【二章完結】S級幼馴染専用嫌われぼっちは気付かない 復讐録画はバレていた上にうっかり配信がバズっちゃいました

addict

【漆黒の堕天騎士編】

1

「おい、あれが・・・」

「ああ、例のやつだろ・・・?」

「怖いよぉ・・・」

「あっちは見ちゃダメ!」


俺は恐山健児おそれやまけんじ、神成高校二年生。自分でも言うのもなんだがこの神成高校でもトップクラスで有名人だ。良い方・・・ではなく悪い方でだけど。


成績優秀、スポーツ万能、顔は普通・・・なはず。


特段悪いことをやったわけでも犯罪を犯したこともない。ただ、なんとなく『怖い』という理由だけで老若女問わず怖がられ、俺がいるだけで気絶させてしまうこともあった。


男は俺にビビることはない。だけど、女をイジメた変態クソ野郎として俺の名前は地元に轟いていたこともあって友達は一人もいない。


小学生の頃は普通だった。友達も人並みにいたし、同級生の女の子も普通に話しかけてくれていた。それが中学に入った瞬間に今の状況になった。当時の俺は苦悩したし、何が起こっているのかと原因解明に尽力したが、結局分からずじまいで今まで生きてきた。


周りを見ると、一斉に俺から目を逸らし、先生に挨拶をしようものなら教科書でガードされて無視される。ここに俺の居場所はない。だけど高校くらいは出ておかないと学歴社会のこの世界を生き抜くことが困難になるので仕方なく通い続ける。


俺は学校の中で唯一心を落ち着けることができる中庭のダンジョンに向かった。



中庭には大きな穴がある。そんな穴が500年近く前に突如として世界中に現れた。便宜上、それをダンジョンと名付け、各国の軍隊がこぞって攻略に向かったが、神話に出てくるような生物に対して、対抗手段が全くなかった。


≪ガイアの復活≫と言われたダンジョン黎明期はまさに人類の滅亡を意味しているようで、一年間で人口が十分の一になったと言われている。


しかし、神はまだ人間を見捨ててはいなかった。ある日を境に火を放つ少女に、雷を落とす少年、風を纏うサラリーマンなど、神話の神々の力を授かった人間たちが現れる。


彼らはダンジョン黎明期に世界を救った勇者であり、俺たちの先祖だ。彼らのおかげで今がある。そして、俺が今通っている神成高校はダンジョン攻略者を育てるための学校だ。


P神R検査で魔力があると判定された者だけしか入れない学校だなのだが、俺にはたまたま魔力があったので、この学校に通っている。近いので入れてよかった。


「行くか」


俺は庭の穴の中に入っていった。



神成高校はダンジョンの攻略を目指す養成学校だ。だから、授業をサボってもダンジョンにいたという証拠さえ出せば出席は問題ない。


じゃあその証拠は何かというと動画を撮ることだ。ドローン型の撮影機材が学生には配られているので、俺はそれを起動して配信する。本当は動画を録画するだけでもいい。


だけど、今の状況を脱したい俺は動画配信をしている。有名になってちやほやされるようになれば学校で居場所がなくなっても、学校外に仲間を作ることができるかもしれない。


けど、高一からダン配をし続けても俺には四人しか登録者がいない。逆になぜ四人もいるのかと疑問に思ってしまう始末だ。人気配信者はダン配で金を稼げるらしいが俺にはそれが無理らしい。それでも有名になりたい俺はいつかバズると信じて毎日配信する。


俺はいつも通りダンジョンを歩き、鉱石を集める。本当は魔獣を倒してはぎ取って取れる素材を集めた方がポイントが高く、いい大学へ推薦で行けるというメリットがあるのだが、俺は一人じゃ攻撃もできない無能だ。


だから地道に集める。こういうのはチリが積もれば山となるってやつだ。将来のために、小さいことでもコツコツとやることが大事だ。


「グルルル」

「ヤベ」


そんなことを考えていたら十字路の右側から人狼が現れた。さっきも言ったが俺には戦う力がない。だから、魔獣と遭遇した時は逃げる一択。情けないが仕方がない。


俺は人狼に背を向け猛ダッシュで走り出す。


「グラアアアア!!」

「っ!!」


俺の背後を二足歩行から四足歩行で普通の狼のように追いかけてくる人狼。走るスピードはチーターよりも早い200キロに達する。


俺は距離を詰められないように全力で走る。そして、ときおりそこら辺に落ちている障害物を使って人狼の行く手を阻む。人狼はそれを鬱陶しそうに退けながら、俺を追いかける。


