14

俺は手に持っている≪黒血剣≫と≪氷神剣≫を修復する。


「はあはあ」

「それじゃあさようなら」


鍛冶が手を振ると、魔獣たちが一斉に襲い掛かってきた。戦火との戦いで調子にのって魔力を使いすぎた。これ以上あいつらの力を使うと、まずいかもしれない。俺は身体能力だけを使ってなんとかするしかなさそうだった。


第一陣でゴブリンが襲い掛かってきた。その数十匹ほど。だが、


「え?遅すぎ」


俺は止まって見えるゴブリンたちを双剣で最小限の動きで切り裂いた。


「は?」


鍛冶が間抜けな顔をする。そういえば公園でハイゴブリンばっか見ていたから普通のゴブリンがどれだけ強いかなんて考えたこともなかった。そして、そのままゴブリンの後ろに控えていた、オークの群れに突っ込んだ。


数だけなら十匹くらいいそうだったが、すべて一撃で絶命させた。動きが遅すぎるので体力を温存できた。


「は?おいおいおい?なんだよそれ!?ガス欠を起こしてたんじゃなかったのかよ!?」


鍛冶がさっきまでの余裕をなくして俺に言ってきた。俺も律儀に答えることにした。


「あいつらの力はもう使える気がしないな」

「だったらなんだよその動きは!」

「いや、普通に身体能力だけで動いただけだぞ?」

「はぁ!?」


驚かれても困る。これは俺本来の身体能力だ。魔力は剣の形を維持する以外に少しも使っていない。俺はちらっと檻を見る。


あいつらとの散歩よりもゆっくりなんだけどなぁ。


「っ!少し動けるからっていい気になるな!まだまだ魔獣はわんさかいるんだからな!」


俺はせまりくる魔獣を切り裂きながら、明らかに公園のダンジョンの方が難易度が高いと考えていた。これなら何百匹来たとしても負ける気がしない。なんなら素手でもいけるくらいだ。



「僕たちと一緒にSランクダンジョンに探索できるんだから今更Bランク程度の魔獣に健児が苦戦するわけがないよな」

「ええ。あの程度なら止まって見えているでしょうね」


綾と涼は健児の動きながら感想を呟く。


「俺様もあの遊びに参加したいのです!」

「ダメよ蒼!この檻を破ったら確実に元の姿に戻っちゃうんだから!」

「あう・・・」



クソクソクソ!なんなんだよあいつは!


僕のとっておきの≪魔獣笛≫で集めた獲物を簡単に屠りやがって!これは対戦火専用に開発したアイテムなんだぞ!?


未知の敵に鍛冶は苛立っていた。


「さっさとあいつを喰い殺せ!」


人狼どもをいっせいに襲い掛からせる。一気に二十匹も襲い掛からせたのだ。流石にこれで、


「戦火ってやつの方が万倍強い」


そういって一閃。人狼たちが一瞬で塵になった。僕は焦る。このままじゃどれだけ魔獣をおびき寄せてもジリ貧だ。


「・・・そうだ!」


僕は檻の中にいる召喚獣たちを見て、いいことを思い付いた。



俺はせまりくる魔獣共を剣で屠る。こんな人死にが出たところで言うべきじゃないのだが、超気持ちい。いつもいつも俺に力があればと思っていた。それがついに念願かなって、無双状態を演じている。


