15
獅童さんからお礼を言われたことで、ボクの中の何かが弾けた。感謝されるようなこと、ぜんぜんできていないのに。
「この指輪、どういう状態で相続されたんですか」
「ん? どういう意味だ」
「この、剥き出しの状態で手にしたのか、それともケースに入っていたのか」
「ああ」
獅童さんは「ちょっと待て」と言い残すと部屋を出て、しばらくして何かを手にして戻ってきた。
「オレはそれほど大叔母と縁があったわけじゃないんだが、死に目に呼ばれてこれを渡された。持っていてくれと言われてな。このケースごと託されたんだ」
ボクは獅童さんからケースを受け取った。片手で収まるくらいの小さな指輪ケース。色は紺色。蓋を開けてみると、上品な灰色のクッションがある。指輪が収まっていたのであろう場所に、少し跡がある。
ボクは全神経を掌に集中した。指輪が収まっていたケース。何かわかるかもしれない。藁にもすがる思いで皮膚の感度を最大限にする。
獅童さんは訳わからずという顔をしているけれども、ボクのやることを見守ってくれている。ケースよ、ボクに何かを語ってくれないか。
ちり、とこめかみが痛んだ。手に持っているケースが、それだけの重さではないような気がした。なんだ? この感覚は。
ボクはケース内の灰色のクッションを、そっと指で押してみた。本来がどのくらいの柔らかさで、どのくらいの押し返しがあるのかわからない。けれども、違和感を感じる。
「獅童さん、このクッションを抜いてみてもいいですか」
「あ、ああ」
ボクはクッションの隅っこをそっと摘んで引っ張った。抵抗はなく、それはすっと取り除くことができた。
「なんだ、これ」
覗き込んでいた獅童さんが呟く。ボクはそれを指先で摘みあげた。
「鍵、ですね」
家の鍵とかそういったものではない。例えば、宝石箱、あるいは鍵付きの日記帳とかの鍵っぽい。
「宝石箱とかの鍵じゃないかと思います。心当たりありますか」
「心当たり……」
獅童さんがまた考え込む。部屋を見渡し、そしてはっと思い立ったように部屋を出ていく。
数分後、獅童さんは何かを大切そうに抱えて持ってきた。
「多分、これの鍵だ」
「これは」
「大叔母のベッドの横にあった。おそらく、大切にしていたんだろう」
獅童さんが手にしていたのは、両手のひらにすっぽりと収まるくらいの大きさの箱だった。
蓋と本体は錠前でロックされている。多分、この錠前の鍵なのだろう。
「何が入ってるんでしょうか」
「わからん。開けてみよう」
獅童さんの大きな指が、鍵を摘む。錠前の小さな鍵穴にそれを差し込み、回す。力任せにしたらぐにゃりと錠前ごと壊してしまいそうな雰囲気なのに、彼は繊細な手つきで錠前をそっと外した。
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