5

10mほどの深さの穴に落ち、そして、普通に着地をする。ダンジョンの中は特殊な鉱石が壁に埋まっており、明かりが灯っている。そして、目の前にはいきなり三択の道に分かれている。【深闇の蟲毒】に行くなら、右ルートに入っていくのが最短だ。俺がそれを言おうとすると、


「それじゃあ行くぞ」

「おう!なのです!」

「行きましょう」

「ほら、健児!早く付いてきなさい!」

「お、おう」


俺が言う前にすでに走り始めていた。まるで何度も来ているかのような判断速度に俺は驚きを隠せなかった。俺はすでに豆粒くらいの大きさになっている幼馴染達を追いかけた。


「速すぎんだろ!」


圧倒的な走力を前に俺は叫ばずにはいられなかった。俺は猛ダッシュで追いかける。そして、徐々に差が縮まり、三十秒ほどでなんとか追いつけた。


「お前ら速すぎだ!」

「へぇ~」

「ふ~ん」

「やっぱりねぇ」

「なんだよ?」


余裕しゃくしゃくで俺の方を振り返る四人。何か変なことをしただろうか。


「流石健児なのです!俺様たちに追いつけるなんて凄いのです!」

「うるせぇ!後ろスキップしてるお前に言われても嬉しくもなんともないわ!」


俺は結構なペースで走っているっていうのにこいつらときたら全く疲れる様子も見えない。召喚獣あいつらと散歩するよりもはるかにハイペースだ。


「って魔獣が前にいるぞ!」


一つ目の巨人、サイクロプスが前方に現れる。巨体故にスピードが遅いと思いきや、神の力が現れる前の人類最速の男、ウサインボルトと同じくらいに速い。


俺は300mくらい先で構えているサイクロプスについて警告をするが、


「あっ、一つ目なのです!」


蒼が後ろスキップからバク転して前向きになり、紫雷を一瞬で纏った。そして、そのまま超スピードでサイクロプスの首に飛び乗り、噛みちぎって絶命させた。


「は・・・?」


速すぎる。一瞬で加速したと思ったら、すでにサイクロプスが倒れていた。眼で追えなかったわけではないが、あんな芸当俺には無理だ。そして、サイクロプスの血で血まみれになっている蒼は茶色の犬耳と尻尾を生やしていた。あれが蒼の力なのだろうか。


「蒼の権能はフェンリル。すべての狼の王で、北欧神話において主神オーディンすら喰った最強の狼よ」

「なっ、マジかよ・・・!」


権能とは元になっている神や神獣のことだ。おれは召喚士だから権能を持たないが、強力な召喚獣を召喚して戦ってもらうことができる。権能は神の力を纏うことができる。


基本的には権能を持つ者かおれのように召喚士として召喚獣に頼るかのどちらかがほとんどだ。どちらにも一長一短はあるがダンジョンを攻略するための強力な力なのには変わりない。蒼の権能は俺でも知ってる最強の狼の力だ。そんなのチートじゃねぇか。


「あっ!たくさん出てきたのです!俺様喰い殺すのです!」


アオが雷を纏うと、サイクロプスが後ろに後ずさる。


「魔獣ですら、蒼にビビるのかよ・・・」


あの力は最強の一つだ。蒼は遭遇した瞬間に逃げ出さなければならない相手を一撃で殺していく。時には噛みちぎり、時には紫雷で纏った爪で屠る。その戦い方に一種の美しさすら感じさせられた。


「すげぇな」


健児のつぶやきが漏れると、隣で涼がむっとした顔をする。


「言っておくけど私だってあのぐらいはできるのよ?」

「突然どうした?」


訳の分からんことでキレられたので俺は溜息をついた。



「健児!どうだったです!俺様の力は!?」

「凄かったぞ」

「えへへ!なのです!」


可愛い。尻尾と犬耳がぶんぶん揺れていてなんというか蒼の可愛さに磨きがかかっているようだ。結局あの後、サイクロプスの巣穴にまで突っ込んだ蒼はそのまま10匹ほど狩ってきた。俺たちはただその様子を見ているだけだった。


