第14話 ビスケット作り

 

 「マカロンさん、本当にありがとうございます」


 「いいのよリリーちゃん。もうバナナの事は忘れてビスケットをお父さんに渡すといいわ」


 「はい。一度お父様にビスケットを食べてもらって、誕生祭に提出するに値する品か確認してもらいます。パンケーキ様が絶賛するほどの品なので、結果は既に出ていると思います。お父様から許可をもらうことが出来たら、私にビスケットの作り方を教えて下さい」


 「もちろんよ。だから、バナナの事は忘れるといいわ」



 私は念入りにバナナが盗まれた事を忘れるように言う。



 「では、家族会議に戻ります。マカロンさんは自由にこの屋敷をお使いください。もし、町に買い物に行く予定があるのでしたら、私の専属メイドのパンジーをお連れになって下さい。買い物に必要な費用は全てパンジーが支払ってくれるでしょう」


 「そんな気を使わなくてもいいのよ」


 「いえ、パンケーキを食べさせて頂いたお礼です。もちろん、ビスケットの件のお礼は別できちんと用意させてもらいます」



 リリーちゃんは私に一礼をすると調理場から出て行った。パンケーキちゃんはお昼寝の時間と言って、リリーちゃんが用意してくれた部屋のベットで眠りに就いたので、私はこの世界にどのような食材があるか調べるために、パンジーをガイド兼お財布として一緒に町を探索することにした。




 「お父様、只今戻りました」



 リリーちゃんは家族会議が行われている大広間に戻ってきた。家族会議には、父親のローレル・ダンディライオ(40歳)、母親のプリムローズ・ダンディライオン(38歳)、姉のヴァイオレット・ダンディライオン(16歳)、妹のヒパティカ・ダンディライオン(3歳)が参加していた。



 「リリー、その皿に乗っているのが、マカロンさんが作ったお菓子という食べ物なのか?」


 「はい、お父様」


 「あまぁ〜いのぉ〜」



 妹のヒパティカが嬉しそうに声をあげる。



 「たしかに、興味がそそる甘い香りがしますわね」



 母親のプリムローズがビスケットを興味津々に覗き込む。



 「早く食べさせて!この食べ物に私たちの命運がかかっているのよ!」



 少し苛立ちを隠せないヴァイオレット。



 「ビスケットは5枚あります。お1人ずつ食べて判断をしてください」



 リリーちゃんがビスケットを配る。その間緊張した空気が室内を漂う。そして、その緊張の糸を最初に切ったのはヴァイオレットである。



 「こんなの初めてよ!」


 

  ヴァイオレットのウグイスのような美しい音色が部屋に響き渡る。



 「サクサクした食感に、舌を刺激する甘い物体・・・これはなんなのだ!」



 ローレル伯爵がビスケットに挟まれたクリームをにド肝を抜かれる。



 「とても美味しいです」



 リリーちゃんは簡潔に感想を述べる。



 「おいちぃのぉ~」



 妹のヒパティカはご満悦である。



 「リリーちゃん、この食べ物の正体を教えるのよ」



 プリムローズはリリーちゃんに詰め寄る。



 「お母さま、落ち着いてください。今からきちんと説明します。しかし、その前に確認しておきたい事があります。さきほど、何者かによってバナナが強奪された事は、皆さんもご存じだと思います。バナナを奪われたため、ダンディライオン家は窮地に追い込まれました。今からバナナの代替品を作る事は不可能であり、領主の座を退くしか方法はないと思われたはずです。しかし、ダンディライオン家の希望の光が残っていたのです。それが、この食べ物ビスケットの存在です」



 リリーちゃんは家族団欒のテーブルで熱いハートで語り掛ける。



 「リリーちゃん、これはビスケットという食べ物なのね」


 「はいお母さま。私たちの救世主であるマカロンさんが作って下さったビスケットというお菓子です」


 「もっちょ、欲しぃ~」


 「ヒパティカ、少し黙っていてね」


 「はぁ~い」


 「サクサクとした食感に甘い物体、このような食べ物を再現することは出来るのか!」


 「お父様、私達では不可能だと思います。しかし、マカロンさんが教えて下されば可能です」


 「おきゃわりぃー」



 ヒパティカはリリーちゃんのスカートの裾を引っ張る。



 「ヒパティカ、今大事なお話をしているからおとなしくしていてね」


 「はぁ~い」


 「そうか・・・マカロンさんは作り方を教えてくれそうなのか?」


 「はい。承諾を得る事はできました。しかし、一長一短でビスケットを作ることが出来るのかは定かではありません。あれほどの素晴らしい食べ物をこの私が簡単に習得できるのか不安です」



 リリーちゃんは気丈に振る舞っていたが、実際はビスケットを一か月後の誕生祭までに習得できるのか不安で今にも押しつぶされる思いである。



 「リリー、私も手伝ってあげるわ」



 リリーの心情を察知したヴァイオレットが協力を申し出る。



 「姉上様、申し出は誠に嬉しいのですが、ビスケット作りは一子相伝の門外不出の特別な料理です。マカロンさんはそのような貴重な料理を私にだけ教えて下さると約束をしてくれました。だから、ビスケット作りのノウハウを私以外の者が知る事はマカロンさんの誠意に反することだと思います。私は一か月間、寝る間を惜しんでビスケット作りに命を捧げる覚悟をしています。皆さまも不安だと思いますが、私を信じてください」



 リリーちゃんは熱い思いを家族に伝えるのであった。

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