない。こいつらの恥ずかしい姿を撮るために真剣なのだ。
「俺様どうだったですか!」
俺の下に感想を聞きにくる蒼。その純真無垢な笑顔と尻尾をぶんぶんしているところを見ると、パンツを撮ろうとしていたことになんとなく罪悪感を感じる。
「す、すげぇ動きだったよ」
「ふふ~んなのです!」
『可愛いぃぃ!』
『なんだあの笑顔!』
『カメラ代われ!』
『尻尾も耳もぶんぶんしてて癒されるぅ~』
『さっきまでトカゲを残酷に屠っていた子とは思えないな』
コメントには蒼への賞賛と健児へのヘイトで埋め尽くされた。
「俺様がここの獲物をすべて喰い殺すので、もっとけんj「次は私が行くわ」
蒼の言葉を遮って涼が手を挙げてきた。俺は涼の方にカメラを向ける
「俺様がやるので引っ込んでるのです!」
「ダメよ、これは奴隷が私たちの動きをサポートするために行っている撮影よ?貴方だけを撮り続けるのは意味がないのよ」
「ぐぬぬ」
「俺は奴隷じゃないぞ?」
蒼は涼の言葉を聞いて、渋々と下がった。一応自己主張はしておいたが誰も聞いてくれなかった。
『奴隷わろた』
『今度はすげぇ美人が・・・』
『なんだあの銀髪の子』
『俺も奴隷になりたいですぅぅ!』
『お姉さまって呼びたい!』
『同接が1000人行ったぞぉ!』
『カメラマン気づけ!』
鞄の中に入れているのに通知がうるさい。後でこいつらに文句を言おう。
「次は私の番ね。早く魔獣が出て来てくれるとありがたいのだけれど・・・と思ってたら来たわね」
「っ!上か!」
俺たちの頭上からマグマがこぼれ落ちてきた。涼のおかげでマグマのシャワーを浴びなくて済んだが、涼はマグマを直に浴びた。
『え?あの子大丈夫なん!?』
『マグマに飲まれたけど・・・』
『CGだよなこれ・・・?』
コメント欄は涼への心配と困惑であふれかえっていた。美少女がマグマに飲まれて死んだショックは図りしれない。
涼のいた場所には溶岩でできた殻をもち、マグマのようなどろどろな身体をしているカタツムリ、マグマエスカルゴが落ちてきた。その溶岩の殻は頂点が火口になっており、そこから俺たちめがけてマグマを落としてきたようだ。
マグマエスカルゴは涼を既に葬ったものとして、俺たちに照準を合わせているが、
「この程度の熱じゃ私は溶かせないわよ?」
「!」
マグマエスカルゴが放ったマグマは徐々に白く白く凍っていく。そして、再び涼に向けてマグマを放とうとするが、時既に遅し。涼の氷がマグマエスカルゴを凍らせた。
俺は涼の背後に回ってパンツを撮ろうとしていた。しかし、上から押しつぶされた涼の下着を取るなんて不可能だった。そんな思惑を知らない涼は俺の方を振り向きながらのウインクと微笑を浮かべた。不覚にもドキリとしてしまった。
「どう?カメラマンさん?綺麗に撮れているかしら?」
「お、おう。バッチリだ!」
「なら良かったわ」
『うえええ!?マグマを凍らせた!?』
『何が起こった!?』
『ってか最後のウインク最高!』
『この子のファンになったわ!名前教えてくれ!』
俺は蒼に続き、涼のパンツも撮影できなかった。これで俺の復讐は二敗してしまったことになる。もっと楽に撮れると思ったのに、難易度がえぐいぞ。これはもっと近づかないと目的を達成できないかもしれん。
「次は私ね!って何してんの・・・?」
「ん?お前をしっかり撮るために密着しようと思ってな」
次こそシャッターチャンスは逃がさない。幸いなことに紅音は不死鳥だ。空を飛ぶから下から撮影できる。それより紅音の様子がおかしい。
「な、な、な何言ってんのよ!?」
「ん、変なこと言ったか?」
