05
「これ返してやるから、交換条件でオレの指輪から何か感じてみてくれないか」
「はあ?」
思わずそんな声が出てしまい、しまったと口を抑える。案の定、獅童さんは切れ長の目を若干吊り上がらせて、ボクを見た。
「これでも下手に頼んでるつもりなんだが」
「下手って、言われましても」
ボクは彼の迫力にしどろもどろだ。どうしたらこの話、断れるんだ。
でも、モリオンを取り戻さないことには、ボクの周りにひたひたと迫りくるこの不穏なものから逃れられなくなる。
「わかりました。じゃあ、指輪を出してください」
獅童さんはボクの前に指輪を出した。改めてじっくりと見てみる。恐らく愛用されていたのだろう。リングは18金か24金か。金属のことはよくわからないけど、よく使い込まれているのがわかる。きっと、肌身離さず身につけられていたのだろう。ボクはリングのアームを指先でそっとつまむと、ムーンストーンを覗き込んだ。
とても美しいロイヤルブルームーンストーンだ。表面がてろんとしていて、シラーの青さに酔いしれる。少し傾けて日の光に当てると、ゆらゆらと揺れるような光に引き込まれそうだ。
ボクはしばらくの間、目を閉じて集中した。けれども……石は、指輪は何も語らなかった。
「すみません、やっぱり、その、わかんない」
「わかんない?」
大きな声で返され、反射的に首を竦める。もう本当に嫌だ、この人。なんでこんなに圧をかけてくるんだ。
「もしかして、その持ち主の家に行ったらなんか掴める、とかないか」
そんなことは試したことがない。ボクは首を縦にも横にも振らなかった。それを、獅童さんは誤解したのだろう。
「お前、今日は授業あるのか」
「え、いえ、さっきので終わりです」
「バイトとか約束とかは」
「と、特には」
「よし、来い」
手首を掴まれてひっ、と声が出そうになる。獅童さんがボクの手に触れたとき、ふっとビジョンが浮かんだのだ。それは、古くておどろおどろしい印象の洋館だった。この人、ボクをお化け屋敷に連れていくつもりなのか。
「大人しくついてきてくれれば、痛いことや怖いことはしない。約束する」
いやいや、連れていかれる先が充分に怖そうな場所なんですが!
そんなことは露ほどにも言えず、ボクはただ、獅童さんに手首を掴まれ、引っ張られるがままに大人しくついていくしかなかった。
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