第23話 フルーツスライム
「マカロンさん、大事件の発生です!」
リリーちゃんが突然大声を出す。
「え!どういうことかしら」
「恐れていた事態が起こってしまったのです」
「もしかして、魔獣が村を襲いに来たの?」
「はい。あそこを見てください」
リリーちゃんは近くにあるイチゴの木を指さした。私はすぐにその場所に目をやった。
「あれはなんなのよ」
私が目にしたのは長さが1mほどの細長い発光する物体であった。その物体は蛇のようにクネクネと動きながらイチゴの木に、縄を縛り付けるように登って行き、イチゴを丸のみしていたのである。
「蛇の魔獣なの?」
物体の形状と動きから私は蛇だとおもったが、色鮮やかに光る体に、物体を形成される体がゼリーのようにプニプニしていたので、蛇とは言い難い感じもしていた。
「マカロンさん、あれはフルーツスライムです」
「フルーツスライム?」
「はい、そうです。果物を主食とするスライムです。フルーツスライムは森に自然に生えている果物を食べ、人間を襲う事はない魔獣です。こちらが攻撃をしなければ、フルーツを食べつくして、住処に戻って行くでしょう。しかしこのフルーツスライムは「蛇龍王」に使役された魔獣です。なので、このまま黙って見過ごすことは出来ません」
「そうね。大切な果物を食べられるわけにはいかないわね。でも、どうやってフルーツスライムを退治するのかしら?」
「フルーツスライムは、剣で斬ると分裂して増えてしまいます。また、槍や弓矢で攻撃しても、プニプニした体に突き刺さるだけでダメージを負うことはありません」
「もしかして、無敵ってことかしら」
「はい。いかなる攻撃も通用しないので無敵と言っても過言ではありません。しかし、撃退する方法はあります」
「それならよかったわ」
私はそっと胸をなでおろして一安心した。
「でも、どうやって撃退するの?」
「マカロンさん、あれを見てください」
私はリリーちゃんが指さす方向に目をやった。すると、大きな籠を背中に背負った屈強な兵士たちが現れた。そして、籠に手を入れて果物を投げ捨てた。
「食べ物で遊んではいけないわよ!」
私は兵士たちの蛮行を目にして、怒鳴りつけるように叫んだ。
「マカロンさん、落ち着いてください。あれは遊んでいるのではありません。フルーツスライムを追い出すために果物を投げているのです」
「でも、兵士たちはフルーツスライムに投げていないわよ」
兵士たちは果物をフルーツスライムに投げるのではなく、何もない草原に投げているのである。
「兵士たちはフルーツスライムを誘導するために草原に投げているのです」
リリーちゃんが言う通り、フルーツスライムは木から降りて草原の方に移動していく。
「フルーツスライムは本来、木に登らずに木から落ちた果物を食べるのです。なので、落ちている果物を優先的に食べる習性を活かして、果物を投げて森に誘導させるのです」
「そういうことだったのね」
村の周辺に集まった約20体のフルーツスライムは、数分後には村から離れて行く。
「もう、安全ね」
「いえ、森まで誘導しなければ安全とは言えません・・・それに、これは惨劇のプロローグに過ぎません。今から本当の惨劇の幕が開かれるのです」
リリーちゃんは肩を震わせながらも凛とした表情で述べる。
「どういうことなの?フルーツスライムは居なくなったわ。本当の惨劇ってどういうことなの」
「フルーツスライムを追い払う方法は誰もが知っています。【蛇龍王】の狙いはフルーツスライムを追い払っている間に姿を現し、果物を根こそぎ奪って行くのです」
「フルーツスライムをおとりに使っているのね」
「違います!」
リリーちゃんの気迫ある否定に、私はビックリして腰を抜かしそうになる。
「違うのね。そしたら、やっぱりあれなのね」
私は体制を立て直すために必殺技の【あれ】作戦を使う事にした。
「そうです。あれです」
「困ったものね・・・」
私は意味深に困った表情をする。
「本当に困ったものです。【蛇龍王】は果物を奪った犯人をフルーツスライムに擦り付けて、自分たちは何もしていないとアピールをするのです。果物を奪われた村や町は、【蛇龍王】にではなくフルーツスライムに被害にあったと国に報告されるのです。魔獣から村や町を守るのが領主の務めなので、国からの支援は望めません。本当に狡猾した犯行なのです」
「アリバイ作りの為にフルーツスライムを使っているのね」
「そうなのです」
「でも、果物を奪いに来た盗賊を現行犯で捕まえればいいのでは?と思ってしまうけど・・・あれが来るのね」
私は予防線をはって、あれをぶっこんでおいた。
「そうです。あれが来るのでどうしようもないのです」
よっしゃーー!あれをぶっこんでおいてよかったわ。私はリリーちゃんに見えないように小さくガッツポーズをする。
「マカロンさん、ついに本丸の登場です」
リリーちゃんが指さす方向には絶望の光景が広がっていた。それを黙って見ているしかない不甲斐無い自分自身に苛立ちを感じながら、リリーちゃんは呆然と立ち尽くしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます