第20話 映写機


 「マカロンさんがすぐにバナーネを旅立つ理由は、王都へ向かうのではなく【蛇龍王】を懲らしめるためだったのですね」


 「そうよ。旅をしていて【蛇龍王】の事は少しは知っていたからね」



 もちろん嘘である。



 「ありがとうございます。お父様の領地も【蛇龍王】からたくさんの果物が盗まれて被害は出ています、パンケーキ様に助けてもらった時も、被害状況を確認しにラバナーヌの村に行った帰りだったのです」


 「被害はどうだったの?」


 「ラバナーヌの村の果樹園では4種類の果物を育てています。果物は年に四回実がなりますので、ちょうど今月末が収穫日でした。しかし、イチゴとブドウは全て奪われてしまいました」


 「そうなのね。でも、【蛇龍王】の対策はしていないの?」


 「もちろん村には屈強な兵士を配備しています。しかし、【蛇龍王】には魔獣を使役する魔獣使いが数名いるのです。【蛇龍王】は最初に魔獣の群れを村に襲わせます。魔獣を追い出すために兵士が戦っている隙に盗賊達が果実を根こそぎ奪い去っていくのです」


 「手口がわかっているなら対策があるのでは?」


 「大きな町でしたら、頑丈な壁を作って魔獣に襲われないようにしていますが、小さな町や村までには、そこまでする資金はありません。木の柵などは作っていますが、魔獣相手には効果がありません」


 「国は何か対応をしてくれないの?」


 「魔獣から領地を守るのが領主の務めとなっております。なので、国に頼むことは出来ないのです」


 「でも、相手は魔獣じゃなく盗賊でしょ?なんとかならないの」


 「その事は昨日お話しましたが、【蛇龍王】は高貴な身分の貴族と繋がりがあります。なので、私たちの声は国王陛下の元には届かないのです。もし、届いたとしても、途中で握りつぶされるのでしょう。現にお父様は去年、王家甘味勲章を授与された時に国王陛下とのお目通しが許されました。その時に【蛇龍王】の悪行を報告をしたのですが、国は何も対処はしてくれませんでした。おそらくですが、誰かが途中で話しを握り潰したのだと思います」


 「それは酷い話だわ。そんな悪党はパンケーキちゃんが懲らしめてくれるわよ。たぶん・・・」


 「パンケーキ様なら簡単に【蛇龍王】を倒してくれると思います。しかし、パンケーキ様を頼ってばかりではいけないと思うのです。だからこそ、パンケーキ様は金の腕輪を投げ捨てたのです。私に【蛇龍王】を倒すきっかけを作る為に!」



 リリーちゃんのパンケーキちゃんに対する信頼は揺るぐことはない。



 「でも、パンケーキちゃんを頼らずにどうやって【蛇龍王】を倒すつもりなの?」


 「これです!」


 

 リリーちゃんは、小さな四角い箱を私に見せつける。



 「これは、もしかして、あれなのね」



 四角い箱の正体がわからないので、とりあえず、知っているフリをした。



 「はい。これは魔道具の映写機です」


 「そうそう、映写機ね」


 「この映写機を使って、私の金の腕輪を奪い取った証拠を撮影したいと思います」


 「名案ね。こっそり隠し撮りをすれば危険も少ないし完璧だわ」


 「しかし、問題があるのです」


 「もしかして・・・あれの事かしら?」



 さっきも上手くいったので、また同じ手を使う事にした。



 「さすがマカロンさん、すべてお見通しですね」


 「簡単な事よ。良いアディアだったけど、あれがなんとかならないとこの作戦も上手くいかないわね」


 「その通りです。この問題を打破するためにマカロンさん、協力をしてください」


 「もちろんよ!」



 何を協力すればいいのかわからないが、ここで引くわけにはいかない。



 「ありがとうございます。私は13歳なので魔法が使えません。魔道具を使用するには魔法が使える事が前提になっています。自分の力で【蛇龍王】を倒すなんて偉そうな事を言っておきながら、結局何も出来ない自分が情けないです」


 

 リリーちゃんは瞳をウルウルさせて今にも泣きだしそうである。



 「気にすることはないわよ、リリーちゃん。まだ13歳なのに、【蛇龍王】のアジトに向かうだけでも勇気がいる事よ。後は私に任せるのよ!」



 私は威勢よくリリーちゃんに言い放つ。



 「マカロンさん、勇気づけてくれてありがとうございます。マカロンさんは素敵です」



 リリーちゃんは少し涙を零しながら満面の笑みを浮かべた。その一方、私の顔は真っ青になっていた。


 私、魔法なんて使えるのかしら?でも、ポケットからチョコレートやメイプルシロップが出てきたのは、もしかして魔法の力なのかもしれない。昨日は、上手くすごいポケットを使いこなせなかったけど、魔力をきちんとコントロールすれば、すごいポケットから何でも出せるようになるのかしら?


 私の顔はいつしか欲にまみれた悪い顔になっていた。



 「マカロンさん、どこか体調でも悪いのでしょうか?表情が怖いです」



 リリーちゃんは、私の表情の変化にすぐに気付いた。



 「何でもないのよ。それよりも映写機の使い方を教えてくれない?実は一度も使った事がないのよ」


 「そうだったのですか。でも安心してください。映写機の使い方は難しくありません。魔力を持つ者が映写機を持つと白く発光しますので、箱の上の赤いボタンを押すと写真を撮る事ができるのです。ためしに勇敢なパンケーキ様を撮影してみてはどうでしょうか?」


 「わかったわ。映写機を借りるわよ」


 「どうぞ」


 

 私はリリーちゃんから映写機を借りて、カメラのように映写機を握りしめるが、映写機は全く発光しないのであった。

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