「蒼、次は僕が戦う」

「ダメよ!次はあたし!」

「私に任せなさい」

「ダメなのです!今日は全部俺様がやるのです!」


わーわーぎゃーぎゃーと騒ぎまくる四人。全く緊張感がないがあの圧倒的な実力を見せられたら、確かにここまで気が緩むのはわかる。


「大体、お前らはズルすぎなのです!健児がいないときは俺様に戦いを任せる癖に!」

「当たり前だ!利がないのに誰が戦闘なんて野蛮なことをやるか!」

「それならあたしに譲りなさいよ!」

「紅音に任せたら素材が燃え尽きるでしょう?私に任せなさい」


なんだろう。こんな風景を見たことがある気がするんだよなぁ。ごく最近に。なんとなくだがこの喧嘩を止めないと俺が酷い目に遭いそう。


「おい」

「なんだよ健児」

「俺はまだお前らの力を詳しく知らないんだよ。だから一人ずつの戦闘で見してくれよ。な?」


俺は平等にかつ、建て前を用意してやる。これなら蒼も譲る気になるだろう。


「健児が言うなら譲るのです」

「悪いな。格好良かったぞ」

「!えへへなのです!」

「「「・・・」」」


可愛い。犬耳と尻尾がぶんぶんと揺れていて萌え死ぬ。ただなんとなく他三人の視線が強くなった気がする。



再び探索に乗り出す。とはいっても何度も見ている場所だ。探索というよりも散歩に近い。再び十字路に出る。右が正解ルートなのだが、


「右」


先頭を行く綾が一言声を出すだけで減速することなくスムーズに【深闇の蟲毒】に向かっているのだ。俺と同等かそれ以上にこのダンジョンを探索していないとこんな動きは無理なはずなのだが。


「どうしたの健児?まさか疲れたとは言わないわよね?」

「んなわけ。ただお前らが完璧にこのダンジョンを把握していることに驚きでな」

「ま、まぁね。健児のあのノートを暗記していたらこの程度余裕よ」

「え?暗記してんの?」


まさか四人とも?と思ってみると全員がサムズアップしてきたので終わったと悟った。俺は天井のシミを数えながら、精神を落ち着かせようとしていると、上に光が見えた。こいつは!


「おい!上!」


俺が警告をすると、四人が上を見上げる。すると俺たちの向かう先に通せんぼする形で何かが落ちてきた。その形は八つの節足を持ち、糸を使って狡猾に獲物を捕らえる生物。蜘蛛だった。特筆すべきはその大きさだ。


一匹一匹が成人男性と同じくらいの大きさだ。捕まったら一瞬のうちに食われることは容易に想像できる。それが俺たちの進行方向と来た道を塞いでいた。完全に待ち伏せをされた形だ。ただ今回は獲物が悪かっただろう。


「それじゃああたしの番ね!健児!あたしの活躍を見逃したら私刑だからね?」

「どんな罰だよ・・・」


紅音がひと呼吸する。すると、炎が起こる。


「熱!」


紅音を中心に炎が起こったかと思うと、炎が翼の形に収束していく。


「それじゃあ焼け野原にするわ!」


紅音が右手を前に出す。すると手の前に魔法陣が多重展開される。そこから青い炎が発射された。

前方にいた巨大蜘蛛は一匹残らず焼け焦げた。数匹はかすった程度で地面に燃焼箇所をこすって消そうとするが、全く炎が消える気配がない。むしろどんど広がっていく。


そして、後ろから蜘蛛の糸が紅音めがけて発射されるが、紅音の下にたどり着く前に燃え尽きてしまった。紅音は後ろを向いて、攻撃をしてきた蜘蛛を超速飛行をして燃やし尽す。


「ふぅ」

「おい!上!」

「え?」


紅音は安心しきっていたのか上に潜んでいた11匹目に気付かず上から頭を叩き潰された?


「紅音!?」


紅音が蜘蛛にぺしゃんこにされた。紅音の血が周囲に破裂する。一撃で殺されたかもしれないが、駆け付けずにはいられなかった。


「待つのです!」

「は?お前らそれでも仲間かよ?紅音が死ぬかもしれないんだぞ!?」


蜘蛛の下から赤い液体がたらたらと溢れていた。俺はこいつらが本当にクズになってしまったんだと幻滅したと同時に、すぐにでもかけつけて無事なら病院に連れて行かないといけないと思った。


「だから大丈夫なのです!」

「どういう意味だよ!?」


落ちつきはらっている蒼に苛立ちが隠せない。綾がため息をつき、半眼で死んだ紅音の方を見た。


「おい、紅音。ふざけてないでさっさと生き返れ」

「綾!てめぇも何言って「はぁ、もう少し楽しませなさいよ」は?」


もう二度と聞けないはずの声が聞こえてきた。声のする方を見ると紅音の死体があった。死体が蜘蛛ごと青い炎で焼き、どんどん大きくなる。そして、ヒト型になったと思うと、さっきまで死んでいた紅音の形になった。俺は何が起こったか分からなかった。


