11
「おはようございまぁす、健児センパイ」
「お、おはよう。早いな姫神」
俺は待ち合わせ場所だった学校のダンジョンの大穴の前に行く。集合時間が朝の7時で結構早かった。だが、俺は遅れてはならぬと6時半に着くように向かったのだが、姫神はすでにいた。
「はい!凄く楽しみだったので、ほとんど寝ないで来ちゃいましたぁ」
「そうか・・・」
「あれれぇ?照れてますぅ?」
「ち、違うっての」
「あは、健児センパイおもしろ~い」
正直、めちゃくちゃ楽しみだった。女の子を怖がらせて、恐怖に陥れてきた俺はついに世界で一番可愛い女の子と一緒にダンジョンにまで入れることになったようだ。神様ありがとう。
「シャ―!」
「痛い!」
俺が感動に打ち震えていると、現実に戻された。頭の上に乗っていたクロが俺の髪を抜いたようで、俺は一気に現実に引き戻された。
「
「あ、ああそうだ。普段はこの時間に会えないんだけど、今日はたまたま来てくれたらしい」
「召喚獣に振り回されているって本当だったんですねぇ・・・」
「ああ、ほらお前ら。挨拶しろ」
「「「「・・・」」」」
四匹とも姫神のことなど無視して、俺に甘えて来ている。アオは俺の手を甘噛みして、アカは肩の上にのって俺の髪の毛を抜いたり、ほっぺを突いたりしている。クロは俺の頭の上で寝ており、シロは襟の部分から顔を出している。
全員姫神のことなど興味がなさそうだった。
「「「「・・・」」」」
クロたちは一瞬だけ姫神を見る。しかし、すぐに興味をなくして俺の身体にすり寄ってきた。俺と姫神の間に嫌な沈黙が支配した。
「・・・悪いな姫神」
「いえいえ、人見知りなんですかねぇ」
「そういえば俺と母さん以外ににこいつらが誰かと一緒にいるのを見たことがないな」
こいつらがうちと公園のダンジョン以外でどうしているのかなんて気にしたこともなかった。意外と人見知りなのだろうか。
「ふふ、それならお任せを。私、動物に好かれやすいんですよぉ」
「へぇ~それなら触ってみるか?」
「はい!お願いします!」
俺は頭に乗っているクロを手で抱えた。にゃーにゃ―言って暴れているが、可愛いもんだ。
「こいつはクロ。闇系の異能を持ってる黒猫だ」
「可愛いですね~」
最愛の召喚獣が姫神と戯れている姿を見れるなんて俺は前世でどんな徳を積んできたのだろうか。姫神がクロの頭に触れようとすると、
「シャア!」
「え?」
クロが姫神を引っ掻いた。綺麗な手から血が滴り落ちた。
「クロ!何やってんだ!?」
「にゃ~」
クロは俺の手に甘えてきた。そこに少しの罪悪感もなく、姫神をいないものとして扱っていた。
「悪い、大丈夫か?」
「は、はい」
「ごめんな。ケガをさせちまった」
「いえ、クロちゃんの頭を触ろうとした私が悪いんですよぉ」
「姫神・・・」
いい子過ぎる。マジ天使。どこかの幼馴染達にも見習ってほしい。俺はバックから絆創膏を取り出して姫身がに渡した。姫神は大丈夫ですよと言ってくれたがマジで申し訳ない。
「他の子はどうですかねぇ?」
「ならシロはどうだ?ウサギだし可愛いぞ」
「きゃ~本当ですねぇ!服に収まってて可愛いですぅ」
姫神がシロを触ろうとすると、
「キュッ!」
「寒!」
俺の胸元で氷のカプセルの中に入ってしまった。これでは姫神は手を出せない。器用に俺には触れていて、姫神だけには意地でも触れさせないという意思すら感じる。
「・・・これは嫌われてますねぇ」
「うちのが本当にすいません・・・」
クロもシロも実は人見知りだったのか。こいつらは俺にべったりくっついてくるから人懐っこい方だと思っていたのだが、そんなことは全くなかった。それよりもこのままいくと姫神の俺への好感度がダダ下りなんだが・・・
「そ、それならアカはどうだ!?鳥だけど可愛いぞ?いつも俺に甘えっぱなしだし」
「ピュ!?」
アカが俺の言葉に驚いていた。こいつは照れ屋さんなだけで基本的にいい子だ。こいつなら姫神も触れることができるだろう
