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コインパーキングから少し歩いたところに、そのギャラリーがあった。前面ガラス張りの、とても気持ちが良さそうな場所だ。獅童さんがギャラリーの観音開きのドアを開ける。ボクはその後ろに、隠れ雨ようについていた。
「お待ちしておりました」
オーナーの鹿田さんはスーツ姿で眼鏡をかけている。髪の大半が白髪になっていて、中肉中背とはいえども疲れたサラリーマンとは違い、どちらかというと老舗ホテルの支配人のような風情だ。姿勢が良くて微笑みが温かい。
「先ほどお電話した獅童です。お忙しいところ申し訳ありません」
「いえいえ、こちらの部屋にどうぞ」
鹿田さんは表に「準備中」の札を出すと、観音扉の鍵をかけた。大きな絵画がいくつも飾られた、20畳くらいのギャラリーを抜け、奥にある小部屋に通される。
「こちらは商談用の部屋になっています。今お茶を入れますのでしばしお待ちください」
「いえ、お茶は結構です。単刀直入に伺いたいことがありまして」
獅童さんがボクに目で促す。え? ボクが話すの?
「あ、えっ、あの、えっと」
まごまごとしてなかなか話を始められないボクに業を煮やしてか、獅童さんが口火を切った。
「突然伺ってこんなことを聞くのは大変失礼かと思うのですが、獅童麻子という名前に聞き及びはないでしょうか」
「獅童、麻子さんですか」
「オレの大叔母です。事情がありまして、大叔母の」
しっ、と鹿田さんが唇の前に指を立てた。ボクと獅童さんは、どういうことかと顔を見合わす。
「諸々、存じておりますがまずはご自身が本当に獅童志様か、確認をさせていただけますか」
「ああ、運転免許証を見せればいいですか」
「いいえ」
鹿田さんは微笑んだ。その柔和な笑みは、この人の優しさや人当たりの良さを表しているようで、とても安心できる。
けど、次に鹿田さんが言った言葉は、その場を緊張させるに充分だった。
「獅童様ご本人である証として、見せていただきたいものがございます」
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