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「麻子様は、とあることで悩まれていらっしゃいました」
「とあること?」
「はい。相続に関してでございます。特に気に入ってらっしゃる三浦の別荘を、誰に譲ればいいのかと」
三浦の別荘は、獅童さんが相続して今、住んでいるところだ。
「なんでオレを相続に指定したのか、鹿田さんはご存知なんですか」
「一応」
「教えてください」
獅童さんの声に緊張感がみなぎる。
「一族の連中が虎視淡々と狙っていた別荘を、どうしてオレが継ぐことになったのか、オレ自身が知りたいんです。大叔母には息子が一人いたし、その息子は縁を切られたらしいが、娘が一人いると聞いている。
どうして直系の彼らではなくて、妹家族の血筋であるオレに三浦の別荘を相続させたかったのか、知りたいんです」
獅童さんは前のめりになっていた。ボクはぽかんとした顔でそれを見ていた。
遺産相続って、ボクにはあまりにも現実離れしていて想像もつかないけれども、獅童さんちくらいの金持ちになると、相続するものが何かによって、なんというか、違いとか出てくるのだろうか。
鹿田さんは、しばらくの間獅童さんを見ると、ふと表情を和ませた。
「麻子様と遊ばれた記憶はございますか」
「大叔母と……? いや、ないと思いますが……」
「恐らく、麻子様が獅童様と遊ばれたのは幼少期の一度きり。しかし、その時から獅童様は麻子様にとって、特別なお子さまだったようです」
「どういうことですか」
「麻子様は」
鹿田さんは立ち上がると両手を腰のところで組み、ゆっくりと室内を歩き始めた。
「麻子様は、とある出来事から獅童様のことを特別視するようになられたそうです。
特に、コレクションの宝石類について、獅童様以外に相続させたら大切に扱われないどころか全部売られてしまうのでは、と危惧していたようですね」
「そんな人はいないと思いますが」
「ご存じないだけです」
鹿田さんはふっと口角を上げた。それは、嬉しいとか楽しいとかいうタイプの笑みではなく、どちらかというと憐憫とか皮肉とか、そんな感情を表す動きに見えた。
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