「え?紅音・・・?」

「そうよ?ふふん、あたしは不死鳥の権能を持っているのよ?あの程度で死ぬわけがないじゃない!」


ドヤ顔をされる。紅音が無事だと分かると今度は俺の中に怒りがふつふつと湧き上がってきた。


「知るか!そういうことは先にいえ!マジで死んだかと思ったじゃねぇかよ!」

「え?そ、そうなの?」


紅音が動揺しているが知ったこっちゃない。俺の方が驚きまくったんだから。


「ふ、ふ~ん、健児は私が心配だったのね?」

「当たり前だ、馬鹿!もう二度とこういうことはやめろ!」

「うん、えへへ・・・」


俺は本気で叱るが、紅音には響いていないらしい。その証拠に悪戯が成功した子供のような表情をしている。よっぽど俺が心配していたのが滑稽らしい。


「ほらさっさと行くぞ。夕飯までに帰るんだから」

「速くいきましょう」

「お、おう」

「わ、分かってるわよ!」


綾と涼が急かしてくるので俺たちは急いで付いていく。



「何か出てこい何か出てこい何か出てこい」


綾が不穏なことを言っている。俺としてはこのまま【深闇の蟲毒】に行けたらそれでいいんだが。


「綾、いくらなんでも気を抜きすぎよ!」

「いいとこ取りした紅音に言われたくないね!」

「い、いいとこ取りって、えへへ」

「その顔面を殴りたい」


いつも人を馬鹿にしたような綾に余裕がないのは見てて面白い。微笑ましさすら感じる。


「おい、健児、なんだその顔は?」

「昔から人を馬鹿にしたようなお前がうろたえてていい気味だなって」

「マジで覚えてろよお前?」


綾が凄んできたので、俺はすごすごと後ろに引き下がる。これ以上何かすると、綾が本気で俺を殺しにきそうだった。


このまま真っすぐ進むと、【深闇の蟲毒】に着いてしまう。そうなれば・・・どうなるんだ?あそこにいるやつを倒したことは一度もない。散歩でスリルを味わうために通っているだけであそこを殲滅しようとするなんて考えたこともない。


女王四重奏こいつら】はどうするのだろうか。


「おい止まれ」

「ん?」


綾が急ブレーキをかけると俺たちも一斉に止まる。俺もなんとなくだが分かった。この感じはあれだろう。


「ゴーレムか!」


土壁から絞り出されるように二体のゴーレムが現れた。さっきのサイクロプスなんて目にならないほど大きい。こいつと遭遇するときは運が悪かったと俺一人なら引き返すんだけど、


「ようやく僕の番か」


綾は獰猛な狩人のような顔をしてゴーレムを見つめる。右手を下にかざすと、赤黒色の液体が徐々に凝固していき、一メートルくらいの刀になっていく。その禍々しさに恐怖心を抱かせられた。


「綾の権能は吸血鬼、それも真祖のね」

「真祖?」

「ええ。すべての吸血鬼の祖先にあたる力を持っているわ。一般的な吸血鬼と違って血液を欲することはないし、日の光に弱いということもない」


それって弱点がない吸血鬼ってことじゃないか。俺は綾を見る。すると、その怜悧な赤眼で俺を見ていた。


「よく見ておけよ健児。お前に吸血鬼の真祖の力を見せてやる」

「お、おう」


そういうやいなや、剣を横に薙ぐと、コウモリの翼が生えてきて、綾の歯が牙になる。そして、蒼にも負けないくらいの超スピードでゴーレムに突っ込む。


「はあああ!」


そして、ゴーレムの裏側に回り込み、血液でできた剣でゴーレムの右足の膝関節を切り裂いた。片足でバランスを取れなくなったゴーレムは膝から崩れ落ちた。


「これで一匹!」


四つん這いの体勢になって、首を晒しているゴーレムの頭上から全体重を乗っけた上段切りでゴーレムの首を切り裂いた。


「あっははは、次ぃ!」


テンションが上がった綾はそのままもう一匹のゴーレムを斬りに行く。眼にも止まらぬ速さでゴーレムの首を切り裂こうとするが、剣の方が折れた。


「おい!大丈夫か!?」


俺は綾の武器が折れたことで形勢が不利になったと考えた。ゴーレムもチャンスと見たのだろう。綾に向かって突っ込んでくる。


「はっ、心配なんざ百年早いよ健児」

「いやでもよ・・・」

「黙って見てろ」


すると、綾は何もないところに黒い穴を創る。


「アレは・・・」


確かクロがよく使っている技だ。綾と同系統の業なのだろう。ただ数が段違いだ。綾は無数の黒い穴をゴーレムの周りにつくり、ゴーレムはそれを見て止まってしまった。


「くたばれウスノロ。≪血の雨ブラッディレイン≫」


綾が技名を叫ぶと穴からさっきまで綾が使っていた血の剣が無数に射出され、それがゴーレムを滅多刺しにした。いっそ哀れなゴーレムの瞳は点滅を繰り返しながら、消えていった。


