第三章 ムーンストーンの記憶
07
ボクは怖々とソファに尻を落とした。柔らかく包み込まれ、抱き留められるように腰が落ちる。なんて座り心地の良さだ……。ボクは一生、このソファを尻につけて生きる決意をした。
「紅茶で良かったか」
獅童さんはなぜかボクの隣に腰掛け、ティーカップとソーサーをテーブルの上に置いた。そして、レモンスライスが数切れ乗った小皿と、角砂糖の壺も。
「あ、りがとうございます」
ボクは怖々とティーカップを覗いた。見た目お茶を淹れるとかしなさそうな、飲み物はブラックコーヒー、それも買うものか人に淹れてもらったものしか飲まなそうな獅童さんが淹れてくれた紅茶は、とても良い香りがした。
「大叔母の趣味だ」
「おお、おばさん」
「この家の住人だ。二ヶ月前に肺炎で亡くなった」
「それは……」
ご愁傷様です、と言おうとしたボクの言葉を待たずに、獅童さんは続けた。
「この家を大叔母から譲り受けたんだが、正式な遺言がなくてな」
「そうなんですか」
「親戚連中がうるさい。大叔母の隠し財産がこの家の中にあると疑っている」
「は、はい」
「パライバトルマリン、アレキサンドライト、パパラチアサファイア」
ボクはぴくりと反応した。三大希少石と呼ばれている宝石の名前だ。なぜ、獅童さんがそれを。
「大叔母のコレクションの一部だ。どれも1カラット以上あるらしい」
「い、1カラット!?」
ボクは仰天したどころじゃない。1カラットもある希少石なんて、普通の人には持てない……やはり獅童さんの亡くなった叔母さんは、ただならぬ方だったのだろうか。
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