第28話 いざ幻影の森へ


 私たちはチェスナットの宿屋でのんびりとくつろいでいた。



 「リリーちゃん、明日は幻影の森に行くのね」


 「はい。マカロンさんとパンケーキ様のおかげで、魔道部隊黒炎龍は壊滅しました。しかし、【蛇龍王】は3つの部隊で構成されていると言われています。剣技の達人をそろえた白大蛇部隊、魔法の達人を集めた魔道部隊黒炎龍、そして、ボスであるサーペント・ドランゴンキングと共にアジトを守る蛇龍王親衛隊です。幻影の森には蛇龍王親衛隊が、目を凝らして侵入者が入ってこないか監視しているはずです。蛇龍王親衛隊に見つからないようにアジトに潜入しましょう」


 「蛇龍王親衛隊と魔道部隊黒炎龍はどっちが強いのかしら?」



 魔道部隊黒炎龍はパンケーキちゃんの手によって壊滅状態である。もし、同じような実力ならパンケーキちゃんに任せれば問題ないと思った。



 「おそらく蛇龍王親衛隊のが強いと思われます。果物を奪われたとある領主軍が幻影の森に攻め入った事があるのです。しかし、誰も幻影の森から戻って来ませんでした。おそらく蛇龍王親衛隊に全滅させられたと思います」


 「それはヤバそうね」



 私はパンケーキちゃんでも無理ではないかと思った。



 「ヤバすぎです。しかし、そんな危険なとこへマカロンさんは、自分のためでなく、私たちの為に向かってくれるのですね。なんとお礼を言っていいのかわかりません」



 リリーちゃんの尊敬のまなざしが眩し過ぎた。



 「親衛隊に見つからずに、証拠写真を撮る事は出来るの?」


 

 私は幻影の森に行くのは、乗り気ではないので正直に聞いてみた。



 「難しいでしょう。しかし、3人で力を合わせればどんな苦難でも乗り越えられると信じています」


 「そうね」



 行くのは辞めましょうとは言える空気ではなかった。



 「明日は朝一で出発します。お風呂に入って疲れを癒してしっかりと睡眠をとりましょう」


 「そうね」




 あれこれと考えても仕方がないので、私はお風呂に入って寝る事にした。明日はなるようになるであろうと雲のような気持に切り替えた。



 次の日の朝。



 「マカロンさん、マカロンさん!いつになったら起きてくれるのでしょうか?」



 私は何度もリリーちゃんに起こされたが、幻影の森に行きたくないので眠ったフリをする」



 「もう少しだけ寝させて」


 「もうこれで10回目ですよ。いい加減に起きてください」



 9回目まではやさしく起こしてくれたリリーちゃんだったが、遂に堪忍袋の緒が切れたみたいである。


 「長旅で睡眠不足なのよ。この状態で幻影の森に行くのは危ないわ」


 「・・・わかりました。後1時間だけ寝てください」



 リリーちゃんは助けてもらった恩義もあるので後1時間だけ待つことにした。



 「マカロンさんはなかなか起きてくれません。パンケーキ様は朝から果樹園の果物を食べてお腹をパンパンに膨らませて休息中・・・今日は幻影の森に行けるのでしょうか・・・」



 リリーちゃんは少し不安になってきた。



 「バカバカ!私は大馬鹿やろうです。マカロンさんもパンケーキ様も私たちの為に幻影の森に行くと決断されたはずです。2人にはなんのメリットもないはずなのに・・・これは、何かの作戦に違いないのです。私の証拠写真を撮るという安易な作戦でなく、もっと壮大な何かを考えているのに違いないはずです。私はお二人を信じます」



 リリーちゃんは気持ちを落ち着かせて冷静になり、私が起きるのは静かに待つのであった。



 リリーちゃんがイスに座って私が起きるのを待っている。私の壮大なる作戦【寝坊したから今日は幻影の森に行けません】は上手くいきそうにない。私は12時まで粘ったがリリーちゃんの意思が固く、キャンセルできる気配がない。



 「マカロンさん、目が覚めたのでしょうか?」



 私は薄目でリリーちゃんの様子をチラチラと見ていたので、すぐにバレてしまった。



 「そうね、やっと目が覚めたわ」


 「おはようございます!」



 リリーちゃんは大声で挨拶をする。



 「おはようリリーちゃん。朝から元気がいいのね」


 「マカロンさん、もうお昼ですよ!早速ですが食事を済ませてすぐに幻影の森に向かいましょう」



 リリーちゃんの瞳はランランと輝いている。



 「そうね・・・あれ?パンケーキちゃんはどこかしら」

 


 私は寝たふりをしながら耳を象のように大きくして、リリーちゃんの独り言を聞いていたので、パンケーキちゃんの状況は把握している。



 「パンケーキ様は果物を食べ過ぎて果樹園で寝転がっています」


 「なんてことなの!一刻も早く幻影の森に行きたいのにパンケーキちゃんが居ないなんて、でも、食べ過ぎで苦しいなら仕方がないわ」



 私は大げさに騒ぎ立てる。



 「私がすぐに呼んできます」


 「あ!待ってぇ~~~」



 私はリリーちゃんを呼び止めようとするが、リリーちゃんは振り返らずに果樹園に向かった。



 「余計な事を言うんじゃなかったわ・・・」



 私は少し後悔しながらも、お腹が減ったので宿屋の食堂へ向かった。





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