「グオオ!」


双頭熊が俺に襲い掛かってくるが、俺はそいつを≪黒血剣≫で切り裂く。そして、そのまま魔獣たちの中心に走り込み、ザクザクと斬っていく。


一発一発の威力だけなら戦火に並びそうなものがあるが、魔獣共には戦術がない。そんな単調な動きなら何百体来たってやられる気がしない。


目に見えて俺に襲いくる魔獣が減ってきて、ついに俺の目の前からすべての魔獣が消えていた。


「ふぅ・・・」

「動くな!」

「ん?」


俺の方に向かって鍛冶が声をかける。振り向くと鍛冶が拘束された姫神の腕を掴みながら、クロたちの檻に向けて銃を向けていた。


「おい・・・てめぇ何をしてんだ?」

「っ!す、凄んだって無駄だぞ!?こいつらを殺されたくなかったら僕の言うとおりにしろ!」

「くそったれ・・・」


俺のミスだ。無双状態が楽しくて、鍛冶の動きを見るのを忘れていた。俺は反抗の意思がないことを示すために剣を下す。


「よ、よし!それなら、その双剣を僕の方に投げろ!」


俺は言われた通り、≪黒血剣≫と≪氷神剣≫を投げたが、鍛冶はそれを取りこぼす。そして双剣を慌てて持ち上げ、檻の方に戻り、再びクロたちに銃を向けた。


「はあはあ、どうだ?自慢の剣がなくなって、怖くなっているんじゃないか?」


マウントをとれたことが嬉しいのだろう。鍛冶は優越感を取り戻し、落ち着きはらっていた。俺が一歩動けばすぐにでもクロたちを殺そうというのだろう。


俺と鍛冶の距離は二十メートルほど。普通の銃ならクロたちも耐えることができるだろうけど、鍛冶神の権能を持つ鍛冶が作った銃だ。どうなるか分からない。だけど、


「ははは、魔獣共、そいつを!って、なんだこれ!」

「解除しただけだ」

「は?」


俺は≪黒血剣≫と≪氷神剣≫を凝固していた力を解除し、驚いている間に≪紫電纏≫を使って鍛冶に急接近した。そして、そのまま鍛冶の顔面に本気のグーパンを喰らわせた。


「グフ・・・」


数回バウンドをして壁にぶつかった。のびているのを確認すると、俺はアカたちの方を見た。無事なのを確認すると、俺は再び≪黒血剣≫を生成しようとする。しかし、魔力が足りなくてうまく生成できない。


「ちっ」


俺は鍵を持っているであろう姫神と鍛冶を見た。すると、姫神と鍛冶が消えていた。


「はあはあ、ようやく捕まえた」

「触んないでください!」


声はするが、姿が見えない。おそらく鍛冶のアイテムの一つだろう。アイツらの気配を追えなくなると、クロたちを檻から出せない。


「ちょっと待っててくれ。すぐにカギをとってくる!」


俺は鍛冶たちの気配を追った。


一番奥の部屋に着くと鍛冶と姫神がどこからともなく突然姿を現す。鍛冶は透明になれるマントをしまった。


「はあはあ、ようやく二人きりになれたね、麗美」

「ひ、こ、来ないでください!」


姫神を自分の方に抱き寄せて、キスしようとするが、暴れられてすることができない。すると、


「やっと追いついた」


鍛冶は邪魔が入ったことに露骨に嫌がる。


「ちっ、やっぱり来たか・・・」

「健児センパイ・・・」


その部屋はまるで闘技場を思わせるような完璧な円状のフィールドで入口からそこに向かう道以外は切り立った崖になっていた。そして、天井は異様に高く、何かが空を飛ぶように作られているとしか思えなかった。


「終わりだ。さっさとあいつらを解放する鍵を渡せ。ついでにそこの姫神も解放しろ。あいつらに土下座してもらわないといけないからな」

「僕の麗美を土下座させるだと!お前はどれだけ罪を!」

「どうでもいい。早くしろ。本気で潰すぞ?」

「っ」


俺は精一杯の強がりを言う。正直、さっきの≪紫電纏≫で俺の魔力は尽きかけていて倦怠感が残っている。だけど、ここで弱みなど見せたら鍵を渡してくれない。俺は電源が落ちそうな身体を気持のみで持たせている。


鍛冶が姫神を捕まえたまま、下を俯いている。降参したのかと思っていると、ボソッと一言呟いた。


「・・・僕がなぜこの部屋に逃げて来たか教えてやるよ」

「?」


鍛冶が≪魔獣笛≫を吹く。ピーという音が部屋中に木霊する。俺はまた入口から魔獣が溢れてくるのかと警戒するが、一向に魔獣が出てこなかった。ハッタリかと思って、鍛冶に襲い掛かろうとするが、


「な、なんだ!」


谷底から轟音が轟き、俺は耳を塞ぐが、その轟音が空気を振動し、身体が痺れた。そして、下から爆風が吹き、谷底から現れた陰が超スピードで天井まで飛び立った。そこに現れた魔獣の正体は、


「黒龍か・・・」


俺は空をバサバサと悠然に飛んでいる存在を見て呟いた。


「はっはっは!形勢逆転だ。ばあああか!こいつはSランクモンスターだ!てめぇみたいな雑用じゃ何年経っても倒せねぇ最強モンスターだ!」


そして、黒龍が地面に降りると、鍛冶の後ろに佇む。


「こいつがたまたま寝ていたときに、俺の≪魔獣笛≫を聞かせたのさ!だから僕の家来!凄いだろ!?」


俺が聞いてもいないことをべちゃくちゃとしゃべってくる。玩具を手に入れた子供みたいに興奮している。鍛冶のことはどうでもいいが、さっきから目が合い続けている黒龍は俺のことを敵だと認識したらしい。