と思っていた時期がありました。
「・・・飛んで行っちゃいましたねぇ」
「度々申し訳ありません・・・」
「ピャー!」
空に飛んで行かれたら俺に手出しはできない。姫神の完璧な笑顔も今は歪んでいるようだった。そりゃあ動物に好かれやすいと言った手前ここまで嫌われてたら、恥ずかしくもなるわね。
「こ、ここまではまだ序盤だ!アオなら姫神も触れることができるはずだ!」
俺はアオをよしよしと撫でる。すると俺の方を見て『く~ん』と甘えてくる。こんな可愛いやつが姫神に害をなすなんてありえない。
「可愛いお犬さんですねぇ~」
「そうだろぉ。アオは運動が大好きな甘えん坊だから姫神も触れるはずだ」
「なら、失礼しますねぇ」
姫神がアオに触れようとする。いいぞ。今度こそは仲良くしてくれそうだ。アオに姫神が触れようとすると、
「ワン!」
「キャッ!」
振り向きながら大きな声で吠えた。アオが誰かに吠えている姿なんて見たことがなかったので、俺も腰を抜かした。姫神がしりもちをついたのを見て、アオはいつもの表情で俺に甘えてきた。
俺はここで召喚獣を交えて姫神とより仲良くなるつもりだったがすべてが裏目に出た。しかし、今も俺にすり寄って甘えてくる召喚獣たちを叱る気にはなれなかった。
「お前ら・・・人見知りなら先に言ってくれ・・・」
俺は姫神に背を向けて召喚獣たちに訴えたが、俺の訴えなどどうでも良いと変わらず甘えて来ていた。俺もため息をついてよしよしと撫でる。
「魅了がまるで効いてませんねぇ・・・それに四匹・・・」
誰かの一人言は誰にも聞こえることはなかった。
●
俺たちは微妙な空気の中で学校のダンジョンに潜った。
「ごめんなぁ姫神・・・」
「いえ、動物に懐かれやすいっていうのは傲慢だったと気付かされましたよぉ。むしろあんなに気難しそうな子たちによく懐かれてますねぇ」
「まぁ結構長い付き合いだからなぁ」
「なるほどぉ信頼がなせる業なんですねぇ」
姫神に行く先は任せている。俺は生憎鉱石が落ちる場所しか知らないからな。ダンジョンにある程度っ潜ったところで俺はダン配の準備をする。久しぶりに自分のダン配をするので少し緊張してしまう。
「あっ、健児先輩。ちょっとダン配は映さないでもらってもいいですかぁ?」
「え?なんで?」
ダン配を送ることで出席になるんだから、撮らない理由はないのだが・・・もしかして録画の方がよかったのだろうか?
「これから行くところって誰にも見つかってないところなんですよぉ。レア素材がたくさん手に入るので、秘密にしておいて欲しいんです」
「なるほど、そういうことか・・・」
いい素材を手に入れるとそれだけ推薦で行ける大学が増える。ライバルを増やさないために、姫神の行動は理解できる。けど、それだと俺の出席が・・・
「秘密にしているだけあっていい素材がたくさん手に入るんですよぉ。だからお願いします!」
姫神が俺に手を合わせてくる。
「帰りにダン配を撮って誤魔化しましょう!私はよくそれで誤魔化しています」
ベロを出していたずら娘のように言う。悪いというかずるがしこいというか新たな一面を知れてなぜか嬉しく感じてしまった。俺は少し迷った末に
「分かったよ・・・姫神の言うとおりにするわ」
「ありがとうございます!」
なんか悪いことをしている気分になるが、それよりも姫神が自分しか見つけていない秘所を教えてくれるというのだ。これはもしかすると何かを期待してもいいのかもしれない。クロたちが俺の身体に攻撃してきているが姫神に夢中な俺には痛くもかゆくもない。
「「グルルルル・・・」」
空気を読めない人狼が十字路の両側から二匹現れた。俺はアオに攻撃をさせようとするが、姫神が前に出てきた。
「ここは私にお任せを」
「姫神?」
そういうやいなや自分の背中に背負っている弓を取り出した。貝殻の装飾が付いていて海を連想させるような美しい弓だった。
姫神が弓を構えると、ピンク色の矢が二本出現した。それをそのまま弦に引っかけ迫りくる二体の人狼めがけて発射された。
