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鹿田さんは再び椅子に腰掛けた。
「麻子様は獅童様に三浦の別荘を継がせるとお決めになり、遺書を作った。
しかし、その遺書を本来のものとは別に、私の父に預けた。もしも麻子様が亡くなられて一年以上経っても獅童様が遺書を取りに来られなければ、破棄するようにと言われておりました。今日がちょうど」と、鹿田さんは空を見つめた。
「半年になりますかね」
「ちょっと待ってください。どうしてそんな面倒くさいことをするのかまったくわからない。他の遺書はうちの弁護士が保管していたのに、なんでこれだけが鹿田さんの保管になっているのか」
「麻子様は、誰にもこの遺書を見られたくなかったからです」
「……ということは、弁護士が保管しているものは、誰かが見る可能性があった、と」
「そうです。それだけでなく、すり替えられる可能性もあったのでしょう」
「……」
「私たちなら、その存在を知られていない。麻子様は私たちのことを秘密にされていたし、もとよりかつての恋仲だった相手のことを、記憶に残しているものはすでに天に召されていますからね」
「なんで、三浦だけ」
「麻子様は、獅童様なら宝石たちの気持ちがわかる、と仰っていました」
「は?」
思わず声が出たのはボクだった。宝石たちの気持ちがわかる? ボクだけじゃなく、獅童さんも「そっち」系の人だったのか?
「それは何かの勘違いです。オレにはそんなのわかりません」
「しかし、麻子様は幼少期にご自身と遊ばれた時にそれを確信されたと仰っていましたよ」
獅童さんは眉根を寄せた。まるで何かを思い出そうとしているような、しかし思い出せないことが焦ったいような表情だ。
「別荘のものはすべて、麻子様の宝物だとおっしゃっていました。資産は誰にでもくれてやる、でも三浦だけは、その価値がわかり、彼らと交流できる者にしか譲りたくない、と」
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