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『す、すげぇ・・・一撃か?』
『何が起こったんだ』
『これが【女王四重奏】の力』
『【漆黒の堕天騎士】と【神妃】があれだけ苦戦した相手を一瞬で?』
『解説欲しいけど、麗美ちゃんの配信だから教えてくれないのかな?』
私も解説が欲しいです。私とは次元が違う力を見せられて私の膝は笑っています。この人たちに喧嘩を売ったさっきまでの自分をぶん殴りたいです。こんなの勝てるわけがありません。
四方のケルベロスを倒した【女王四重奏】のメンバーは無言で健児先輩の元に集まります。靴の音が一定で、その音が私の身体に緊張感を持たせていました。四方から死が迫っているようなそんな感覚です。
「おい」
「は、はい」
北司綾から声をかけられます。まさか私が声をかけられるとは思っていなかったので、ビクッとしてしまいました。
「ちょっとダン配消してもらえる?」
「あっ、はい」
そのプレッシャーは消せと言われている気分でした。異議を唱えることを許さないその声音に私は素直に従ってしまいます。あんな力を見せられては逆らう気が起きるわけがありません。
「す、すいません。また今度配信しますねぇ、それでは~」
私はダン配を消します。引きつった笑顔だったでしょうが、許してください。ダン配の配信が切れると当時に私は全身の血の気が引きました。
「ヒッ!」
【女王四重奏】は私を囲い込み、一人一人が必殺の一撃を放とうとしています。
「僕らをコケにしたんだ。覚悟はできてるんだろうな?」
「そうねぇ。あそこまでやられたんだもの。地獄を見せてあげるわ」
「喰い殺してあげます」
「あんたは私たちの逆鱗に触れたの。灰にしてあげる」
さっきまでの動物の姿じゃありません。純粋な【女王四重奏】の本気を一身に受けています。ケルベロスが可愛く思えるレベルです。気絶しそうになりますが、恐怖で起こされてしまいます。せっかく危機を脱したのにこれじゃあ意味がありません。
私は下半身から水がたれていることにすら気が付きませんでした。この人たちの逆鱗に触れるというのはこういうことなのかと絶望を味わされるています。このダンジョンに入ってから自分のやってきたことからしっぺ返しを食らいまくっています。
土下座でもして腹パン一発ずつ喰らえば許してくれるでしょうか?しかし、神はいました。
「待てよ、馬鹿共」
「健児・・・?」
「センパイ・・・?」
●
姫神を囲んですげぇ殺気を当ててる。これ普通にイジメじゃん。俺は割って入ることにした。
「待てよ馬鹿共」
「健児?」
「センパイ・・・?」
五者五様の反応を見せる。姫神を囲んで殺気を当てていた【女王四重奏】の面々も姫神も俺の方を一斉に見てきた。
「なんで止めるの?なんで庇うの?」
「人殺しを止めるのは普通のことだろうが」
涼が≪氷神剣≫を姫神の首に当てながらイライラしながら俺の方を見てくるので、当然のことを答えた。涼の白い肌は赤く染まっていた。
「止めるなです。俺様、この女だけは許せねぇのです!」
「そうよ!半殺しくらいにはしないと収まらないわ!」
紅音と蒼が怒り心頭だ。特に蒼がここまでキレるのは珍しい。というか初かもしれない。紅音は常に怒っているからあまり新鮮味はない。だけど、本気なのはわかる。
「悪いが止めるなよ?これでも我慢している方なんだ」
綾もだ。姫神を見る顔は親の仇を見るような表情だった。ここまでこいつらがキレるって何をしたんだよ・・・
俺は姫神を見るが、ぶるぶるとしているだけだった。そして、
「センパ~イ!」
「「「「あっ」」」」
姫神が四人の包囲陣の一瞬のスキを突いて俺の背中の後ろに回る。完全に盾にされているが、ぶるぶると震えているので、俺は何も言えない。俺の背中を盾にしてひょこっと顔を出している姿は可愛い。しかし、【女王四重奏】の沸点は超えた。
「おい・・・お前やっぱり死にたいようだね」
「もういいわ。消しましょう。ダンジョンで不幸な事故に遭ったってことにすればいいでしょう?」
「それなら俺様の雷で消し炭にしてあげます」
「蒼じゃ一瞬でしょ?私の炎なら苦しんで死ねるわ」
「ひぃ!本当にすいませんでしたぁ!」
姫神は俺を盾にしながら、謝り続けている。同じSランクであったとしても力の差はあるのな。そんなどうでもいい観察をしていたらいい感じに殺気が高まっていく。このままじゃ俺まで酷い目に遭いそうだ。面倒だが仲裁するしかない。
「はぁ、で、こいつが何をしたんだよ?」
俺は【女王四重奏】に向き合う。ここまで怒るということは姫神が何か重大なことをやらかしたに違いない。そういえば、屋上で綾と姫神は言い合っていた。何か因縁があると考えるのが自然だろう。