「「グルルル・・・・ぅ」」
脳天に直接刺さり、最初は痛がっていたが、徐々にリラックスした表情になり、最後には安らかに死んでいった。
「ふぅ」
弓を速射して人狼を殺したとは思えないほど、美しい横顔だった。俺は姫神のその表情に見惚れてしまった。
「Vでぇす!」
「可愛すぎだろ」
「ありがとうございま~す」
俺は心の声が漏れ出た。俺に引っ付いていた召喚獣たちから攻撃を受けて現実に戻った。それにしても姫神は本当に強いし、可愛いなぁ
「ワン!」
「にゃ~」
「ん?次は自分たちがやるって?」
「ピュー」
「キュ」
「なら俺たちの力も見せてやるか」
弓を背中に背負い直している姫神の方を見る。
「姫神、次は俺たちがやるわ」
「え?本当ですかぁ」
「ああ。お前を見ていたらやる気が出たらしい」
「そうですかぁ。それなら見せてもらいましょうかねぇ」
「グルル!」「シャア!」「ピャー!」「キュ!」
やる気満々なようで何よりだ。
●
「やりすぎだよ・・・」
俺の目の前は地獄絵図のようになっていた。本気を出したこいつらが目の前に現れる魔獣共を一斉に掃討した。ダンジョンは所々崩れ出し、周りは凍り、炎が溢れ、空気がビリビリしていた。
「強すぎですね・・・」
姫神がドン引きしていた。いつもなら敵に合わせた動きをするのに、今日は無双していた。それとアオにまかせっきりな三人が今日に限って暴れている。いつもこれぐらい協力してほしいわ。
「・・・これは確定かなぁ。だとしたら離さないと不味いですねぇ」
「ん?何か言ったか?」
「いえ?気のせいじゃないですかぁ?それと目的地はもうすぐそこですよぉ」
「マジか」
姫神が何か言っていた気がするが、気のせいだというならその通りなのだろう。俺は召喚獣たちを呼び戻した。各々いつものポジションに戻る。
「あそこの部屋ですよぉ」
前を見ると確かに扉らしきものがあった。所々に木のツタが張っており、未開拓なエリアだということが分かる。あそこが姫神のいうレア素材が採取できるところらしい。
「健児センパイ、扉を開けてもらってもいいですかぁ?少し重いんですよねぇ」
「任せろ」
俺が両開きの扉に手をかける。確かにこれは重い。だが、開けられないほどではない。
「ふん!」
「おお!健児センパイ、力持ちですねぇ!」
「まぁな」
姫神の言葉に調子にのる。俺は声援をパワーに変えた。扉が少しずつ開き、中が見えるようになってきた。後光のせいで中が全く見えない。徐々に光に慣れてきて、一番最初に見えた物は、
「やっときたか。変態クソ野郎」
「は?」
巨漢の大男だった。俺は頭をぶん殴られ、地面に叩きつけられた。そして、そのまま部屋の中の中心にぶん投げられた。
「くっ、痛ぇ!」
「ワン!」
アオが臨戦態勢をとり、すぐに助けに来ようとするが、
「ダメですよぉ?あなたたちはこっちです」
姫神の言葉をスイッチに、突如現れたクロい檻がアオたちを閉じ込めた。
「!お前ら!?」
俺は頭から流れる血を左手で抑えながらアオたちの心配をする。アオたちは黒い檻から抜け出そうと異能を使おうとするが、何も起きない。異能が使えないことに驚いているようだった。
「無駄ですよぉ、その中では魔力は使えません」
姫神がニコニコとしながら説明する。魔力が使えない?あの大男は誰だ?誰にも知られていないんじゃなかったのか?すべてがぐちゃぐちゃになっていた。
「姫神、お前何を・・・?」
姫神は俺のことなど興味がないかのように檻に囚われたクロたちを見下ろしていた。
「シャア!」
「怖いですねぇ。貴方たちのために作ってもらった特注なんですけど、壊されちゃいそうですねぇ」
クロが姫神を見ながら逆立てていた。そして、檻から無理やり脱出を試みようとすると、
「けど、貴方たちの
「「「「っ!」」」」
「あは、その反応だと私の想像通りだったんですねぇ。半分はギャンブルだったんですけど、うまくいって良かったですぅ」
