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クラスメイト達は清掃を俺一人に任せて全員帰ってしまっていたので俺は一人教室を綺麗にしていた。そんなことがあったから【女王四重奏あいつら】と約束した時間に遅れそうになっていた。俺は下駄箱から靴をダッシュで取り出し、校門に向かう。


「遅いわよ」

「うるせぇ。お前が早すぎるんだよ」


放課後、俺と【女王四重奏プレデタークイーン】の四人と校門のところで待ち合わせをしていた。急げと言われたのに、涼以外誰も来ていないのはどういうこっちゃ。


「三人とも呼び出されてるのよ。私も今しがた終わって急いできたところなのよ」

「呼び出し?」

「ええ。告白だとか勧誘だのうんざりさせられるわ」

「ふーん」


涼は溜息をついていた。本当にうんざりしている様子だった。確かに見てくれはいいし、S級パーティのメンバーだったらお近づきになりたいと思うのだろう。授業中に調べたのだがS級というのはS級ダンジョンを探索できること。後は災害を起こすとかなんとか書いてあった気がするが意味が分からなかったので、調べるのを後回しにした。


ダンジョンの難易度として一番高いのはS級。例外もあるらしいけど、とりあえずはそれが最高難度らしい。【女王四重奏プレデタークイーン】は最強のダンジョン探索パーティの一つということだ。思った以上に凄いらしくて驚いた。


「大変だな」


色々な意味で。有名になると、有名税なるものを払うことになるというが、こういった形で日常を浸食してくるのかとまじまじと実感させられる。


「おい、あれ」

「何で【白銀姫】とド変態クソ野郎が一緒にいるんだよ」

「朝、【黒血姫】と揉めていたとかいうのも聞いたけど・・・」

「まさかうちの学校のアイドルたちがあのクソ野郎の手籠めにされたってのかよ!?」

「許せない!女の敵!?」

「先生に言った方がいいのかな?」


訂正。俺も結構な有名人だった。もちろん悪名の方だが。そうこうしている間に校門には人が集まってきた。そして、俺を囲むように陣形を取り、何かがあったときようにダン配を起動している。残念ながらそんな面白いことが起こるわけがない。


「お待たせなのです!」

「ごめん!遅くなったわ!」

「無為な時間だった」


声のする方に一斉に振り向く野次馬達。モーセのごとく人垣を割って、蒼、紅音、綾が歩いてきた。


「遅ぇよ」


俺は責めるように言う。あれだけ時間厳守だと言ったくせに遅れてきたのだ。一言くらい文句をいいたくなるのが人間の性だろう。


「悪い悪い。で、この人だかりはなんなの?」

「健児目当ての野次馬」

「なるほど」

「それで納得するな」


間違ってはいないけど、俺は原因の半分だ。もう半分は【女王四重奏おまえら】と俺がなぜ一緒にいるのかという好奇心だろう。学校一の嫌われ者とS級パーティが一緒にいたら、俺だって興味を持つ。


「それでどこに行くんだよ「待て!」なんだ・・・?」


俺が四人に何をするのか、どこに行くのか全く聞いていなかったので尋ねようとする校舎の方から走ってくる集団がいた。その先頭に立つ男を見て、野次馬達は歓声を上げた。


「【女王四重奏プレデタークイーン】のみんなは俺の誘いを断ってそいつと行動するだって?おい君」

「おれっすか?」

「そうだよ」


見たこともない先輩に声をかけられて若干焦る。しかも滅茶苦茶イケメン。前髪をフッとしている姿に若干腹が立つが、俺は怒りを押し殺して冷静に対応することにした。


「どうせ異能を使って操っているんだろ?さっさと解除しろ」

「は?」


俺は何を言われているのか分からなくなる。


「だから、君が【女王四重奏プレデタークイーン】の四人を操っているんだろ?じゃなかったら君みたいなクソ野郎に「おい」ん?」


俺に対する文句をいう前に蒼がその男の前に立ちふさがる。


「京極くんじゃないか。ようやく俺と一緒に行動「くたばれなのです!」うおっ!」


イケメンは蒼が雷を纏った拳をしりもちをついてギリギリで躱す。


「な、何をするんだ!?」

「ちっ、運がいいのです。前髪しか消し飛ばせなかったのです」

「え?」


イケメンは鏡をさっと取り出し、そして、自分の顔を見直す。すると、そこには前髪を完全に消し飛ばされた哀れな姿が写っていた。


「なななななな、ま、前髪がぁ!」


イケメンはビブラートを利かせながらわなわなと震えてしまっていた。そして、自分の前髪がなくなったことに焦りが頂点に達してどこかに行ってしまった。取り巻きたちもイケメンについていってしまった。俺への罵倒が嘘だったかのように消え去り静寂が訪れた。