これでいつもなら余裕で逃げ切れたはずだった。


「嘘だろ!?」


地面が隆起していて俺はそこに躓いて転んでしまった。痛恨のミスで人狼に追いつかれてしまう。


「はっ、はっ、はっ」


人狼は涎を垂らしながら、俺の下にゆっくりと歩を進めてくる。俺は再び走れるかと足の具合を鑑みるがどうやら捻ってしまったらしい。人狼に噛まれると普通に痛いから困る。


「はっ、はっ、はっ、グギャ!!?」

「え?」


俺を喰い殺そうと近づいてきた人狼は突然血しぶきを上げて倒れた。俺は血しぶきをブシャーっと一気に浴びたので人狼の血で血まみれになってしまった。


「大丈夫ですかぁ!?」


何が起こったか全く理解できていない俺の耳に間延びしたような可愛いらしい声が届いた。人狼を見てみると、心臓を矢で射抜かれていた。


「あのぉ~」

「ん?」


背後を見ると、超が付くほど絶世の美少女がいた。黄金を思わせるような金髪に貝殻のアクセサリーを身に纏っていた。制服の感じから一つ下の後輩だろう。


ただ、そんなことよりも特筆すべきことはこの子を見ていると頭がボーっとしてくるのだ。なんでも捧げたくなるようなそんな感情を駆り立てられた。


「大丈夫ですかぁ?」

「あっ、うん、助かった。ありがとうございます」


謎の美少女によって意識を戻されるが、今度はこの少女の美貌に見惚れてしまう。よくよく見ないでも超が付くほど可愛い。ってか凄いタイプ。


「よかったです」


ニコリと笑う。向日葵のようなその笑顔に俺の顔はますます紅潮していく。


「これから地上に戻ろうと思うのですが、一緒にどうですかぁ?見たところ、足を怪我されているようですので・・・」

「い、いえ大丈夫です。俺のことなどお構いなく・・・」


俺はどもりながら言う。後輩とはいえ女の子だ。女の子とまともに話したのは小学生以来なので敬語で話してしまう。それからずっと女には怖がられ続け・・・あれ?何かおかしいぞ


「ですが、心配です・・・」


やはりだ。この少女はおかしい。だって、


「あの、つかぬことを聴きますが、俺のことが怖くないのですか?」

「ええと・・・何のことですかね?」


俺のことを見ても全く怖がる様子がない。やせ我慢している様子も全く見受けられない。むしろ俺の発言に困り顔を浮かべている。


「さっ、一緒に地上に戻りましょう。立てますかぁ?」

「あっ、はい」


少女が手を差し出してくれた。俺は厚意に甘えて綺麗な手を掴む。ペンよりも重いものを握ったことはなさそうな手だったが、俺を引っ張り上げて立たせてくれた。


「歩けますか?」

「はい、少し挫いていますが、なんとか」


俺は自身の足の調子を見る。足首を上下左右に動かして、多少の痛みは伴うものの歩くだけなら問題はなさそうだ。


「それじゃあ行きましょう」

「はい、命を助けてくれてありがとうございました」

「いえいえ、困ったことが会った時はお互い様ですよぉ。それよりも敬語じゃなくていいですよぉ?見たところ二年生らしいので。私、一年の姫神麗美ひめがみれいみと言います」

「な、なら遠慮なく。俺は恐山健児。あ、改めて助けてくれてありがとう、姫神・・・さん?」

「ふふ、姫神でいいですよ」

「おっ、おう」


天使のようにクスクスと笑う姫神の顔に俺は見惚れてしまう。一つ一つの仕草に気品があり、目で追わずにはいられなかった。この美しい姫神を喜ばせてやりたい。そう思って気の利いたことをいおうとするがコミュニケーション不足ゆえにまったく何も思い浮かばなかった。


「健児センパイはダンジョンで何をしていたんですかぁ?」


すると、姫神の方から俺に質問が来た。横からのぞき込んでくるような体勢で俺を見てくる。何よりも俺の名前を呼んでくれたことが嬉しくて有頂天になった。


「お、俺は鉱石の採集をしてた・・・姫神は?」

「私は自身のレベル上げです。授業が退屈だったので、ダンジョンで腕を上げようと思いましてぇ」

「なるほど・・・」


強くなりたいなら学校でだらだら授業や演習をこなすよりも潜った方が早い。習うより慣れよという格言がある通り、ダンジョンのことを知りたいならダンジョンの中だ。


「それにしても一人でこんな奥底まで潜るなんて、健児センパイは強力な力をお持ちなんでしょうねぇ」


姫神はポツリと呟くように言ってきた。


「俺はただの召喚士だよ」

「そうなんですかぁ。あれ?でも、召喚獣らしきものは周囲に見あたりませんよ」


きょろきょろと周囲を姫神が見るが、召喚獣らしきものはどこにも見当たらない。俺だって見つからないんだから当然だ。


「俺の召喚獣は気まぐれでな。気分によって出てくるときと出てこないときがあるからな」

「そんな召喚獣聞いたことがありません・・・」


俺もだよと言いたくなる。俺には四体の召喚獣がいる。ただ、普通の召喚士のように契約したわけでもなければ、俺が呼びだしたわけでもない。だからなのかは分からないけど、俺の任意のタイミングで呼び出すということができない。