何を言っているんだ?俺には聞こえないトーンで姫神があいつらに話をしたら、暴れるのをやめてしまった。
「姫神?お前何を?」
「あ~うるせぇですよ、変態クソ野郎」
「は?」
今までの姫神とは思えないほど、態度が豹変した。他の女が俺にとるような態度と同じだった。姫神は俺のことなど見ずに、とてとてと巨漢の男の方に向かった。部屋の中を見回すと、九人ほどの男たちが俺を取り囲んでいた。
そして、俺をぶん投げた男の下に姫神が向かい、お互いが触れあえる距離まで近づいていた。
「遅いぞ姫神!」
「ごめんなさぁい、
「ふん、お前のためだから、わざわざこんなところに来てやったんだからな」
「はい、大好きですよぉ」
「ふん」
俺は脳がぐちゃぐちゃになるのを感じた。俺の目の前で繰り広げられているイチャイチャはなんだ?そして、クロたちを捕まえているあの檻は?目の前のことに俺の脳の処理が追い付かない。
「姫神・・・?」
「おいおい、あいつ茫然としてるぜ?」
「どうせ姫神のお遊びだろう?」
「あ~あ可哀そう」
周りの男共がこぞって笑っていた。俺は嵌められたのか?一縷の望みをかけて姫神を見ると、
「気色悪い目で私を見ないでくださぁい。あなたみたいな男に惚れる女がいるわけがないじゃないですかぁ?馬鹿なんですかぁ?」
姫神は完全に俺を見下していた。ゴミを見るようなその瞳を見て俺は遊ばれていたことを悟った。受け入れがたい現実に俺の目の前は暗転した。
「ワンワン!」
「うるせぇです。バラしますよ?」
「っ!」
アオが素直に言うことを聞いた?バラすって何をだ?すべてが置いてけぼりだった。
「うるせぇ犬が黙ったところで改めて自己紹介してあげますねぇ」」
一拍置いた。
「改めまして私は姫神麗美、Sランク冒険者で【神妃】と申しまぁす。権能は美神ヴィーナス。あらゆる男を堕とす存在でぇす。とりあえず私のことを知らなかったことは万死に値します。後、頭が高いですよぉ?」
「ぐっ」
後ろから姫神の取り巻きに押さえつけられ、俺は地面に頭をつけさせられた。凄まじい力だった。おそらくこいつらの権能によるものだろう。
「う~んやはり力らしきものは見受けられないと・・・」
「?」
「仕方がないですねぇ。特別に教えてあげますよぉ。大雑把に言うと、私の力は男を魅了することなんですよぉ」
姫神が自分の力を説明し始めた。美の神と言われれば確かにそうだ。
「それがどうした・・・?」
「それなのになんであなたは私に魅了されていないんですかぁ?」
「知るかよ。お前のクソみたいな性格を深層心理では見抜いていたんじゃねぇの?」
「あはは、生意気ですねぇ」
俺はやさぐれた。もう話もしたくない。姫神は抑えられている俺の頭をぐりぐりと踏みながら、続きを話した。
「男はすべて私の力の前にはすべて無力なんですよぉ。それなのに魅了されていないのはあなたの権能が関わっているとしか考えられないんですよ。どんな力なんですかぁ?」
「はっ、何度も言っているだろうが。俺は召喚士だよ。権能なんて持ってない」
「それは絶対にありえないですね」
足を離して、俺の顔を上げさせて真顔で言った。そして、姫神は召喚獣たちを流し見した。
「まぁいいです。貴方の力には興味がありますが、今はどうでも良いです。そ・れ・よ・り・も」
姫神が俺の前に手を頬に付きながら座ってきた。
「【女王四重奏】の弱点と【漆黒の堕天騎士】について教えてくださぁい」
「は?」
「「「「っ」」」」
息を呑む声が聞こえたが振り向くことができない。なんでそんなことをと思って姫神を見ると、
「私ぃ、五位なんですよぉ」
「は?」
突然姫神が語り始めた。
「この神成高校での人気の話ですよぉ。私は可愛いくて美人じゃないですかぁ。それでいてダンジョンでも活躍して、ファンクラブがいくつもできるくらいには凄いんですよぉ」
突然の自慢話が始まった。俺も惚れた口だからその理由は悔しいがよくわかってしまう。
