第29話 トライアングル

 もう時間は昼前なので、私は宿屋の一階にある食堂でランチを注文した。



 「ハンバーグ定食をお持ちしました」



 この世界の食べ物はお菓子やスイーツなどは全く存在しないが、それ以外は私が住んでいた世界と同じような料理がメニューに並んでいた。私は無難なハンバーグ定食を頼んだ。



 「このソースはデミグラスソースね。ハンバーグも肉汁がジュわっと溢れ出るし、とても美味しいわ」



 私は異世界のハンバーグに舌鼓を打つ。ハンバーグの隣にはホクホクのポテトフライもあり、デミグラスソースに付けると美味しさが倍増する。



 「この世界の食事は本当に美味しいわ。なぜ?ケーキやお菓子がないのか不思議でしょうがないわ」



 リリーちゃんの屋敷では、豪華なコース料理をごちそうになり、昨日の晩は肉汁たっぷりのステーキを食べた。この世界で食する料理は一級品で、スイーツがないのが残念だ。この世界では甘い食べ物は果物がメインであり、コース料理にも、宿屋の食事にも最後は果物が出るのが常識だった。



 「食後のスイカをお持ちしました」



 私がハンバーグ定食を食べ終えると、頼んでもいないのにスイカが運ばれる。もちろんサービスではなく、どのような料理を食べても最後は果物が運ばれてくる。



 「なんて綺麗なスイカなのかしら」



 私がいた世界のスイカとほとんど似ているが、赤と言うより透き通るような赤色をしていて種もない。魔道具を使用した貯蔵庫で熟成された効果もあり、甘くてほっぺが落ちそうになる。



 「果物のレベルはこちらの世界のが上のようだわ」



 お菓子やスイーツがないかわりに果物のレベルは数段こちらの世界のが甘くて美味しい。



 「マカロンさん、パンケーキ様には先に馬車に乗ってもらいましたので、食事が終わったら馬車まで来てください」



 リリーちゃんは、そう述べると宿屋から出て繋ぎ場に向かった。



 「はぁ~。今から幻影の森に行かないとね。でも、たくさん休息をとったし魔力も回復しているはずだわ。念のためにすごいポケットで確認してみようかしら」



 私は魔法が使えると試してみた。



 「えっい!」



 私はチョコレートをイメージしてポケットに手を突っ込んだが、チョコレートは出てこなかった」



 「なぜ!なぜなのよ・・・」



 私は何度も試すがチョコレートは出てこない。



 「チョコレートを出すには何か詠唱とか必要なのかしら?でも、パンケーキちゃんに出してあげた時は詠唱なんてしなかったわ」



 私はあれやこれやと考えてみるが、チョコレートが出てこない理由はわからなかった。



 「考えても無駄だわ。私には必殺技のあれ作戦があるわ。もしもの時はあれで全てごまかしてやるわよ!」



 私は決意が固まりリリーちゃん達が待つ繋ぎ場に向かった。




 「お待たせしたわね」



 私は颯爽と姿を現し狭い御者席に強引に座り込む。



 「マカロンさん、先ほどと違って元気が良さそうでよかったです」



 リリーちゃんは、私が幻影の森に行くのに乗り気でないのを雰囲気で悟っていた。なので、元気いっぱいの笑顔で御者席に座り込んだので内心ホッとしていた。



 「ちょっと寝起きが悪かっただけよ。決して幻影の森に行きたくないわけではないのよ」


 「もちろんわかっています。でも、マカロンさんは、私を連れて幻影の森に行くのに躊躇っていたのでしょう」



 リリーちゃんは大きな誤解をしていた。


 「危険な目にあわせたくないのよ」



 私は全力で話しに乗っかかる。



 「私の身に何が起きようとも、マカロンさんには迷惑が掛からないように遺書も用意してきました。私は自己責任で幻影の森に向かいますので、安心してください」



 勇ましいリリーちゃんの姿に心の狭い私はすこし恥ずかしくなった。



 「お互いに無理はしないようにしましょ。だから、危ないとわかればすぐに逃げるわよ」


 

 これはリリーちゃんの為でなく自分を守る為である。



 「もちろんです」



 リリーちゃんは嬉しそうに返事をした。



 「ところでパンケーキちゃんは、どこまで私たちの計画を知っているのかしら?」


 「崇高なるパンケーキ様には何も伝える必要はありません」


 「どういうこと?」



 私は全てパンケーキちゃん頼りである。パンケーキちゃんに事情を説明しておかないと蛇龍王親衛隊が姿を見せた時、危ない事になってしまう。



 「パンケーキ様が金の腕輪を幻影の森に投げ捨てたのです。おそらく何か作戦を考えているのは一目瞭然でございます。しかし、私はパンケーキ様の力を頼らずに【蛇龍王】を退治したいと思っています」


 「映写機での盗み撮りね」


 「そうです。パンケーキ様は、最初は動かずに私がどのように動くか様子を見ているはずです。私が人の力ばかり頼る愚者か、それとも、自分で行動する勇敢な者か・・・。私はパンケーキ様に認めてもらいたいのです」


 

 リリーちゃんは勇ましいライオンのように凛としている。



 「でも、私が映写機で盗み撮りをするのよね」



 私は小姑のようにチクリと嫌味を言った。



 「もちろんです。私が作戦を立てて、マカロンさんが実行するトライアングルが成り立つのです」


 「そ・・・そうね」




 トライアングルとはどういう意味かはわからないが私は頷いた。



 「私はこの作戦を【勇敢なるトライアングル作戦】と名付けたいと思います。パンケーキ様が金の腕輪を投げ、マカロンさんが映写機で盗み撮りをし、私がその写真をネタとして国王陛下に直訴する。これで【蛇龍王】は終わったも同然です!」



 「そ・・・そうね」



 なんだか私が一番大変だと思ったが、リリーちゃんの揺るぎない正義の瞳の前に私は従うしかないと思った。






 

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