第19話 幻影の森
次の日
「お父様、ビスケットを極める為に王都へ行ってまいります」
「ビスケット作りをがんばるのだぞ」
リリーちゃんは、食材が豊富にある王都でビスケット作りの修業をするという名目で王都へ行く許可をもらった。
「はい、お父様。2年連続王家甘味勲章を手にするために頑張ってきます」
勇ましい顔でリリーちゃんはローレル伯爵を見る。
「期待しているぞ」
リリーちゃんはローレル伯爵にハグをして、しばしの別れを惜しみながら屋敷から出発した。
「バナナ様~バナナ様~右を見て~左を見て~上を見て~下を見て~どこを見ても~バナナ様~バナナ様~」
馬車の中は山積みにバナナが積まれているので私の座る場所がない。なので、馬車を運転する御者席をリリーちゃんと二人で強引に座っていた。
「リリーちゃん、本当に向かうのね」
「はい」
パンケーキちゃんがバナナと戯れているのをよそに、御者席で私とリリーちゃんは真剣な話をしていた。
「リリーちゃん、今から向う所はとても危険なとこよ。最悪命を落とす危険があるわ。それでも向かうのね」
「はい。私はやっと理解したのです。なぜ、パンケーキ様が、私から金の腕輪を取り上げて空の彼方に放り投げたかを。あの時は、どのような意味があるのかは理解できませんでした。でも、何か理由があって放り投げたということは理解できていました」
「パンケーキちゃんの真意に気付くなんて流石だわ」
私もあの時はパンケーキちゃんの真意を理解していなかった。そして、今もリリーちゃんが昨日述べたパンケーキちゃんの真意には納得しているわけではない。
「マカロンさんは最初から知っていたのですね。いえ、それとも本当はマカロンさんがそのように仕向けたのでしょうか?」
「昨日も言ったけど、あれはパンケーキちゃんの判断よ。私もすぐにはその真意を見抜くことは出来なかったわ」
時は少し遡ります
王都にある歴史資料館に入るには金の腕輪が必要である。しかし、金の腕輪はパンケーキちゃんの手によって空の彼方へ飛んで行ってしまった。私は金の腕輪を探すなんて不可能だと思っていたが、リリーちゃんには金の腕輪がどこにあるのか知っていたのである。
リリーちゃんは、パンケーキちゃんが金の腕輪を放り投げた方向をきちんと覚えていて、さらに、金の腕輪が飛んで行く速度まで正確に把握していた。リリーちゃんは、金の腕輪の重さと速度と方向を計算することによって、どのあたりに金の腕輪が落ちたかを把握していた。
「金の腕輪はおそらく幻影の森の中腹部に落ちています」
「幻影の森・・・森に立ち入る者に幻影を見させて、二度と森から出る事が出来ない危険な森ね」
私は幻影の森に関する知識は全くない。しかし、名前からしてある程度は推測出来る。
「いえ、違います。幻影など全く見ないです」
「そ・・・そうだったわね。あの森と勘違いしていたわ」
私は咄嗟に言い訳をする。
「マカロンさんは異国から来られたので、アノ森と勘違いされたのは仕方ないと思います。アノ森は幻影魔獣によって幻影を見せられて、一生森から出る事が出来ないと聞いています」
「そうだったわ。でも、あの森の名前は思い出せないわ」
「何をおっしゃっているのですかマカロンさん。アノ森はアノ森です。他に別名などありません」
「あ・の・森?」
「そうです。アノ森です」
アノ森という森が本当に存在した。
「マカロンさん、今はアノ森の事はこの辺にして本題である幻影の森についてお話をします」
「そうね。幻影の森は安全なら問題はなさそうね」
「いえ、おおありです」
「そ・・・そうだったわね。その点を再度おさらいをしておく必要があるわね」
私は強引に幻影の森の詳細を聞き出す。
「わかりました。幻影の森は幻想的で美しい森です。しかし、幻影の森には大盗賊団【蛇龍王】のアジトがあると言われているのです」
「そうだったわね。もっと詳しくおさらいをしてみましょう」
「わかりました。【蛇龍王】はスネーク・ドラゴンキングが束ねる大悪党です。果樹園の方々が大事に育てたフルーツを根こそぎ奪い、フルーツの価格を不正に操作して利益を荒稼ぎしています。【蛇龍王】の関係者には高位の貴族も関わっているので、これといった証拠が見つからず、悪行三昧の限りです」
「そうだったわね。あの大悪党めぇ~」
私は拳を振り上げて怒っているフリをする。
「領民を困らせる【蛇龍王】を懲らしめるために、パンケーキ様は金の腕輪を幻影の森に放り投げたのでしょう」
「え!」
私の記憶では、パンケーキちゃんが金の腕輪を投げたのは、金の腕輪が食べれないモノだったので、怒って放り投げたはず。
「マカロンさん、知らないフリをする演技は辞めてもらえないでしょうか?私はパンケーキ様が、私を導き出したかった答えがわかったのです」
時は戻ります
「パンケーキ様は大悪党である【蛇龍王】を退治するために、ワザと金の腕輪を幻影の森に投げたのです。スネーク・ドラゴンキングが金の腕輪を持っていれば、それは、私を襲った証拠になります。伯爵家の娘を誘拐しようとしたことがバレれば、スネーク・ドラゴンキングは終わったも同然です」
「その通りね。でも、本当に一緒に行くのね」
「もちろんです。足手まといになるのはわかっていますが、それでも、少しでも役に立ちたいのです」
「わかったわ。本当はパンケーキちゃんと二人で行くつもりだったけど、一緒に【蛇龍王】を退治しましょう」
もちろん嘘である。
「ありがとうございます」
リリーちゃんの真剣な眼差しは、私には眩し過ぎた為、立ち眩みをしてしまいそうだった。
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