第13話 パンケーキ


 「リリーちゃん。そんなに自分を責めることはないわ。ビスケットちゃんを見て、私の分までのパンケーキを食べたのに、全く罪悪感を感じていないわ」



 泣きたいのは私の方である。たくさん作ったビスケットを全てペロリと平らげられたあげく、パンケーキまでも全部食べられてしまった。お菓子を作るのも好きだけど、自分で作ったお菓子を食べ終えてこそ、お菓子作りの全てが完結するのである。



 「そうですね。お父様の分までも食べてしまった自分を恥じていましたが、そんな私を勇気づけるためにビスケット様は、無理をして全てのパンケーキを平らげてくれたのですね。ビスケット様、またしてもあなたに救われてしまいました」



 リリーちゃんは大粒の涙を流しながらビスケットちゃんに感謝をする。



 「そんなわけあるか~~い」っと大声で叫びたかったが、私も大人なのでここは歯を食いしばって我慢することにした。


 「マカロンちゃん。私は今日からパンケーキになる!」



 パンケーキを全て平らげてご満悦のビスケットちゃんは真剣な眼で私に宣言した。



 「好きにしたらいいわ」



 この時私は素っ気なく返事をしたが、後ですごく後悔することになるとは夢にも思わなかった。



 「パンケーキ様は偉大よ!」



 パンケーキちゃんは嬉しくて飛び跳ねている。



 「マカロンさん、もうお菓子を作る材料はないのでしょうか?」



 リリーちゃんが真剣な面持ちで声を掛けてきた。



 「ビスケットなら数枚作る事が出来そうね」


 「マカロンさん、お願いします。私たちのために・・・いえ、バナーネを救う為にビスケットを作って頂けないでしょうか!」


 「は・はい!」



 リリーちゃんの気迫に迫るお願いに私はビビりながら返事をした。



 「でも、ビスケットを作ることが、どうしてバナーネを救う事になるの?」


 「それは、バナナが奪われた事に関係があるのです」


 「バナナ!」



 私はバナナという言葉を聞いて心臓が止まりそうであった。



 「はい。何者かにバナナを奪われて、バナーネはピンチに陥っているのです。先ほども説明しましたが、一か月後には国王陛下の誕生祭が行われます。お父様が丹精込めて育てあげたバナナはもうありません。かわりの品を用意する時間もありません。ビートル伯爵のような卑劣な手段を選ぶこともできませんので、お父様はどのようにすべきが頭を痛めています。しかし、いくら考えても答えは見つかりません。しかし、私は秘策が思いついていたのです」


 「秘策?」


 「そうです。ビスケット様・・・いえ、パンケーキ様とマカロンさんとの会話を聞いて、ピンっときたのです」


 「ピンっと?」


 「そうです。ピンっときたのです。美食家のパンケーキ様を虜にするほどの甘い食べ物をマカロンさんが作ることが出来ることにです」



 「パンケーキちゃんが美食家?ただの食いしん坊では?」と言いたいが、話の腰を折るわけにもいかないのでスルーする。



 「もしかして、私の作ったお菓子を誕生祭に提出するつもりなの?」


 「はい、そうです。しかし、甘い食べ物を作る技術は、一子相伝の極秘の技術であり、簡単に人に譲る事が出来ない事は百も承知です。でも、このままだとお父様は爵位を剥奪され流浪に迷うことになり、バナーネの町の町民も新しい領主により、高額の納税を強いられる可能性があります。お願いしますマカロンさん、私達を助けてください」


 「いいわよ」


 「断るのも当然だと思います。見ず知らずの私達を盗賊から救って下さったうえに、秘伝の甘い食べ物を差し出すように要求するなんて、あまりにも虫の良い話です。しかし、マカロンさんしか頼める人がいないのです。どうか、考え直してください。お礼は何でも致しますのでお願いします」



 リリーちゃんは無茶な要求をしていると思っているので私の声が届いていない。



 「いいわよ」



 私には断れない理由がある。それについていまさら説明するまでもない。それに、ビスケットは私が考案した食べ物でもないし、作り方も教えても全然問題はない。



 「気にしないでください。断られるのは初めからわかっていました。町の人達には申し訳ないのですが、潔く領主の座から退くようにお父様にお願いしてきます」



 リリーちゃんは俯いたまま部屋を出ようとする。



 「待ってぇ~リリーちゃん。ちゃんと、私の話しを聞いている?ビスケットの作り方を教えてあげるから、国王陛下の誕生祭にはビスケットを提出するといいわよ」


 「ほ・・・本当によろしいのでしょうか?」


 「もちろんよ。リリーちゃんと私はお友達でしょ。友達が困っていたら放っておけないわよ」


 「マカロン・・・さ・・・ん。こんな私を友達と呼んでくれるのですか?」


 「も・・・もちろんよ」



 少し後ろめたい気持ちはあるが、ここはリリーちゃんの気持ちに合わせることにした。



 「ありがとうございます。マカロンさん」



 リリーちゃんはうれし涙を流しながら私の胸元に飛び込んできた。






 

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