第25話 パンケーキちゃんの危機


 「今回も抵抗者はいません」


 「そうだな。俺たち魔道部隊黒炎龍に歯向かうバカなどいない」



 黒のローブをまとい、杖に龍がはうようにデザインされた炎杖を持つ、10人からなる魔道部隊黒炎龍を束ねるのは、ブラックドラゴンと呼ばれる男である。黒の仮面で素顔を隠しているので正体は誰も知らない。


 「ところで、ブラックドラゴン様、白大蛇部隊の失態はご存じでしょうか?」


 「ダンディライオン家の娘の誘拐に失敗したと聞いている。白大蛇部隊を率いるホワイトスネークは王国一の剣士のはず、なぜ、失敗したのか検討が付かない」


 「白大蛇部隊でアジトに無事に戻って来たのは僅か2名です。ホワイトスネーク様の行方は未だにわかっていません」


 「アイツがやられたとは考えられない。体制を立て直して独自で行動していると俺は推測している」


 「でも、無事にもどった隊員の話しでは、獣人族らしき少女のパンチによって空の彼方に飛んで行ったらしいです」


 「お前はそんな話をうのみにしているのか?ボスからはそのような報告を受けていないからデマであろう」


 「ボスは俺たち下っ端の話しをまともに聞いてくれてません。獣人族らしき少女を見たら警戒すべきだと思うのです」


 「炎杖を持つ俺たちに恐れる相手などいないはずだ。もし、お前の話しが本当だとしても心配することはない」


 「わかりました」


 


 「居たわぁ~。あいつらが私の果物を盗む不届者だわ」


 パンケーキちゃんは疾風のごとく黒のローブを纏った男二人に近づいた。


 「私の大事な果物に手を出すなんて絶対にゆるさない!」



 パンケーキちゃんの目はメラメラと燃えている。



 「出たぁ~~~~~~」



 パンケーキちゃんの姿を見た魔道部隊黒炎龍の部下が走って逃げていく。



 「あの、臆病者め!」



 ブラックドラゴンはぼそりと呟いた。そして、炎杖をパンケーキちゃんに向けた。



 「果物は全部俺たちが頂く。お前は炎に焼かれて灰になれ」


 【爆炎流弾】



 炎杖の先端の龍の口から1mの火炎球が発射された。火炎球は熱風と共にパンケーキちゃんを襲う。



 「暑いの嫌なのぉ~~~~」

 「ふぅぅ~~~~~~」



 パンケーキちゃんが火炎球に息を吹きかけるとすぐに鎮火した。



 「え!」



 驚きのあまりにブラックドラゴンの目は点になり体が固まる。



 「あっちいけぇ~」



 パンケーキちゃんはブラックドラゴンをパンチした。すると、ブラックドラゴンは空の彼方に消えて行った。



 「ここの果物は全部私のものよぉ~~~。絶対に誰にも渡さないわ!」




 パンケーキちゃんが大声で叫んだ。



 「あれは、獣人族の少女じゃないのか」


 「間違いない。逃げるぞ」




 ホワイトスネークを倒したパンケーキちゃんの噂は、【蛇龍王】のボス以外には知れ渡っている。パンケーキちゃんの姿を見たおっさんたちは悲鳴を上げて逃げ出した。



 

 「私の果物を持って行っちゃダメ~~~~」


 「果物は置いていきますので命だけは助けてください」



 おっさん達は果物の入った籠を置いて逃げていく。



 

 「俺たちは誇り高き魔道部隊黒炎龍だ。このまま逃げたら面目が丸つぶれだ」



 魔道部隊黒炎龍の1人は悲鳴を上げて逃げてしまい、リーダーであるブラックドラゴンは空の彼方に消えた。それを見た実行犯のおっさん達も早々に逃げ出した。しかし、果樹園には魔道部隊黒炎龍の8人の猛者が残っていた。



 「そうだな。俺たちは逃げ出さずに戦うぞ。フォーメーション5の陣形をとれ」



 魔道部隊黒炎龍は1m間隔で横一列に並び出す。パンケーキちゃんはおっさんが置いていった果物の入った籠を拾い集めるので必死で、陣形に全くきづいていない。




 「本当に悔しいわ・・・」



 私は目をつぶって涙を流すことに夢中になっていた。



 「マカロンさん、いつまで目をつぶっているのでしょうか?もしかして・・・魔法の詠唱でもしているのですか?」



 リリーちゃんが心配そうに私に声を掛ける。私は悔し涙を出そうと頑張っている隙に、パンケーキちゃんは果物を守る為に飛び出していた。



 「リリーちゃん、もう少しで究極魔法世界消滅を発動できそうだったのに・・・」



 私はまた悔しそうな演技をする。



 「邪魔をして申し訳ありませんでした。でも、世界を消滅されては困りますので、良き判断だったと思います」



 リリーちゃんは私の話を信じたようだ。



 「そうね。私としたことがやり過ぎてしまうところだったわ」


 「それよりもマカロンさん、あれを見てください。魔道部隊黒炎龍が爆炎砲の陣形を取っています」


 「爆炎砲の陣形?」


 「さすがのマカロンさんでもご存じないのですね」


 「私にだって知らないことはあるわ」



 知らないことばかりである。



 「あの横一列の陣形は、一点に集中して炎を発生させる爆炎砲を発射させる陣形です。あのままではパンケーキ様が危険です」


 「それはどれだけ危険なことなの」



 私はパンケーキちゃんなら問題ないと思っている。



 「直径20mの炎の球を上空に出現させて、魔導士達の掛け声によって相手に発射する魔法です。炎の球に飲み込まれたら一瞬で灰になります。いくらパンケーキ様でも抗う事は出来ません」



 「パンケーキちゃんなら、簡単に避ける事ができるわよ」



 パンケーキちゃんは果物の収集に夢中だが、スピードは肉眼で捉える事が出来ないほど速い。心配は無用だと思った。



 「それは無理です。爆炎砲は対象物に当たるまで遊撃をするのが特徴です。すぐにでも、魔導士達の詠唱を止めなければいけません」


 「・・・」


 

 私は言葉を失った。そして・・・



 「マカロンさぁ~~~~ん××××」



 リリーちゃんが必死に声を上げた。しかし、私はパンケーキちゃんが絶体絶命のピンチだと思い心配で勝手に体が動き出した。私は魔導士達の詠唱を止めるために御者席から飛び降りた。







 

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