第21話 魔法


 「あれ!おかしいわね?なぜ、発光しないのかしら」



 私は握り方を変えたりと試行錯誤を繰り返すが映写機は発光しない。



 「リリーちゃん、この映写機は壊れているのかしら?」


 「そんなことはありません。私が王都に出かける記念として、家族写真を撮ったばかりです」

 

 「でも、発光しないわよ」


 「マカロンさん、もしかして・・・」



 リリーちゃんは目を閉じて考え込む。



 「リリーちゃん、私が魔法が使えないと言いたいの!」



 私が魔法を使えないわけがない。私はすごいポケットの使い手である。



 「マカロンさん、あらゆる事柄を想定して考えましたが、マカロンさんが魔法を使えない以外思い浮かびません。



 リリーちゃんの視線が冷たい氷のように感じた。



 「そんなことはないわ。それなら私が魔法を使える事を証明すればいいのね」


 「はい」


 「リリーちゃん、私の魔法を見てド肝を抜かさないでね」


「ご忠告ありがとうございます。ド肝を抜かれないように、平常心を保てるように深呼吸をしたいと思います」



 リリーちゃんは大きく息を吸い込み、ゆっくりと息を吐きだす。



 「リリーちゃん、今私のポケットには何も入っていないわ」



 私はポケットを開いて何もないことを確認してもらう。



 「はい」


 「この何も入っていないポケットからチョコレートを取り出してみせるわ」


 「チョコレート・・・パンケーキ様がこよなく愛しているチョコレート様のことでしょうか?」


 「そうよ。とくとご覧あれ!」



 私は、頭の中にチョコレートを思い浮かべて、すごいポケットに手を入れた。「ない・・・チョコレートがないわ」私はカッコよくポケットに手を入れたが、何も入っていなかったので、ポケ手のまま空を見上げた。



 「今日はいい天気ね」


 「はい」



 リリーちゃんは様子を伺うように軽く返事をした。



 「リリーちゃん、こんな天気の良い日は日焼け対策をしたほうが良いわよ」



 私は話を切り替えることにした。



 「ご忠告ありがとうございます」



 リリーちゃんはじーーと私のポケットを見つめている。



 「リリーちゃん、今日はこのまま幻影の森に行くつもりなの?それとも、どこかで宿を取るのかしら」



 天気の話しでは話題をそらす事が出来なさそうなので、別の話しをする事にした。



 「・・・そうですね。マカロンさんには大船に乗ったつもりでいてくださいと伝えただけで、旅の詳細を教えていませんでした。今日は、幻影の森の近くのチェスナットの村で宿を取りたいと思っています。そして、翌朝には幻影の森に向かいます」


 「そうなのね。それじゃ、チェスナットの村を目指して出発進行!」



 私は空高く右手を上げて大声を出して旅路の狼煙をあげた。


 

 「おう!」



 リリーちゃんは悲しそうな眼をしながらも、私に合わせて右手を上げて小さな声を出す。



 「リリーちゃん、元気がないわね」



 私は魔法の件はあやふやに出来たと思い、安堵の笑みを浮かべてリリーちゃんに声を掛けた。



 「マカロンさん、元気がないのはあなたです」


 「え!どういうことかしら」



 わたしは元気もりもりである。



 「私に心配をかけないように虚勢をはるのは辞めてください」


 「え!」



 リリーちゃんが何を言いたいのか私には理解できない。



 「マカロンさん、素直に言ってください。魔法が使えないと!」


 「そ・・・それは・・・」



 魔法の件は上手い事ごまかせたと思っていたが、ごまかせきれていなかった。



 「私はわかっているのです」


 「ごめんなさい」



 やはり、最初から素直に謝るべきであった。



 「マカロンさんは何も悪くないのです!私が全て悪いのです」


 「え???」


 「マカロンさんは長い旅路で疲れているのにもかかわらず、昨日は私にビスケットの作り方を教えてくださいました。本当は今日はゆっくりと体を休めるつもりだったと思います。しかし、疲れた体に鞭を打ってまでもして【蛇龍王】の悪事を裁くためにバナーネを旅立ちました」


 「そ・・・そうなのよ」



 私はとりあえずリリーちゃんの話に合わせる事にする。



 「魔道具を使うには多量の魔力を必要とします」


 「そうね」


 

 そうだったのね!私は知らなかった。



 「そして、魔力と体力は連動しています」


 「そうね」



 もちろん知らない。



 「旅の疲れで疲労困憊のマカロンさんは魔力が枯渇して魔法が使えなかったのですね」


 「そうよ!そうなのよ!リリーちゃんに心配をかけまいと話をすり替えようとしていたわ」



 リリーちゃんの助け舟に乗らないわけにはいかない。



 「マカロンさん、無理はしないで下さい。今日はチェスナットの村でゆっくり休んで、明日、がんばりましょう」


 「そうね。ゆっくりと休めば、私も魔法が使えるはずよ」



 私がすごいポケットからチョコレートが出てこなかったのは、疲労がたまっている事だとわかった。疲労さえ抜ければ、私はすごいポケットから何でも取り出して、この異世界で贅沢な暮らしが出来るとわかったのである。私はにやけた顔を隠すために俯いた。



 「マカロンちゃん!大事件よ!!!」



 魔法の件が一段落したとホッとしていたがさらなる事件が襲い掛かる!



 



 



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