「もういいわよ!しっかり撮らなかったら・・・一回までしか許してあげないんだから・・・」
「お、おう」
塩らしい紅音にペースを崩される。頼むからもっと強気でいてくれ。復讐することをためらわさせる。
『な、なんだこの子!?可愛すぎる!』
『赤髪でツンデレ属性ってテンプレ過ぎて最高!』
『でもツンが弱いな』
『デレ成分が強いからいい!』
紅音は炎の翼を纏い、翼を使って空中に浮かぶ。マグマエスカルゴのように天井に張り付くタイプの魔獣を探しているらしいが、中々見つからない。それよりも俺はスカートの中を覗こうと紅音を下から追いかける。惜しい。
「中々いないわね・・・」
紅音が手をおでこにかざして周囲を空から探すが魔獣がいないらしい。しかし俺の耳が何かを捉えた。
「おい!」
「え?」
紅音の背後から猛スピードで突っ込んでくる赤い影が紅音の胸を貫く。そして、紅音はそのまま地面に流血しながら落ちていった。
『また死亡疑惑?』
『さっきの白い子と違って死体が綺麗に見えてるんだが・・・』
『今度はマジっぽいな・・・』
紅音の胸を貫いたのはマグマワシだ。【深淵の火口】付近にいる超速の鳥だ。マグマを纏ってミサイルのように突っ込んでくる。射程100m圏外から攻撃なら察知できるので、耳を凝らして歩くだけ。それ以外は根性で耐えるしかない。結構痛いけど慣れればアカの戯れと同じくらいなので、可愛いもんだ。
さて、紅音の亡骸の上にマグマワシが留まっている。おそらく紅音を喰う気だろう。ダンジョン内ではよくあることだ。だけど相手が不死鳥なのが悪かった。
「あ~痛かった」
「ピっ!?」
青い炎が紅音の死体からマグマワシを巻き込んで発生する。マグマワシはマグマでできているはずだが、
「あんたと再会してから死にまくっているんだから責任取ってよね」
「意味が分からねぇよ・・・」
紅音はただ自分の死体を燃やして新たな炎となって復活する。それだけで巻き込まれたマグマワシは形を保てなくなり、灰になって消え去った。俺は結局パンツを撮影することができなかった。マグマワシが紅音を殺さなければ撮れたかもしれないのに・・・
『今、生き返った・・・?』
『完全に死んでたはずなのに』
『青い炎ってガスパーナーとかと同じなのかな・・・』
『いやいやそれでマグマワシを燃やせるってどういうことよ』
『そいつSランクの魔獣らしい・・・』
『マグマを燃やすってどういうこと?意味が分からん・・・』
「ブーブーうるせぇな」
「どうかしたの?」
「【
「?見せて頂戴」
俺はスマホを鞄から取り出して涼に渡そうとするが、その瞬間に地鳴りが起こる。
「この感覚は・・・」
フロア全体の黒色の地面は真っ赤になり、そこからマグマがあふれ出してきた。地面と呼べるものはマグマの海になり陸地と呼べるものは離れ小島のようになっている。移動の際は絶対に下に落ちることができなくなった。
「さてさて、最後は僕の番だな」
綾は空中に黒円を発生させてそれを足場にしていた。そして、右手に血の剣を携えて、マグマの中にいるあいつを待った。
『黒髪の僕っ娘美少女きたぁ!』
『あの邪悪な笑顔最高!』
『さてさて四人目だけど、どんな戦い方をするんだろう』
『奴隷カメラマンに頑張ってもらわないと』
俺はカメラを綾に照準を合わせたが真上すぎて黒円が邪魔をしている。こりゃあ場所を移動しないと撮影できないと思っていると、マグマがブクブクと泡を吹き出す。
「来たか、
「グオオオ!」