「そ、それは・・・」
「え、え~と」
「あう・・・」
「この場合はどう言えばいいの・・・?」
あり?なんでこんなに言い淀んでるんだ?しかも俺に対して熱を帯びた視線を送ってくる。ちらちらとこっちを見てくる【女王四重奏】の面々に俺はクエスチョンマークが頭に浮かんだ。
「まさかとは思うけど何の恨みもなしに、後輩に突っかかったとかじゃないよな?」
「そんなわけがないでしょう・・・ただ、なんていえばいいのか分からなくて・・・」
「?」
言いにくいってことか?俺は背中に引っ付いている姫神を見た。姫神は俺を見上げていた。素だとは思うがいちいち仕草が可愛いんだよなぁ。
「こ、こんなところで何を考えているんですかぁ、もぉ~」
「わ、悪い」
「いえ、別に悪いわけではないんですよぉ。TPOを考えてくださぁい」
心の中を読まれた。これは恥ずかしい。
「ゴホン!」
「「っ」」
綾からわざとらしい咳払いが聞こえてくる。綾はもちろんだが、他の三人からも魔力が可視化されていた。チキンな俺は話を軌道修正した。
「そ、それで、何をやらかしたんだよ・・・」
「え、え~と」
おや?姫神の方も言いにくそうにしていた。加害者が言いづらいのはわかるが被害者も言いにくいってどんな事件だ?すると、
「健児が盗られたのです・・・」
「は?」
蒼から聞き捨てならない言葉が発せられた。
「だから健児が盗られたのです!そこの雌猫が色目を使って健児を盗った挙句にイジメたのです!」
「言い過ぎよ、馬鹿犬!」
「あう!」
蒼が紅音に頭を叩かれる。紅音は蒼の頭を叩いて必死に誤魔化そうとしていたが、俺の耳にはその違和感が残っていた。
「なんでそのことを知ってるんだよ。姫神に騙されたのは、ついさっきだぞ?」
「あう・・・そ、それは」
胸の前で両方の人差し指をツンツンとしながら、考える。
「だから言いにくかったのに・・・」
「どうするのよ馬鹿犬・・・」
涼と紅音が困ったような顔をする。あの場にいなければ絶対にその事実を知ることはできない。だとすると・・・分からん。考えれば考えるほどドツボにハマっていく感覚がある。すると、綾が俺のところに来た。うっすらと赤く頬を染めて。
「僕たちはお前の
「あっ、そういうことね」
召喚獣たちがあいつらを呼んでくれたのか。だとしたら、あの厄介そうな檻を脱出したってことだ。下手したら俺がまた手助けに行かなきゃいけないところだった。後でお礼を言わないとな。まぁそれよりも先に目の前の人間たちにお礼を言うべきだろう。
「召喚獣共々世話になった」
「わ、私もです。その、ありがとうございました」
四人に向かってお礼を言う。
「イラつくね」
「あの女狙っているんじゃないのかしら・・・」
「俺様、複雑な気分なのです・・・」
「あたしも。娘さんをくださいって言われてるお父さんの気分よ」
小声で何かを離しているが俺の耳には届かない。すると、綾が俺に対して、顔をあげるように命じてきた。そして、
「気にすんなよ。お前は、その、僕たちの、大切な雑用だ。傷つけられたら、嫌なんだよ」
「お、おう」
プイっと綾は別の方向を向いてしまう。大切な・・・か。ただの奴隷としての意味だと分かっているのに、照れてしまう。綾のくせに生意気だ。
「痛い!」
「調子に乗らないで。健児のことを大事だと思っているのは私もなのよ?」
「だからって氷柱で殴るとか頭おかしいんじゃないの!?」
「ふん、良いとこ取りした蝙蝠には丁度いい駄賃でしょうが」
「あたしもそう思うわ。涼がやらなかったら焼こうかと思ってたくらいだし」
「俺様だったらドロップキックです!」
「リーダーを敬え!」
ギャーギャー言っているが、俺を心配してきてくれたのは確実だ。綾たちの服や肌には所々に怪我やほこりが付いていた。俺たちを探そうと本気で動いていてくれたのだ。助けられたことは嬉しいが、仇敵というところはなんとなく俺を複雑な気分にさせられた。まぁでも、
「あっ、お前ら?」
「ん?」
「なに?」
「どうしたのです?」
「どうしたの?」
俺も軽く咳ばらいをする。これからいう内容が恥ずかしいので、ちょっと正面を向けない。
「その、お前らの力を使えたおかげで生き残れた。なんでかは分からんけど、お前らのおかげなのは事実だ。その、ありがとな」
俺が今まで生き残れてきたのはお前らのおかげだとお礼を言う。よく分からないけど、力を使えたのはこいつらの存在が大きいのは確かだ。最初から最後までこいつらのおかげだ。ただ、俺を助けにきてくれたお礼は簡単に言えたのに、力を借りたことを言うのは恥ずかしくてたまらない。なんでだ?
