第24話 秘策


 「あれ?農作業服を来たおっさんが籠を背負ってたくさん押し寄せてきたわ」



 40人ほどの農作業服を着たおっさんが果樹園に侵入し木によじ登って、イチゴを籠に投げ入れている。武器など何も持っていないので、容易く捕まえる事が出来そうである。



 「リリーちゃん、あんなおっさんに何をビビる事があるのかしら?」



 私は思わず口にしてしまった。



 「マカロンさん、こんな時におふざけを言っている場合ではありません。本丸はあのおっさん達じゃありません。おっさん達から離れた場所で命令を出しているあの黒のローブを纏った魔導士達が危険なのです」


 「ようやくあれが登場したって事ね」


 「そうです。【蛇龍王】の魔道部隊黒炎龍です」


 「黒炎龍・・・恐ろしい奴らよね」


 「はい。魔道部隊黒炎龍は、魔道具の炎杖を使って自在に炎を操る事ができます。少しでもイチゴ狩りの邪魔をしようものなら、おっさんごと地獄の業火で果樹園の木々は灰になってしまいます」


 「なんて恐ろしい事をするの!」



 私は冷酷非道なやり口に恐怖した。



 「黒炎龍は血も涙もない外道です。果樹園の木々が灰になってしまえば、元の果樹園の姿に戻るには10年の歳月を必要とします。なので、果樹園を灰にされるくらいなら、果物を盗まれた方がましだと思い、みんな手出しをしないのです」


 「卑劣な手段を使うのね。でも、魔法で応戦すればいいのでは?っと素人は思ってしまうけど・・・違うのね」


 「その通りです。魔法は誰でも使えるというわけではありません」


 「そうね。年齢制限があるわね」


 「それもありますけど、16歳になったら誰でも魔法を使えるわけではないのです」


 「そうだったわね」



 と私はうなずくが、誰でも使えるようになると私は思っていた。



 「魔法は貴族の血を引くもの以外は使えません。この村には貴族はいませんので誰も魔法を使う事が出来ないのです。しかも、魔法が使える貴族でも、魔力を増幅させる魔道具を持っていないと、魔力を魔法に変換する事は出来ないのです。魔道部隊黒炎龍は、高価な炎杖を持っているので、少ない魔力でも強大な魔法を使う事が出来るのです」


 「私達も巻き添えをくわないうちに逃げた方が良さそうね」



 ヤバそうなので逃げるが勝だと判断した。



 「逃げる必要などありません。魔道部隊黒炎龍はイチゴを回収するのが目的です。抵抗さえしなければ危害を加える事はないでしょう」


 「そうなの。それならおとなしく見学するわ」


 

 村の果物が盗まれても私の懐は全く痛くも痒くもない。なので、私は安心して御者席でおっさん達が果物を奪う様を見物する。



 「うぅぅ・・・くやしぃ・・・です」



 私がのほほんとしている側でリリーちゃんがポロポロと涙を流していた。



 「私は領主の娘なのに・・・ダンディライオン家の次期当主になるのに・・・私は果物を奪われるのを黙って見ているだけです。くやしぃ~~です」


 「リリーちゃん」



 自分には関係がないと思いのほほんとしていた自分が情けなく思った。



 「私にマカロンさんのような勇気があれば・・・私にパンケーキ様のような力があれば・・・私は何も出来ない出来損ないです」


 「そんなことはないわよリリーちゃん」



 私は悔し涙で顔をくしゃくしゃにしているリリーちゃんを見て放っておけなかった。



 「本当のことです。今もマカロンさんやパンケーキ様が助けてくれるのではと期待している卑怯者です」


 「そんなこと気にすることはないわよ。自分に力がなければ誰かに力を借りるのは当然のことよ。決して恥ずかしい事ではないわ」


 「でも、お二人には助けてもらってばかりです」


 「もし、私たちが困っている時は、遠慮なくリリーちゃんに助けてもらうから問題ないわ」


 「マカロンさん・・・また、助けてくださるのでしょうか」


 「もちろんよ。私に任せておいて」」


 

 私にはある秘策が思いついていた。私はその秘策を実行するために馬車の中を覗く

、すると気持ちよさそうにパンケーキちゃんがお昼寝をしていた。



 「パンケーキちゃん、村が盗賊に襲われているのよ!すぐに助けてあげて」



 パンケーキちゃんは私の声に気づいてむくっと起き上がって目を覚ました。



 「マカロンちゃんの力になってあげたいけど、バナナがないのでやる気が出ないわ」



 寂しげな眼をしてパンケーキちゃんが言う。



 「パンケーキちゃん、馬車の外を見るのよ。大好きな甘い果物がたくさんあるわよ」


 「本当なの!それを先に言うのよ」



 パンケーキちゃんは馬車から身を乗り出した。



 「こんな近くにあま~い果物があるのに、私はなぜ眠っていたのよ!」



 パンケーキちゃんは憤りを感じる。



 「パンケーキちゃんは眠っていたのは原因があるのよ」


 「そうなの!」



 パンケーキちゃんが興味津々に私の顔を見る。



 「実は、サプライズでパンケーキちゃんに果物をプレゼントするつもりだったの!」


 「本当に!」



 パンケーキちゃんの目がキラキラと輝く。



 「本当よ。チェスナットの村に着いたら、果樹園にある果物を好きなだけパンケーキちゃんにあげるつもりだったの。でも、村に着いたらおっさんの群れが現れて、パンケーキちゃんにあげる予定の果物を奪って行ったのよ!」


 「なにおぉ~~~~」



 パンケーキちゃんの表情が一変して鬼のような恐ろしい顔になる。


 「落ち着くのよパンケーキちゃん。あのおっさんも悪いおっさんだけど、本当の悪者は果樹園の周辺に待機している黒のローブを纏ったおっさんたちよ。アイツらはパンケーキちゃんに催眠魔法をかけて眠らせて、その間に果物を根こそぎ奪って行くつもりだったの。私とリリーちゃんで、ローブのおっさんを退治しようと思ったけど魔道具の炎杖を持っているので、近づくこともできないわ。せっかくパンケーキちゃんの為に用意した果物を奪われるのを止められない自分が悔しいわ」



 私は悔し涙を出そうと頑張るが何も出てこない・・・



 

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