第12話 3姉妹


 パンケーキを美味しく焼くには、フライパンを強火で熱し、熱くなったらぬれぶきんの上に置いてジュ―ッと音をさせてフライパンを冷やす。そして、弱火にしてフライパンに再び火にかけ、生地をおたまで丸く流し込む。2分程して、表面にブツブツと泡が出始めたら、1分待った後に生地をひっくり返す。そして、2分程焼いたら美味しいパンケーキの出来上がりとなる。



 「甘い匂いが私を呼んでいるわ」



 パンケーキの甘い匂いが部屋の中に漂い始める。



 「ビスケット様、お静かにした方がよろしいと思います。パンケーキ様の機嫌を損ねる可能性があります」


 「そ・・・そうね」



 再び二人は黙り込む。2人がおとなしくしている間に次々とパンケーキを焼き上げる。私はせっかくだから5段重ねの特大パンケーキを2人に作ってあげる予定である。特大パンケーキには上からメイプルシロップとチョコレートを雪崩のように浴びせる事にした。



 「やったわ!パンケーキの出来上がりよ」



 テーブルの上に、出来上がった特大パンケーキを置いた。



 「こ・れ・が・パンケーキ様!!!」



 ビスケットちゃんの瞳がハートマークになりパンケーキに釘付けなる。



 「マカロンさん、これは本当に食べ物なのでしょうか?極上の甘い匂いが私の嗅覚を刺激して、胃袋が口から飛び出してしまいそうです。でも、見たこともない黄金の液体と漆黒の液体の正体がわからないので、口に入れるのをためらってしまいます」



 リリーちゃんは初めて見るメイプルシロップとチョコレートに戸惑いを感じている。



 「その漆黒の液体の正体はチョコレート様よ。一度愛し合った仲だから姿を変えても、私を騙す事なんて出来ないのよ!でも・・・黄金の液体は誰なの?マカロンちゃん紹介してよ」


 「漆黒の液体は、ビスケットちゃんの推察どおりチョコレートよ。で、黄金の液体はメイプルシロップという樹液を濃縮した甘味料よ」


 「メイプルシロップ様・・・また、新しい出会いだわ」



 ビスケットちゃんの口からよだれが止まらない。



 「チョコレートにメイプルシロップ・・・初めて聞く言葉です。マカロンさん、どこでこのような物を手に入れたのでしょうか」




 ビスケットちゃんと違ってリリーちゃんは冷静である。パンケーキの材料はわかっているが、チョコレートとメイプルシロップはどのように作ったのか気になるようである。



 「これは私が住んでいる町の秘伝の甘味料です。簡単に教えるわけにはいきません」



 ポケットに入ってましたと言っても信じてもらえないし、作り方も知っているが、この世界にない甘味料を簡単に教えては損だとも思った。



 「申し訳ありません。出過ぎた質問をしてしまいました」



 リリーちゃんは頭を下げて謝る。



 「気にしなくていいのよ。それよりも、パンケーキを食べてね」


 「・・・」



 ビスケットちゃんはパンケーキを睨みつけたまま少しも動かない。



 「ビスケットちゃん、パンケーキを食べてもいいのよ」


 「私にはビスケット様、チョコレート様がいるの。パンケーキ様まで手を伸ばしたら、私は軽い女だと思われるかもしれないわ」



 また、ビスケットちゃんはくだらない事を言っている。



 「ビスケットちゃん、パンケーキ様はチョコレート様とメイプルシロップ様が一緒になって出来上がった三姉妹なのよ。チョコレート様だけを相手にしていたら、パンケーキ様とメイプルシロップ様がさみしがるわよ」


 「三姉妹・・・そうだったのね。私は知らず知らずに2人を傷つけていたのね」


 「そうよ。だから、3人を愛してあげて」


 「わかったわ」



 ビスケットちゃんは、大きく口を開けてパンケーキにむさぼりつく。



 「あまうま~~~~」



 ビスケットちゃんは極上の笑みを浮かべる。



 「マカロンさん、私もパンケーキを頂きます」


 「どうぞ」



 リリーちゃんはナイフとフォークを使って綺麗にパンケーキを切り分けて、小さなお口にパンケーキを入れる。



 「雪のようなフワフワの触感に、生地に浸透したチョコレートとメイプルシロップが互いに尊重し合って、極上の甘さが全身に溶け込んできます。このような甘くて美味しい食べ物は初めてです」



 リリーちゃんの手は千手観音か!って思えるほどに高速に手が動き、一分もたたないうちにパンケーキを完食した。



 「はぁ!やってしまいました」



 リリーちゃんは甘くて美味しいパンケーキを食べたはずなのに浮かない顔をしている。



 「リリーちゃん、パンケーキはお口に合わなかったの?」



 私は心配になったのでリリーちゃんに問いかける。



 「パンケーキ様は最高に美味しかったです。しかし・・・」


 「どうしたの?リリーちゃん、はっきり言ってくれてもいいのよ」


 「実は、私はマカロンさんが作るお菓子という食べ物を、お父様にも食べてもらうつもりだったのです。しかし、あまりにも美味しすぎたので、1人で全部食べてしまったのです。私は領主の娘として失格です」



 何があっても気丈だったリリーちゃんの瞳から涙がキラリと光った。

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