「蒼ナイスね!」

「ふふんなのです!」


蒼と紅音がハイタッチする。俺としてもスカッとした。イケメンが堕ちていく姿は見ていて気持ちがいい。


「ほら、バカ騒ぎしてないで行くよ」

「そうね」


綾と涼が真っすぐに歩む。四人は有象無象など路傍の石程度にしか考えてないのか優雅に歩みを進める。俺はその後を遅れないようについていった。


「あっ、そうだ。蒼、こいつらのスマホから健児に関わることを消しておいてくれ」

「了解なのです!」


蒼が綾の言うことを聞いて、フィンガースナップをすると、紫の雷が蒼の指先に発生し、発光する。野次馬はもちろん俺も目を瞑ってしまう。そして、何事もなかったかのように歩いていく。


「行きましょう!時間は有限よ!」

「おい!引っ張るな!」


そして、紅音が俺の腕を掴んで学校を後にした。後ろからはスマホのデータが消えただの阿鼻叫喚になっていたが、聞かなかったことにしておく。


「それでどこに行くんだよ?ダンジョンに潜るんじゃねぇの?」

「ええ、そうよ」

「だったら学校でもいいじゃねぇか」

「バカ健児は分かってないなぁ」

「ああ?」


綾が俺を馬鹿にしたようにやれやれとポーズを取る。人を小馬鹿にしたような物言いに俺の語気も強くなる。


「健児、貴方は悪い意味で超有名人、そして、あたしたちはS級パーティ。それが学校の、しかもど真ん中にあるダンジョンに入ったらどうなるかしら?」

「あ」

「気が付いたのですね?だから俺様たちが見つけた秘密のダンジョンに潜るのです!」


これは綾に馬鹿にされるのも仕方がない。そこまでこいつらが気を回してくれるとは思っていなかったので意外だった。


「で、そのダンジョンはどこにあるんだよ?あんまり遠くだと帰りが遅くなるから嫌なんだが」

「そこは安心して頂戴。健児の家の近所にあるのよ?」

「へぇ」


それはありがたい。俺も家のすぐそこに中1の時に見つけたダンジョンがあるのだが、誰からも見つかる気配もない。召喚獣たちとの散歩のためにも見つかってほしくないものだ。



そこは俺たちが小学生時代に遊んだ公園だった。その茂みの中に人が一人通れるくらいの穴がある。その中は入口からは想像もできないほどの広大なダンジョンになっている。なぜこんなことを知っているかというと俺が秘密にしていたダンジョンだからだ。


「どうかしたのかしら?」

「いや・・・まさかここだとは思わなくてな」

「そう、健児も知っているなんて奇遇ね」

「そうだな」


なんでもない風に言っているが、こいつらにこのダンジョンがバレているとなると困る。もしこいつらが他の人に言って攻略しようとする人間が増えるともし遭遇した時に女が悲鳴を上げて・・・あれ?


「そういえばお前らも俺を見てもビビんないよな」

「なんのこと?」

「いや、今まで会ってきた女は俺を見ると、みんな悲鳴を上げるか気絶するかのどちらかだったんだけど、お前らって俺をみても普通に対応してるだろ?姫神もだけど、不思議だなぁって思ってな」

「その姫神っていう女のことは知らないけど、僕らが健児ごときでビビるなんてありえないだろ?冗談もほどほどにしな」

「お、おう」


強い言葉で綾に説き伏せられる。これ以上この話をするなという圧力を感じて俺は黙っておくことにした。


「今日はどこに行くです?早く入りたいのです!」


蒼が待ちきれないという様子でパープルの瞳を輝かせていた。散歩を楽しみにしている子犬を見ているような感覚に襲われた。


「それなら【深闇の蟲毒】でどう?あそこにいる魔獣の素材は高く売れるわよ?」

「え?」

「ん?」


紅音がおかしなことを言ってきた。


「な、なんでその名前を知っているんだよ!?」

「あっ」


このダンジョンの中は中学の頃から探索している。深層はほとんど行ったことがないが、それよりも上層は散歩で歩き回っていた。だから、行き慣れた場所には名前を付けた。ただ、その名前はおれが中二の時に独自でつけたもののはずだ。