「≪魔獣笛≫でこいつを手なずけた俺の勝ちだぁ!もうお前だけは許さない!麗美を馬鹿にした罪をつぐなべ、にゃにを!?」


さっきからうるさい鍛冶にイライラした黒龍は鍛冶の頭を持ち上げた。そして、ノック練習のように投げ、そして、自分の尻尾で壁際にまで吹き飛ばした。壁にぶつかった鍛冶は一瞬で絶命し、そして、そのまま奈落のそこへと落ちていった。


一瞬の沈黙。鍛冶が奈落に落ちていくのを見た姫神は地面にぺたりと座り込んだ。そして、


「た、助けて・・・」


恐怖が発露してかろうじて言葉になっそして、そして、黒龍の存在感に下半身が水浸しになっていた。運が悪いことにそのつぶやきで黒龍に認識された姫神は路傍の石と同様に踏み潰されそうになった。


「あぶね!」


俺はなんとか姫神を抱きかかえ、黒龍の一撃を躱す。ゴロゴロと転がりながら回避したので、全身が痛む。姫神を見ると、痛がってはいたが、無事なようだ。


「な、なんで・・・?」


それよりも姫神は俺の行動が不可解らしい。もちろん殊勝な動機ではない。あいつらを傷つけた相手を簡単に許してやるほど俺は良い人間じゃない。


「お前は俺の親友たちを悲しませた!だから絶対に土下座させる!それまでは絶対に死なせねぇよ!」

「は、はい」


当然俺も一緒にだ。あいつらを悲しませたのは俺も同じ。だから、焼かれようが、凍らされようが、ビリビリにされようが、傷だらけにされようが俺は謝り続ける。俺はすぐに立ち上がり、姫神を抱きかかえた。


「グルル・・・」


黒龍はブレスを放ってくる気だった。徐々に口の前に黒いエネルギーが溜まっていく。照準を定め、エネルギーを溜め終えた黒龍は俺に向かってブレスを放ってきた。


「なめんな!」


この程度のブレスなら何度も公園の地下ダンジョンで受けている。ダンジョンの中ではブレスを吐けない魔獣の方が珍しい。俺は姫神を抱えたまま躱そうとするが、


「!ふざけ」


俺が避けた方向に向かってブレスが薙ぎ払われる。このままだと俺も姫神もブレスの餌食になるので、俺はギリギリまで引き付けてブレスをジャンプして回避する。明らかに一発くらったらアウトなので、俺の心理的プレッシャーは相当なものだった。


もし、公園の地下ダンジョンで受けた莫大なブレス経験がなかったら死んでいたかもしれない。


「強いな・・・」


それと、あんな風に薙ぎ払われるブレスなど見たことがない。しかもブレスの有効範囲がでかい。これは俺が遭遇した中でも最強クラスに強いドラゴンだ。


「グルル・・・」


黒龍は空を飛んだ。悠然と俺たちの上を旋回している。狙いは分からないが嫌な予感が止まらない。俺は姫神を下ろし、両手を自由にするために、背負うことにした。すげぇ柔らかい感触が背中に当たるがこれを楽しむと、俺の人生が終わりを告げてしまう。


ドラゴンは再びブレスを溜めていた。空という絶対安全領域から確実に俺たちを殺す気らしい。


「健児センパイ・・・どうするんですか?」

「うるせぇクソビッチ。今、それを考えてるんだから口を閉じろ」


姫神がお荷物すぎるので、マジで邪魔。


「なっ!さっきからビッチビッチって!私、まだ処女です!って何言わせんですか!」

「勝手に自滅して何言ってんだよ・・・」


バカな言い合いの中でも俺は活路を探す。俺たちが生き残るには逃げるしかない。このフロアの入り口を見る。そこに続く一本道。俺たちの逃走経路はそこしかない。俺は黒龍が旋回しているうちに逃げることを決めた。


