第18話 秘密の書庫
「マカロンさんは、いつからパンケーキ様の策略を知っていたのですか?私はヒパティカの歌を聞かなければ、気付くことはなかったと思います」
「そ・・・そうね。バナナが盗まれたと聞いて、もしかしてっと思ったけど、パンケーキちゃんの真意に確信を持てたのは、ある事がきっかけとなったのよ」
パンケーキちゃんが、バナナを食べ過ぎて苦しんでいる姿を見た時とは言えないし、パンケーキちゃんの真意は、ただ単にバナナを食べたかっただけとも言えない。
「そのある事とは、どのような事なのでしょうか?」
「それは言えないわ」
言えるわけがない。
「そうですよね。若輩者の私には到底理解しがたい事があったのでしょう。しかし、バナナが盗まれた理由は解明されたのですが、逆に新たな謎が浮かび上がってきました」
「どういうことなの」
「私は、バナナとイチゴを盗んだ犯人は同一人物だと思っていました。しかし、パンケーキ様がイチゴを盗むとは到底考えられません」
「いえ、至極当然の事よ」と言いたいけど、自己保身のためにここはグッと抑える。
「イチゴを盗んだ犯人は別にいると言うことになります」
「私もそう思うわ」
私はリリーちゃんに話を合わせる。
「そうなると、やはりお父様の言っていたケモ耳族が存在するという事でしょうか・・・」
「ケモ耳族?」
「はい、マカロンさん。お父様がオリハルコンの貯蔵庫を壊せるのはケモ耳族しかいないと言っていました」
「ケモ耳族とは何者なの?」
私はリリーちゃんにケモ耳族の詳細を教えてもらった。
「3mを超す巨人?それはパンケーキちゃんには該当しないわね」
「そうなんです。そもそもパンケーキ様が人の物を盗むような悪人であるはずがありません」
リリーちゃんにとってパンケーキちゃんは聖人君主のような存在である。しかし、私は3mを超す巨人以外の項目は全て該当すると思い、パンケーキちゃんはケモ耳族で間違いないと思った。でも、その事をリリーちゃんに告げるのは、私にとっては不利になるので黙っている事にした。
「そうね。パンケーキちゃんが人の物を盗むなんてありえないわ!」
私は平然と嘘をつく。
「私はケモ耳族が存在するなんてありえないと思っていました。しかし、このままでしたら、オリハルコンの貯蔵庫を破壊出来るパンケーキ様に疑いの目が向けられる可能性があると思います」
「そうよね。どうすればいいのかしら」
私もリリーちゃんの意見に同意である。このままではパンケーキちゃんがイチゴを盗んだ犯人だとバレてしまうのも時間の問題である。
「私たちの手で真犯人を見つけ出しましょう」
熱いまなざしでリリーちゃんは決意する。
「そ・・・そうね」
曇ったまなこで私は現実に背を向ける。
「でも、どのようにして犯人を捜すつもりなの?」
私は逃げ腰でリリーちゃんに問いかける。
「犯人の手掛かりは全くありません。なので、ケモ耳族について調べてみようと思っています」
「どのようにして調べるの?ケモ耳族が実在した証拠は何もないのでしょ?」
「はい。しかし、王都にある歴史資料館になら何か手掛かりがあると思うのです」
「本当に手掛かりはあるの?もし、その歴史資料館にケモ耳族の事が記載されている資料があるのならば、実在した証拠として世の中に知れわたっているはずよ」
私は難癖をつけてリリーちゃんの妨害をする。
「マカロンさんがおっしゃる通りだと思います。しかし、歴史資料館には王族しか入る事のできない禁断の書庫があるのです。その書庫に入る事が出来れば、ケモ耳族の事を知ることが出来るかもしれないのです」
「たしかに、その書庫には興味がそそられるわね。でも、王族以外は入ることが出来ないのならば、私達は入る事はできないわ」
私は内心少しホッとした。
「実はマカロンさん、王族以外にもその書庫に入ることが出来るのです」
「ほ・・・本当なの!」
私は一気に冷や汗をかく。
「本当です。しかし、禁断の書庫に入るには金の腕輪が必要です」
「金の腕輪?」
「はい。王家甘味勲章を授与された証として金の腕輪が授与される事はマカロンさんもご存じだと思います。金の腕輪は資産としての価値はもちろんのこと、あらゆる面で優遇をされるのです。本当はお父様が金の腕輪を所有するはずでした。しかし、王家甘味勲章を授与したバナナを本当に作ったのは私です。なので、お父様は次期当主を私にすると家族会議で決定をして、金の腕輪の所有権も私の名義にしたのです」
「そんな複雑な事情があったのね」
「はい。でも、今手元には金の腕輪はありません」
「そうよリリーちゃん、金の腕輪は行方不明になっているはずよ」
私はこの時、異世界に来て初めてパンケーキちゃんのことを褒めてあげたいと思った。
「そうなのです。なのでマカロンさん、一緒に金の腕輪を探しに来てくれませんか?王都に向かうのはその後にしてもらえないでしょうか?」
「わかったわ。協力するわよ」
私はどうせ金の腕輪は見つからないと高をくくって軽く返事をしてしまった。
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