マグマの中から出てきたのはイフリートと呼ばれるドラゴンだった。全長は20mぐらいの巨大な魔獣だ。ドラゴンというよりは怪獣に近いかもしれない。こいつの強さは巨体から繰り出される無差別マグマ攻撃だが、もっとも面倒なのはワンフロアの地面をマグマで埋め尽くすことだ。そして、≪深淵の火口≫の主だ。
それによって俺みたいな空を飛べない人間は島から島へと源義経のような動きをしなければならない。まぁでもあいつらにその手の心配は無駄だ。
一人残らず空中にとどまっている。涼と紅音は自身の翼を使って、蒼と綾は紫雷と黒円を使って器用に飛んでいた。俺は仕方なく地面にいる。普通に熱いので俺も空を飛びたい。
『イフリートって神話に登場するドラゴンだよな・・・?』
『初めて生で見た』
『Sランクらしい・・・』
『俺たち、歴史的瞬間を目の当たりにしているんじゃ・・・』
「ああ!もううるせぇ!本気出すんだから少しだけ黙ってろ!」
三人の恥ずかし映像を撮ることに失敗した俺はもう綾しか残っていない。こっからは本気で撮らせてもらうぞ。
「綾!」
「ん、なんだよ?」
綾が俺の方を見て、訝し気な視線を送ってくる。
「俺はお前を離さない!本気で追いかけるから覚悟しておけよ!」
「な、何言ってんだ、お前!?」
綾が必要以上に動揺して、黒円から落ちかける。何やってんだよあいつ。
イフリートはマグマのブレスを放ってくる、マグマトカゲとはレベルが違いすぎる。広範囲ブレスなので、綾だけでなく、涼や蒼、紅音にまで被害がおよびそうだった。しかし、
「≪
直径三メートルくらいの大きな穴がイフリートのブレスを飲み込む。流石だと思うと同時に俺はイフリートの背後にある島から島に移動する。イフリートが動くとマグマの波が押し寄せてくるので、先読みしなければ足場がなくなって、マグマでスイミングをするハメになる。
さらに、難易度が高いのが綾を常に撮っていないといけないことだ。パンツはいつ見えるか分からないからな。ただ、
「ちょっと距離が遠いな」
俺はフロアの小島から小島に移動しながら、壁に向かった。そして、そのまま壁走りをする。マグマのある小島を移動するよりも圧倒的に効率が良い。そして、そのまま綾の近くまで移動する。
『えええ!?』
『なんじゃこの動き!?』
『ヤベぇよこの人!』
『カメラがグルングルン回ってるのに、絶対にあの黒髪の僕っ娘を外さないとかどうなってんの?』
『プロとしか・・・』
健児の動きは綾をカメラに収めながら自身の進行方向を見えるようにしている。その動きだけで只者じゃないということが分かってコメント欄はさらに盛り上がる。
「僕に攻撃したんだ。死ぬ覚悟はあるんだろ?」
綾はイフリートの周りに黒円を大量に発生させる。また≪
「グオオ!」
イフリートは再びマグマに潜りこむことで≪
「へぇやるじゃないか」
俺は綾の右斜め先にある壁に足をぶっ刺して、綾を撮影していた。空中で撮影するにはこれしかない。綾がその巨ぬうを両腕で支えているのでそこを撮影しそうになったが、理性を総動員してセーフ。
カメラの外側から三人の殺気を感じたとかそういうわけではない。
「さてさて、どこから出てくるかなぁ」
綾は余裕そうだ。なんとなく俺が足を刺した地面が熱くなってきた気がする。
「って馬鹿!」
「え?」
綾が俺の方に焦って向かってきた。何が起きたと考える時間はない。綾は俺を高速で抱きしめて、壁から俺を引き抜いた。そこの壁からイフリートがマグマと一緒に出てきた。狙いは俺だったらしい。
「
「ふん、そう思うんだったら僕の傍にいろ」
「お、おう」
綾に抱かれていたので感触が残っていて変な気分になる。綾は俺の足元に黒円を創り出し、そこに立たせた。