そして、綾は翼を収め、シュタっと地面に降り立った。そして、俺の方に向かってずんずん歩いてきた。


「どうだ健児?僕の力に慄いただろ?」

「あ、ああ。格好良かったぞ」

「ふん、それが分かればいいんだよ。これからは舐め腐ったことは言わずに僕の言うことを素直に聞けよ?」


機嫌が戻ったらしい。それなら良かったのだが一つだけ聞いておきたいことがある。


「なぁ綾。一ついいか?」

「仕方ないなぁ。今の僕は機嫌がいい。答えてやるよ」

「なら遠慮なく」


俺は意を決して聞くことにした。


「お前って自分の攻撃に技名とか付けちゃうやつだったんだな」

「は?」

「≪血の雨ブラッディレイン≫ってあんな風に意気揚々に言えるって凄いなって思ってよ」

「な、な、な」


綾の顔はどんどん赤くなる。凄いカッコいいと思う。


「確かに綾って技名を叫ぶわね。特にトドメの時」

「お、おい」

「技名っていくつあるんだろうね。≪血の雨ブラッディレイン≫はダンジョンに入ると多用している印象はあるけど」

「紅音、余計なことを「『ふっ、雑魚が』とかよく言っちゃってるのです!」黙れ!蒼!」


味方の援護?射撃にあって赤くなりまくる綾はもう真祖の威厳もくそもない。俺は生暖かい目でその病名を呟くことにした。


「お前も厨二だったんだな?」

「ちげぇよ!」

「そうかそうか」

「ぶっ殺すぞてめぇ!?」


口が悪くなるが、こいつが同志だと分かるともう何も怖くない。生意気なところも可愛く感じてしまう。


「~~~~っ、さっさと次に行くぞ!」

「おうブラッディさん」

「ブラッディ言うな!」



ゴーレムを綾が倒したので、出口はもう目前だ。後は一本道を進み、残るは【深闇の蟲毒】にいるやつ《・・》だけだ。あいつだけはこのダンジョンでも別格なので、できることならあまり対面したくないんだよなぁ。


「なんだよ健児。ビビってんのか?」

「いやいやブラッディさんがいるから怖くはないけどよ」

「次その名前で言ったらマジで殺すぞ?」

「ごめんなさい」


真顔で言われたので普通に謝る。これ以上綾のことをいじると本気でヤバいことになりそうな気がした。


「ま、まぁ真面目な話、【深闇の蟲毒】にいるやつは本気で化け物だぞ?お前ら全員で戦えばなんとかなるかもだけどよ」


こいつらの強さはなんとなくわかった。一人一人が化け物だということも分かった。それでもあいつだけはキツイ気がする。けれど、そんな風に思っているのは俺だけだったようだ。


「まさかあんた。アレが私たちの本気だと思ってるわけじゃないわよね?」

「え?本気じゃねえの?」

「そんなわけがないのです!俺様十分の一くらいしか力を出してないのです!」

「僕もだよ」

「嘘だろ・・・?」

「マジよ。だから私がアイツを瞬殺するのを見ていなさい」

「お、おう」


当たり前のように【深闇の蟲毒】の先にいる敵を知っているわけか。俺の黒歴史ノートにはそこまで詳細には書いていないからこいつらも相当数潜ってるんだろうな。話しているうちに出口だ。


出口を抜けると、大きな空洞に出る。そして下を見ると、蟲毒の名を冠するように魔獣同士が殺し合っている。下は魔獣共の死骸で埋め尽くされ、魔獣たちはそれを喰うことで飢えを凌ぎ、力を増していく。


そしてこの蟲毒は下に行くほど敵のレベルが上がっていく。一回ズッコケて一番下に落ちた時はマジで死ぬかと思った。もう二度とここの底には行かないと誓ったものだ。


「な、なぁマジで行くのか?」

「ええ、ちょっと待ってなさい」

「あ、おい涼!」


涼は魔獣たちが争っている場所にふわりと降り立つ。当然魔獣共は同じフィールドに降り立った時点でそいつを敵とみなす。そいつがなんなのかはどうでもいいのだ。


「貴方たちには用はないの。ごめんなさいね」


涼がそう言うと、銀色の翼と尻尾が生えてきた。そして、ふぅっとため息をつくとそこにいた魔獣たちがすべて凍った。


「な、なんじゃこりゃぁ!」


一瞬にして魔獣たちが凍った。そこはすべて氷の世界になった。動いているのはその中心で佇む涼のみだった。俺が驚愕をあらわにしていると、涼がこっちを見て微笑んできた。不覚にもドキリとしてしまった。