「逃げるぞ!」

「え?きゃっ!」


俺は姫神を背負ったままダッシュで出口に向かう。五秒あれば逃げ切れる。律儀に黒龍の相手をする義理はない。


「グルルア!」

「え?」


黒龍はブレスを中断し、俺の足よりも遥かに速いスピードで出口の前に飛んできた。その風圧によって俺と姫神は闘技場の真ん中に戻された。運が悪いことに黒龍が飛んできた風圧で出口が崩れて、逃げ道が封鎖された。


「グルルル・・・」


黒龍は崩れた出口に続く道の前に悠然と降り立ち、俺たちを見下ろしていた。逃走路は最強の門番のせいで断たれてしまった。結果、俺たちに残された選択肢は一つしかなくなった。


運が良いのか悪いのか、吹き飛ばされたおかげで姫神の両手と足を繋いでいた鎖が切れて両手両足が自由になっていた。俺は苦笑いをしながら姫神に手を差し出す。


「姫神・・・お前はあのドラゴンを倒せるか・・・?」

「無理です・・・枷が邪魔して・・・」


だろうな。聞くだけ無駄だった。俺は姫神を背に庇いながら黒龍に真っ向から向き合う。逃げ道がない中で黒龍から目を逸らしたらその瞬間に殺される。


「グルル・・・」


じりじりとドラゴンが四足歩行で俺たちを追い詰めてくる。俺と姫神は後ろに引くしかないがそれも徐々に意味がなくなってくる。俺たちの後ろは崖だ。このままいくと落ちるしかない。


「ひっ!」


姫神が後ろの奈落を見て、足が動かなくなり地面にぺたりと座り込んでしまった。


「馬鹿!」

「え?」

「グラアアア!」


黒龍がその隙をついてきた。俺と姫神に向かって鋭爪で切り裂きに来た。俺は≪黒血剣≫を生成して、振り下ろしてきた鋭爪を両手で剣を支えてなんとか防ぐ。


「ぐっ」


しかし、硬度が全く足りない。徐々に≪黒血剣≫は固形を維持できなくなった。しかもドラゴンも体重を加えてきたので、刃を支えている左手が俺の手に深く刺さってきて、足場にひびが入る。


「ガフっ」


あまりの圧力に俺の口から血が出てくる。身体がぺちゃんこになりそうだった。


「健児センパイ・・・」

「しゃべる暇があるなら、さっさとどけ!」

「す、すいません、腰が抜けて・・・」

「クソが・・・!」


文句を言おうにも、俺の肩に黒龍の爪が刺さってきた。


「っ~~~」

「健児センパイ!?」


肩が焼けるように熱い。しかも、徐々に俺の肩を貫通してきた。俺の≪黒血剣≫はもう形もボロボロだった。このままだと俺と姫神は圧死させられる。


けど、俺の頭にはこの状況を一瞬で逆転できる最強の技が思い浮かんでいる。後は俺がそれを発動できるかどうか。いや発動できなければ死だ。


「姫神・・・ちょっと熱いが我慢しろよ・・・」

「はい・・・?」


借りるぞ紅音。


「≪蒼炎≫!」

「グルあああ!?」


俺は最後に≪黒血剣≫を媒介に紅音の力である≪蒼炎≫を使った。ほんのろうそくほどしか発動できなかったが、相手を焼き殺すまで消えない紅音の最強の炎だ。一度燃えてしまえばもう終わりだ。


最初は爪にしか灯っていなかった蒼炎が徐々に黒龍の身体を浸食していき、黒龍はたまらなくなり俺から距離をとった。俺は落ちかけている意識をなんとか堪える。


「はは、ざまぁ、見ろ・・・!」

「健児センパイ!?」


≪黒血剣≫は完全に液体に戻った。身体は意識に逆らって前に倒れそうになるが、姫神が俺を支える。しかし、


「グラアア!」

「え?」

「あ?」


俺と姫神は黒龍が蒼炎を消そうとして暴れまわっている中で風圧に巻き込まれた。そして、後ろに吹き飛ばされた。


「嘘だろ・・・?」

「きゃああああ!」


姫神と俺は暴れまわる黒龍をよそに奈落に落ちていった。



「おい!急ぐのです!」

「分かってるって!」


女王四重奏ぼくたち】はかつてないほど急いでいたが、獣化そして、あの面倒な檻のせいで疲弊していた。魔力の残りはほとんどない。


「嫌な予感がするわね・・・」

「ええ・・・」


健児に付けていたマーキングを辿っている。安否確認もできるのだが、生命力が弱まってきているのを感じて僕たちは焦っていた。


「あの奥から匂いがするのです!」

「どきなさい!≪海龍の咆哮≫!」


一番鼻が利く蒼が健児の匂いを辿り健児のいる場所を見つけたらしい。そして、涼が水のブレスを使って岩石で埋められた入り口を破壊した。僕たちは勢いそのまま細い道を渡って闘技場らしき円形のフィールドに立つ。


