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「祖父は獅童家をやめ、かねてより好きだった骨董の世界に入り、父もそれに倣うようになりました。やがて見合い結婚をし、私が生まれ、父はギャラリーを開きました。麻子様と父が再会を果たしたのは、10年ほど前だったでしょうか……このギャラリーででした」

 鹿田さんはそこまで言うと、再び遠い目をした。獅童さんはまだ疑うような目をしている。

「ここで大叔母と鹿田さんのお祖父様が再会したというのは、偶然だったのでしょうか」

「まったくの偶然でした」

 鹿田さんは迷わず即答した。

「私もこちらで働いておりましたから、あの日のことはよく覚えております。大島紬を召された品の良いご婦人が一人で入ってこられて、その存在感に圧倒されました。

 麻子様は当時のギャラリーで扱っていた絵画を数点購入したいと仰って、こちらの部屋にお通ししたのです。

 父は、その頃はまだ元気でしたから、麻子さんの顔を見たときにそれこそ飛び上がらんばかりに喜んでおりました」

 ボクは夢想した。泣く泣く別れた男女が、数十年の時を経て再会する。おそらく、二人とも互いを思う気持ちは消えていなかったのだろう。そして思わぬところで再会し、その運命を喜んだ。

「かつて恋人同士だったという話は父から聞きました。互いにパートナーを亡くして独り身になってからの再会でしたが、二人は節度ある付き合いをしていました。映画を見たり、お茶を飲んだり……時にはこのギャラリーで、それまでの時間を埋めるべく長々と話をしていたり。

 私の母に対して、私自身複雑な思いを持ったことは確かですが、父は、麻子さんとは永遠に親友としていたいのだと申しておりました」

「親友、ですか」

「はい」

「しかし、なぜ遺書がここに」

「それをお伝えしなければなりません」

 鹿田さんは、静かに立ち上がるとドアと窓の施錠を確認した。

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