「僕の下僕であり、奴隷に手を出したんだ。本気で・・・コロス」
「!!」
イフリートが綾の本気の顔に恐れている。もう一度、マグマの中に潜ろうとするが、
「もう逃がさねぇよ?」
「グオ!?」
綾は目の前に≪深闇≫を発生させる。先ほどと違うのはその大きさだ。10m前後の大きさにまで広がったその大きな闇は巨大なイフリートすら飲み込んでしまう。
「グオオ!」
しかし、イフリートも≪深淵の火口≫の主。流石にやられっぱなしでたまるかとなんとか≪深闇≫から顔を出し、綾に向かってブレスを吐こうとした。
「僕が直々にぶった斬ってやる」
綾は血で創った剣を居合の恰好で前傾姿勢になる。そして、それと同時に綾に向けてイフリートのブレスが放たれるが、
「≪神斬り≫」
綾が一言そう呟く。その後に残されたのは真っ二つになったイフリートのブレスと首と胴体が分かれたイフリートの死体だった。
「ふん、本気を出してやったんだから感謝しろよな。クソトカゲ」
『マグマを斬った!?ってかマグマだけじゃなくて首をいつ切った?』
『全然見えんかった・・・』
『この子の黒い穴はなんなんだろう』
『それよりこの子あの病に侵されてるな。古傷がうずいたわ』
『ワイも。≪
綾の手から血で生成された剣が消えた。俺はファインダー越し見ていたが結局この動きを追うことはできなかった。後、前傾姿勢になった時にパンツが撮れているかと思ったら後数センチ足りなかった。
「それでさっきの発言はどういうこと?」
「さっき?」
綾が変なことを聞いてきた。
「お、お前が僕のことを離さないって・・・言っただろ?この馬鹿」
「俺そんなこと言ったっけ?」
「は?」
綾は顔を赤くしたかと思うとハイライトを消した瞳で俺を見てきた。俺は何をしたのかと思い出すが、何も心当たりがない。他の三人を見るが、綾を見て笑ってる。
『なんだろう。すげぇカメラマンを殺してぇ』
『それな。黒髪僕っ娘にこんな表情をさせるなんて死刑だわ』
『さっきまで神カメラマンだと思ったけどこれは酷い』
一瞬静かだったスマホが俺のバックで再びなり出す。またうるせぇなと思う。俺はカメラの電源を落とした。結局こいつらの恥ずかしい映像を撮ることができなかったが、後でこいつらの動きを研究して、復讐をしてやればいい。
なあに、こいつらを恥ずかしがらせる方法はこれだけじゃない。時間はまだまだたっぷりあるのだ。塵も積もれば山となるということを信じて一歩ずつ頑張ろう。
それよりも問題は綾だ。ハイライトを消して、前髪が口の中に入っている。そして、さっきまでしまってあった血の剣が再び生成されつつあった。
「一回死んでこい!」
「な、なんでだよ!?」
俺と綾の追いかけっこが始まった。結局綾の≪深闇≫に捕まって、俺は綾の言うことをなんでも一つ聞くことでなんとか許してもらった。綾だけズルいというわけわからん理由で他三人にも同様の約束をさせられた。
俺に拒否権はないので抵抗するだけ無駄だった。
●
俺たちは公園のダンジョンを出た。辺りはもう真っ暗で街灯が灯っていた。手に入れた素材を綾が取り出し、俺はあらかじめ公園に置いておいたビニール袋の中にイフリートの素材を分ける。
「明日は【迷いの樹海】に行こうか」
「そうね!」
「それよりシャワーを浴びたいわ。今日は暑かったもの」
「俺様もです!」
後ろで俺を抜きして会話を楽しんでいるのをよそに、俺は機材のチェックをする。録画がしっかりできていなかったら今日という一日がなんの意味もなくなってしまう。しかし、俺が観ようとすると、
「はい、没収~」
「なっ!?」