一番最初に僕たちが見たのは、青い炎で燃えつきかけている何かと激しい戦闘の跡だけだった。しかし、そんな残骸のことはどうでもいい。


「健児は、健児はどこだ!?」


僕はすぐに探すが、見つからない。匂いはこの部屋で止まっていた。しかし、姿が見えない。


「ねぇ!あそこ!」


紅音が指を指す。そこは切り立った崖だった。激しい戦闘があった跡と崩れた足場、そして、大量の血痕が残っていた。蒼が匂いを嗅ぐと


「健児と、あの女の匂いがここで途絶えている・・・のです・・・」


蒼が耳をぺたんとして僕たちに告げる。嘘だろ・・・?僕は真っ暗な崖の下を見た。そして、


「綾!やめなさい!」

「離せ!健児が下に落ちたんだぞ!?」


僕が降りようとするのを紅音が羽交い絞めにして止めてきた。僕は振り払おうと動き回るが紅音の拘束がほどけない。


「今、私たちは獣化で魔力が全くないでしょ!?それなのにこんなところから降りたら死んじゃうわ!」

「っ!」


それは分かってるっ!だけど健児だってさっきの戦闘で魔力を使い果たしていた。こんなところから落ちたら・・・


「健児・・・?」

「涼!?蒼、止めて!」

「は、はいなのです!」

「っ!離しなさい!」

「ダメなのです!」


涼は蒼に無理やり地面に抑えつけられた。涼はリバイアサンの力を使おうとするが、魔力切れを起こして気絶した。


「健児・・・」


涼は意識を失ってなお健児のことを呟いていた。


「はあはあ、ありがとう蒼・・・」

「はい、なのです・・・」


紅音も蒼も僕たちを抑えるのに力を使い切ったらしい。肩で息をしていた。


「綾も、少しは冷静になった・・・?」

「ああ・・・」

「なら、もう馬鹿なことはやめてよね・・・」

「ああ・・・」


紅音の言っていることはわかる。だけど、この下は・・・


「【冥界の獄園】Sランクダンジョンの入り口かもしれないわね・・・」

「ああ・・・」


学校の中庭にはダンジョンがある。公に出ている情報ではBランクのダンジョンとされている。しかし、その奥底にはSランク冒険者にしか知られていないSランクダンジョンがある。裏ダンジョンなので、普通の学生が見つけられるはずがないのだが、この奈落を見る限り、そこに続いている可能性は高い。


「綾の心配することはわかるわ。だけど健児は幸いなことにスライム。すぐに環境に適応するわ。ね?蒼」

「え、ああ、そうなのです!健児なら大丈夫なのです!」


紅音と蒼は無理やり元気を出しているようだ。けど、紅音はなんでもないようにしているが、拳から血が出ていた。蒼だって唇から血が出ていた。心配なのはこいつらも一緒だ。


僕は馬鹿だ。こいつらだってすぐに降りたいのだ。それなのに・・・


僕は一回深呼吸をする。


「すまない紅音、蒼。リーダーなのに見苦しいところを見せた」


蒼と紅音は意外そうな顔をしていた。


「ふ、ふん、いいわよ。あたしたちはチームなんだから」

「そうなのです!困ったときはお互い様なのです!」


僕もリラックスして頭を切り替える。


「半日経ったら健児の捜索を開始する。それでいいな?」

「うん」

「はいなのです!それまでは休むのです!」


コクリと頷く。後は寝ている涼が起きた時に抑えつけないとだ。あいつは一見一番大人に見えるがある意味で一番子供だからな。


僕は奈落の底を再び見る。


「健児、無事でいろよ・・・」


届くはずのない言葉は虚空へと消え去っていった。


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ここまで読んでくださりありがとうございます!

一章の【漆黒の堕天騎士】編は終了です。

面白かった、もしくは応援してくださる方は☆☆☆やブクマをしてくれるとありがたいです!


7/7をめどに新章【冥界の獄園】編を載せたいと思っています!

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