ただ一応召喚獣らしきものがたまにダンジョンに付いてくるのでそう名乗っている。召喚士なのに召喚獣の気分に振り回されるってどうなんだろうな。


「でも、嘘は言ってなさそうですね・・・」

「まぁ本当のことだし・・・嘘だと思うなら疑ってもらって構わないよ」


普通は俺の話など眉唾ものだろうしな。俺以外のここの学生は全員自身の力を把握している。力を隠していると捉えられるのが普通だろう。だが、


「いえ、疑いませんよ?」

「え?」


姫神は俺の言うことを肯定してきた。そして、


「私は自分ののせい色々な人間に関わらずにはいられなかったんですよぉ。その私の経験が健児センパイが嘘を付いていないっていっているんですよね~」

「そ、そうか」

「はい」


沈黙が俺たちの間を支配する。人と全く関われてこれなかったことがこんなところで弊害をもたらしていた。俺はこのままでは姫神に嫌われてしまうのではという恐怖で心を支配されたので、無理やり思ったことを聞いた。


「そ、そういえば姫神の力ってなんなんだ!?」


俺の口から出てきたのはそんなことだった。もっと相手を褒めるなり上げたりすることを言えばいいものを出てきたのは色気もくそもないことだった。


「それ聞いちゃいますぅ?」

「い、いや、話したくなかったら答えなくていい・・・ぞ?」

「ふふ、それなら秘密にさせていただきまぁす」


姫神は口の前に人差し指を当てて秘密だと言ってきた。その仕草にいちいち見惚れると同時に、何を馬鹿なことを聞いているんだと自分を殴りたくなった。


「それより光が見えてきましたね。出口ですよぉ」

「あ、おう」


俺たちの進行方向にうっすらと光が見えてきた。このまままっすぐに進めば地上だ。時計を見てみると、十六時半を指していた。このまま出ても生徒たちはみんな帰っているところだろう。余計な騒ぎになることなく帰りたい俺としては丁度よかった。


「そういえば足の調子はどうですかぁ?」

「大丈夫。おかげさまで完治したよ」

「それは言い過ぎですよぉ。ちゃんと患部を冷やしておかないとダメですよぉ?」

「お、おう」


心配してくれる姫神、マジ天使。可愛すぎて俺の脳内は姫神で埋め尽くされた。


「あっ、地上ですね!」


俺たちはダンジョンから出てきた。夕方と昼の中間あたりのような空模様だった。


「それじゃあ今日はありがとうございました!今度は一緒にダンジョンを攻略しましょうね!」

「あっ、こちらこそ世話になった!今度お礼をさせてくれ!」

「はぁい!期待して待ってますねぇ!」


中庭を軽い足取りでさっさと出ていこうとした姫神は最後に俺の方を向いて手をぶんぶんと振ってきた。俺も軽く手を振った。姫神は俺の反応を見て満足したのかそのまま姿を消した。


「姫神麗美・・・」


俺の心は完全に姫神麗美のことで埋め尽くされていた。俺と普通に話せるだけでなく、超が付くほど美人で人狼を一撃で葬る実力者と来た。何よりも俺みたいな陰キャにも優しいと来た。落ちないわけがなかった。


すると、飛ばしていたドローンが俺の頭に当たった。電池が切れそうになることを教えてくれたのだ。


「あっ、配信消すの忘れてた」


そして、俺は配信がそのままになっていたことに気が付いた。配信の同接者数を見てみると、登録者である四人はずっと見ていてくれたらしい。


「ご視聴ありがとうございました」


いつもなら絶対に言わないことを言う。やはり心がHIGHになっているのが原因だろう。すると、コメントが入る。


『僕というものがいながら浮気か?』

『誰が≪ヘルシー≫の隣にふさわしいか教えてやらなければならないわね』

『あ、あの女!あたしの≪ヘルシー≫にべたべたしてぇ!』

『明日処すのです!』


コメント欄が荒れていた。ってか炎上してる。こういう経験は今まで一度もなかったが相手をすると面倒そうだ。こういう時は無視が一番だろう。ちなみに≪ヘルシー≫は俺のダンジョンネームだ。


「またのご視聴をお待ちしていま~す」


俺はそのままダン配を消した。そしてダン配を録画したものを学校の提出フォルダに移して今日の活動は終わりだ。


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ここまで読んでくださりありがとうございます!


応援してくださる方は☆☆☆やブクマをしてくれるとありがたいです!


7話からタイトル回収なのでそこまで読んでくれるとありがたいです。

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