「けどですねぇ。私にはど~~しても許せない人間が四人いるんですよぉ」
憎しみに顔を歪めた。
「まぁお察しの通り、【女王四重奏】ですよ。あいつらは私を差し置いて、最強の四人としてこの神成高校の絶対的王者であり続けている。しかも、ルックスや人気も・・・!どう考えても私の方が美しいだろうが!」
言っている内容はただの嫉妬によるものだ。醜いし、情けないし、くだらないとしか思えないが、そんなクソみたいな感情に歪んでいる表情でさえ絵になりそうなくらい美しいものだった。
「はあはあ、取り乱しました。けど別に良かったんです。所詮学校の中でのこと。私はダン配でを使ったネット内では支持されていましたからね」
一回冷静さを取り戻す。そして、再び俺の頭を思いっきり踏む付ける。
「けど、≪女王四重奏≫がダン配で人気になると、一躍有名になり、配信の中でも私は五位に堕とされた!ふざけんなよ!あいつらが絡んでくるとすべてがうまくいかない!」
そして、顔を手で覆うといつもの笑顔になり、俺の髪を掴んで無理やり顔を上げさせた。
「だから健児センパイ、【女王四重奏】の弱点を教えてください」
笑顔の下の狙いは明白だ。あいつらの闇討ちをするつもりだろう。
「なんで俺に聞く・・・?」
「あはっ!そんな分かり切ったことを聞かないでくださいよぉ。貴方があいつらの幼馴染兼奴隷だからですよぉ。少なくともこの学校の中で一番詳しいはずです。さっ、何かないんですかぁ?」
俺の頭にあいつらの憎々し気な顔が思い浮かぶ。だけど、弱点・・・全く思いつかねえ。そもそもそんなものがあったら俺が積極的に攻めてる。
「そんなもんねぇよ」
「・・・嘘はついていないようですね」
姫神は前もそんなことを言っていた。ヴィーナスの力で嘘を見抜けるのだろう。
「まっ、貴方レベルじゃあいつらの弱点なんか見つけられるわけがありませんよねぇ。なんせ奴隷扱いされているんですし」
周りの男たちと一緒に笑ってきた。部屋中に野太い笑い声が反射し、気分は最悪だ。まぁ一番気持ち悪いのは目の前の女の笑い声だけど。
「じゃあ質問を変えます。【漆黒の堕天騎士】については?」
「っ」
俺のことだ。
「しらねぇよ」
「はい、ダウト」
だろうな。自分のことなのにどう嘘を付けばいいんだよ。
「あいつも同罪なんですよぉ。というか一番の罪人です。【女王四重奏】を人気にした立役者はあいつですからねぇ」
なるほどな。そういう理屈で言えばおれのことを恨むのもわかる。ただ言い方が気になる。俺のことを【漆黒の堕天騎士】と気が付いていないのだろうか?
「だから紹介してくださいよぉ。私の魅了で裏切らせればまた私がダン配の女王に返り咲けるんで」
どうやらそうっぽい。別に【漆黒の堕天騎士】がいて、俺はパーティの奴隷もとい雑用だと思われている。じゃあ勝手に勘違いしてもらおう。
そういえば初めて会った時に頭が熱くなり、なんでも捧げたくなったことがあった。あれが魅了にかけられた状態なのだろう。だけど、今のところ魅了にかかっている感覚はない。だったら、
「残念、お前みたいなクソビッチはお断りだってよ」
「・・・あは、さっきまで私に見惚れていた人間が良く吠えますねぇ」
すると、姫神が俺の上で押さえつけているやつにどくように指示した。意外だ。逃がしてくれるのかな?
「それなら痛めつけて、無理やり吐かせますか」
「なんだよ。お前が相手してくれんのか?」
「なんでそんな面倒なことを私がやらなきゃいけないんですか・・・頼みましたよ、戦火先輩?うまくやれたらお付き合いの件を考えてあげますよぉ?」
「っ!へへやる気が出るぜ」
さっき俺をぶん殴った大男が腕を回し、関節をゴキゴキとならして前に出てきた。
「Aランクパーティの≪戦場の業火≫のリーダーの
戦火は気色悪い笑みを浮かべて、俺に襲い掛かってきた。
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