背後にいた綾に没収されてしまった。恨みがましい視線を送っていると綾は意地の悪い顔を浮かべてきた。
「どうせ僕たちの恥ずかしい動画でも残しておこうと思ったんだろ?」
「なっ!?」
「その程度の魂胆ならお見通しなんだよ。なぁお前ら?」
「健児がスカートを覗こうとしていたことでしょ?」
「え!?」
「ふふ、気づいていたわよ。必死で可愛かったわ」
「なっ!?」
「ざまぁなのです!健児はこれで俺様たちから離れられなくなるのです!」
完全に嵌められた。最初からこいつらは俺をゆする気だったのだ。しかも動画という動かぬ証拠を持たれたら俺には何もできない。
「お、俺は真面目に動画を撮っていただけだぞ?」
「それを僕たちで確認するんだよ。まぁ健児のことだから私たちに欲情しまくっているのは分かっているけどね」
そう言われては俺に抵抗手段はない。幸いなことに変なものは撮れなかった・・・はずだ。これで俺が無罪だと証明されるのを待つしかない。追い詰めているつもりが追い詰められているとは・・・
「感想は明日教えてあげるよ。楽しみに待ってな」
四人はそう言い残して、公園から出ていった。俺は一人ぽつんと残された。
「帰るか」
嫌なことがあった日は帰るに限る。できればモフモフの召喚獣が今日は来ててくれて欲しい。
●
家に帰って風呂に入り、母さん特製のポテサラとステーキを食べた後、俺は自室に戻った。あいつらは来ないらしい。今日だけは誰か一匹でいいから来て欲しかったんだけどなぁ
「勉強するか・・・」
夜は勉強をするって決めている。いつか美女からモテモテになる日を掴むために、鍛練は欠かせない。美女と言えば、
「姫神・・・」
綾にスマホからデータを消されたので連絡することができない。初恋の人間に会えない男の気持ちってこんな感じなのか。これは辛い。
「はぁ」
溜息しか出ない。明日なんとか朝にでも会えないだろうか。
ガッシャアアン!
「え?」
後ろから聞こえて欲しくない音がした。しかも窓から。振り返るとそこには、
「お、おい!?何してんだa「どくのです健児!」は?」
綾を筆頭に、蒼、そして、紅音、最後に涼が部屋に突っ込んできた。全員寝る前なのか随分防御力の薄い恰好をしていた。生足とか鎖骨に目が行きそうになるが部屋の惨状をみたら、そんな気持ちはすぐに消えた。
「て、てめぇらなんてことを・・・!」
最近召喚獣が暴れたのを修繕したばかりなのに!今回ばかりは本気で怒ろうとするが、
「それはこっちのセリフよ!あんた何してんの!?」
「は、いや、何を?」
紅音が俺より鋭い剣幕で見てきたので普通に日和った。他の三人を見てもただ事ではないことが分かる。
「健児が撮った今日の動画が配信になってたんだよ」
「え?マジ?」
「マジだよ」
録画モードだと思っていたら配信モードになっていたらしい。ただそんなに怒ることか?見てくれていてもせいぜいが十人くらいだろ?俺なんて未だに四人しか見てくれていないし・・・だから思ったことをそのまま伝える。
「けどよ、見てくれてても十人くらいだろ?そんなんで焦るとかお前らも自意識過剰すぎるだろ・・・」
「ならこれを見るのです」
蒼が俺に自分のスマホを渡す。画面には今日の配信が出ている。
「は?」
俺はそれを見た瞬間目が点になった。一、十、百・・・百万?
「同接100万人、登録者数100万人、再生回数1000万回。これをどう説明するのかしら?」
涼の指摘に俺は何も答えることができなかった。
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