「た、たまたまよ!」

「嘘つけ!」


紅音の目が泳いでいた。これは何か隠し事をしている顔だ。俺はそう確信したので詰めることにした。


「な、何よ」

「隠していることを言え」

「あ、あんまり近づかないでよ、ドキドキしちゃうじゃない・・・」

「うっ」


女らしい反応を見せる紅音に足が止まってしまった。すると、見かねた綾が俺たちの間に割り込んできた。


「なんでお前の付けた名前を知っているか教えてやるから紅音を詰めるのはやめろ」

「最初からそう言えっての」


俺はイライラしながら綾を見る。しかし、綾は邪悪な笑みを浮かべた。


「いいのかぁそんなことを言って?言っておくけど紅音が喋らなかったのはお前のためなんだぞ?な?」

「え、ええそうよ!」

「俺のため?どういうことだ?」


綾がフィンガースナップをすると黒い穴が綾の肩よりも上のところにできる。そこからノートが出てきた。


「なんだそれ?」

「おいおい忘れたのか?中二の頃に書いた自伝の書を?」

「まさか・・・」


綾の意地の悪い顔を見て俺の身体はどんどん青くなる。あれは俺が厨二の病を患っていたころに書いた黒歴史のノートだ。


「なんでお前が持ってるんだよ!?」

「黒海さんが渡してくれた」

「母さん!?」


黒海くろみというのは俺の母さんの名前だ。母さんは俺を裏切ってにっくき幼馴染達に俺の最大の弱みを与えてしまっていたらしい。ってかなんでうちの母さんと絡みがあるんだよ。そっちの方が謎だわ


「これを基に僕たちはこのダンジョンの内部に名前を付けていたんだよ。幸いなことに地図らしきものも書いてあったからな。ピッタリハマったよ」

「クソぉ・・・」


深層より上、上層から下層の探索は中二の頃に終わらせていた。問題は深層だ。レベルが高すぎて俺の召喚獣では全く対応できなかったのだ。


ただ、その間に上層から下層は完璧と言えるほど探索したので、どこに何があるかなどすべてわかる。まぁそれだけ探索してしまうと名前を付けたくなるのが厨二の性。できればカッコいい名前を付けたいと思っただけに黒歴史を生み出してしまった。


「大丈夫なのです!俺様、健児が付けた名前をカッコいいと思うのです!」

「そうね。必死に国語辞典と漢字辞典を調べた努力の痕跡が見えて微笑ましかったわ」

「そういうのマジでやめて」


純粋に賞賛してくる蒼も揶揄ってくる涼の言葉も結局は俺の心に大ダメージを与えてくる。厨二は一生引きずる病なんだからそっとしておいてくれるのが一番良い。


「僕は好きな女としたいことリストで大爆笑したけどね。意外と乙女なのは面白かったよ」

「マジでやめろっての!」


からからと笑う四人組。これじゃあ一生いじられ続けてしまう。俺は話を元に戻すことにした。


「それで潜る場所は【深闇の蟲毒】でいいのか?」

「そうね。健児加入の初ダンジョンとしては丁度良いんじゃないかしら?」

「俺様は賛成なのです!」

「僕も」

「あたしもよ」

「じゃあ準備するか」


俺はダン配を起動しようとする。何かあった時のために、こういうのは撮っておいた方が良い。


「ちょっと待て、健児」

「なんだよ?」

「僕たちはパーティだろ?パーティ用のカメラを使うから」

「あっ、そういうことね」

「後は録画モードでお願い」

「了解」


こいつらは有名なのに録画なのか。もったいない、ダン配にすれば儲かるだろうに。まぁ俺がそれを言っても仕方がない。


「まぁほとんど無駄だと思うけどね」

「?」


綾が最後に意味深なことをいってくるが流すことにした。


それにしても、ソロで潜ってきた俺からする誰かとダンジョンに潜るというのは違和感しかない。一人で全てをやるのではなく誰かと一緒にやる。生まれて初めての経験に戸惑いを覚えるが、郷に入っては郷に従えっていうしな。


まぁカメラとスマホが同期している最新の機材を使っているところは流石Sランクだなと思う。


「で、雑用って何すればいいんだ?」


ダンジョンに入るとき、俺は最低限の回復薬とロープと地図くらいしかもっていかない。後は空のリュックサックくらいだ。鉱石を採集するのに結構使えるからな。学校のと違ってここで手に入れた鉱石は俺のものにできるから金にできる。もっとも18歳以上じゃないと換金を一人でできないから母さんにやってもらっているけど。


「そういえばあたしたちに必要な雑用って何だろう・・・?」

「道具は綾の黒穴にいれておけるし、私たちは武器も使わないわね」

「ならなんで俺を無理やり雑用係にしたんだよ・・・」


やることがない雑用ってなんだよ。そんなの聞いたことがないわ。後、今日は召喚獣が来ない日らしい。今日こそついてきてほしかった気がするけど、あっちも都合がつかなかったんだろう。


「俺様、今回に関しては見学でいいと思うのです!」

「ま、それしかないね。特別に僕たちの力を特等席で見せてやるよ」

「なんでお前はそんなに上から目線なんだよ」


溜息が出る。こんなテキトーなやつらがSランクパーティって果たして大丈夫なのだろうか。実はそんなに大したことがないのではないだろうか。


「それじゃあ行くぞ。準備はいいか?」

「「「おー」」」


一抹な不安を抱えながら、俺たちはダンジョンの穴に落ちていった。

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