俺が羞恥の中、告白すると、【
「ん?どうかしたか?」
「いや、なんでもない・・・」
「?」
四人が安堵と寂寥と謝罪と困惑、その他の感情をごちゃごちゃにした顔をしていた。俺はなぜそんな顔をしているのかと不思議に思ったが、まぁいいかと流す。そして、姫神を俺の後ろから前に引っ張り出す。
沈黙に耐えられないので、姫神にバトンパスだ。さっきまでとは違っていくらか冷静になったはずだ。この隙にしっかり謝れというニュアンスを込めた。
「ええ~と、なんて言ったらいいんですかね・・・健児センパイを盗ってすいませんでした」
「ああ!?」
「ひぃ!」
姫神は再び俺の後ろに緊急回避をする。俺は的外れなことを言った姫神にため息をつく。
「姫神・・・こいつらが怒っている理由が俺のわけがないだろうが」
「いや、でも京極さんが・・・」
「蒼が言っていたのは召喚獣たちの気持ちだろ?もしあれがあいつらの本心だとしたら、大好きな俺が盗られたことに対して嫉妬しているだけになっちまうじゃねぇか。なぁ?」
「「「「・・・」」」」
俯いている。おそらく正解なのだろう。下僕みたいな人間に対して、好意なんて持つわけがない。好きな相手をイジメるとか頭がおかしいだろ。だが、俺の中で何かが繋がった。
「あっ」
そういうことか。これは確かに姫神が悪い。ここまでこいつらがキレる理由がやっとわかった。さっきまで言いよどむのもそういうことだろう。
「お前らが怒ってる理由が分かったぞ?」
「「「「「!」」」」」
なんで姫神も驚いているんだよ・・・まぁそこはどうでもいい。これなら確かに言い淀む綾たちの気持ちもわかるし、姫神もなんていえば言えばいいのか分からない。こういう時は俺みたいな部外者が正解を当てることがマナーだろう。
「姫神、お前、魅了したんだろ?」
「「「「っ!」」」」
「まぁその、はい」
姫神は苦い顔をしている。やっぱりか。【女王四重奏】は『まさか?』という顔をしている。ふっ、舐めるのでないわ。姫神ほどではないが俺も人間の心理を読むのは得意だ。だから、俺はドヤ顔で決めることにした。
「こいつらの好きな奴に興味はないが、流石に可哀そうだ。一応しっかり謝れ」
「「「「「は?」」」」」
「え?」
【女王四重奏】はおろか姫神すら声が一致した。そんな反応されるとは思っていなかったから間抜けな声が出てしまった。すると、
「ちょ、ちょっと待てくださいなのです!どういう意味なのですか?」
「あ?そんなの決まってるだろ?」
蒼が焦った様子で俺に質問を投げかけてきた。俺は一拍置く。そして、
「お前らがそれぞれ好きな男を姫神が魅了しまくったんだろ?そりゃあ言いづらいわな。まぁ姫神の側も事情は分かってるから、俺もできるだけ弁護・・・ってどしたん?」
俯きながらゆらゆらと揺れる。まるで幽霊のような足取りに俺は一歩後ずさる。すると、
「こういう奴だったよ・・・」
「そうね。ぶっ殺したいわ・・・」
「あたしも」
「俺様もです」
「え?」
【女王四重奏】から殺気を一身に受ける。え?なんでだよ!?俺は姫神を見る。
「流石に【女王四重奏】の皆さんに同情します。一回死んだ方がいいです・・・」
「え?え?」
【女王四重奏】と同じ目で俺を見ていた。まるでゴミを見るかのようなその視線に俺はなんでなのかと理由を聞こうとする。しかし、
「「「「一回死んで来い(なのです)!」」」」
ケルベロスよりも圧倒的に強い相手から本気の一撃を食らって俺は気絶した。目が覚めた時は俺のベッドだった。あの後、【女王四重奏】が助けてくれたと母さんから聞いたが、釈然としないまま俺の学校の裏ダンジョン攻略が終わった。
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【冥界の獄園】編終了です。
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