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 通常、身分を証明するものとしては運転免許証が一般的だ。ボクのように免許を持っていない場合は保険証かマイナカード。しかし、鹿田さんは運転免許証ではないもので獅童さんと証明できるものを、とおっしゃった。一体何を出せば良いと言うのか。

「何をお見せしたらオレが本人だと信じてもらえるんですか」

「右耳の裏でございます」

「はぁ?」

 ボクと獅童さんは同時に声を出した。右耳の、裏?

「そこに少々大きめのホクロがおありと存じます。それを拝見してもよろしいですか」

「どうしてそれを」

「失礼」

 鹿田さんは、獅童さんの右に回ると屈み、小さなルーペのようなものを取り出して獅童さんの耳裏をじっくりと眺めていた。やがて得心したようにうなずくと、「お預かりしているものがありますので、しばしお待ちください」と部屋を後にした。ボクと獅童さんは、呆気にとられていた。

「……獅童さん、ホクロ、本当にあるんですか」

「ああ。なんであの人が知ってるんだか」

 さすがの獅童さんもわけがわからないという顔をしている。

「お待たせしました」

 鹿田さんは手に封書のようなものを持って戻ってきた。

「こちら、獅童麻子様の正式な遺書でございます。私の父が麻子様よりお預かりしておりましたが、父亡き後、私が引き継いで持っておりました。獅童志様が訪ねてこられたらお渡しするようにと承っております」

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