「おい、デレデレすんな」

「し、してねぇし、それよりも涼の力はなんなんだよ!?」


俺は勢いで誤魔化すことにした。


「涼の権能は≪リバイアサン≫。水を司る最強の龍だ」

「マジかよ・・・」


聞いたことしかねぇよ。確か旧約聖書で海の王として陸の王ベヒーモスと対になって創造された最強のドラゴンだった気がする。


「フェンリル、不死鳥、真祖の吸血鬼、リバイアサンって・・・【女王四重奏プレデタークイーン】ってだいぶやべぇパーティなんだな」

「ふん、やっとわかったか。お前はそんな最強パーティの雑用なんだから喜んで僕たちに仕えろ」


物言いはアレだけど確かにこのパーティに入ることは確かに名誉だと納得させられる強さだった。


「来たわね!」

「ですです!」


すると、地面が揺れた。アイツが出てくるのだろう。涼のいる位置よりも遥かに下にいたそいつは氷を破って上がってきた。


「久しぶりね、キマイラ」

「グルルルル」


頭はライオン、尾は蛇、同は山羊という混合生物。神話上に登場する有名な怪物の一匹で、【深闇の蟲毒】の絶対的な王者だ。あきらかに先ほどまでのサイクロプス、巨大蜘蛛、ゴーレムとは一線を画すオーラを感じさせる。


だが、涼も最強のドラゴンらしく落ち着き払っている。


「それじゃあ殺し合いを始めましょうか」

「グルルル、グガアアアア!!」


涼の言葉に合わせてキマイラが突っ込む。昨日、運命の出会いを果たした仲人の人狼を思わせるスピードだ。いやそれよりも速い。そういえば姫神どうしてるかなぁ


「あっ、ヤバイ!」


紅音から警告音がなされた。涼を見ると一瞬こっちを鋭すぎる視線で射抜いた。俺は一瞬で汗まみれになるが、すべての汗が凍った。


「・・・馬鹿、本気を出すなら言えよ」


涼の前には身体が完全に半分になっているキマイラがいた。いつの間にか涼の手には氷の剣が握られている。そして、気が付いたときにはキマイラの身体は縦に斬られていた。切り口はすべて凍り、内臓の標本が綺麗に残っている。


「な、何が起こったんだ?」


俺は目の前の現実について行けてない。ただ隣にいる三人は何かを察しているようだ。


「時間を凍らせたのです」

「じ、時間?」


何言ってんだ蒼はと思ったが、その顔はいたって真面目だった。紅音と綾の顔を見ても嘘という感じがしない。


「ねぇ健児」

「ひっ!」


俺は後ろに突然現れた涼にビビった。よく見ると瞳のハイライトが死んでいた。


「浮気はするなってあれだけ言ったわよね?」

「う、浮気ってなんだよ?」

「私が戦っている最中に別の女のことを考えていたでしょ?」

「あ、いや「言い訳はいらないわ」すいません」


怖すぎる。よく見ると涼だけではない。紅音も蒼も綾も同じ顔をしていた。


「謝って住むなら警察はいらないのよ。そんなものより誠意を見せなさい」

「せ、誠意?」


内蔵を差し出せとかそういうものだろうかと考えていると、涼は若干頬を赤くして、もじもじと言ってきた。


「ええ。私、今ので疲れちゃったの。その、お、おんぶしなさい!」

「「「「は?」」」」


俺と他三人の声が重なる。


「何?嫌なの?」

「いえ、滅相もございません!おんぶさせていただきます!」


俺はさっと涼の前に座り、そして、立ち上がった。柔らかく、さっきまで冷気を出していた女とは思えないほど、温かい熱を感じる。


「ふふ」


上機嫌になったっぽいので良かった。声に艶があるので少しエロい。だが、周囲を見てみると、他三人の視線が痛かった。


「・・・僕も本気出して疲れた」

「は?さっき十分の一くらしか力を出してないっていってたじゃねぇか」

「綾はそうなのです!俺様は本気の本気だったのです!だからおんぶをご所望するのです!」

「いやお前も」

「あたしは一回死んでるから本当に体力がないのよ!健児、おんぶ!」

「自業自得じゃん」


結局、俺は四人をおんぶすることになった。雑用らしい仕事がメンバーの運搬ってどうなってんだよ。後、こいつらの色々な部位が成長しまくっていて俺は最後まで性欲と別の戦いを繰り広げることになっていた。

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