第22話 イチゴの木
「どうしたの?パンケーキちゃん」
私は御者席から身を乗り出して馬車の中を確認する。
「マカロンちゃん!これを見てよ」
「?」
私は隅々まで馬車の中を確認するが・・・特に異変は感じ取ることが出来ない。
「パンケーキちゃん、何があったの?」
「これを見て何もわからないの?マカロンちゃんの目はふしあなよ!」
パンケーキちゃんは瞳に薄っすらと涙を浮かべながら大声で叫ぶ。しかし、私は何度も馬車の中を見渡すが、大事件のかけらすら見つける事が出来ない。
「パンケーキちゃん、ごめんなさい。私には何もわからないわ」
「なんでわからないのよ!今、この場所で大事件が起きているのに・・・ゲッポ」
パンケーキちゃんは瞳をウルウルとさせながら私に訴えるが、その際にゲップをした。その時、私はある変化に気づいたのである。
「パンケーキちゃん、そのお腹はどうしたの」
パンケーキちゃんのお腹は風船のように大きく膨れ上がっていた。
「ゲポ・ゲッポ」
パンケーキちゃんは苦しそうにゲップで返事をする。そして、ようやく私は馬車の中の異変に気付いた。
「馬車の中にあった全てのバナナを食べたの!」
「違うわよ。気づいたらバナナが無くなっていたのよ!これは大事件だわ」
パンケーキちゃんは鬼気迫る表情で訴える。
「・・・」
私は何も見なかったかのように、静かに御者席に座りなおして、静かにため息をついた。
「マカロンちゃん!大事件なのよぉ~」
パンケーキちゃんの叫び声は鳴りやむことはなかった。
「マカロンさん、大事件は解決出来たのでしょうか?」
リリーちゃんは不安げな顔で私を見る。
「あっさりと解決したわよ」
私は淡々と答える。
「でも、パンケーキ様の悲鳴が鳴りやみません」
「気にすることはないわよ。事件が解決しても、すぐには平穏が訪れるわけではないのよ」
「時間が必要と言いたいのですね」
「そうよ。時間が経てばパンケーキちゃんもおとなしくなるはずよ」
「わかりました。マカロンさんの言葉を信じて、私は馬車の運転に集中します」
リリーちゃんはパンケーキちゃんの悲痛の叫び声を噛みしめながらも馬車を走らせる。そして、15分ほど経過したら。馬車の中からスヤスヤと眠る声が聞こえてきた。
「パンケーキ様は叫び疲れて眠ってしまったのですね。そのまま良い夢でも見て頂いて、大事件の事を忘れてくださればいいのですが・・・」
リリーちゃんは寂し気に呟いた。
「そうね。目が覚めたら綺麗さっぱり忘れているはずよ」
パンケーキちゃんはお腹がいっぱいになってお昼寝をしただけである。何も心配することはない。それにリリーちゃんが言ったとおり、目を覚ませば、さっきまでの茶番も忘れているはずである。
数時間後
「マカロンさん、チェスナットの村が見えてきました」
「本当ね。村の周りにたくさんの木々があるけど、あの赤い果実は何の木なの?」
村を囲むようにたくさんの木々があり、その木々を囲むように50㎝ほどの木の柵が立てられていた。そして、木にはイチゴのような果実が実っていた。
「あれはイチゴの木です」
「え!イチゴって木に実る果物なの?」
「そうです。マカロンさんはイチゴの木をご存じなかったのでしょうか?」
「し・・・知っていたわよ。念のために確認したのよ」
この世界ではイチゴは木から実るのであった。
「あれは!もしかしてスイカの木?」
大きな木からスイカが10個ほどぶら下がっていた。
「そうです。この村ではイチゴ、スイカ、バナナ、リンゴの生産をしています。もうすぐ収穫の時季になりますので、【蛇龍王】が奪いに来ないか心配です」
「【蛇龍王】は果物なら何でも奪って行くのかしら?」
「いえ、違います。【蛇龍王】は果実の価格を高騰させるのが目的ですので、決まった果実しか盗みません。今回はイチゴとブドウを狙っているようです」
「ということはイチゴが危険だという事ね」
「そうです」
「それなら、奪われる前に早めに収穫してみるのはどうかしら?」
我ながらナイスアイディアである。
「収穫は果物が一番甘味成分を含んだ時に収穫をするのです。しかし、マカロンさんがおっしゃる通り、盗まれるくらいなら少し早めに収穫をすべきなのですが、収穫して、市場に降ろすまでに、貯蔵庫で熟成または保管をします。魔道装置が備わっているので貯蔵された果物は品質が劣ることもないので、どの村や町にもあるのですが、その貯蔵庫ごと襲われるのです。破壊不可能なオリハルコン製の貯蔵庫など、簡単に作る事はできないのです」
「でも、貯蔵庫に保管した方が、木に実らせているよりも安全だと思うわ」
「マカロンさんのおっしゃる通りです。しかし、貯蔵庫を破壊されると、他の果物の保管や熟成が出来なくなり、イチゴを奪われるよりも多大な損害が生じるのです」
「八方塞がりの状態ってことなのね」
「はい」
リリーちゃんは悔しそうに唇を噛みしめながら返事をした。
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